第十七回 記者
更新です。ちょっとづつですが、進んでいきます。
「とにかく好奇心と創造力、童心をくすぐられる」
そのようにアメリカの某新聞記者は友人への手紙に書いている。
火星人統治の始まってからしばらくは行動を制限されていたが――
最近になり日米の国交が再開され、彼も仕事ができるようになった。
とはいえ、現状ではまだゆるゆるとしたものである。
多くの国は出入りが制限され、国交があっても入国できない人種があるのだ。
日本国内のニュースを見る限り、何度撃沈されても密入国を目論む船は絶えない。
色々無責任な噂が絶えないためだ。
記者も火星人に何度か取材しているが、わからないことばかりだった。
野蛮な日本人を管理するためだと欧米では言われている。
まあ、ある意味それはあっているのだろう。
しかしながら、野蛮という点では他のアジア人も、白人さえも同じなのではないか。
時折記者はそんなことを思うのだった。
(けど、そんな記事を書いてもどうせボツだろうなあ……)
日本では色々制限もあるが、いいこともたくさんあった。
まず挙げられるのは、トイレが清潔で快適なことだろうか。
火星人式のトイレは臭いもなく、常に清潔で気分よく用をたせるので最高だ。
取材してみると、それが受けいれられる大きな要因の一つにもなっている。
ちなみに、農家などではよく使用されていた人糞肥料が禁止されていた。
これは寄生虫などの原因となるためだと説明されている。
しかし、やめろと言われてもじゃあ、代わりの肥料はどうするんだとなるわけだが。
火星人は農家に必要量の合成肥料を配布することと代わりとした。
使い方を説明するドローンや人造人間なども同時に派遣。
これにて、どうにかことなきを得ていた。
またある農村では一気に機械化されているケースもあるわけである。
これは、小作人が離散してしまい、やむなくというわけだ。
『旧弊的な日本農村を改革した火星人』
記者はそんなタイトルで記事を書いたこともある。
一応国交がある――それのメリットとしてアメリカと日本を定期的に行き来する円盤。
許可を得た人間はそれに乗って日本に来ることもできる。
記者もそれに乗って来日したわけだが、その速度と快適さは比較できるものがなかった。
「まさに神々の乗り物だと思った」
家族への手紙にはそのように書いている。
他にもドローンが通訳をしてくれるので、どこでも困らないということだった。
東京がすっかり未来都市のごとく変わっていく様子を連日撮影している。
アメリカでも、火星人の円盤に乗りたいと熱望する声も多かった。
また火星人の進んだ技術……特に医療を求める人々も数多い。
何しろ治療不可能な病気が事実上ゼロとなっているのだ。
色んな国に中型円盤が滞在しており、見物人も多かった。
治療のために日本に来たがる、あるいは火星人に治療を求める人間が大勢押しかける。
しかし、火星人は特殊な事情がない限り治療を施すことはなかった。
だから日本行きの円盤は常に満員である。
病気だけではなく、手足の欠損や失明などの障害も治療可能なわけだから、押しかけないというほうがおかしい。
いざ治療となれば、それはすぐに終わり、確実に治癒される。
チケットは抽選式で、その前に入国しても問題ない人物かどうか審査された。
工作員の類は全てそこで排除されてしまうわけだ。
ある国はあまりにも工作員が多いので、国交そのものが打ち切られたほどである。
また入国できない人種もあり、日本へ行くために自分の来歴を捏造する者もいた。
それらも全てバレてしまうわけだが。
記者もチケットを取得する際、バレてつまみ出された中国系を見ていた。
一度国にいる中華系などが日本大使館の近くでデモを起こしかけたこともある。
日本人と同じアジア人なのに、何故自分たちを排除するのだ――と。
もっともな話ではあった。
何しろ黒人でさえ、手続きや審査を通ればあっさり入国できるのだ。
日本に行った黒人は日本に移住しようと本気で考えるほどだという。
また同じアジアでも、タイやフィリピンなど他の国は大丈夫なのである。
不満に思わないほうがおかしい。
だが、アメリカでのデモは即座に警察に鎮圧されてしまった。
下手に揉めれば、白人含む他の人種も日本に入国できなくなる。
それを恐れたためだろう。
上層にいる白人たちからすれば、
「何で中国人のために俺たちが損をしなければならないんだ」
というわけであろう。
まあ、日本に来てもうまくもぐりこんで生活というの甘い考えだった。
火星人の科学力により即見つかり、強制送還となるのが関の山だ。
一度そうなれば二度と来日はできない。許可がおりなくなるからである。
