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第八回  娯楽


日本が完全に手を引いたアジアはどうなってしまうのでしょう?





 火星人は朝鮮半島を含む多くのアジアを捨て去った。

 引き上げられた日本人は高高度あるいは、宇宙にある都市型宇宙船に送られている。

 そこでは生活の保障がされ、宇宙に適応するための訓練・学習が義務付けられた。

 住む人々は困惑しながら、それでもやがては状況に迎合していく。

 火星人たちは当初、日本の土地開発などを全て機械で行う予定であった。


 しかし、


「それでは国民の職を奪ってしまう。ただ餌を与えられるだけの家畜同然だ」


 と、天皇や八太郎が反発した。


「なるほど。合理性を優先したが、それも良くないですな」


 火星人はすぐさま方針を変更して、機械のレベルを落として人間を使うこととした。

 同時に、作業員たちに作業機械の扱い方を学ばせていく。


 火星人の機械は、未知のものとはいえ操作性も乗り心地も万全である。

 勘の良い者はすぐに操縦を覚え、どんどん工事に参加していくのだった。

 また、宇宙都市への移住者も大々的に募集し始める。

 これに関しては、宇宙空間とかいうのものが良くわからない人も多く、難航。


「空の上に連れていかれる」


「水も空気もない真っ黒いところに連れていかれる」


 と、真偽を織り交ぜたデマが飛び交ってしまう。


 火星人はそれらを払拭すべく、宇宙や他天体についての知識を講義することとなる。



「難しい話だろうなあ」


 火星人のもとで過ごしている八太郎は、そんなニュースを見ながらつぶやいていた。


「難しいかね」


 そばにいた火星人が不思議そうに言った。


「やっぱり、頭の柔らかい子供から説得してみるのがいいんじゃないかしら」


「それは良い考えかもしれないね」


「でも、いくらわかりやすくっても、こういうものじゃあ……」


 八太郎は火星人の用意した宣伝広告やパンフレットなどを見て、苦笑い。

 内容はとてもわかりやすいけれども、いささか退屈である。


「というか、これじゃあ家電の説明書みたいだなあ」


「いけないのかな?」


「子供に訴えるには、漫画形式が良いと思うなあ」


「漫画か。なるほど」


 そういうことになり、火星人は漫画家に仕事を依頼した。

 いわゆる学習漫画というやつである。

 八太郎も前世は学校の図書館などで読んだりしたものだ。


 様々な事柄をわかりやすく描いた漫画。

 火星人は八太郎の記憶などをベースに、キャラクターやコマ割りなどを改良。

 そうしたものを漫画家に描かせたのである。

 こうした学習漫画は、八太郎も前世の経験で慣れ親しんだものだ。


 出来上がった本は図書館。または町の公民館などに置かれ、無料で読めるようにする。


 国語。数学。歴史。物理・化学。

 色んな分野のことを、面白く学べる漫画本。

 娯楽性もさることながら、教科書としての実用性も備えていた。


 その評判は上々で、子供はみんな争うようにしてこれらの学習漫画を読む。

 内容もそうだが、火星人の技術で印刷された本は文字も絵もきれいだったのだ。


「これじゃあ、民間の印刷所は形無しだなあ……」


 そんな八太郎のつぶやきの間に、次なる行動が進められる。


「新聞を発行することにしたよ」


 火星人たちは官製の新聞を作って、各家庭に無料送付し始めた。


 内容は事実を端的にまとめた記事中心で、他紙のような扇情さは全くなし。

 わかりやすく読みやすく、正確・適格というもの。

 また文字も大きめで、文章も平易。振り仮名もついているのだった。


 面白味はあまりないが、タダなので多く人に読まれることとなる。

 これにプラスして、火星人は学習用のドローンを各地に飛ばす。

 ドローンに指導され、あまり本を読まない人、あるいは文盲もんもうの人も減る。



「知ってるかい、八っつあん。宇宙ってところはものすごい寒くって、物があっという間にも凍ったりするだとさ。それに体に良くない、宇宙線ってえ見えないものがあるんだと」


「何だい熊さん、ずいぶん学者様みてえなことを言うようになったね。あんた、ろくに学校も

言ってなくって字も読めないとか自慢してなかったかい?」


「それがさ、火星人の機械に教えられて勉強してよ。漫画も読めるようになってさ」


「なんだい、漫画かい。子供の読むもんだろ」


「バカにしちゃいけないぜ、八っつあん。学習漫画っていって、偉い学者様の言うようなことを面白く漫画にしてあるんだぜ。そいつを読むようになってうちのガキも、えらく勉強熱心になっちまってさ。面白そうだから、俺も借りて読んでんだ」


