表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/50

第四回  玉音



 月面から円盤に戻った後、天皇はしばし一人で沈思していた。

 その間に、円盤は地球――日本に戻っていく。

 時間にして三、四時間程度だから現状はまだ何も変わっていなかった。

 しかし、日本国民は何が起こったのかもわからず、ただ待つばかり。


 だが、正午になると火星人は食料の配給を行った。

 見たこともないシリアルバーに日本人は戸惑う。


 または、


「得体の知れない奴らの施しなど受けん!」


 と、断固拒否する頑固者もいたのである。


 あるいは、わけのわからぬことばかりで、食欲が失せていた人もいた。

 とはいえ、人間は生きていれば腹も減る。

 特に貧しく食事もままならない家の子供は、すぐに食いついた。


「うまい!!」


「菓子かな? 菓子だよな……!!」


 チョコレート風、ヨーグルト味、バニラの香りと見かけによらない美味に驚く。

 また腹にたまるカレー味も好評だった。


 最初は怒ったりする、やめさせようとする大人もいたが、空腹には勝てない。

 また、軍属や反社会的勢力でない限り、監視を受けながらも自由行動が許されていた。


 例えば――

 農村では監視用の小型円盤……ドローンがついて回るが、畑仕事にも行ける。

 時々逃げ出して警察などに行こうとする者もいたが、すぐに捕まって連れ戻された。

 そもそも、警察施設はあらゆる場所が抑えられているので、どっちにしろ無駄なのだが。


 勇敢というか蛮勇のある者は、ドローンや機械兵に石を投げる輩もいた。

 当然、人間の投石で傷つけられるものではなく、ドローンなどは石を空中で破壊する。

 蛮勇も吹き飛ぶ石を見て肝を潰し、以後軽率な行動はしなくなった。


 軍属たちは何とか脱出しようと試みるものの、かえって監視と拘束が強化される。

 武銃器はもちろん刃物類まで全て没収されていてから、どうにもならなかった。

 仮に装備が万全であっても、火星人の機械兵には通じなっただろう。

 残念ながら、それが理解できる者は多くはなかったが。


 そして、皇居では。


 やがて天皇は席を立ち上がり、火星人を呼んだ。

 それから、天皇と火星人話し込んでいたようである。


 八太郎は円盤の中でどうすることもできず、ボーッとしていた。

 何しろあまりに非現実的なことの連続であり、思考が混乱している。



 時間は流れ、午後五時過ぎ頃。


 日本中のあちらこちらで、国民への召集がかけられた。

 大体一つ町内ごとに、火星人の映写機が運び込まれる。

 もっとも、それが映写機だとは誰もわからなかった。


「いよいよ殺されるんじゃないか……?」


「どこに連行されるんじゃないのか……?」


 誰もかれも不安げに顔を見合わせるだけで、何もできない。

 設置は機械を置くだけだからすぐに終わった。

 と、同時にドローンを通じて全国放送が行われ始める。


「ただ今より、天皇陛下が全国民にお話を伝えられる。謹んで拝聴するように」


 こんな意味の音声が、数度繰り返された。



 天皇自らの声と言葉。



 これに日本人はみんな不安をいっそう高め、それでも耳をすませるしかなかった。


(一体何が始まるのか。どんな話がされるのか)


 固唾かたずを飲んで見守る中で、映写機が一斉に作動した。

 映写機は、わずかに半透明ながら鮮明な天皇姿を国民の前に映し出す。

 いきなり人が現れたのかと思い、多くの者が困惑して目を疑った。


「これは、火星人の機械を使って自分の姿と声をみんなの元に送っているもの」


 天皇が何度か丁寧に説明して、ようやく国民は落ちつき、平伏した。


「今日、日本国は火星より飛来した外星人により占領された。火星人の軍事力は日本のそれをはるかに上回っており、勝ち目はない。また全ての軍、警察も制圧されており、日本にもはや戦う力はない。仮に戦っても無益な血を流すだけで何もならないだろう。火星人は日本政府に代わりこの国を管理・統治することを望んでいる。とても苦しいところだが、それを拒否することは不可能である。苦慮した結果、私は火星人による統治を受け入れ、管理運営を彼に信任するものである。受け入れがたいことだろうけれど、国民もどうか受け入れてほしい」


