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第二十五回  宣伝







 日本国内では、『試験運用』により厭戦的言論も出るようになった。

 しかし、それはあくまで日本の内だけのことである。


 世界では相変わらず血が流れ、弾薬が飛び交っていた。


 ソ連は中国共産党への支援をさらに強め、また欧米、アジアと活動を続ける。

 例外は日本と台湾くらいであった。


 中国大陸は流れのまま、欧米対ソ連の代理戦争の舞台と化していく。

 災難なのは被害を受ける地元住民だった。


 もっとも。


 その地元中国人も様々な扇動を受けて、反欧米の戦闘に参加していたが。



 こういった海を挟んだ向こう側の惨状に対して。

 日本の領海内上空には絶えず宇宙軍艦が浮かび、警備の円盤が飛び交っている。


 不法侵入する外国船もまだまだあった。

 ほとんどは警告されて逃げ出し、あるいは無視して塵と化すのだが。


「戦争が近いのかもしれない――」


 人造人間のユカリは八太郎に語っていた。


「となると、相手国は…………」


「今のところ可能性が高いのはアメリカかイギリスだけど」



 そして。


 兵器製造のため工場型円盤では、新たな兵器が建造されたのである。

 地球人の技術ではクリアせねばならないことを、一足飛びでクリア可能だからたまらぬ。


『領海防衛用機動兵器・一目連』


 メディアの見出しでは、そのようになっていた。


 一目連とは、民間信仰で伝わる暴風・台風の神だ。


「その名前にふさわしい活躍をすると思うよ」


 日本海上空の円盤にて発表が行われ、外国人記者も多く参加している。

 この席で、火星人はそう語っていた。


 やがて衆目のものとなった一目連であるが――


 見たまま、巨大な人型兵器だった。

 武器らしいものは持っていないが、


「手のひら、腰部、口部などに、ビーム兵器を内蔵しているよ」


「それはそうですが……」


 記者は困惑していた。

 まず上げられるのは、その巨大さである。二十メートル近い威容を誇っているのだ。


 続いての特徴なのだが……。


「足がないぞ?」


「え? ……ホントだ!」


 空中に浮遊する巨大な人型は、足のない姿なのだった。


「自由な飛行能力を有しているからね。そもそも、宇宙空間での併用を考慮されている」


 まあ、そういうことらしかった。


「それでは、これより試験を開始します」


 司会の人造人間の声と共に、会場の大型スクリーンが切り替わった。


 海上では、巨大な軍艦が待機している。

 巨大な砲門を備えた要塞のごとき船だった。


 火星人のそれと比較しなければ、十分に脅威であり圧力となりうる代物。

 そんなものが、十隻以上動いている。


 しかも、全てが機械による全自動なのであった。


(羨ましい……)


 アジアからの出席者たちは、虚しい羨望の視線を送らざるえなかった。

 自分たちにも、こんな軍事力があれば欧米の下で苦渋することもなかったろう、と。


 ちなみに、欧米からの直接的な関係者は出席していない。

 もっとも、情報提供者としてのつながりを持つ人間はけっこういた。


 やがて、模擬戦が始まる。


 軍艦から無数の砲弾が雨のように一目連へと降り注いだ。

 しかし、それらは全て不可視のシールドによって弾き返されている。


 おまけに、一目連は動く。


 流れるような自然な動きで、空中を泳いでいくのだった。

 そうなると、命中率も格段に下がってしまう。


 軍艦の動きも変わり出す。

 戦艦に続いて、空母が動き出したのだった。


 次々とジェット戦闘機が空へと舞い上がっていく。

 これもこの時代からすれば、未来兵器の部類と言えるだろう。

 しかし、この高速飛行兵器も一目連に近づくことはできなかった。


 一目連が攻撃に移ったからである。


 手から、腰部から、口から、光の矢が連続して放たれた。

 ビームは正確に砲弾や戦闘機をとらえていき、爆散させていく。


 圧倒的に見えた兵器群が、玩具としか思えなくなる。

 そういう光景だった。


 やがて、標的は軍艦へも移っていく。

 鉄の守りを、ビームは容易く貫き、一瞬にして消し飛ばしていった。


 地球の力であれば、一隻を建造するのにどれだけの金と人と時間が必要か。

 それも、火星人からすればカカシにすぎないのだ。


 全ての軍艦が没するのに、大して時間はかからなかった。


「――以上で、試験を終了します」


 司会の声にも、出席者はしばし声を上げれずにいる。

 その胸中に渦巻くものは、恐怖であり、感嘆であり、羨望であり、憧憬。


(こんなものを簡単に作れる相手なのか……)