「へー!? しかし、熊さんがねえ! 時代も変わったねえ!?」


「何しろ、火星人のおかげで世の中が変わったからねえ! 職人だって勉強しなくっちゃあ、時代に乗り遅れるぜ」


「そうかい? じゃあ、俺も火星人の新聞をちゃんと読もうかなあ」


 こういった会話も、あちこちで見られるようになったわけである。



「火星人の科学レベルを良い意味で喧伝してみるってのはどうだろう?」


 さらに。八太郎は火星人と話す時に、そんなことも言ってみる。


「ほう、何かアイデアがあるのかい?」


「うん。ちょっと考えてみたんだけどね……」


 八太郎が提案したのは、映画による技術宣伝である。


「例えば世界の珍しい動物とか風景を、きれいな映像と音楽で見せるのはどうだろう」


「ふむ。活動写真とかいうものが、娯楽として流通しているようだしね。サービスになるかもしれない。早速映写機などの段取りをしよう」


 こうしたわけで、火星人による映画製作が始められたのだった。


 とはいえ、映像自体は世界に無人撮影機を飛ばしてすぐさま撮り終わってしまう。

 編集などもその手の技術に秀でた人造人間が完成させる。


「後は音声だけど、ここも人造人間任せというのは芸がない気がするな」


 八太郎はそう考え、人気と実力のある弁士に解説音声を任せる案を出す。

 この時代、映画ならぬ活動写真は音楽・音声がなかった。

 それを補うために、活動弁士なる内容を説明する職業があったわけだが。


 最新鋭の映像を、慣れ親しんだ弁士によって面白おかしく説明させるわけである。

 もちろん上映と一緒に生で語る必要性はないので、録音となった。


 こうした経緯を経て、火星人製作によるドキュメンタリー映画が完成する。

 『世界一周大旅行の記録』と『世界の野生動物を見よ!』というタイトル。

 全国の劇場では、火星人が金を払って公開させた。

 機材なども無料で一新され、入場料は全て劇場の儲けとなる。


 公開の結果、映画は大ヒットなった。


 実物同様の鮮明なカラー映像と音楽と音声。

 それらが異国の風景や動物を鮮やかに映し出して、観客を魅了したものである。

 これによって、映画は大きく変わらざるえなかった。

 今までの無音白黒の荒い画面は一瞬で骨董品となり、業界を翻弄する。


 技術的なショックは色々あるが、撮影や編集に大きな影響があった。

 まず手に収まるような小型のカメラで映画撮影が可能になったわけである。

 この小型カメラは遠隔操縦も可能で、今までにない構図が撮れるのだ。

 感激した新鋭監督たちは、さっそくにこの新型カメラを購入。日夜テスト撮影に奔走して、新たな絵作りに挑戦していく。

 デジタルになったために、フィルム代も心配なくなった。


 かくして、日本映画は新しい時代に突入する次第に――



 他にも、変化は起こっていく。


 火星人が持ち込んだ新技術には、量子通信がある。

 これによって、日本どころか全世界どこにでも自由な通信が可能となった。

 もっとも、火星人はこれを他国に輸出してはいない。

 そも、原理は理解できても、再現できる技術は火星人以外どこにもないのだ。


 アメリカをはじめ諸外国は、


「是非とも、通信機を売ってほしい!」


 と、しつこく求めているが火星人は冷淡だった。

 しかしながら、基本の設計図そのものは在日外国人によって郵送されている。

 設計図……というか、量子通信機の専門書であった。

 それらは普通に日本の書店で販売され、誰でも買えるものだ。


 しかしながら。


 いくら原理が説明されても、設計図があっても。

 肝心かなめの部品が作れなくてはしょうがない。

 また製造・組み立てにも、専用の設備が必要だったのだ。

 それ自体にも、高度な技術が必要であり、世界に進んだ欧州やアメリカでも、独自に作るということはまず不可能だった。

 少なくとも、現状の技術ではまずできない。

 将来的にそうなるためにも、莫大な巨費を投じて技術を累積せねばならないだろう。


 実現するとしても、かなり先の話である。


 またそうなるとしても、火星人の協力は必須と専門家は渋い顔。

 それでも。欧米の技術者は何とかそれを学ぼう・盗もうとする努力するのだが。


 石器時代の原始人が独力でスペースシャトルを再現しようとするのに等しい。



「先のことよりも、まずは新たな開拓地を広める必要がある」


 と、世の財界人たちはアジアに目を向けていた。


 日本の影響力がなくなった東アジアでは、まずアメリカが朝鮮半島を保護下に。

 さらに大陸の満洲へも進出している。


 アメリカでは満州を、


「東のフロンティア」


 と呼んで、どんどん人を送り込んでいたのである。


 満洲利権をまんまと手に入れたことにより、国内の経済は活気づいていた。


 小日本がいなくなって喜んでいた中国人は、新たな外夷に直面するわけである。

 一部が欧米に取り入って富を得る一方で、多くの者は苦しい生活を強いられた。


 けれども火星人はその動向に対して何の反応も示すことはなかった。







ご意見やポイントなどをくださると参考や励みになります。

どうぞよろしく。



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― 新着の感想 ―
[一言] 火星人製作によるドキュメンタリー映画は海外では公開されなかったのですか。 鮮明なカラー映像で撮影できる新型カメラは輸出は禁止されているのですか。
[良い点] 面白い!! [気になる点] 最後の一文のところで『火、星人』になってますよ。
[気になる点] 教育や技術的問題は皆無として、音楽やアニメなどの文化面の発達が心配ですが、少なくともこの世界の特撮やアニメなどのサブカルチャーは(文化保持の為に主人公の記憶も利用?)高度な作画と脚本潤…
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