第四十四回 死都
久々の更新です。
お待たせしました。
※ずっと間違ってたサブタイ修正。これは恥ずかしい……。
アメリカ合衆国の各地では、今日も今日とて工場が稼働している。
今や、工場の大半はゾンビを用いたフル回転操業に移行しつつあった。
といっても、単純労働しかできないゾンビでも扱えるように――との技術革新。
そういう切磋琢磨と努力からなる技術あってのことだったが。
特に生産が多いのは、飛行機。
この、航空機も火星人との交流で得た知識で爆発的に技術飛躍したものだ。
もっとも重宝されているのが、巨大輸送機だった。
ロック鳥の愛称で知られる高性能輸送機は、アメリカとアジアをつなぐ生命線だ。
これと同時に、そういった巨大機の離着陸を可能とする大型空母ネプチューン。
さらに燃料をはじめとする物資の補給を可能とする新型補給艦。
そして、最近実戦投入が予定されているのが、垂直離着陸機。
通称・ヒポグリフ。
これは将来、ゾンビ兵が枯渇した際、あるいはゾンビでは対処のできない場面を想定しての
ものだった。
最後にもう一つ、高性能、高メンテナンス性、低燃費の新型エンジン。
これらなくしては、中国大陸への膨大な兵力輸送は不可能だったろう。
そんな中で、中国戦線はゾンビ兵を大量消費するだけではすまなくなってきた。
放射線の汚染が懸念される土地に、どんどん陣地を広める中共軍。
彼らは防護服とレーニン薬で障害を抑えつつ、狡猾にしかし大胆に動いている。
一方で、ゾンビは放射線は平気……とはいかない。
心や感情は死んでいても、肉体は生身の人間である。
確かに、痛みや恐怖は感じない。
が、しかし。肉体は確実に放射線の毒牙を受けてしまうのだ。
なまじ動き回り続けるだけに、そのまま死ぬ者が続出した。
そういった死体から、どんどん『サンプル』が採取され、密かにソ連へと送られる。
かといって、一般の米兵をそのまま突っ込ませるわけにもいかないわけで。
ただ、両陣営にとっても誤算であった部分もある。
それは放射線の被害が予想以下だったことだ。
確かに障害で死亡するゾンビも多い。
しかし、毒ガスなどとは性質がまた異なるわけで。
生身の人間ならば、後の障害を恐れねばならないが、ゾンビはそもそも使い捨ての消耗品。
有色人種の『間引き』を兼ねてもいる悪辣なもの。
問題なのは、
「核攻撃下におけるデータを、ソ連がごっそり持っていくことだ……」
これは実に頭の痛い話なのだった。
また。
アメリカはフルタイムで、核兵器の実用化に全力を挙げているものの――
「性質上、連発することはまったく難しい……」
それに、いざ核攻撃を受けた時の対策。
これらのデータは前述したごとく、すでにソ連がちゃくちゃくと収集している。
どうしたって、一歩も二歩も出遅れているわけだ。
だが、それ以上に配慮しなければならない点がある。
「日本領土への影響だな……」
山のような書類に頭痛薬を常備しつつあるアメリカ大統領はつぶやく。
もしも核が一発でも日本……いや、火星人の支配領域に飛んでいけば。
「この戦略級兵器に関しては、インベーダーも無視はできない」
専門家もそのように述べているが、それはつまり、
(あいつらを完全に敵に回すということだ……)
それはあまりにもまずい。
将来のことはまだしも、今はまったく準備が足りない。
核汚染に関しては、
「火星人を撃破した際に得られる技術で対応可能だろう」
という楽観的意見もある。
「火星人との戦争で確実に勝利を得るためには、少なくとも宇宙からの敵を迎撃できるレベルまで持っていかねばならない」
あるいは、
「相手の技術を奪取しながらの長期戦も考えねばならない」
という無茶な意見も。
そんなもの、
「共産勢力を相手にしている現状でできるものか」
大統領は何度も噛み砕いた頭痛薬を水で流しこみながら、愚痴るばかりだった。
――。
青年は、日に日にひどくテロや暴動を見るたびに気が滅入った。
近いうちに国外へ逃げるつもりだが、果たして『間に合う』かどうか。
