第十二回 軍拡
前回よりは若干早く投稿できました。
「ともかく、火星人に交渉してみよう」
青年は酔って寝てしまった父を置いて、火星人とコンタクトを取る。
そのへんを飛ぶドローンから連絡できるので、やること自体は簡単だ。
「このままでは村から人がいなくなる。何とかならんでしょうか」
「宇宙移民は個人の自由だから、無理に止めることはできない」
火星人の返事はそっけないものだった。
しかし、その程度は青年も予想していたことである。
「このまま、うちの農地は管理しきれません。このご時世で人もいませんし。何とかならないものでしょうか?」
青年がそう言って喰いつくと、
「それならば、有償だけれど専用の機械やドローンを貸す用意があるよ」
「ははあ……。つまり、農業用の機械兵を、ですか」
「機械兵もあるけど。色々ある。もう一度言うがタダではない」
「もう少し詳しいお話を……」
「よろしい」
火星人がすぐさま、立体映像で様々な機械を紹介してきた。
草刈りや肥料、農薬散布を始めとした諸作業をこなすドローン。
人間以上に器用に働く農業用の機械兵や、大型の耕運機。
どれも青年には未知のものだが、実際に動くところを見ると納得するしかない。
驚くような速さと正確さで農作業をこなしていき、しかも完全に自動で動く。
「こ、こんなすごいものを貸していただけるんですか?」
「そうだよ」
「確かにこれなら人はいりませんが……。お高いんでしょ?」
「そうだね。人件費より安くもならないかな。だが、人間よりも少数でできる」
「こういったものがあるのなら、他にも農業全体に関して助言がもらえると助かります」
「なるほど。そういうドローンや人造人間もあるよ」
「おお、それは嬉しい!」
こういうわけで、人手不足による危機はどうにか回避できた。
ただし、火星人の機械で補った場合、当然小作料を取ることはできない。
やはり今までのようなわけにはいかないのだった。
ただ、火星人によってもたらされた品種改良されたものも得られたわけである。
(ひとまず、田畑は維持できるけれども、これから先どうしたものか……)
父は酒ばかり飲むようになっていたので、家のことは青年の肩にのしかかる。
このまま大規模農家としてやっていくこともできるが、まだ予断を許さなかった。
桜の季節を待ちながら、全国の農地ですったもんだが起こっている頃――
「軍備の増強が必要だと思う」
「ええ?」
八太郎は火星人のつぶやきを聞くこととなったのである。
「ただでさえ過剰戦力なのに、これ以上軍拡を進めるというのかい?」
物騒な言葉に、八太郎は心臓を嫌な意味でドキドキさせてしまう。
「うん。アジアやソ連などのこともあるから、特に日本海の防備を固める必要がある」
「では、ひょっとして今の戦力では心もとないのかい?」
「いや、現状の機械兵宇宙船だけでも地球人類の軍隊には百%負けない」
「それだったわざわざ軍拡なんぞしなくっても……」
「万全に万全を期すのは、良いことだよ。特に我々にはコストがほぼかからない」
「……はあ、それでいつやるんだね」
「すでに半分は終わっているわよ?」
そう声をかけてきたのは、人造人間のユカリであった。
「月面近くで建造していたものが、たった今到着したところよ。見る?」
「ええ!? はあ、それは。はい……」
空中に映された画面には、何やら苦無のような形状のものが映っている。
苦無――時代劇に登場する忍者がよく持っているあの道具だ。
戦艦の先端は鋭くとがった鋭角状であり、後方部には円盤型の部位がある。
「とりあえず、目玉というか主力とするための戦艦・大和よ」
「やまと……」
歴史とか軍事に詳しくない八太郎でも知っている戦艦と同じ名前だった。
「サイズは全長二十キロメートルほどある」
「ぎょっ!?」
火星人の説明に、八太郎は思わず不気味なうめきを漏らしてしまった。
映像ではあまり実感がわかなかったが、信じられない巨大さである。
「まあ、これほど大きいものを造る必要はなかったかもしれないが、示威行動にはなる」
「というか、世界人類がぶっ魂消ると思うけど……!?」
実際八太郎の言う通りだった。
空を飛ぶだけで人の目に留まり、注目される。
もちろん無用の混乱を避けるために事前に報道はされていたが――
『全長二十キロの超巨大空中戦艦』
各所で写真や映像が映され、人々を驚かせた。
さらには、日本が所有していた既存の軍艦を全て改造するとも知らされる。
その先駆けとして、大和と同時に開発されていた駆逐艦も空に舞うことに。
暁。
日露戦争で使用・撃沈された駆逐艦と同名のものだった。
