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第二十二回  困惑


夏バテで執筆速度が落ち、かなり手間取ってしまいました。

そんなこんなですが、第二十二回です。





「では、また次の診察で。お薬をきちんと飲んでね」


「はい」


 八太郎たちの住む施設には、学校にも寮内にも保健室がある。

 どちらにもドローンや人造人間の医師が待機しており、何かあれば治療を行った。


 また、精神面などで不安を抱える子供のカウンセリングも行っている。


 といっても、人間がやるような長いものではない。

 脳内の動きを機械的にスキャンするところが大きかった。


 さらに、精神障害などにも、対応した薬がある。

 医師の指示を守って服用していれば、大抵のものが治るのだ。


 さきほど、保健室から出た少年のそのような一人。


「あれ、鈴木じゃないか」


 保健室から出ていく少年を見て、八太郎は立ち止まる。


 鈴木は八太郎の後に入ってきた少年で、無口で暗かった。


「あいつ、どっか悪いのかな?」


「知らんのか、あいつは脳みその薬をもらっておるんじゃ」


 答えるのは中村健吉少年である。


 脳みそ? と、八太郎はいささかギョッとする。


「あいつは前の大地震でえらい目にあったらしゅうてのう。ウマトラがでけたそうな」


「う、馬虎うまとら?」


 八太郎は面食らう。

 ウマとシカなら馬鹿だが、初めて聞く用語だった。


「何でも、ひどい目にあったりすると心にできる傷じゃとか聞いたぞ?」


「……そりゃ、トラウマじゃないか?」


「おお、ほうじゃった。はっつぁんは物知りじゃのう!」


 トラウマ。いわゆる心的外傷である。

 そして、大地震とはいわゆる関東大震災のことだろう。


 八太郎のあの時にひどい目にあい、浮浪児になった身の上だ。

 共感も同情もする。


 適切な投薬や治療も効果もあり――


 鈴木少年はその後回復して、日常生活も問題なく送れるようになった。

 悪夢にうなされるということもない。

 嫌な思い出ではあるが、過去のこととして消化できたわけである。


 鈴木少年はその後、手記で震災のことを書いたりしていた。



 それによると。


 震災が起こる以前はネズミが度々発生して、捕獲に捕らえられたそうだ。

 一つに四十匹近く捕れたこともある。

 また、九月に入ったというのに、非常に高温だったという。


 震災の時は、風とも雷鳴ともつかない音が聞こえた。


 そして、地震が起こったのである。

 地震の後、あちこちで火災が発生して、大勢の人間が焼け出された。


 この時鈴木少年はある商家で働いていたそうだ。


 店の主人や奥さんと一緒に川に逃げこみ、命拾いをしたのだが。

 運悪くというか、その奥さんが妊婦だった。

 その上、川の中で産気づくという始末。


 ところが、偶然産婆も逃げ込んできて、川の中で出産という珍事。

 それもどうにかなり、やれやれと思った後だった。


 鈴木少年は何か足元に違和感を覚えたのである。

 驚いたことに、少年は一晩中死体の上に乗っていたそうだ。


「後にも先にも、あんな驚いたことはない」


 と、彼は後々も度々語っている。


 震災の爪跡も、すでに消え去っているわけだが、心の中は別だった。



 ――。



 その頃、アメリカでは科学者のグループが火星人と再交渉するよう政府に求めていた。


「火星人の技術力から学べるものは無限にあります。短慮な断交などするべきではない」


 この意見も、政府としてはよくわかる。

 だが、万事相手のあることだから、そう簡単にはいかない。

 度重なるデモで、火星人はさっさと米国から去ってしまった。 


「民主主義の勝利!」


 と無邪気に喜んでいる者はいいが、そうはいかない者も多い。


 日本に行けないということは、火星人の医療を受けられないということだ。

 このことから、不満や不安を表明する人間も多く出た。


『国交の修復を!』


 そんなプラカードを掲げたデモ隊も出てくるほどである。

 しかし、そこへ別のデモ隊が襲撃を駆けるという有様。


「人間は人間の医者にかかれ!」


「医者にかかりたかったら、働け!」


 と、罵りながら投石をしたり、棒で殴ったりと凄まじいものだった。


 また、こういった論調を支持する新聞や有識者も多い。

 ある意味火星人はなめられていたのだ。


「文明人である我々には、火星人も気を使っている」


 そういう思い込みというか認識が薄く広く欧米にはあったのである。


 領海侵犯したアジアの難民が船ごと沈められているのに。

 所詮有色人種のことと、無視しているのが現状。


 ただ。


 アメリカ政府としても、火星人との断交を望んだわけではない。

