第二十一回 波紋
メイン連載のほうで、ちょっと手を取られておりました。
こちらのほうも是非によろしくお願いいたします!
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そのことが、欧米で問題となり発火したのは、春も後半の頃であった。
あるビジネスマンが、商用のために日本に訪れ、滞在していたところ――
「なんだ、あれは……?」
その光景を見て、ビジネスマンは目を疑った。
東京は銀座にある百貨店で、使用人を連れた婦人が買い物をしていただけなのだが、
婦人に連れ立っていたメイドらしき女性は、金髪に青い眼。
いわゆる欧米人に見える姿をしていた。
しかし、実際に欧米人だったわけではない。
それに近い容姿をした人型ロボットだった。
人造人間と区別するため、ロボット用のヘッドデバイスを装着している。
最近開発され、世に出回り出したタイプ。
これは、一定の税金を納めた納税者が受け取れる一種の還付として品物。
高額納税者を対象にしたものだから、どれもこれも贅沢品。
その中に、新型のメイド用ロボットがあったのである。
基本設計はみな共通しているが、声、姿、大きさなどは使用者が好きに決められる。
自分好みの美女を、メイドとして使えるわけだ。
もちろん、実在の人間に似せて作ることは許可されていないが。
フランス人形が好きだったその婦人は、それをモデルにしてメイドロボを注文した。
と、いうわけ。
他にも、宇宙都市の土地権利とか、外国旅行のパックなどもあった。
それはさておき。
ビジネスマンを通して、そのことは欧米に伝わったのである。
伝わってしまったのだ。
「なんで有色人種が、白人を従えているんだ!?」
白人優位を絶対する考えの強くなった欧米では、火の手が上がった。
「いや、これはロボットだから。人形みたいなもんだよ」
と、火星人が説明したのだが、
「いくら機械でも、白人が有色人種にひれ伏すなんて許せない!」
「神の秩序に対する冒涜だ!!」
と、騒ぎ出した。
「火星人はただちにこれをやめさせろ!」
「最低でも、白人モデルを使うな!!」
これは、火星人には意味不明な行動だった。
ただの機械であり、道具に過ぎないものに何故そこまで? と。
しかし、当の欧米人にすれば、自分で国を管理できない劣等人種が、機械とはいえ白人の姿をした者を従えるなど、我慢ならないことだった。
あちこちで反日本人のデモや演説が繰り返され、
「今後改まらないようなら、貴国の関係も憂慮せねばならない」
と、火星人に向けて警告した。
これに対する返答は、
「わかった。じゃあ、ここまでだ」
そして。
欧米の各地から、火星人の円盤は引き揚げ始めた。
大使館として機能していた円盤も、迅速な手続きを経て退去。
これに欧米人は驚いた。
「我々との関係を本当に断ち切るつもりか!?」
「貴国は世界中を敵に回すことになりますぞ!」
などと、半分恫喝の抗議を繰り出す。
ちなみに、彼らにとって世界とは欧米のことだ。
「? 敵? 付き合いをやめるだけで戦争をする気はないよ」
そうなったところで、負けることはあり得ない。
火星人はそのように考えていたが、さすがに口には出さなかった。
ある意味、空気を読んだとも言える。
このため、日本に住む欧米人はあわてて帰国する羽目になってしまう。
日本と商売関係にあった人々は大いに困った。
貿易などの観点から、まさかいきなり鎖国のようなことをするとは予想外。
といっても。
火星人の技術は、最初から貿易などなくても資源を確保できる。
むしろ――日本は資源を売る側だから、日本企業のほうが困った。
だが、火星人の決定には逆らえない。
財閥が政治に与える影響力はゼロではないが、恐ろしく小さくなっている。
有害と判断すれば、どんな財閥でも容赦はされないのだ。
そう、財閥、企業である。
実は欧米が沸騰した原因の一つには、日本企業が原因となっていた。
火星人の統治下、いくつかの企業は火星人と交渉して、ある勝利を得ている。
それは、火星人に大資金を投じて、工場の注文をしたことだ。
