第二十四回 試験
https://ncode.syosetu.com/n4800gn/1/
新連載始めました。
こっちと違ってノリはとにかく軽いです。その分更新速めです。
どうぞよろしく。
彼らはとにかく怨み、呪っていた。
突然現れ、自分たちを敵性民族と称して、日本から追い出した火星人。
朝鮮に無理やり祖国に戻されてみれば、
「半日本人!」
と、蔑視され、仕事どころか食料さえ満足に得られない。
完全な最下層階級に押し込められ、日々緩慢な死を待っているだけ。
何かあれば、
「スパイだ!」
と難癖をつけられてリンチされてしまう。
そうやって死んだ者は数限りない。
言ってみれば、日本に見立てられ、嬲り殺しになる白犬と同じようなものだった。
上を押さえつけているアメリカ人も頼りにならない。
朝鮮人同士の諍いにはまったく関与してこないのだ。
たまに誰彼構わず殴りつけ、連行していくのみである。
「あいつらさえ来なければ……」
そうすれば、自分たちはまだ日本人でいられたのに。
こんな惨めな暮らしをしなくってすんだのに。
だが、いくら恨んだところで、それで小石一つ動かせるわけではない。
できることは、日々を生きていくために泥水をすすることだけだった。
生きるというより、辛うじて死なないようにしているにすぎない。
どんどん仲間は死んでいくが、あまり減ることもなかった。
ほぼ定期的に、
「親日派!」
と、レッテルを張られて自分たちのレベルまで転がり落ちるものがいるからだ。
そうやって、生贄を作りながら誤魔化している社会。
かと思えばソ連と関わっていた人間が、アメリカ人に去勢手術を強要される。
逆らえばその場で射殺されたり……はまだ運が良いほうで――
ひとつ間違えば、むごたらしい拷問系が待っているのだ。
例えば生きたまま皮をはがされる。
しゃべれないよう口を縫い合わされる。
肛門に火薬を詰めて火をつけられる。
上げればきりがない。
かつて黒人奴隷に行われた拷問が、ここで復活。
朝鮮人に牙をむいているのだった。
激動と言うべきか、殺伐と言うべきか。
血で血で洗うアジアの動向は、当然日本国内にも伝わっている。
各メディアの他、タイなど親日国からもだ。
「日本もそのうち参戦するのでしょうかな」
街中で、そんな話がされることも多くなっている。
「まあ、日本というか火星人が、ですよ」
「彼らはまあ日本以外の国には無関心ですからねえ」
「最近大学の教授だったかが、分厚い意見書を提出したそうですが」
「ほう」
「まあ、意見を述べるだけなら我々でもできますがね」
「窓口はいくらでもあるわけで」
そうなのだった。
火星人は支配者と言い状、あちこちをうろついている。
そして、火星人はどれもみんなネットワークでつながっているのだから、
「まあ、そこらにいる者へ延々話したって届くには届くわけですが……」
実際にそうやって火星人相手に弁論を繰り広げる識者も多い。
現実問題、それがどの程度火星人を動かせるかは怪しかったが。
しかし、それらがある種ガス抜きになって、意識の高いインテリ層を満足させる。
「火星人を弁論で打ち負かした!」
という錯覚で満足するわけだ。
しかし、錯覚は所詮錯覚である。
現状を何も変えることはできないのだった。
また、軍を自主退役した元・将校たちはいわゆる右翼青年を集めて、日々持論を展開するということもしている。
「アジアの苦境を、このまま黙ってみてよいのか?」
そういう論が多かった。
日本は確かに豊かになった。食うに困らない。徴兵されることもない。
「だが、アジアの同胞たちは欧米列強の侵略により、今も血を流している」
もちろん、それはニュースでも伝わってきていた。
中国大陸では、日々戦闘が続いている。
現状の日本に自分の居場所を見いだせない者たちは正義を語り、欧米打倒を語った。
ある資産家の退役軍人は、
「青少年健全育成」
という題目を掲げて、私塾を作ったりしていた。
塾というよりは、小規模な疑似軍隊である。
