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第十五回  施設


いつの間にかポイントが1000を超えていました……!


これもひとえに応援してくださる皆さまのおかげです。

ありがとうございました!!





 大陸で満洲を中心に波乱が起きている頃――



 八太郎はそれまでいた円盤から、別の都市型船に移されることとなった。

 東京湾の上空にあるその大型円盤船内部は、一つの都市のようになっている。

 そこには、集められた浮浪児や孤児たちが住む養護施設があった。


 八太郎も表の立場としては一介の孤児である。


 その都市にも学校が建設され、子供らの入学準備が進められていた。


(まるで未来都市だなあ……)


 令和時代を知る八太郎からしても、そこは新鮮な驚きに満ちていた。

 上を見れば空が映し出され、開放感が感じられるものだ。

 まだ都市内にいる人間は孤児だけのようだった。

 他には全て火星人と人造人間である。


 八太郎は施設の寮内に案内され、荷物を整理することとなった。

 寮の部屋は全て個室で、けっこう狭い。家具類はすべて収納一体型。

 それでも明るく清潔な造りで、快適ではある。


「後で他の子に紹介するから、一休みしているといいわ」


 案内してくれたユカリはそう言い残して去る。

 八太郎はヤレヤレと座り込み、寝転がった。

 するとすぐにコンコンとドアがノックされる。


「はいはい?」


 開いてみると、見慣れぬ少女が立っていた。

 いや、つけているヘッドデバイスを見るに人造人間であろう。


「どなた?」


「わたし、人造人間のスミ。はじめまして」


「ははあ」


 いわゆるツインテールをして、赤い眼に褐色の肌であった。


「あなたにアイデアの相談に来たわけよ」


 と、スミは部屋に入って座り込んでしまった。


「アイデア?」


「そう。君は未来の知識とか、この時代にない感覚を持っているでしょう?」


「はあ、まあ……」


「だから、それを利用して新しいビジネスをできないか、とね。うまくいったら、その利益のいくらをあなたのものにするよ」


「ふーん。アイデアねえ……。しかし、何故自分に……」


「さあ? 上から――火星人からの命令だし。あなたには保護命令も出てるし」


「保護ねえ……」


 やはり、今の状況が転生特典とでもいうものなのだろうか?