 恐るべき存在だとはわかっているつもりだった。

 何しろ、人類にとって未知の場所である宇宙を自由に行き来できるのだから。


 だが、しかし。


 実際に武力としてその力を見せられては、また変わってくる。

 そして、次に火星人が発した言葉はさらに震撼させるものだった。


「現在、これで同型機を十機建造している。必要であれば、さらに増やす」


 一機だけでも、戦略的なものだった。


 それが、普通の兵器と同じく大量生産が可能である。

 管理と維持、運用が可能なわけである。


(無理だ……)


 出席者は色んな意味でそう思った。


 こんなものを自分たちは作ることはできないし、維持も運用もできない。

 敵対するということは、破滅にしかつながらないのだ。


 この発表の後、アジア各国の大使は先を競って火星人へ接触を開始している。

 その中には、中華民国や大韓共和国の人間もいたが――全て、お断りされた。


「将来というか、現状で敵対者でしかないのに、支援するわけがないじゃないか」


 そういうことだった。

 また、欧米各国でも、何とか関係を修復しようとする向きもある。


 しかし、そういった意向に反してあちこちでまたもデモが起こっていた。


 反日であり反火星人のデモである。

 火星人を描いた絵や人形が燃やされ、ほとんど暴徒と化したデモ隊が吠えていた。

 それは、火星人の『宣伝』に対する過剰反応であろうか。

 拒否反応とも言える。


「火星人と敵対して、勝てる見込みなどまずありえません!」


 研究者など識者の多くは、現状について政府へ意見している。

 そんなことは、政治家だってわかってはいるのだ。いるのだが。


「火星人の存在は、聖書の教えに反する悪魔の罠です」


 そんなことをのたまうキリスト教団体が、欧米で誕生していた。


「悪魔は偽りの力で我々を欺き、惑わそうとしています!」


 パンフレットなどを配りながら、街頭で布教する団体。

 類似したものは、欧州でも見かけられた。


 どうにもできない、天災のごとき存在に対して――


 白人たちがすがったものは、神だったわけである。


 それらの団体は、


「どうか火星の悪魔を、打ち払いたまえ」


 火星人調伏の祈りを日夜神に捧げているのだった。

 祈り――それはむしろ、呪いというべきものだったかもしれない。


 少しずつ、参加者は増えていく。

 火星人から見ると、それは原始的な儀式に没頭する野人の集団としか映らなかった。


「意味不明だ」


「溺れる者は藁をもつかむという言葉がありますよ」


「死ぬよ。それは」


「まあ本能というか反射的な行動なんでしょう」


 火星人は人造人間たちとそんな会話を交わしている。

 欧米諸国は右往左往していた。


 しかし、火星人ばかりを気にしていられる状況ではない。

 特に、中国の満洲では共産党を始めとするテロ組織との戦闘が続く。


「うまく火星人の助力を得られれば、これらを駆逐できる」


 と、軍からそういった要望も出ていた。

 もちろん、本当にそうなれば、そうであろう。


 しかし、人型ロボット問題でこじれた悪感情はどうにもできなかった。


 そのために国内では白人と有色人種の問題が噴き出ている。

 刺激され、過激化した白人とそれに反発する有色人種。

 特に黒人は、アジアを目指す者が増え出していた。


 アジアは火星人との関係が続いている。

 そこから、日本への亡命を試みようというわけだった。

 だが、政府もその動きはある程度察知している。


 みすみす、そんなことをさせるわけがなかった。


 アメリカでは、有色人種の国外移動を禁止する州も出始める。

 血なまぐさい風は、まだまだやみそうにない。






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― 新着の感想 ―
[一言] 宇宙空間で使用しているロボット、ジオングみたいですね。 それにしても、アメリカの白人連中、戦後とか何十年か後に問題になりそうですな。 続きを楽しみにしております
[一言] >『了解防衛用機動兵器・一目連』 了解 領海でしょうか
[気になる点] 読んでて 「防衛用機動兵器一目連」は ジオングの姿が頭に浮かんだ~f(^^;
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