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第五回  人型


昨日は更新忘れてました……。

まだもうちょっと書きためはあります。





 火星人の占領された状態で、日本は年末を迎えようとしていた。


 当然のことながら、国民生活は大きく変容している。

 日本中、都会から地方の小さな村まで工事が繰り返されていた。

 見る間に道が舗装され、橋が改造され、あちこちでトンネルが開通していく。


 それは、東北の雪深いある農村でも同じだった。

 見たこともない機械ばかりが動いて、人間はまったく見当たらない。

 それなのに、どんどん道や建物が新しくなっていくのだ。

 また、除雪車のような機械も導入されていた。

 苦労して雪下ろししていたものが、あっという間に片づけられてしまう。


「火星人ちゅうのは、なんたらもんを造るだ……」


 大人が脅える中、好奇心や適応力の子供は、むしろ感動しながらそれを見ていた。


 子供の問題と言えば、教育――学校である。


「教育施設を新しく編成し直すので、来年の四月まで閉鎖する」


 と、火星人は全ての教育機関を停止させた。

 小学校はもちろん、中学校や大学まで一斉にである。

 子供らのできるのは、工事中の校舎を外から眺めるだけだった。

 この再編成で、多くの教師が職を追われることとなる。


 火星人の日本征服は、日本だけの問題ではなかった。

 当然日本に大使館を持つ国はもちろん、その他の国もコンタクトを試みている。

 だが、そのほとんどは無視され、何の成果も出しえなかった。

 しかし、まったく何もなかったわけではない。


 ある国の大使の場合。

 火星人襲来と共に大使館は包囲され、外に出ることもできなくなった。

 だが、玉音放映の後で封鎖は一日で解かれることとなる。


「これからは我々がこの日本を統治することとなった」


 封鎖解除の際に火星人から言われ、大使は大いに驚いて、急ぎ本国に連絡を取る。

 信じがたい話だが、空に浮かぶ無数の円盤群の説得力の前にはどうしようもない。

 とにかく、自分なりに対話を試みたものの……。


 わかったのは、奇妙な『卵』たちが火星圏より来た宇宙人だということだけ。


 この事件で、世界各国でイギリスの作家が書いた某SF小説が歴史的なヒットとなった。

 ただ小説と違い、火星人は日本で破壊も殺戮も行わなかったのである。

 むしろ一般国民の扱いは、以前より良くなったと言っても良い。


 その一つが、医療の無償化だった。

 正確には、火星人が運営する医療機関が無償で受診できるということだが。



「ふう、やれやれ……」


 八太郎は相変わらずの円盤生活であった。

 円盤内に部屋を用意され、食事や入浴も時間が決められているが問題なく。

 浮浪児生活に比べれば、天国のようなものかもしれない。


 ただし、運動や勉強などがキッチリとスケジュールされていた。

 自由時間もあるが、することは何もない。

 せいぜい、世間の様子を映像で見ることくらいであった。

 時々前世のゲームやアニメを思い出すが、虚しいばかり。

 それ以前が実に厳しい生活だったので、今さら不満もないのだが。


 この日も朝食が終わり、勉強が始まるまでの短い自由時間となった。

 勉強は寝室を兼ねた個室ではなく、専用の部屋で行われる。

 教師となるのは専用の人工知能だ。


 内容は端的で非常にわかりやすく、丁寧なものだった。

 こんな教師が前世でいてくれたらなあと思うほどの高レベルである。


 ところが、この日勉強部屋には先客がいた。

 髪の長い切れ長の瞳をした、輝くような美女である。

 体はモデル顔負けの見事なくびれと、自己主張の激しい胸とお尻。

 来てるものは軍服のようなものだが、それでも肢体はハッキリしている。


「え? どなた……?」


 どこかで見たような気もするが、雰囲気がこの時代の女性とはまるで違う。


「私は汎用型人造人間。番号は〇〇八」


 と、涼しげな声で女性は言ったものである。

 その声も、八太郎はどこかで聞いたような気がするのだが。


「人造人間というと……つまり、ロボットというか機械のような?」


「生物に近づけてはいるけれど、厳密には機械兵と同類よ」


 八太郎はひたすら困惑する。

 そうは言われても、見た目には完全に人間の美女としか見えない。

 確かに顔の造形や肢体が、あまりにも完全すぎるような気もしたが。


 八太郎が困っていると、火星人が部屋に入ってきた。


「我々だけは人間との交流、意思疎通に支障をきたす場合があるので、仲介としてこういった人造人間を使うことにしたんだ」


「じゃあ、彼女は……できたばっかり?」


「いえ、人造人間の設計情報は最初からあったから。試作機として初期に造られたの」


 と、〇〇八自身が説明をするのだった。


「ちょっと試験を兼ねて君に教師役をすることになったわ、よろしく」


「よ、よろしく……お願いします」


 思わず頭を下げる八太郎だが、どうにも心に引っかかるものがある。

 改めて見ると、〇〇八はやっぱり驚くような美形だ。

 けれども、やはりどことなく見覚えがあるように思う。


(やっぱり、前世のことかな? しかし……)


 八太郎はしばし沈思していたが、やがて唐突に思い出す。


(ああ……。破邪くノ一・ユカリだ!!)