『米帝に次なる鉄槌を!』
そんな落書きがあちこちに見られるようになった。
鉄槌。すなわち、核攻撃である。
中共軍はこのままアメリカを追い払い、日本へ侵攻するらしいとの噂。
(ありえない……)
仮にアメリカを追い払ったとして。
そのまま向こうがおとなしくているわけがない。
中共軍はアメリカの力を侮っている。
実際、渡米して見聞を広めてきた青年には嫌でもわかった。
今戦えているのは、ソ連の手助けがあるからにすぎない。
また、日本へ侵攻というのも突飛すぎた。
「今こそ中華侵略の償いをさせる」
というのが、中共軍の言い分ではある。
それが、大多数の中国人に甘く美しく響くのだろう。
現実として可能かどうかは、さておいても。
入ってくる情報を見る限り、あまりにも日本への敵対行動が多すぎた。
といっても、完全に国交の断たれた現状でできることはせばめられているが。
大体、中共軍には海軍と呼べるレベルのものがない。
せいぜいが海賊どまりだろう。
それも、一歩でも日本の領海内に入れば消し飛ばされる。
間違いなく、情報は完全に筒抜けだ。
火星人は、スパイだのというアナログなものさえ必要とすまい。
しかし、中国共産党はあくまでも欧米、そして日本への憎悪を煽動している。
そのくせ、火星人とは友好路線だと語るのだから救いがない。
火星人からすれば、自分たちの管理している対象を、
「自分たちの好きさせろ。かつ、自分たちと友好的に接しろ」
と、言われているわけだ。
どう考えたって、相手にされるわけがない。
逆に、先手必勝で攻撃してこないのが不思議なくらいで――
(いや、違うか)
別に、不思議なのではない。すでに出ていた結論。
いつでもひねりつぶせる虫けらを、黙って静観しているだけにすぎないのだ。
この冷酷な事実を、彼らはいまだに理解していない。
(それにしても……)
諸事情をかんがみても、中共軍――いや、あの友人の日本へのこだわり。
あれは異常だった。
まるで前世からの因縁があるような、執着と憎悪。
そのせいで、中華全体が危険にさらされつつあるのだが。
青年が、嘆息して茶器に手を伸ばそうとした時、
閃光。
光と音の洪水が街の一角を包み、やがてそれは加速度的に広まって。
空に巨大な黒雲を突き上げた。
『満洲新京に核攻撃!』
そのニュースが、世界中に飛びかったのはすぐ後だった。
後にわかることだが、それは先走りした中共軍の末端が起こしたもので。
密かに小型の核爆弾を持ち込み、爆発させたというもの。
規模は、正史でいうヒロシマ型の半分程度。
しかも地上・地下室アジトで爆発させたため、被害は想定よりも少なくはなかった。
それでも。
満州を大混乱に落とすのには、十分だった。
爆発の被害だけではなく、それに乗じた暴動やテロ。
各地で欧米人のみならず、外国人が襲撃された。
そればかりか、富裕層の現地人さえも。
これによって欧米の中華利権は、中心地を破壊されたことになり――
事態はさらに悪化するのだった。
「サルどもが……!!」
報告を受けた大統領は、机にあったものを散乱させ、叫んだ。
「ともかく、一刻も早く現地に救援を……」
「わかっている!!」
「このニュースで株価にも大きく影響が出ています。このままでは……」
「……暴落か」
「以前より、その危険性は見られていたのですが……」
「――もはや、情けは無用だとわかった」
「は……」
「サルどもの文化や文明? そんなものは不要だ。チャイナを石器時代に戻してやる!!」
この事件をへて、アメリカの方針はさらに加速することとなった。
一方で。
暗躍しているソ連からしても、これは望まざる事態だった。
「――困ったことになったよ。今回の件で資本主義国家は我々にも牙をむきだすやも。将来はともかく、まだまだ時期尚早だ……。核戦争になるやもしれない」
「それでは……」
「ここは、否が応でも火星の人々に助力をこうしかないねえ」
ついにこの時間軸でも世界大戦か……?




