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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅱ;言及 と 玄冬
38/300

Track.2-13「お前にそう思わせないために頑張るっつってたけどな」

「炎術かっ!」


 横っ飛びに転がって大きな炎弾を避ける鬼に、心は間髪入れずに【土耳古石の蛇ターコイズ・サーペント】を合計三発放った。

 それぞれが少しずつズレた弧を描く軌道で、燃え盛る顎と牙を向けて鬼に向かっていくが、見事としか言いようの無い回避行動を見せた鬼。心が放った四つの炎弾――最初の一発を含め――は全て屋上の地面に当たり業火の噴煙を上げたに終わった。


「“土耳古石の蛇ターコイズ・サーペント”!」


 回避がてら心との距離を詰めるような動きを、取り出した最後の土耳古石ターコイズを消費して繰り出した炎弾で牽制しつつ、心は左手に握っていた黒曜石オブシディアンに込めた霊銀ミスリルを解放させ、【土耳古石の蛇ターコイズ・サーペント】が地面に着弾し爆発する瞬間タイミングに合わせてもうひとつの魔術を行使した。


「“闇に蠢く黒き風となれ(ヨワリ・エエカトル)”」


 轟音にかき消されたその声は、しかし確実にその術式を展開させる。左手の黒曜石オブシディアンがパキリと割れさらさらと風化していくのと同時に、心の肌に黒く蠢くあざが生まれ広がっていく。痣は瘴気に似た黒い霊銀ミスリルの残滓を周囲に撒き散らしながら、心の身体は闇に溶けていく。


「くっ――!?」


 爆煙の隙間から飛び出した鬼は、しかし眼前の敵影を見失って狼狽する。そこに、痣の効力ちからで身体性能を上昇させた心が鬼の足元に飛び込むように水面蹴りを放った。

 一瞬の隙を衝かれた鬼は防御ガードしきれずにその場に倒れ込み、その背に向けて矢継ぎ早に心は渾身の踏み付け(ストンピング)を繰り出す。


 しかし突き出した踵は屋上の地面に同心円状の亀裂を生んだに終わる――衝突の直前に転移した鬼は、心の背後に回り両手を突き出した。

 それを背面蹴りで阻止し、後方に跳躍してポケットから新たに取り出した黒曜石オブシディアンを心は左手に握る細身の黒剣へと変化させる。


「“黒曜石の剣(マカナ)”!」


 着地と同時に振りかぶり、高速の前進からの高速の突きが放たれる。上体を横に捻って回避した鬼は、その体勢のまま浴びせるような廻し蹴りを放つが、黒い痣を纏った心は予定調和のようにそれを踏み込み(ダッキング)で躱す。

 蹴り足を掻い潜ってさらに肉薄した心は右手の五指を伸ばして起き上がる勢いで以て目突きを繰り出す。それが避けられる前提の布石。回避のため反った鬼の上体を、後退しながら下から剣を振り上げ斬り割いた――かに思えたが、事前に芽衣から聞いていた通り、空間魔術士(方術士)というのは厄介だ。またも転移魔術によって逃げられてしまった。


 即座に左手の剣に宿る霊銀ミスリルに語りかけ、荒れ狂うほどに活性化させた心は、振りかぶって横薙ぎの一閃を繰り出しながら術式を展開させる。


「“万象鎖す氷錐の顎(マクァフィテル)”!」


 剣はその身を砕きながら黒い冷気を迸らせ、冷気は地面からいくつもの氷の剣を天に向かって突き上げた。

 心を中心として放射状に放たれたその魔術は、およそ3メートル半径の空間ではあるが、その範囲内に敵がいないことを証明する。


「――逃げた?」


 肩でする息を整えながら、心は左目に施した【霊視イントロスコープ】で周囲を索敵するが見つからない。


「逃げた、かぁ……」


 息を整えた心は、周囲の警戒と索敵を維持しながら、芽衣や茜、そして奏汰の走って行った方向を見据えると、息を吸って地面を蹴った。

 闇に溶ける一陣の黒い風が、建物の屋根や壁を蹴り、駆け抜けていった。


  ◆


「森瀬、来てるか?」


 先行するオレは走りながら後続する森瀬に確認する。


「来てない、と思う。多分」


 森瀬は勘がいい。鹿取と違って生まれながらに魔術士ではないオレたちは、当然魔術士の教育なんて受けていない。

 中学に入る頃に魔術の授業が学校で始まったが、当時半ば不良だったオレはよく授業をフケていたため、未だに瞳術だの躰術などはよく解っていない。

 鹿取曰く、瞳術さえ修得マスターすれば夜の闇も見通せるし、霊銀ミスリルの流れなんかも手に取るように分かるらしいが――まぁ、後者は解決クリアできるからいい。


「一回休憩(インターバル)挟むか」

「うん、そうする」


 出口ゴールの位置の見当すらついていないオレたちは、鹿取と合流する必要性から、闇雲に動き回るのではなく、ただただ真っ直ぐに走り抜けてきた。

 走りづらい斜めの屋根や、建物間の間隔、高低差。そういった問題は森瀬や鹿取と一緒に訓練し続けてきたパルクールの経験がはるかに役に立った。

 加えて空手で育ったオレは体力オバケだと自負しているし、森瀬もあの容姿ナリで意外に体力がある。

 それでも10分近くほぼ全力疾走で駆け抜け続けると流石に疲労する。まだ走れなくはないものの、一旦足を止めてこれからのことを考えたい。


「心ちゃん、大丈夫かな」

「お前にそう思わせないために頑張るっつってたけどな」


 冗談交じりにそう言うと、森瀬は口を尖らせてオレを睨んだ。


「走破力はまずまずですね」


 足を止めたオレたちに追いついた間瀬さんが涼しい顔で言う。オレは青い訓練着ジャージの閉じた襟元をパタパタとはためかせながら、間瀬さんの続く言葉を聞く。


「異界調査を主業とする魔術士になるなら、運動神経は良いに越したことは無いですからね。異界ではどうしても、異獣や異骸、幻獣と交戦することになりますし、状況を選べることの方が少ないですから」

「やっぱまだ世間の魔術士に対する認識イメージって頭でっかちなの?」

学会スコラの魔術士相手に口()く時は敬語を使いなさい」

「あー、はい。すんません」


 現職の魔術士の話をもっと聞いていたかったが、森瀬の顔つきの変異に気付いたオレは警戒心を胸の内に呼び戻す。


「安芸」

「わーってる。森瀬、背中合わせだ」


 即座に背中合わせの体勢を――実際に背をくっつけているわけではなく、手を伸ばせば触れられる程度の間隔を空けて――取り、オレと森瀬は臨戦態勢のスイッチに切り替えた。

 少し離れた所にいる間瀬さんの顔色を伺う。オレたちと違って瞳術の使える間瀬さんは、自分に被害が及ばないように“鬼”の動向を気にしているはずだ。

 そしてその眉が、ぴくりと動いて――


「安芸、真下っ!」


 森瀬の言い終わりを待たずに横に跳ぶ。森瀬はオレとは反対方向に、二人で散開する形で跳び退く。

 直後、馬鹿みたいな破壊音が鳴り響いて、屋上の地面を盛大にぶち破った黒い外套コートの鬼が、瓦礫や粉塵とともに舞い上がって現れた。

次回は茜のバトル回です。

芽衣と同じ異術士の茜は、どんな術を使うのか。


→次話、5/15 3:00掲載です。


宜候。

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