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第一回  拉致


こんな小説が読んでみたい! と、思いましたがなかったので、実験的に書いてみました。

過度な期待はせずにふわっと読んでくださいませ。





 昭和元年十二月――



 しんしんと雪の降り始めた寒い夜だった。


(もうそろそろダメかもしれんなあ……)


 そんなことを考えながら山田八太郎は東京の街をあてもなくさまよっていた。


 数えで十三歳になる彼には、人に言えない秘密がある。

 それは、前世の記憶があるということだった。


 前世の彼は、はるか未来の令和という時代に生きるごく凡庸な男。

 大した悪事も善事もしないで生きていたが、不況の煽りで職を失う。

 その上に運悪くたちの良くない病気にかかり、にっちもさっちも行かなくなった。


「もはやこれまで……」


 災難をどう切り抜けようという知恵もわかないまま、衝動的に自殺してしまったのだ。



 その後――



 気づけば白い部屋で、奇妙な少女と対峙していた。

 転生して十年以上たつ今でも記憶は鮮明だ。


 ツインテールにした銀髪に、ろうのように白い肌。ゾッとするような非人間的な美貌。

 瞳は赤く、猫のような縦長の瞳孔が輝いていた。


 思えば、あれが神というものだったのだろうか、と八太郎は何度も思い返している。


「お前を転生させる」


 銀の少女は鈴を転がすような美声でそう宣言した。


「はあ。チートはもらえるんでしょうか?」


 夢かうつつか曖昧だった八太郎は、そんなことを言ったように思う。


「しかるべき時にお前のものになるさ。では、いけ」


 少女の言葉が終わると同時に、八太郎の視界は真っ黒に染まった。



 それから。



 八太郎は大正時代の日本に生まれ変わってしまったのである。


 場所は茨城県の水戸市。

 家は、どうということのない小作農家だった。


 自分の境遇を知った時には、軽く絶望をしたものである。

 何しろ学校や勉強どころか飯も満足に食えるか怪しい生活。

 生かせるほどの知識や技術もなかった八太郎は、少しませた子供だと思われただけ。


 どうしたものかと思っているうちに、父親は病気であっさり他界。

 ドタバタした結果、母は実家に出戻り。八太郎は東京の親類に預けられた。

 というか、実質厄介者として追い払われたようなものである。

 その証拠と言うべきか、東京に行った後母から連絡は全くなかった。


 親類の家では虐待されたわけでもないが、優しくされたわけでもない。

 商家だったので、体のいい丁稚奉公みたいなものである。


 だが、日々の生活に汲々(きゅうきゅう)としていた八太郎は忘れていた。


 この時代に東京で起こるある災害を――



 大正十二年九月一日。


 いわゆる関東大震災が発生した。



 これによって親類の家は倒壊。気づけば一家離散のありさま。

 放り出された八太郎は東京をさまよい、そのまま浮浪児となってしまった。


 散々な環境下で過ごしたが、不思議と体を壊すこともなく、どうにか生存。

 かといって、未来に希望の見いだせない身の上であった。


(ひょっとして……前世のこともみんな自分の妄想ではなかろうか?)


 夜の東京を一人うろつきながら、八太郎はそんな思いに駆られる。

 妄想だとしたら、ずいぶん入り組んだものだ。


 あの少女が言ったチートとやらも手に入った様子はない。

 もしかすると、病気をしない無駄な健康体がそれであろうか?

 元号も昭和と変わったばかりの世の中は、不況である。

 歴史通りなら、いずれは世界大戦に突入だ。


「あああ……。まいったなあ」


 いつの間にか人気のない野原に来ていた八太郎は、何とも言えぬ気分でつぶやく。


 と、その時。


 不意に八太郎の体が浮き上がった。

 何事かと思っていると、どんどん地面が遠くなり、夜景を上空から見ることに。


「こりゃあ、どうしたこったい!?」


 思わず叫ぶと同時に、八太郎は白い光に包まれる。


「あ」


 気づいた時には、八太郎は奇妙な空間にいた。


 真っ白な天井や壁の広い部屋。

 床から盛り上がっているベッドのような場所に八太郎は寝かされている。

 灯りらしきものはないのに、部屋は昼間のように明るかった。


「う……!」


 横を向いて、八太郎はギョッとして身をすくめた。

 そこには、何ともはや奇妙なモノが浮かんでいたからだ。


 何というか、まるで何かのマスコット人形か玩具みたいな形である。

 前世というか令和風に言うなら、ゆるキャラか?