 八太郎は考え込むが、答えなど出るはずもない。

 とくかく、うまくいければ金銭が入るらしいことはありがたかった。


「参考までに何か知りたいことは?」


「そうですなあ……。ああ、そういえば満洲はどうなってますか? アメリカ軍とやり合っておるようですが……?」


「現状を見るに、完全な支配は難しいんじゃないかな。今はおとなしくても、いずれは独立を叫び出す可能性が高いでしょうねえ?」


「なるほど。それで戦争になる危険は日本にないんですか?」


「今のところアジアはノータッチだから? 上の方針はどんどん宇宙に領域を広げることね。地球圏のことには、日本以外には関係なし」


「それですむかなあ……?」


「今のところは不法侵入しようとする連中が増えたくらいだねえ。ま、そいつらは全部処理が

できてるから大丈夫だよ」


「処理ってつまりその……」


「まあ、船ごと撃沈? みたいな」


「そ、それは……」


 この手の難民が色々な意味で厄介なのは八太郎も知ってはいるが、さすがに容赦なく船ごと沈めるというのは抵抗があった。うっすらわかってはいたことではあるけど。

 中には、子供だっていることは予想できるのに。


「かといって、いちいち送り返してたからきりがないよ? 下手に扱うと調子に乗って次から次に押し寄せるだろうし……」


「……うーーん」


 スミのシビアな返答に八太郎は何も言い貸せなかった。

 現状、彼が何を言っても所詮きれいごとでしかないのだ。


「ま、撃沈にこりて密入国者が減るといいけど」


 そんなことが期待できるのだろうか、と八太郎は疑問に思う。


「で、何かアイデアはない? 前に模型を販売するって良いネタが出たじゃない」


「ははあ……」


 どうやら、火星人は八太郎のアイデア成功に気を良くしたものらしい。

 彼らに、人間のような感情があるかどうかはわからないけれど。


「それなら、野菜工場みたいなものができませんかね?」


 八太郎は現在の食糧事情について、色々考えるところもなくはなかった。

 火星人の合成食品は味も栄養も問題ないのだが、現状では主食にはなりきれない。

 聞いた話では、やはり米などの通常食品を恋しがる人も多いと聞いた。


「なるほど。より日本人の食性に適した食品、というわけか。しかし、野菜なんかをいちいちこさえるとなったら、合成みたいなわけにはいかんわねえ」


「無理ですか?」


「いや、できるよ。多少手間がかかるだけ」


 スミは笑って首を振る。コストなどの心配はまったくいらないのだった。


「よろしい。アイデアはいただいた。じゃ、また!」


 そう言うとスミはあわただしく部屋を出て行ってしまった。


「なんだったんだ……」


 八太郎はしばし部屋で呆然としていたが、しばらくするとノックがあった。


「はい?」


 スミが忘れ物でもしたのだろうか? と、八太郎は首をひねる。

 人造人間にそれはないと思われるのだが……。


 開けてみると、見知らぬ少年が部屋の前に立っているではないか。

 今度は人造人間ではなさそうだった。

 いかにもこの昭和らしい雰囲気の少年である。年齢は八太郎と同じくらいか。


「どなた?」


「お前、新入りかのう?」


「かのう?」


 聞き慣れない方言らしきものに、八郎は首をひねった。


「わしゃ、隣の部屋におる中村じゃ」


「ああ、おとなりさん」


「ほうよ。何か引っ越しみたいじゃけえ、そうかのうと思ようたんじゃ」


 中村少年はガハハとちょっと品のない笑いをしたが、逆に嫌味がない。


「まあ、入って茶でも……っと。お湯がなかったかな。確か給湯所が……」


 八太郎は手にしたポットを手に、頭を掻いた。

 入ってきた時に、それらしきものを見た記憶があったのだ。


「案内したる。ついてこいや」


 そういうわけで中村少年に先導され、無事お湯を入手できた。

 いれるのはインスタントの粉末レモンティーである。


「まあ、いっぱい」


「すまんのう。いけん、お茶菓子でも持ってくるわい」


「いやあ、大丈夫。もらったものがあるから」


 と、八太郎は引っ越しの時にもらった菓子の袋を開けた。


 一見すると、ポテトチップスとしか見えないもの。

 しかし、聞くところによれば、これはポテトチップス風合成食品らしい。

 味も触感も本物そっくりだが、食物繊維をベースにできている。

 極めて低カロリーであり、便通も良くなるという優れものだそうだ。


「おう、ポテチか。しかものり塩じゃ。わしゃこれが好きなんよ」


「そりゃ良かったって……。中村くん」


「くんづけなんぞされるとけつの穴がかゆうなるわい。中村でええけえ」


「ほんじゃあ中村、君もポテチを知ってる?」


「寮の購買で買えるんよ」


「ああ、そういうのもあったけど。お金は……」


「おう、新入りじゃけえわからんか。寮のポイント口座で買えるんじゃ」


「何それ?」


「わしもようわからんけど、ここに入ったもんにはみんな口座ができるんよ。それにポイントいうもんがあってな。それで買い物ができるんじゃ」


 どうやら、施設内だけで使える通貨のようなものらしい。


 なるほど……と、思った八太郎は部屋にある端末でアクセスをしてみた。

 すると、人工音声が応えてきたものである。


<こちらは管制人工知能です。山田八太郎くん、質問をどうぞ>


「ポイント口座について知りたいんですが……」


<それは当施設内で使われる一種の電子通貨です。預かっている子供に与えられるお小遣いのようなものと思ってください。それで娯楽用品などが購入できます。また筆記用具など学習に必要なものや、生活必需品は全て支給となりますのでご安心を>


「ははあ、なるほど。親切なもんスなあ?」


<他人の口座からポイントを引き出すことはできません。他人にあげることももらうことも、できません。恐喝・暴力行為には罰則が与えられます。ご注意を>


「人からものを脅し取ったりしようとしたら、仕置があるんじゃ。殴られんけど、きついけえ」気をつけんといけんよ


 と、中村少年は神妙な顔で忠告をしてきた。


「そんなことはせんと思うけど……。しかし、罰はどんなことに?」


「ポイントを取り上げられたり、校庭を何周も走らされるんよ。誤魔化そうとしても無駄じゃけえねえ。おとろしいよ」


 どうやら、施設の生活もそれなりに厳しいようである。

 この時代は、令和と比べると色々な意味でバイオレンスだから罰則者も多いのだろう。







お気に入っていただけたら、何とぞブクマや評価ポイントをお願いします。

足跡がわりに1ポイントでも大変ありがたいです。



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