大和よりもずっと小型であるのだが、
「全長は1kmほどだね」
と、火星人の言葉。
「こんなものをたくさん造ったらさぞかし……」
「だから、コストはかからないって。まあ大和級だと多少時間はかかるけど。それでも駆逐艦ぐらいならすぐに建造できるわ。というか、もうしてるし」
ユカリの何気ない言葉。
やはり、火星人は人間の常識ではかれる相手ではなかった。
軍艦も全て自在に浮遊できるので、浮いているだけ一個の基地にもなりえる。
駆逐艦の装備だけでも、一都市を楽々壊滅できるものだった。
「一応仮想敵はアメリカとしているよ。まあ、現状なら宇宙から狙撃すれば事足りるけどね。備えておいて損はないだろう」
「まさか、アメリカを征服でもする気なのかい!?」
八太郎の声に、火星人は小さな手を振って否定。
「それこそ、まさか。意味もないし、興味もない。まあ、なったら丸ごと殲滅するだけだから実質陸戦兵器はいらないなあ。自然環境への若干影響もあるだろうが」
恐ろしいことを聞いてしまったと、今さらのように八太郎は青くなる。
「そんなことがないように願うよ……」
戦争になれば、勝負にすらなるまい。一方的な虐殺が起こるだけだ。
「でも、聞いた話ならやっぱり過剰軍備じゃないかなあ……」
「しかし、今までの装備はどれも本格的な戦闘を想定したものじゃないからね。やはり相応の軍備を用意しておくのが正しいと思うよ」
「ううん……」
八太郎は納得しきれなかったが、それでもまさか武器を全て捨てろとも言えない。
現状でも領海への侵犯や不法入国しようとする国はちょくちょくあるようだ。
それらは全て追い払われるか、撃滅されているが。
なのに、戦争だの何だのにはなっていない。
文句を言えるほどの国力もないか、さほどのことと思っていないのか。
アジア圏ならば前者だし、欧米などは中国への進出で忙しい。
特にアメリカは、鉄道関係で満洲に大きく食い込んでいるようだった。
イギリスをはじめとする欧州各国も蠢動している模様である。
満洲に特殊な経済圏を作り上げようとしているのだった。
もっとも、それに日本はほとんど関わっていない。
入出国なども現状は大きく制限されているからだろう。
それでも火星人の監視……否、保護のもと徐々に経済活動も活発化している。
通信状況がガラリと変わっているし、日本人ならば火星人の乗り物を使えるわけだ。
空を自在に駆けるそれは、世界でも注目されていた。
これが各国でも使えるようになれば、それこそ世界中を自由に飛び回れるだろう。
事実、そのように商売を試みている企業もいくつかあるようだ。
それはそれとして。
「アメリカ相手では必要ないとはいえ、全然ないというのはいけない」
火星人はそんなことを言って、陸戦兵器も製造をしていた。
その中で主力というか、基本武装となるのは……やはり機械兵であろう。
人間と同等以上に動き、戦える人型兵器であり、量産体制も整っている。
今までのものをさらに改良して、本格的な軍事用の機械兵がお披露目となった。
それをきっかけに、今まで機械兵と呼称されていたその兵器に、名前が決まる。
目一箇。
日本神話に登場する一つ目の神格からとった名称だった。
目一箇は陸戦型をはじめ海戦型。空戦型を中心にして製造されることとなる。
他にも、用途に合わせた土木作業用。農業型。警察用。他にも医療型、軽作業型。
今まで以上にこのロボットが増えることとなった。
東京では、大和のお披露目と共に、目一箇のパレードなども行われたのである。
さて、そんな動きの中で、八太郎はある提案をしてみたのだった。
「もうちょっと、こう。庶民にもアピールできるようなことをすべきでは?」
口ではそんなように言っているけれど、内心は趣味的なものが強かったのだが。
八太郎の提案と言うのは、新造された兵器軍の模型製作及び販売である。
彼の頭にあったのは、前世で見知っていたロボットアニメのプラモデルだった。
火星人の技術なら、もっと良い素材で出来の良いものが商品化できるだろう。
「ほう。兵器の模型ねえ? なるほど」
火星人は八太郎のほぼ益体もない話をうんうんと聞いていたが、
「わかった。やってみるから、協力してほしい」
「え、何をすればいいんだい?」
「なに、実際に組み立ててみたり、感想を聞かせてくれればいい。すぐにやるから」
こういうわけで、本当にすぐ事態は動いてしまったのである。
やがて、八太郎の前に紙製の箱が置かれることとなった……。
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