 形は鶏卵にそっくりで、色はごく薄い緑。猫くらいの大きさ。

 小さな手足がはえ、目のようなつぶらな丸が二つ前面についている。


 そういう姿のものが、部屋の中に複数浮かんでいるのだ。


(夢か?)


 思わず頬に触れると、つねるまでもなく感触がハッキリと感じる。


「気がついたかな?」


 緑の卵は、子供とも女ともつかない声で話しかけてきた。


「あんた、誰……?」


「ふむ。それに対する返答は……『我々は宇宙人だ』」


「ええっ!?」


 八太郎は唖然として、目の前に浮かぶ卵を凝視した。


「宇宙人って、つまり、そのその宇宙から来た?」


「そうだな。正確には、火星圏からやってきたんだ」


「火星って……」


 降ってわいたような非現実的な出来事に、八太郎はうめくばかり。


(まさか、昭和の時代かと思ったら宇宙戦争? でも、卵みたいな形だし、タコには似てないよなあ? いや、触手とかが伸びるとか?)


 混乱するが、ともかくそうなのだと納得するしかない。


 少なくとも、今は。


「その、俺をどうやって、ここまで?」


「不可視状態にして、空中から乗り物に連れ込んだ。君にわかりやすい言葉で言うとUFOの中に入れた」


「ゆーふぉー?」


 この時代にそんな言葉があったのだろうか? と八太郎は悩む。


「君の記憶をいくらか調べさせてもらった。意思疎通を円滑に進めたいのでね」


 と、火星人は説明した。


「……そ、それで。あんたらが火星人というのは……」


「火星圏にもいるというだけで、別に火星の出身ではないな」


「じゃ、じゃあどこから?」


「どこでもない」


「は?」


「正確には、この宇宙のどこでもないということ。違う宇宙から来た」


(それじゃあ、この場合ひょっとして異世界……人になるのか?)


 八太郎は首をひねる。


「い、一体何しに?」


「命令を受けてきたんだ」


「はあ……」


「まずは、対象を見つけて保護すること。そのための準備をしておくこと」


「ふーむ……。ん?」


 もしや? と、八太郎は顔を上げた。


「保護対象と言うのは、君だ。そして、君から得た情報を元に今後の行動を決めた」


「そ、それは一体……。待った、その前に命令をしたのって……」


「我々の製作者に関する情報は入力されていない。ただ命令だけを受けて来た」


「いやいや、ちょっと……。それで納得するとか……」


「人間なら疑問に思うかもしれないが、我々は思わない。そういう生き物だから」


「はあ……」


 そういう生き物、というのならば納得するしかないのだろうか?


「我々は生物ではあるが、ある意味機械に近い。専用の増殖機でいくらでも量産できるんだ。それに、全ての個体がネットワークでつながっている」


「な、なんと……」


 まるでSFに出てくるエイリアンのようだった。


「そ、それで……これからどうするつもりなんだい?」


 八太郎は恐る恐る尋ねてみた。


「うん。君の記憶や、今までの調査で得たデータにより答えを出した」


「その答えは……?」


「まずこの国を占領する」


「な、何ですと!?」


 どこかで予想していた回答ではあったが、それでも八太郎は仰天した。


「冗談じゃない! 戦争になるぞ」


「心配ご無用。そういうことが完全にできないまま終わらせる準備がある」


「し、しかし……」


「正面から戦争になったとしても、戦いにはならないだろうな。残念ながら技術の差は絶望的なものだよ。あ、日本人から見ての話だけど」


「日本を占領して、どうするつもりなんだ?! まさか、奴隷か食料とか……」


「我々は生物のような食事はとらないし、労働力は作業機械で十分だ」


「なら、何のために……」


「これはある意味、日本と日本人のためなんだ。我々が管理して統治するほうがより良い発展そして繁殖が可能だからね」







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