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第四十三回  火花


久々の更新。暑さですっかりバテている現状です……。





 『中国戦線で原子力利用型爆弾が使用!』


 『原爆の一撃、米軍の改造兵士軍を一掃! アメリカはどう出る?』


 『多量の放射線物質で大地を汚染する副作用!』


 『被害地域周辺において、重度の放射線障害が予想される』


 『放射性物質流入の懸念、全て対処済みと火星人の発表』



 新聞やラジオをはじめとする旧世代を始め、あらゆるメディアがその事件に食いついた。

 凄惨ながら、ややだれ気味であった中国戦線はここで新たな局面を迎える。


 ゾンビ兵への一撃は、無学な中国庶民たちの快哉を呼んだが――


「……なんてことだ」


 事件を知った知識層は、顔を青くして新聞を握りしめる。



 そして、日本国内以上にアメリカの受けた衝撃は大きい。


「……核兵器だと!?」


 報告を受けた大統領は椅子を蹴倒して机を叩く。


「バカな……! チンクがそんなものを……!?」


 完全に不意を突かれた展開に、大統領はいささか冷静を欠いていた。


「まだ未確認ですが、間違いなくソ連の手配したものでしょう」


「わかっている! 奴らに自力で製造できるわけがない!!」


 大統領は乱暴に椅子に座ると、しばらく獣のような声をあげていた。


「核兵器は我が国でも急ぎ開発中ですが……。まだ実戦投入には……」


「一歩出遅れたか……。こいつは、致命的かもしれんな……」


「現地は、汚染が確認されています。幸い爆弾で吹き飛んだのは、ゾンビばかりですが」


「だが、いつ満洲の都市に核兵器が撃ち込まれないとも言えん!!」


 顔を上げ、大統領は犬のごとく吠えた。

 その激昂に場が凍りつき、さながら葬儀場のようだった。


「で……。現在、我々の対抗可能な兵器は……?」


「それが……」


「ハッキリとしたまえ!!」


「はっ……。来月、ニューメキシコで核爆弾の試作品実験をする予定で……」


「……ガッデム!!」


「遺憾ながら」


「……ゾンビの補充はどうなっている?」


「その点は、何とか……。しかし、各地で反米の暴動が確認されています」


「サルどもが……!!」


 大統領は冷めたコーヒーを飲み干し、ものすごい目つきで書類を睨む。


「ゼウスさえ完成していれば……!」


 大統領は完成間近の軍事衛星第一号を思い起こし、嘆息した。


 ギリシャの雷神を名とした、対火星人を想定した兵器。

 それに核ミサイルを搭載して、新たな刃とするはずなのだが――


「大小の被害報告が届いておりまして……民間人の損害も大きいものです」


「ドイツをはじめヨーロッパからは支援の声明が出ており……」


「連中にとっても、財布に関係するからな」


「火星人は、相変わらず不干渉を……。ただ、日本が攻撃を受けた場合、相応の報復を行うと

だけ……」


「いっそ、ソ連にしろチンクにしろ、日本へ核を撃ってくれればいいのだがな」


 やけくそなのか、本気なのか。

 大統領は何ともいいがたい笑顔で、そんなことを言う。


「しかし……そうなれば」


 誰かがつぶやき、それ以上は口に出さなかった。

 どうなるのか――実のところ、わかる者はいない。


 だが、おそらくはろくでもないことになる……それは確信できた。


 発言した当の大統領でさえ、それはわかっている。




 そして、一方の頃ソ連ではこのような会話が飛び交う。


「威力は確かなようだね」


「はい。できれば、空中から投下した場合も知りたいところですが……」


「それはまあ次でいいだろう。で、現場は……」


「はあ、やはり、その汚染が……」


「この点が弱点といえば、弱点だなあ。即時占領とはいかないわけだ」


「はい……」


「ま、しかし、やりようがなくはないだろう。放射線対策用の装備はどうなっているかね?」


「は。現在、テストを継続して……」


「では、実地でやってもらおうじゃないか。彼らもきっと喜ぶさ」


「すると――」


「ああ。試行錯誤は、アジアの『同志たち』に協力してもらおう」


「いや、ですが……」


「ふむ。苦労をねぎらうためにも、『医薬品』の支援も増やさねばならないな」


「……。は、了解しました」



 さて。そして。


 裏ルートから、中国共産党へ放射線防護服が支援物質の中にプラスされた。

 さらにもう一つ、放射線障害対策の『治療薬』も。


 ソ連が実験を繰り返して開発したものだが……。

 これは、確かにソ連邦が誇るべき薬ではあった、かもしれない。


 核兵器が使用された地域で起こるであろう、放射線障害。

 並行世界の日本では、『原爆症』という言葉でも知られたもの。


