第三十四回 白虎
何とか更新できました。
書いているうちに自分でもよくわからない方向になってきましたけど……。
そもそも。
アジアは、欧州の支配下――植民地ばかり。
しかし、火星人の日本占領以降、情勢は変わり出す。
最初、日本以外にほぼ干渉する気配のない火星人に、欧米は安堵していた。
中国や朝鮮半島を除けば、強く拒絶するでもない。
だが。
見えざる影響力は、ジワジワとしかし確実に伸びていた。
少しずつ、自覚症状のない毒を盛られるように――
そして、欧米で起こった反日運動である。
これに対して、日本……否、火星人はあっさりと門を閉ざす。
今まで流れてきたオーバーテクノロジーの情報が途絶えてしまったわけである。
だが、逆にここで穴が見つかった。
火星人は中国・朝鮮半島は無視しているが、他のアジア人はそうでもない。
つまり、緩いわけである。
といっても、スパイが入り込めるほど甘くはなかった。
浅はかな試みは全て無に帰している。
そこで、イギリスがまずやり方を変えた。
「要するに、スパイでなければいい」
本人に自覚のないまま、事実上スパイ活動に近いことをさせるというアイデア。
「いや、そんな半端が火星人に通じるわけもない。なら、いっそゼロにしてみよう」
例えば、完全にただのビジネス目的、ないしは留学生として送りこむ。
無論、それで重要機密など盗めるわけもない。
しかし、少なくとも日本の実体や世論などはわかる。
またテクノロジーに関するものも、一般書籍ならば入手は簡単だった。
火星人にとっては石斧同様のレベルであっても、こちらからすれば最新鋭の技術。
これがわかるのはありがたい限りだった。
「わざわざ新型爆弾や人工衛星など必要はない」
そういうことだった。
イギリスは中国大陸でも、順調に利益は得ている。
軍隊も派遣しているが、アメリカには遠く及ばない。
その分アメリカが得ているものは膨大ではあるのだが――
「日本、火星人には深く関わらない」
これがイギリスの基本方針となっていった。
もっとも、それはあくまで政府のものであり、国民感情はまた別だったのだが……。
だが、イギリスも、いや欧州は太平楽にしてもいられなかった。
「副作用というやつであろう」
そう言ったのは誰か。
情報を得るために、建前だけでもアジアでの支配体制は変える必要があった。
あくまで、うわべだけの『中立地帯』とする。
「形だけだよ」
そのつもりであったはず。
しかし、アジア各地で独立を求める動きと声は高まり、止まらない。
幸いなのは、中国に同調する動きが鈍いことだったが。
火星人に中国と同類だと見なされれば、日本との交流はできなくなる。
現状、シャム王国、そして台湾などには軍事支援がなされているわけで。
アジア各国としては、是非とも続きたいという欲求が強くあった。
また欧州にしても――
中国への進出と開拓を進めるには、より軍事力が必要だった。
より多くを得るため、より多くの血が求められる。
そのために。
アメリカ式に、というのか。アジア人で構成された軍隊が求められた。
「将来自立独立するためだよ!」
イギリスはそんな理屈をこねながら、事を進めた。
で、結局のところ。
さらに理由をこねくり回し、アジア人兵士を中国戦線へと送り込んだ。
まさに、アメリカが有色人種を使い捨てるがごとく。
当然真似のできる国は真似をする。
しかし、それが次第に裏目に出てきた――
すなわち、戦地で中国共産党に取り込まれるアジア兵が多発したせいである。
どれだけ予防策を講じても、完全には防ぎきれない。
不幸中の幸いは、本国ではやはり主流派とならないことくらいか。
アジアにおける支配地域をある種の『中立地帯』とする建前と言うか欺瞞。
そのおかげで、日本人も来るわけだから。
まあ、殿様気分の日本人富裕層も、決して心から受け入れられているわけでもないが。
それでも金払いが良い『客』であった。
煽てれば、金をばらまいてくれる『旦那』なのだ。
なので、地元民は表面上は愛想よくしながら、機嫌を取っていた。
ただし。白人たちにとってはまったく別でもあるが……。
