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第二十六話  義挙


更新です。次はもうちょっと早くできるかと……。






 アメリカ――特に西部や南部では、新興のキリスト教団体が増えていた。


「現在の困難は、神が罰をくだしているのです」


「中国での戦死者は、神の怒りによるものです」


 そんな言説をまことしやかに語り、信者を先導する者たち。


「火星人を打ち払うためには、最終戦争ハルマゲドンを起こすしかありません」


 何がどうしてそのようになったものか。

 もはや、火星人は目の上のタンコブどころか、悪魔の使者みたいな扱いだった。


 だが、いくらがんばったところで、どうにかなる相手ではない。


 どれだけ軍事費や研究に金と時間を注いでも――

 一朝一夕で追いつけるものではないのだ。


 従来のそれに加えて、いわゆる生物兵器の研究も行われていた。

 これは、SFの古典に毒された故であろう。


「対火星人兵器の完成を」


 そんな意見書を、多くの学者が連名で政府に提出していた。


 また、自らの研究を売り込もうとする一派もある。

 しかしながら、どんな兵器を生み出せば状況は好転するのか。


 おまけに、アメリカは中国の満州をどうにかしたかった。


「満洲平定のために、兵の増員を願う」


 欧州に対して何度もせっついていた。

 向こうにとっても、満洲は油田あり資源あり市場ありの場所である。


 しかし、中国人の抵抗は一向に減ることはない。


 焦りゆえの強引な手段はかえって憎しみを煽っている。


 共産党ゲリラや馬賊たちの跳梁によって、軍は疲弊するばかりだった。

 戦場となった場所からは住民が追われ、流民となる。

 それらはやがてゲリラや馬賊に吸収されていく。


 また兵の士気も低下しつつあった。


 もちろん終わりの見えない消耗戦ということもある。


 だが、それ以上に使われる兵士たちのことであった。


 前線では、黒人やアジア系の有色人種がほぼ使い捨てのように使われている。

 ほとんど懲罰部隊……否、それ以下の扱い。


 様子見のためにどんどん突撃させられ、負傷してもまともに扱われなかった。


 拒否などできない。

 そんなことをすれば、白人の兵士に後ろから追い立てられるのだ。


 進むも地獄。も引くも地獄。


 兵士たちはやけくそでゲリラや馬賊に襲いかかる。

 せめて、敵を道連れにしてやる、と。


 負傷すれば、まともな治療もされないまま放置された。

 同じ有色人種の軍医が治療しようにも、ろくに薬さえ来ない。

 何とか生き残っても、治りきらないうちにまた送り出されるのだ。


 あまりにも非情な扱いに耐え切れず、脱走する兵士も数多く出た。


 しかし、アジア系はまだ良い。

 服装を変えれば現地に溶け込むこともできる。


 だが、黒人兵士は圧倒的に目立ち、敵兵ばかりか現地人からも狩りたてられた。

 捕まって拷問を受けた後、死ぬしかない。

 かといって、人里から離れてサバイバルなど至難の業だった。


 こんなことから、有色人種は徴兵されると家族に遺書を残していくが常識となる。

 そういう扱いだから、有色人種の兵士たちは積極的に略奪や虐殺を行った。

 奪わなければ、戦うこともできない。いや、食うこともできない。


 また、白人から受け続ける弾圧の鬱憤を発散する場でもあった。


 そうすることで、地元民はさらに彼らを憎む。

 白人にとっては弾除けであり、汚れ仕事の押しつけ役でもあるわけだ。


 功を奏してというべきか、アジア系米兵は白人以上に憎まれた。

 まさに、狙い通りというわけである。


「地獄絵図だな」


 満洲の惨状を新聞で読み、八太郎は嘆息した。

 のほほんとしている日本が嘘のようだ。


「軍人崩れが義兵とかいうて、兵隊に志願するのを募集してるそうじゃ」


 携帯のテレビを見ていた中村健吉が言った。


「まだそんなこと言ってる人がいるのか?」


「おるらしいわ。こないだの試験徴兵で下火になったと思うたがのう?」


 そんなに戦争したいんかのう、と中村は不思議そうだった。


 いや、むしろ。

 世間から距離を置かれたことで、余計に先鋭化したとも言える。


 正義感だか闘争本能だかを持て余し、


「この体、いつでも戦場におもむく覚悟である」


 と、のたまう老人や中年。


 その手のタイプには、一兵卒としての扱いも効果は薄いようだった。

 否。厳しい軍事訓練が、彼らを勘違いさせた可能性も高い。


「自分たちは苦しい訓練に耐えている。大和民族の誇りたる人間だ!」


 ということらしかった。


 なので、訓練の合間を見て、上へ嘆願書を差し出している。