 この薬は、その症状を抑制、あるいは緩和されるのに画期的だったのだ。

 多くの、ホモ・サピエンスも含む動物実験により、生み出された『傑作』。


 『レーニン薬』と命名されたそれは、防護服と共に中国共産党に迎えられ――


 大絶賛となる。



 とはいうものの……。

 放射線の実害については、わずかな上層部をのぞき意図的に伏せられた。

 そして、発生した障害については、


「米帝がキョンシーを使ってばらまいた、有毒物質によるものである」


 と、あちこちで宣伝、ないしは噂をばらまく。

 これに中国民はあっさり煽動。怒りと憎しみ、そして恐怖をさらに抱いてしまう。

 反欧米の気運が、さらに高まってしまった。



 そして――……


 核兵器の威力は、共産党以上に一般の中国人も狂喜乱舞させる。

 今まで、ジリ貧だった米軍へ手痛い一撃を与えたのだから、無理もない。


 この新兵器は、同時に希望というかの、欲望をも強く刺激する。


「この新兵器なら、火星人にも勝てるかもしれない」



 かもしれない。


 それが、



「勝てるのではないか?」


「勝てるはず」


「勝てる」


「勝てる。絶対に勝てる!」


 と、飛躍してくのに、さして時間はかからなかった。


「小日本へ核の一撃!を」


 こんな文を掲げた旗やプラカードが、あちこちで突き上げられ乱痴気騒ぎに。

 中には、キノコ雲をかたどった仮装まで加わる始末だ。


 まるでお祭り。いや、祭りそのものだった。

 鬱屈していたものを発散させる、狂喜と狂気の祭典というわけである。


 中には、米軍支配下の満洲でもそんなデモ集団が出没し始めた。


 米兵が取り締まろうとすれば、あっという間に分散して逃げてしまう。

 そうなると、米兵はあちこちを虱潰しにするわけだが、誰がデモに加わったか?


 いちいち正確に確認できるはずもない。

 かといって、そのままにするのは沽券に関わるのだ。

 結果、運の悪いものが冤罪で引っ張られることに。

 巻き添えを怨む者も数多いが、弾圧を繰り返す米国への憎しみはさらに増した。


『今日は米帝を! 明日は小日本を!』


 そんな謳い文句が、流行歌のように広まっていく。



「非現実的だよ――」


 満州で商売をする青年実業家は、秘書にそうこぼしていた。

 米国留学の経験を持ち、高い学歴を持つエリート層の彼は――


 漢奸。すなわち売国奴と言われる立場にある。


 多くの富裕層が逃げ出す中、彼は家族をカナダに送り出した後、残務処理のため満洲にとどまっていた。


「馬鹿どもが……」


 窓から聞こえるデモの声に、青年は吐き捨てた。


(米帝の毒だと? 土民なんぞに、放射線の知識があるわけもないが……)


 だが、共産党を動かしている上層部が知らないはずはない。

 青年は自国民の程度、その低さに絶望を感じる。

 こんなざまで、日本に優越感を持っているのだから救いようがない。


(所詮は、知恵のまわるサルか……)


 そもそも、日本をどうのこうのと言いながら、その上にいる火星人を完全に無視。

 いや、意図的に忘れたふりをしているのか?


(攻めこんでどうなる? 陸地どころか、領海に入った瞬間に消されるぞ?)


 火星人が専守防衛に徹しているのは、興味がないのと、いつでも処分できるからだ。

 だが、本格的に戦争になればもはや向こうは容赦しないだろう。


 自分たちは弱いのだから加減しろなどという理屈が通るわけもないのだ。

 それどころか、中国どころか、漢民族そのものがこの世から消滅しかねない。


(これがお前の理想だったのか?)


 青年はとっくに連絡の取れなくなった友人を思い出す。

 今は、幹部として共産党の指導層になっている、あの男。

 うまくすれば、歴史に残る英雄になったかもしれないのに。


(日本にこだわりすぎだったな……)


 つくづくと、そう思う。だが。

 もはや取り返しはつくまい、と青年は嘆息することしかできなかった。











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― 新着の感想 ―
[一言] 夢に浸かる衆愚とその死体で出来た玉座に座る中国上層部、自分の国の民衆を殺して無理矢理屍兵に変えながら自分の尽きない欲望のために大陸を征服しようとするアメリカ、両者の対立を煽りながら人の庭で核…
[一言] 中国人どもなんで関係な日本とか火星人への攻撃を願うのか無意味なことをしておりますな。 そもそも、攻撃しようとして日本本土へ侵攻しようとしても船とか飛行機とかも簡単に撃墜されるでしょうし、本気…
[良い点] 教育ざれて無い民間人の暴走状態が良くわかる所 [一言] 何故か火星人を無視するのか?
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