 国民に向けられたのは、大よそこんな内容の話だった。

 薄々感じていたが、ハッキリと敗北が天皇陛下自身から伝えられたのである。

 いや、戦ってさえいないのだから、敗戦とすら呼べないかもしれない。


 天皇の玉音放映が終わった後、嫌でも現実とわかる光景が出現した。

 日本全国に、機械兵が次々に降下してきたのである。

 円盤の数もどんどん増えていくのだった。


「これからどうなるんだ……!?」


「火星人にさらわれるぞ!!」


 今さらのようにパニックになる人も少なくはなかった。


「女子供は連れていかれる!」


「財産をみんな奪われる!」


 瞬く間に流言蜚語が飛びかい、人々は無駄に騒いだ。


 機械兵はそんな日本人を無視して、黙々と作業に入っていった。

 まず行われたのは、道路や建物の整備である。

 作業用の円盤や機械がやってきて、どんどん工事を進めていった。

 また市役所などの公共施設がどんどん改装されていく。


 それと同時に、食料の配給も行い出した。

 配っていたのは、例のシリアルバーであったが、ただでくれるのだからみんな集まる。

 先のカレー味の他に、醤油味、みそ味なども登場して、みんなを喜ばせた。


「変な形だけど、味は良いぞ?」


「菓子みたいなのに食うと腹にたまるなあ……」


「いくらかまとめてくれないか?」


「土産にしたいからもっとくれ!」


 こうした中、令和で言うホームレスなる人々は、


「名前、年齢、出身地は? 住所は?」


 と、機械兵たちから質問を受けていた。

 聞き慣れない人工音声に驚いたり脅えたりしながらも、質問に答える人々。


「正確に、正直に答えない場合、相応の処罰がある。隠しても後でわかる」


 と、脅されたので答えるしかない。



「あれはいったい何をしてるんだろ?」


 円盤にいる八太郎は、そんな様子を見ながら疑問に思った。


「情報は脳内を調べればすぐにわかるけど、本人の意思でしゃべらせたほうが良い」


「おもらいさんを調べてるのは、何のために……」


 映像を見るところ、大人も子供も関係なく調査しているようだ。


「ひとまず我々の宇宙船で保護する。しかる後にそれぞれ教育などを施して就学や就職をさせていく計画だ」


「ふーん! 一体何をさせるつもりだい」


「現在建造中の宇宙都市で働かせる予定だよ」


 と、火星人は小さなホログラムを八太郎に見せた。

 見たところ円盤型をしているようである。


(SFアニメのスペースコロニーみたいなもんかなあ)


 八太郎は前世を思い出しながら、ホログラムを上から下から見回した。


「直径100kmの都市型宇宙船だ。現在六十隻まで完成している」


「六十!? そんなに!?」


 思いがけない数字を聞いて、八太郎は瞠目した。


「他にも隕石や外敵などに備えた衛星基地も準備中だよ。機械兵を量産する工場なども」


「そうか、宇宙空間だし、隕石も……。外敵? 宇宙には敵がいるのか?」


 八太郎は、それこそ古いアニメのエイリアンを想像してしまう。


「現在は発見していないが、将来出てこないとも限らない。宇宙は広いから」


「しかし、そんなにたくさんのコロニーがあるということは、それだけたくさんの人が宇宙に出るということなんだなあ」


「将来的には自然とそうなるだろう。人口が増えればそれだけね。今のところは孤児や住所の不定な者を住まわせる場所だよ」


「何だか、地球から隔離するみたいだな……」


 まるで危険物化病原菌みたいな扱いではないかと、八太郎は少し思うところがあった。


「教育などが不十分な人間が多いから仕方がない。ある程度のレベルまで訓練や学習をさせる必要があるんだ。でなければ、宇宙で生活できない」


「やっぱり宇宙に送るのか」


「しばらくは高高度に置いてある都市型宇宙船かな。我々もまだ情報が足りてない」


 少なくとも、虫のように処分される心配はないようだった。


「ところで俺は一体どうなるんだい……?」


「君の場合は特殊だが、まあ一定の学習をしてから保護施設に行ってもらう」


「つまり、孤児院かい」


「我々が運営するのだから、待遇は安心していい」


 安心するも何も、今の八太郎は火星人に任せるより仕方ない身の上である。


 さて、今までのは日本国内の話。

 では海外に住む人々はどうなったのだろう。


 例えば、中国の某所にある日本人居留地にも、火星人の円盤はやってきた。

 機械兵やドローンは瞬く間に日本人を捕らえ、住居の家財もまとめて梱包してしまう。

 それから、全てを円盤に運び込んで日本へ去っていった。

 残ったのは、空っぽの家屋と他国人ばかりである。


 火星人はいきなり現れていきなり日本人を連れて行ってしまったわけで。


 空の居留地にはすぐさま中国人が押しかけたが、何も残ってはいなかった。

 それでも日本人を快く思わない人々は、


「天の使者が外夷を追い出してくれた!」


 などと、何とも無邪気に喜んでいたりした。


 実際行動だけを見ればその通りではあったのだけれど。








ご意見やポイントお願いします!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず腹がふくれれば民衆は文句言わないですよね。 邪魔者が居なくなって無邪気に喜んでる大陸の人ら、よかったね()
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