Track.2-19「冷麺早すぎんだよ!普通締めだろ!」
「お疲れ様でしたっ!いやぁ、すごい戦いっぷりでしたね!」
「お前も見事な置いてきぼりっぷりだったけどな」
門から戻ると、五人を出迎えたのは黒い外套に身を包んだ眞境名恒親だった。
結局あの後、試験は終了とされた。航は「まだ俺は森瀬を捕まえただけだぞ?」と奏汰に抗議したが、奏汰の言った「要救助者を戦線に借りだした上、捕まえられてしまったんですよ?」という言葉に、そう言えばそうだったと茜および心が同意したからだ。
項垂れる二人に仏頂面の芽衣。三人は釈然としないながらも更衣室へと着替えに向かう。
「ありがとうな」
「いえ、こちらこそ。久しぶりに高揚しましたよ、他人の戦闘で」
改めて握手を行う、航と奏汰。その上背に20センチほどの開きがあるが、二人ともそれは気にしていない。
「間瀬君さ、この後暇か?」
「え?何ですか急に。――まぁ、時間はありますね」
「じゃあ一緒に飯行こうぜ。心配するな、集ったりはしない」
「そこは普通奢る、でしょう。あと、魔術士の"時間ある"は研究に戻る、って意味ですよ。これだから民間は……」
「え、来ないの?」
「別に行ってもいいですよ。そもそも、あなたからは"白い少女"について聞かないといけませんし」
「あ、やべ。忘れてた」
更衣室から三人が戻ると、面接を行った一階へと一同はエレベーターで下りる。
応接室で航が発した「三人とも採用」という言葉に、茜と心は釈然としない苛立ちを表明したが、今回の失態は訓練で取り返して見せてくれ、と航が発すると大人しく従った。
その後、奏汰が横から解説したりしながら採用後の流れについての説明が航からなされ、すでに日の落ちた会社の駐車場で、航は黒いワゴン車のドアを開ける。
「じゃあ乗ってくれ」
本来は報告書の代償の筈の焼肉パーティのはずが何故かここまでの大所帯になってしまったことが腑に落ちない望七海が助手席に、後部座席の前列には芽衣とその隣を譲らない心が、そして後列には奏汰と茜が座る。
「シートベルト締めたか?行くぞ」
運転席に座った航はエンジンをかけ、アクセルを踏んだ。その人となりからは想像できない、乗り慣れた丁寧な運転技術に後部座席の面々はどよめきながら、やがてわいわいと騒ぐ一同は航おススメの高級焼き肉店へと繰り出す。
「そう言えば心ちゃん、切り傷大丈夫?」
「心配してくれるなんて先輩優しいです。あの程度だったら全然大丈夫ですよ」
先の戦闘で心が自身に行使した【豹紋の軍神となれ】には自己の治癒能力をも高める効果がある。そのため試験が中断されるそれまでに、心が負った傷はほぼ塞がっていた。
「間瀬さんって強いんすか?」
「僕?調査団の頭張れる程度にはやれるよ」
「マジっすか?今度手合わせしてもらえません?」
「嫌だよ。だって君、魔術効かなさそうじゃん。格闘戦だったら他当たってよ」
「じゃあ誰か紹介してくださいよ」
「はいはい、今度ね」
「ヨモさん、どこ行くんですか?」
「え?ああ、神田に美味い焼肉屋が出来たから、そこのつもり」
「もしかしてSHISHIOHですか?お金大丈夫ですか?」
「ん?あー、給料入ったからなー。あ、店入る前に金下ろしてきていい?」
店舗の近くの駐車場に停め、そして一同は『七輪焼肉SHISHIOH』へと入る。
高級焼き肉店だけあって、その外観はお洒落なバーのような雰囲気があった。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「あーと、――六人」
「畏まりました。それではお席へご案内します――六名様ご来店です」
インカムで入店情報を流した爽やかな青年は先導し、ほんのり薄暗い店内を奥の掘り炬燵の部屋へと案内する。
上座側に航、望七海、奏汰。下座側に茜、芽衣、心の順に座り、飲み物と食べ物の注文をある程度済ませ、午後7時20分、反省会はスタートした。
「まずは――お前らお疲れ様!」
ビールジョッキを高々と掲げる航に合わせて、五人はそれぞれ手にした冷えたウーロン茶を掲げる。
グラスを合わせる音も早々に、店員が持ってきた皿から肉をトングで取って七輪に載せていく。
「おい、まずはタンから焼けよ、タンから」
「奉行するならトング持ってください」
「あ、カルビも載せてもらっていいですか?」
「ライス小の人ー?」
「冷麺早すぎんだよ!普通締めだろ!」
「サラダ追加で頼んでいいですか?」
「森瀬、肉食え。とにかく肉食え」
「え、昨日もいっぱい食べたじゃん」
「うるせー、食える時に食っとけって」
「すみません、下ろし大蒜ってありますか?」
「ライス大の人ー?」
騒がしく食事が続く中で、ほんのり顔を赤らめた航は本題に入った。
「じゃあ今回の総括と行こうか」
「飲んでて大丈夫ですか?」
「問題無ぇよ。まだ3杯だろ」
望七海吐いた溜め息を無視し、航は下座側に座る三人をじろりと交互に睨みつける。
「お前ら、特に安芸少年と鹿取ちゃんは場慣れし過ぎなんだよ。どんな訓練積んでんだ、って話だ」
「いきなり愚痴じゃないですか」
「うるせーよ間瀬くん。お前もそう思うだろう?」
「学会相手にお前呼ばわりは聞き捨てなりませんが、まぁそうですね。正直、森瀬さん主体で見る予定が、完全に狂っちゃいましたね」
追加で頼んだ上ロースをトングで網の上に置きながら奏汰は続ける。
「とても一朝一夕では出来ない連携でした。敵前では相手への情報提供になる面と、そもそもそこまで会話が出来る余裕が無いため確かに単語単語での情報伝達は見事でしたが、それだけでは納得いかない場面もありました。特に、森瀬さんが最終戦闘の途中から離脱し、門の裏側に隠れていた件。あの作戦はどの時点で組み上がっていたんですか?」
肉汁とタレが染みた米を頬張りながら茜が答える。
「あれって――確かノリだったよな?」
「そうですね。先輩が気配を遮断して門の裏に隠れたので、たぶんそういうことだろうと思って動きました。はい、先輩どうぞ」
芽衣の取り皿にサラダを取り分けながら心が続けた。芽衣は取り皿を受け取って、淡々とレタスを口に運ぶ。
「オレたち、何となく解るんですよ、互いの呼吸というか、思考が」
「そうですね。特に私は、正直先輩より安芸さんとの付き合いの方が長いですので」
反省会で回を跨ぐとは思わなんだ・・・
自粛期間なのに焼肉話ですみません。
焼肉行きたい。
→次話、5/18 0:00掲載です。
宜候。




