第三十五回 自爆
書いていくほど悲惨になり、日本も火星人も空気になる。
目立つとさらに悪いことになるわけですが。
地雷原の乱発により、中国大陸に運ばれる軍用ヘリの数は増していた。
それでも、戦争に終わりは見えない。
敵は多すぎるし、大陸は広すぎた。
落としどころは、もはやわからない。
仮に国民党と停戦しても、共産党はそうはいかないわけだ。
逆もまたしかり。
そればかりか、どちらとも関係ないごく小規模な武装集団もあちこちに出没。
米軍としてはともかく、
「チンクを見たら撃て」
そういう方針で行くしかなかった。
上空から、ヘリの機銃で片っ端から撃つ。まさに戦争は地獄。
だが――
米軍のヘリが次々に撃墜される事例が多発するようになった。
対空兵器。
アメリカの装備である地対空携帯型ミサイル。
それが、いつの間にか中国ゲリラの手に渡っていた。
逃亡した中国系米兵によるものだった。
中国人にとって――
いわゆるチャイナ系アメリカ人は、ある意味白人以上に憎悪の対象だった。
国を捨てた裏切り者の犬、というところか。
そのため、万一捕虜となったら、悲惨な運命が待っていた。
これは、チャイナ系以外のアジア人全般も同様で。
彼らにすれば言いがかりも甚だしいが、本来従うべき中華を裏切った輩。
そういう解釈らしい。
しかし、そこへ、
「いや、それは違う」
と、待ったをかけた者が出現した。
若くして共産党内で名指揮官、今孔明と呼ばれる若者である。
「彼らもまた、米帝に支配され、搾取されている同胞なのだ」
そのように説いて回り、アジア系米兵の扱いを一変させた。
これは大きな効果をもたらし、多くのチャイナ系米兵を取り込んでいく。
おかげで。
中国共産党は、ソ連の支援以外にも、米軍の装備や情報を得るにいたった。
おかげで、満洲内の内情も中国共産党、ひいては、ソ連へと流れていく。
理想としては、黒人やインド系も取り込むべきだったかもしれない。
しかし、米軍の中でも、黒人兵士の中国人への態度は最悪だった。
満洲の市街地で、民間の中国人が黒人米兵にリンチされて死ぬ事件など珍しくない。
窃盗や暴行、強姦も同様である。
白人による弾圧の苦しみを、アジア人を使って晴らすというわけである。
何より、同じ米軍でも白人と有色人種では扱いが違い過ぎた。
食事から、酒やタバコのような嗜好品。負傷の治療、休養の有無。
まともな食事さえ与えられない兵士が、あちこちで略奪するのも当然だった。
おまけに。
いつ、最悪の前線に送られるかわからない恐怖やストレスも大きかったろう。
さらには、米軍……いや、アメリカ国内でも――
アジア人の立場は黒人よりも下だった。それはもう明確に。
こういう点が、チャイナ系兵士に裏切りを指せる一因でもあったのだろう。
ヘリの撃墜に、奇襲。それに地雷原への誘導。伸び続ける補給線。
どれだけ叩いても、大陸内に隠れる場所は無限にある。
言うなれば、何度頭を潰されても再生するヒドラを相手取ってるようなモノだった。
前線では、過酷さゆえに精神を病む者も続出。
長引く戦争は、白人兵士にも及び出す。
そもそも、いくら有色人種を弾除けにするといっても、白人がまったく戦わずにすむ――
ようなわけがないのであって。
死傷者は、白人層もジリジリと増え続けていく。
だが、犠牲を払って得た油田を始めとした資源の海。
今さら放棄するには、深みにはまりすぎていたわけである。
やがて。
満洲の各都市で、放火や爆弾テロは相次ぐようになった。
最初は、白人の子供が通う小学校。
次は、満洲でも指折りの国際ホテルが爆破された。
その前後から、白人の子供や女性が行方不明になる事件が多発。
全ては、共産党が裏から手を引いたことだった。
が。
これによって、チャイナ系のスパイ行為が露見してしまう。
米軍上層部は、激怒した。
今までのことを考えれば、無理もないことではある。
そうなるだけのことが多すぎた。
「やはりチンクは信用ならない」
などと言っても始まらないのだが――
では、どうすべきか。どうすれば、いいのか。
アジア系の扱いを改善すればいいのか?