そんな中国大陸にて。
広大と土地は、調査が進むにつれて天然資源の宝庫だと確認された。
石油をはじめとして、金属資源もあちこちにある。
満洲油田の埋蔵量だけでも、実に膨大なものだった。
まさに、現代の蜜あふるる土地。
その情報が流れ、列強は大挙して満洲に、いや、中国全土に押し寄せていった。
もちろん、中国人も知らぬわけもなく、黙っている理由もない。
国民党も共産党も、各地の資源開発に躍起となる。
共産党はソ連の支援を得て、一方国民党は――
これが『史実』なら、英米の支援を受けられたかもしれない。
しかし、邪魔者であった日本が完全に引いた今、英米こそが侵略者だ。
満洲に傀儡国家を作り、富を吸い上げ続けている。
党は抵抗派と恭順派に分裂して、錯綜状態となった。
そこへ、若輩ながらも共産党で名を挙げている指揮官が入り込んでいく。
「思想の違いを超えて、全ての中国人は一致団結して侵略者に立ち向かわねばならない!」
この若き英雄の説得によって。
中国人の中にナショナリズムがより大きく燃え上がり出す。
「英米を、欧米を討つべし!」
「アジアを我らの手に! そして世界を!」
元からあった中華思想が抑圧された中で宗教のごとくなっていく。
ソ連製の兵器と人海戦術、そして広大な大地。
これらを使って、あちこちで反攻を始めていった。
だが、欧米にとって今さら満州を、中国大陸を放棄などできるわけがない。
特にアメリカである。
今の好景気と需要を支えているのは、中国での権益だった。
満洲で吸い上げた石油を惜しげもなく使うことでの繁栄である。
さらに調べれば調べるだけ、資源が見つかるのだからたまらない。
まさに、フロンティア。くめども尽きぬ乳と蜜の土地。
他のアジア諸国と比較しても、その埋蔵量は巨大すぎた。
満洲を主力部隊で固め、さらに他の土地も目標としていく。
「全ての大地を掘り返され、山が切り崩される」
その状況を、中国の詩人は密かにそう嘆いた。
だが、それをするのは別に欧米だけではない。
当の中国人も躍起になっているのだから。
時間に進むにつれて――
植民地をあしがかりとして、陸海からの侵攻は活発化する。
列強はそれを治安維持、秩序回復と称した。
しかし、中国側の抵抗もどんどん激しくなってくる。
テロも日常となっていった。
それでもなお、多くの戦死者や軍費を払っても中国大陸の価値は変わらない。
だが、そんな折……。
満洲の大興安嶺山脈を発掘調査していたアメリカの調査団は巨大な鉱脈を発見した。
貴金属でも、またウランなどの核物質でもない。
ある種の金属だった。
調査研究した結果、驚くべきことがわかる。
合金に加工すればけた外れの硬度と弾力性を持つ。
また、その性質から原子力をより小型化、高性能化、そして安全に運用可能。
ごく短期間の調査と研究で、それが確実とわかった。
まさに、夢の金属である。
発見者はこれを『タイゲリウム』と命名した。
虎を意味するTIGERが元となっている。
これは中国の五行思想から、だった。
五行の『金』――すなわち金属に象徴される白虎から。
タイゲリウム鉱石自体も、白金に黒い縞がうっすらと見られる。
まさに、白い虎の金属だと言えた。
「これこそ、日本のフジニウムに匹敵する金属です!」
その情報は歓喜と共に、ホワイトハウスに伝えられた。伝えられてしまった。
急ピッチで、タイゲリウム合金の装甲が試作される。
それは、従来のいかなる砲弾も容易く跳ね返した。
また、人体に有害な放射線を防ぐのにも極めて有用である。
これで、アメリカはいよいよ満洲……いや、中国から抜け出せなくなった。
今の景気を支えているのは、中国で得られる権益なのだから。
しかし。
それでも、無茶や無理を重ねてきたせいであろう。
某日の木曜日――アメリカのアラバマで黒人の大暴動が発生した。
どんどん奴隷時代に戻っていく待遇の悪化と、中国戦線での使い捨て。
もはや、我慢の限界だった。
この暴動は即座に軍が派遣されるが、鎮圧は容易ではなかった……。
オリジナル金属は浪漫。