だから、来日した外国人はみんなトラブルを避けて生活していた。
記者も取材をスムーズに行うため、できるだけそうしている。
先日は、円盤に乗って宇宙都市に取材へ行った。
地球と月の間に浮かぶ都市型円盤である。
東京以上の未来都市……まだまだ試験段階という感じだったが、学校から何から山や川まで存在するのには驚いた。
まるで神の作った巨大な箱庭のようなものである。
都市の中央には巨大なビルディングが並び、住宅地にはモダンな家々が。
空気は山の奥みたいに清浄で心地よかった。
ただ、肝心の住民はまだまだ少数のようである。
移住者がそれほど集まらないということだった。
とはいえ、このような都市型円盤はすでに六十を超えているそうだ。
日本の人口からすると、むしろ国民の数が圧倒的に足りないのである。
「このようなものを日本だけに限定するのは惜しい。他国から移住者を募って、国際的な都市
を建設してはどうだろうか?」
と、取材したついでに記者はそのような提案をしてみた。
「それも選択肢には入っているよ。ただ現状は日本人の宇宙生活者を増やすことを目的としているんだ。みんなまだまだ宇宙に不慣れだからね」
火星人はそのように答えた。
確かに街にいるのは住民というよりも、軍人が主である。
みんな訓練と学習をしながら、宇宙に慣れるために励んでいるようだった。
「とはいえ、何日か滞在してみましたが、ここは地球とまるで変わりません。むしろ地球より快適かもしれない」
「まあ、地球上と違って全てがこちらの制御下にあるからねえ」
「あなたがたの技術は全くもって素晴らしい。その技術を我々にもご教授願えないものか」
「残念ながら、そのような予定はない」
「それは何故でしょう。日本人には様々なことを与えているが、他国との交流は極めて低調なものになっている。これは大きな損失だと思います」
「んー」
そこで火星人は何か考えるような声を出した。
玩具のような外見ながら、火星人の感情はよくわからない。表情がないのだ。
「前々から何度も同じ答えを出しているんだが……。どうして君たちと交流をしなければならないのか、わからない」
「それは様々な文化や技術が……」
「科学力からして、君たちに学ぶものは何もないよ。それに、文化といってもね」
火星人は不思議そうな声を出して、記者を見ていた。
「他国との交流は、日本人からの要望もあってやっている部分が大きい。それに君たちは自分たちこそ地球の代表みたいなものだという顔をしているが、僕らかすると君たちはあくまで、一部地方の勢力に過ぎないんだよ。影響力を与えている地域は多いが、それらを統治制御しているというにはちょっとお粗末だ」
何とも辛辣な言葉である。
「君らの言う交流を行ったとしても、僕らが一方的に援助する形になるのは同じ。いや日本のような直接統治ができないのなら、野生動物へ無意味に餌をやるようなものだよ」
世界を牽引している白人種を動物扱いだった。
もっとも、人間からするといくら種類が違ってもネズミはネズミのようなものか。
正直記者個人としても屈辱ではあったが、圧倒的な科学力を考えれば沈黙するしかない。
「それでは、あなたがたの本来やりたいことは、かつて日本のサムライがやっていたような、鎖国だというのですか?」
「似たようなものかもしれないね」
「…………」
これを、本国に同記事として送ればいいのだろうか。記者はひどく悩まされた。
馬鹿正直に書けば、どんな問題になるのかわかったものではない。
来日した欧米人の中には――
自分たちが黒人やアジア人と同列に扱われ、屈辱に思う者も多かった。
「俺たちは白人だ!」
と、主張しても、
「だから何? 外国人であることは同じでしょ」
火星人も、人造人間も同じ態度だった。
特に人造人間は白人とよく似た特徴や名前の個体もいるので余計にこじれる。
「アンドロイドに白人型が多いのは、火星人が我々を美しいと認めている証拠」
「いや、連中は我々を奴隷扱いして、アジア人より下に置いているのだ」
知識人の間では、こんな論争が繰り広げられているようだった。
とはいえ、人造人間の姿などいくら議論し合って意味などない。
彼らもその中身は火星人同様に理解しきれないものだったからだ。
日本人は、
「そういうものだ」
と割り切ってしまっているが、外部から見る欧米人はそういかなかった。
そうなると、色んな不都合を誤魔化すように、日本人野蛮説がやたらに語られる。
実際は、ほぼ相手にされていないのだけなのだが――
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