しかし、そうなると黒人はどうなる。
チャイナ系以外のアジア人を使うのか?
ただでさえ、足止めを食っている大陸侵攻と共に、米軍は頭を悩ませた。
ところが。
そんな折に起きたのが、アメリカ本国での黒人大暴動である。
あちこち破壊や略奪を繰り返すその様は、もはや内戦に近かった。
その凄まじさに対処するには、もはや逮捕や鎮圧というレベルでは不可能。
結局のところ。
怒れる黒人たちに、米軍の銃弾が放たれることとなった。
「とにかく、動くものは全て撃て」
そのように命令が下されたわけである。
黒人はおろか、アジア系どころか白人の巻き添えも数多く出てしまう。
国家が自国民を大量虐殺するという結末。不始末。
しかし、それで終わりではなかった。
その杜撰で性急な『解決法』は、さらに黒人たちの怒りを燃え上がらせる。
鎮まるどころか、全米のあちこちで武器を手にした黒人の暴動が発生。
各地の銃砲店から銃器が奪われ、警察署が襲撃された。
この事件は、かつてロシアで起こった『血の日曜日事件』と比較され、報道される。
それこそ、世界中に。
満洲でも同調しようとした黒人兵士が逮捕、あるいは射殺されたりした。
まさしく、にっちもさっちもいかない状況。
当然中国戦線は混乱し、後方中心だった白人兵士が出ざるを得ない。
そうなると、死傷者はうなぎ登りと言う有様。
工場への襲撃も重なり、経済活動にも支障をきたした。
かといって、問題は単純でもなく――
黒人の暴動。それは白人はもとより、前から見下していたアジア系にも向けられた。
そうなれば、やられる側もただ逃げ回ることはできない。
また、警察は最初からあてにはならないのだ。
事態は白人対黒人対中国系中心のアジア系となっていった。
米軍は、中国大陸のみならず、自国の大陸でも走り回る羽目となる。
その一方で、ソ連は中国で発見されたタイゲニウムへと手を伸ばし始める。
「あれは、原子の火を手に入れた我々にこそ必要なものだよ!」
かくして、ソ連の中国介入はより大がかりなものとなっていった。
そんなドッタンバッタン騒ぎの隙間をぬって、アメリカの人工衛星情報もソ連に伝わる。
アメリカ国内のソ連シンパ及び工作員によるものだった。
「これなら、我々が宇宙という大海に漕ぎ出すのも遠くない!!」
ソ連は小躍りしたい心境だった。
「アメリカは人種問題と中国戦線で自爆した。もはや敵はない」
これを機に、ソ連は欧州へも手を伸ばすことを計画し始める。
さらには……。
アメリカ経済が混乱してしまったことで、世界的に金融への悪影響が出てしまった。
満洲で利益を得ていた各国も、軒並み巻き込まれてしまう。
あまり関係ないのは、半分鎖国状態の日本くらいだった。
そもそも、火星人統治下では、
『健康で文化的な最低限度の生活』
は、完全に保障されている。
実業家たちが四苦八苦しようが、一般人への生活はほとんど変わりなかった。
飢えることもなく、病めば医療を受けられる。住むことにも困らない。
義務教育も完全に保障済み。
さらには、無数の機械兵を始めとする無人戦闘兵器群により国防も万全なのである。
そして。
通信網の完備により、海外の正確かつ詳細な情報は万人の者となっていた。
海外や外国人への羨望も影を潜めている。
日本人もたいがいな部分は多々あれど、白人国家のアレな点を知ってしまったゆえに。
明治大正期にも、令和のネットで言う海外崇拝者……『出羽守』は存在したが――
今現在、昭和の火星人時代には、発言権をなくしている。
もっとも、日本が様々な点で欧米に遅れていた点も事実ではあるが。
しかし、もはや欧米は学ぶべき先達者ではない。
音楽をはじめとする文化面ではいざ知らず、科学や技術の面ではもはや……なのだった。
それに、日本人にしろ向こうからすれば劣った有色人種。
亡命などから、日本国民になったものはいざ知らず……。
今さら、『お友達』になりたいような相手ではなかった。
それでも、中国でのタイゲリウム発見は話題になっている。
当然、危機感をおぼえる人間も出ていた。
次回は一週間後を予定してます。