高品質の製品が製造できる、完全無人工場である。
その運転には火星人に頼らざる得ないが、商品の原型は企業が行ったもの。
一般的な工員を使ったのでは、コストに合わない製品。
量産の困難な商品。
それらが、無人工場なら常時量産できる。
もちろん工場の建設、運転、管理はタダではない。相応の代金を取られた。
そして、逃げられない税金が来る。
だが、そうしたものを払っても、十分な利益が会社にもたらされたのだ。
アメリカに負けない大量製造である。
これによって、財閥は世界の市場に乗り出して、大きな富を成していた。
が、それはつまり。
欧米からの怨みを買うことにもつながっていた。
そして、例の人型ロボット問題である。
あちこちで日本製品の破壊や、商店への襲撃が相次いだ。
なので、火星人はさっさと許可を得て海外で働く日本人を連れ戻している。
この迅速な対応によって、被害は微少だった。
「……これでは、会社がつぶれます!」
いくつもの企業が、火星人に陳情していた。
火星人の返答は――
「人員削減でもすれば? 再就職はこっちで世話するから」
だった。
その通りではあった。
確かに、まだまだ宇宙都市の建設は途上段階。
宇宙移民も随時募集中であった。
今の日本、食いっぱぐれるという心配はまずない。
最近では訓練期間を経てから、在宅勤務も選択できる。
「会社そのものがつぶれるんです!」
「つぶれたって、いいじゃない。君たちの仕事も保障するよ」
そうなのだ。
別に企業がつぶれても、火星人の世話になれば仕事は得られる。
当然、今までのような利益というか給料は無理だが。
こうして。
日本国内では、元・企業の重役や経営者が落ちぶれる現象が続発。
しかし、それはあくまで企業の一部。
国内市場で動いていたところは、影響は微少であった。
ほとんどの国民は平穏なままである。
困った点は、海外への留学ができなくなったことだろう。
欧米での学問ができない。
それを嘆く人も多かった。
ここから見直され出したのは、アジア方面である。
特に社会や歴史の学徒たち。
彼らは文化人類学的な興味から、アジア圏の実地調査を始めた。
また、宗教面でも。
タイやチベットなどへ、仏僧たちが留学するということも起き始める。
同じ仏教でも国での違いは無数にあった。
そこを比較研究開始したわけである。
日本で民話や伝説の採集をしていたある民俗学者も、アジアを巡り出していた。
各国に伝わる民話・伝承を採取して、考察する。
こうしたことから、日本ではちょっとしたブームが起こってきた。
また。
それ以前から、人造人間やドローンなどに民話や文化の調査や採集は行われていた。
こうした分野は、八太郎の未来記憶も参考にされている。
火星人の援助もあり、在野の研究家たちがこぞって腕を振るい出した。
のんきといえばのんきである。
欧米のデモや批判もニュースで全国に伝わっているが、
「毛唐どもがなんか言ってやがる」
と、反応は冷ややかなものだった。
これが不況や飢餓があれば好戦的になったかもしれない。
しかし、企業の倒産はあっても一般国民は生活が保障されている。
また、未知の開拓地である宇宙への関心が高かった。
火星人や人造人間が収集して発表したデータにより、
「他国を開拓発展させることは困難……」
だと、いう認識が広まっていた。
さらには大韓共和国や中華民国の反日運動もあり、中華への幻想は薄まっている。
それでもなお、思想や幻想を捨てきれない人間はいたが、少数派であり、孤立していた。
これは、アジアからの帰化した人間が多くなったことも手伝っていた。
良くも悪くも、日本人とは違うという事実に気づいたのであろう。
ちなみに。
アジアからの帰化人は、高額納税者となり、欧米人型メイドロボをもらうのが夢だとか。
欧米人たちの反応もある意味ではごく自然なものだったかもしれない。
ペースが落ちてしまいましたが、それでも何とかやっていきます。
不定期更新でも良いと思われる方、どうか気長にのんびりお付き合いくださいませ。




