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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅰ;幻痛 と 幻獣
16/300

Track.1-16「どこだ、ここ……?」

 片側に寂れ廃れた店舗を構え、廊下は長々と続いている。

 看板は欠け落ち、内装は崩れ、生きているのは照明だけ――それも、明滅を繰り返す死にかけだ。


「そろそろ見飽きた……」


 反響する独り言は物悲しさを伴ってくる。

 もう五分は歩いただろうか。もしかすると十分かもしれない。

 こうも似たような景色が続くと体感時間が狂って仕方ないと、芽衣は今日何度目か分からない溜め息を吐いては、再度進める歩みに力を込める。


 しかし鬱蒼とした気分は、先行する金属球が照らす5メートル先の壁に上り階段を見つけたことで霧消する。

 芽衣は駆け出しそうになる気持ちをぐっと抑え、追従する蜂鳥を右手に迎えて握りしめると、起動式ブートワードを唱えて刃を現出させた。


 あの融合異骸キメラデッド以来、敵はおろか生物一匹さえ見てはいないが、この先何があるかは判らない。

 冷静さ、慎重さ、緊張感、そして覚悟を胸に装填し直し、芽衣は大回りで階段の方へと近付く。


 物陰に敵影なし。

 見上げると、使い慣れたJR飯田橋駅の階段同様に、十数段先に踊場があり、進路は折り返している。

 一段一段を靴音を立てぬよう静かに上る。左手で階段の内側の手摺を掴み、自分の身体の右側に広く空間を取る。


 結局会敵しないまま都合二階層分――計五十二段の階段を上り切った芽衣は、巨大な観音開きの扉に出くわす。

 扉は黒々とした金属製で、所々傷や錆が目立ったが、蝶番ちょうつがいの状態から開くことは開きそうだ。

 しかしそこそこ重厚な鉄扉を果たして自身の筋力で押し開けることが可能なのか思案する芽衣は、考えていても埒が明かない、開けられなかったら引き返して四方月と合流してから来ればいいと自己完結し、鉄扉の中央に手を添える。


「ゎ――っ!」


 それは思ったよりもあっさりと開いた。

 前につんのめりながらどうにか体制を立て直した芽衣は、即座に蜂鳥を引き寄せては構え、周囲を警戒するも、懸念に過ぎなかった静寂に呼吸を整え佇まいを直す。


「全然違う――どこだ、ここ・・・?」


 思わず呟いてしまうほど――その場所は、これまでの場所とは何もかもが違っていた。

 これまでのタイルが敷き詰められた壁や床とは異なり、石造りの壁と大理石のような床は西洋の何処かの古城を連想させた。照明までもが壁面高くに供えられた燭台に変わっており、今は消えているそれを見つめ、この城の持ち主はどうやってあれを点けていたのか不思議で仕方が無い。


 城についての知識は洋の東西問わず持ち合わせてなどいない芽衣にはこの城風の内観が実在の城をモチーフにしているのか、それとも全く想像上の産物であるかの判別が出来ない。

 また、城の予備知識があれば大まかな構造についても予想が立てられたと思うと、舌を打ちたい心境に駆られた。


 金属球が照らす範囲はおよそ半径5メートルの球だ。しかしその奥に、遠く揺らめく橙色の連続した灯りを視認した芽衣は、緊張と慎重さを維持しながらその方向にゆっくりと進む。

 様々な方向を照らしながら、重い息を吸っては吐き――そうして橙色の灯りが点っている燭台の灯りだと知った頃には、その灯りに照らされた重厚な扉――上り切った階段からこの廊下へと出た時のような――と遭遇する。


 廊下は先にも続いている。

 しかし、この扉を囲むように灯りは点っている。

 選択肢は三つだ――扉の先か、廊下の先か、それとも戻るか。


 芽衣は自分の身体の調子を再確認する。

 ここまでにたどり着くまでに、補給した血液はちゃんと吸収され自身の血へと混ざったようだ。左腕の瘡蓋を爪で少しだけ剥がすと、赤黒い新鮮な血液がそこから滲み溢れ出た。


 ――戦える。


 ひとつ頷いて。

 芽衣は、自身の直感に再び従う。右手に構える蜂鳥を握り直し、静かに観音開きの巨大な鉄扉の中央に、左手を添えた。

あと2~3話でひとつの山場を迎えます。

Track.1-1冒頭の部分に繋がるかと。


→次話 5/7 4:00掲載です。一体、誰?


宜候。

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