といっても、銃火器も刀剣類も厳重に規制されている現状。
模型の銃や木刀でそれらしくするのが関の山であった。
そして、アジアを憂う青年たちを軍事訓練させるわけだが――
「まあ、ぶっちゃけて、金のかかった戦争ごっこですよ」
現役の軍人たちは鼻で笑っている。
「やっとる訓練も明治大正のかび臭いもんです。あんなもん、いくらやったところで、実戦で使えりゃしません」
とはいえ、その戦争ごっこを歓迎する向きもなくはなかった。
主に、中高年層ではあったが。
「近頃、若者は徴兵がなくなったと喜び、堕落する一方である。日清日露を戦った先達たちの教えを受け継ぎ、大和男児の精神を鍛えるべし」
と、というわけである。
「むしろ、学校教育にこれを反映してこそ、たくましい青少年と育つなり」
上から命令する分には心地良いかもしれないが、やられるほうはたまったものではない。
他にも、従軍経験者からも賛同は一部上がっているのだった。
これは、むしろ自分の苦労・苦痛を下にも味あわせたいという願望であろう。
「うーーーん……?」
世間の諸々は、施設で暮らしている八太郎も知るところだった。
(まあ、自分が知ったところでどうこうもできないんだけど……)
あれこれ民間の新聞を読み比べてみると――
(けっこう賛同者はいる、のかなあ?)
「実際どう対応しているんでしょう?」
気になった八太郎は、教師も勤めているユカリに質問してみた。
「そのうちにおさまるわよ」
ユカリは極めてどうでもよいという態度であった。
「でも、賛同者も……」
「そういう人間は命令する立場を欲しているだけで、自分が一兵卒になるということを、ほぼ考慮してないの」
「いや、そりゃあまあ普通若い人間が徴兵されますから」
「肉体の衰えなども考慮してね。でも、火星人の技術力なら十分に補えるものよ」
「と、言いますと」
「六十過ぎの老人でも、兵士として使えるようにできるということ。だから、試験運用として一時的な徴兵を行うことに決まりました」
そして。
実際その通りになったわけだが、これは日本国民に衝撃を与えた。
何しろ、三十代、四十代どころではない。
試験と銘打っているとはいえ、六十代の老人までも徴兵である。
しかも身分に関わらず、一兵士としての徴兵。
元政治家であろうと官僚であろうと、財閥の長であろうと無関係であった。
拒否したり逃亡を図った場合は強制的に連行される。
「まあ、実際に戦地に送られるなんてありえないけど」
ユカリはそのように言って笑い、事実そうであった。
また、圧倒的な医学力によって、老人だろうとみんな健康である。
それに、厳しいながらも軍事訓練はみんな、
(手心……)
が、加えられていたのである。
これによって死亡者が出るということは皆無だった。
しかしながら、精神的な部分では一概にそうは言えない。
「ウジ虫ども」
「クソ以下の存在」
「皇国の寄生虫ども」
「口からクソを垂れるクズ」
とにかく、地べたを這い回り、汗まみれ、泥まみれになる。
老人だろうと知識階級だろうと容赦はなかった。
また元の社会的立場を盾にした言動も徹底的にやられる。
「俺はこんなことをするような人間じゃない!」
と嘆いて、脱走したり、反抗する人間も多く出た。
しかし、そういった不始末は全て家にも報告されてしまう。
そういった人間は、家に帰った後が悲劇であった。
家庭内、社会での立場は著しく低下する。
逆に徴兵経験のある人間は、理不尽ないじめや体罰がないだけ、
「かえって緩く感じた」
と語る者も多かった。
勝手な体罰を行う人間は、容赦なく己自身が懲罰されるからである。
この試験によって、国内の好戦的言論は大きく減じることとなった。
前線に送られることが、他人事ではなくなったせいであろう。
人間は、勝手なものだなあと、八太郎は後に嘆息する。
よろしければ、ブクマ・評価ポイントの他、感想やご意見などお願いします。
今後の展開の参考にと考えておりますれば。