「アジア友邦のために、立ち上がるべきだ!!」


 というような内容のもの。


 むしろ、日本が平和で豊かになっているからこそ――

 ある種のボランティア精神でもって望んでいるのだろうか。


 人助け目的の無償奉仕。


 それは尊いことなのだけど、場合によっては戦争以上に迷惑を振りまく。

 善意でやったことは全て良い結果となるなら、世の中に不幸は少ない。


 または、


「自分たちは世界の残酷な真実に気づいた! それを止める力もある!」


 という、青少年的な正義感であり、陶酔感かもしれない。


 美しいが歪で、危険。

 テロリストになったり、カルトにはまりそうなものだった。


(厄介なことにならねばよいが……)


 八太郎がそんなことを思っている中で、事件は起きた。


 ある過激な、『アジア主義者』とでも言おうか。

 そういう一派が船を仕立てて、無断渡航を行わんとした。


「今こそ、我らだけでもアジアの同胞を救おう!!」


 そういう義務感と正義感にかられての行動だったらしい。


 当然、計画は途中で漏洩し、逮捕された。

 協力者まとめて、全員である。


 無謀。


 世間の彼らに対する評価はその一言だった。

 小さな船に、身一つで大陸に渡ろうとしたのである。


 刀剣や銃器の厳重に規制されている現日本では、武器さえ入手できない。

 だから、鍛えた体ひとつで――ということらしい。


 実際、柔剣道などの武道を身を投じ、肉体は鍛えこんでいたようだ。

 しかし、根性や気迫だけで革命や戦争に勝てれば世話はない。


 一定数彼らの行動に理解を示す者はいないでもなかったが。

 だが、支援などできるかというと、それはまた別。


 関わり合いになった者は大なり小なり警察の世話になった。


 これがきっかけで、アジア主義者たちはより孤立していくとなる。


 半島や中国ではなく、他のアジアに渡ろうとする者もいた。

 まずは国交のある国へいって、そこから、というわけであろう。


 だが、それが何の助けになったものか。


 動きは事前に察知され、行動を起こそうとした者は逮捕されてしまった。

 火星人の追跡から逃れることは不可能だったのである。


「意味がわからない」


「彼らが動いたって、ゲリラかテロリストにしかなれないのにな」


 火星人たちの理解は得られなかった。


「彼らを動かしているのは、理想に糊塗された暴力衝動であり、破壊願望でしょう」


 人造人間たちはそう結論した。

 あるいは、反抗期の少年にありがちな心境だったかもしれない。


 これは、良くない影響をもたらした。


 アジア主義者たちの暴走を、付け入る隙と判断しないわけがない。

 なので、日本と国交のある国、日本人の出入りする国では――


「日本人への接触は以前にも増して繰り返されるようになりました。皆様も、他国へお出かけになる際はくれぐれも……」


 と、ラジオやテレビジョンを通じて注意せねばならなかった。


 そもそも、日本人を拉致して利用せんとする勢力は多かったのである。


 しかし、火星人の技術力を恐れて接触に留まっていた。

 そこにきて、アジア主義者の行為。


「火星人の統治も完全ではない……」


 こう判断したのも無理はなかったかもしれない。


 完全な独裁が可能でありながら、犯罪行為を除き、日本は奔放な空気にあった。

 火星人の指導を受け、法律を守るなら、大抵のことは放置されていたのである。


 令和で言えばポルノ小説や成年コミック、アダルトビデオに位置するものが溢れていた。

 生身の人間の演ずるポルノは、相応の規制があったが――


 逆にいわゆる二次元のものは完全に野放し。

 世の婦人や道徳家の眉を顰めさせるものは後を絶たない。


「このようなものは断固取り締まるべきです!!」


 そういう声が出てくるのも、自然と言えば自然ではあった。


 しかし。


「所詮創作で、空想だろ?」


「性教育については日々バージョンアップさせているから」


 火星人はあくまで放置していたのである。








応援してくださる皆さま、本当にありがとうございます!!





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 火星人の言ってることに間違いはないが、彼らは合理的に生きすぎてる。 地球人は理性と感情の両方で生きている。火星人はこれについて研究する必要があるな。
[一言] 亜細亜(特亜?)に逝きたいなら逝かせればいいんじゃね?もちろん国籍剥奪で二度と戻れなくすれば
[一言] よし火星人きた! ほんと海外は修羅の地獄……
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