 着ているものが軍服でなく、やたらに体型を強調した水着のようなスーツであれば。

 顔といい、髪型といい、声といい、そっくりなのである。


 破邪くノ一シリーズとは、八太郎の前世、すなわち令和時代のゲーム。

 PCゲームで、アダルトもの――いわゆる『エロゲー』だった。

 近未来で活躍するサイバー女忍者を凌辱するという、まあありがちなもの。

 かなり人を選ぶ内容だが人気があり、シリーズも続いていた。


 ユカリはそのシリーズで初代から活躍する美女オンナ忍者……すなわちくノ一だ。


 八太郎はもう一度〇〇八を見た。

 やはりゲームのユカリが現実に出てくればこうであろうという理想の姿。


(こ、これは本当に偶然か???)


 八太郎はなんだかひどく気味悪くなってしまう。


「あの、彼女の姿というか、それはモデルとかあるのかな?」


「うん? 私の姿は元々設計データの中にあったものよ」


 〇〇八は首を振った。


「ホンマですか?」


「そうだよ。誰がデザインしたのかは、知らない。我々の創造主かもね」


 火星人の返答も、似たようなものだった。


「ほ、他の人造人間のデザインは? 顔が違うの?」


「人間と交流するための人造人間は、基本的に顔や体格が異なるようにしてある」


「ふーん! するとみんな顔が違うんだね」


「声も体格も違うね。体重は、人間ではないからあまり一概にも言えないが」


「ところで、他の人造人間はどんな姿をしとるんです」


 八太郎は怖さと共に興味をそそられ、火星人に尋ねた。


「そりゃあ人間の姿をしている者が多いよ」


「いやいや、そうじゃなくって……。その、人造人間の一覧みたいなものは?」


「ああ、一覧表ね。それなら、これだよ」


 火星人が応えると同時に、八太郎の前に半透明のボードが出現した。

 どうやら、令和のタブレット端末のような感覚で扱うものらしい。

 八太郎がボードを見てみると、そこには〇〇一から始まる番号の女性の姿。


(クロナに、アオエ、アカキ……。みんな破邪くノ一シリーズのキャラじゃないの……。む、こっちは悪役の女騎士ビオレッタ……)


 破邪くノ一はソーシャルゲームにもなっており、善玉悪玉など合わせて大勢キャラクターが存在するのである。

 人造人間たちはみんなそのキャラクターそっくりだった。

 中には、悪魔とか妖精とか人間ではないキャラもいる。

 それらも、翼や尻尾、尖った耳などそっくりそのまま、忠実だった。


(どういうことなの?)


 八太郎は壮大なイタズラにでも引っかかったような気分で検索を続ける。

 人造人間の種類は、それはもういくらでもあった。

 やがて破邪くノ一シリーズではなく、他のアニメやゲームのキャラクターも出てくる。


 見ているうちに八太郎は気分が悪くなってきて、よろけてしまった。


「こ、これ全部最初から設計図が?」


「そうだよ」


 信じがたい内容のことを、火星人はやっぱり肯定する。

 火星人の創造主は、令和日本のオタク文化をものすごく知っていたのだろうか。


(タダの偶然とは思えんよ、これは……。ひょっとして悪夢じゃないかしらん?)


 八太郎は考え込むが、答えが出るはずもない。


「ところで、そろそろ本日の勉強を始めてもらいたいのだが」


 困っている八太郎に火星人は言ってきた。


「もう一度言うけど、今日から私、〇〇八が教師を務めることになるわ」


 ユカリそっくりの人造人間は微笑んでうなずく。


「ああ……。今後ともヨロシクお願いします」


 とりあえず挨拶をしてみるものの、どうにも変な感じではある。


「ええと、いくら人造人間とはいえ、道具みたいに番号呼びと言うのはどうでしょ」


「それは気になる点かい?」


「まあ、気になるというか、違和感があります」


「そうかい。では、個人名をつけるべきだろうかな。ふむ」


 火星人は何か考えるような仕草をした。

 目がチカチカと明滅して、ちょっと気味が悪い。


 それから、火星人の小さな手が伸びて八太郎の額に張り付いたものである。






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― 新着の感想 ―
[一言] 対○忍女教師! 羨ましい~!!(お楽しみがあるとは言ってない) まさかこいつらの創造主とは……いや、まだ確証が持てないので黙っておこう。
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