 抗議デモなどを放置気味だったのも、ある種のプレッシャーとして考えていたわけだ。

 まさか、こうもあっさり向こうが関係を断つとは予想外であった。


「何とか火星人と交渉できないものだろうか」


 幾度も協議を重ねるが、有効打は思いつかない。

 が、何とかもう一度という欲は消えなかった。


 好景気というか、安定している日本市場も、良い貿易先だった。

 定期的に往来していた円盤によって、高速の輸出入ができたのも大きい。


「何とか我が国の優秀さをアピールして、交渉にこぎつけたいものだ」


 大統領は会議の席で何度も繰り返していた。


「そもそも何故火星人は日本にこだわるんだ?」


 まず、その疑問が出てくる。

 火星人が保護している理由もわからない。


「日本人には何か特性があるのではないか」


「報告によると、日本では多産が推奨されていた。火星人は日本人を増やしてどうするつもりなのだ? 何が目的だ?」


「ならば、日本人について生物学的に調べる必要性が……」


 その後――アメリカで日系人が消息不明となる事件が多発した。


 事件とは言えないかもしれない。

 新聞で騒がれることも、警察が捜査することもなかったからだ。


 ただの失踪として、片づけられてそのままであった。

 これが、後の歴史でアメリカの恥部として残ることになるのだが――


 それを知る者はまだいない。



 欧米とのつながりが消えていく一方で、アジア圏ではまだ国交が続いていた。

 中国・大韓共和国をのぞいてだが。


 欧米はこのルートを通じて再び交渉しようと活動を開始する。

 留学経験を持つ人材が日本に訪れるが、あまり役には立たなかった。


 そも、各地ではまだ日本へのバッシングやデモが続いている。


「仲良くしましょうってどの口が言うんだい?」


 そうかと思うと、イギリスはある提案をアジア経由で持ちかける。


「日本人の管理は欧米が連合となって行おう」


 要するに自分たちで日本を支配するから、協力してくれという主張だった。


 これに対して火星人は、


「君たちはアホか?」


 ハッキリとそう明言して追い返した。

 このニュースは日本国内はもちろん、欧米にも飛び交っていく。


「火星人には人間の心がわからない」


 欧米の論調はこんなところである。


 進歩的文明人である自分たち白人を何故受け入れないのか。

 思い込みで凝り固まった頭は不思議がるばかりだった。


「我々の意欲と優秀さを見せれば、火星人も認めるに違いない」


 そういう思考だったわけである。


 だが、現実は国交は断たれ、技術を学ぶこともできなくなった。


 元から、火星人と地球人では技術力に差がありまする。

 根本を学ぶためには、長い時間を要すると科学者たちも認めるところだった。



 そんな中、まだ建設されて間もない大韓共和国では――


「韓米、そして火星人の連合による日本への進駐」


 という提案がアメリカになされた。


 つまりは、


「大韓、アメリカ、火星人で日本を支配しようじゃないか」


 そういうことである。


 もちろん、アメリカには利益がない。

 そもそも大韓共和国はアメリカ式の民主主義を浸透するため、忙しい段階。

 いわばまだかえって間もない雛鳥ひなどりみたいなものである。 


 それがいきなり、獲物をとるための飛ぼうというわけだった。


「何を考えているんだ?」


 アメリカは火星人に困惑する間もなく、朝鮮人に困惑していた。


 共和国では、ひたらす民主主義、民主国家が祭り上げられ、


「民主政治を行っている我々はアメリカに次ぐ国家で、アジア上位である」


 と勇ましくなっていた。


 そんな反面、まだまだ国内は貧しく、混乱も続いていたのだが。



 しかし、夢と希望だけは膨らんでいるのだった。








少しでもお楽しみいただけたら、ポイントやご意見・ご感想などお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 概ね日本人は幸せに暮らしていること [一言] >「日本人の管理は欧米が連合となって行おう」  要するに自分たちで日本を支配するから、協力してくれという主張だった。 この理屈とも言え…
[一言] 昔だったら意味不明なデモ隊をネタとして笑えてたんでしょうが、アンテ◯フ◯とかB◯Mとかポリコレとかマスゴミの偏見報道見ると、人間って自分の信じたいものしかみれないんやなって。
[良い点] 更に"ワケわからない"感が増えてきましたね。 宇宙人にたいして、作中の日本人でもよく分からないが、 海外から見ればもっとよく分からない。 だから、自分自身が持つ常識などを元に考え方を推…
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