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買い食いをしよう1

 ある日のフリーダブ。

 部室は一人を除き、全員が各々自由に過ごしていた。

 そしてフリーダブ員の最後の一人である進がフリーダブに足を運んだ。


「こん(扉を開ける)にち(扉を閉める)わー(最高の笑顔で帰る)」 

「ワンフレーズの間に帰ろうとしない!」


 帰ろうとする進を楓、あるいは美夜佳が捕まえ、部室に引き戻すのが定番となったこの頃。

 今回も楓に引きづられ、部室に戻される。


「我が友! 今日は我とトランプで遊ぶぞ!」

「その前に、写真を一枚。それかお金になりそうな情報を」

「進君、今日も猥談をしない?」


 部員達は進に詰め寄っていく。

 毎回不服そうにしている進だが、今日はいつも以上に顕著に現れていた。


「皆さん。一度離れてください。あと部長はどさくさに紛れて抱きつかないでください」


 皆が一定の距離を離れた所で進は文句をつける。


「毎回毎回いい加減にしてください。星川、前回も前々回仕方なくしただろ。高宮先輩、僕から承諾を得ようとしてますけど、勝手に撮った写真を売ってるの知ってますからね。早乙女先輩、猥談はしません。たまにするから良さがあるんです。最後に部長、僕の話聞いてましたか。離れてください」

「なぜ私だけ進入禁止エリアが広いの?」


 と言いつつも素直に皆よりも三歩離れる楓であった。


「誰か一人でも昨日のこと覚えてますか?」

「我が友と真剣衰弱をして楽しかった!」

「そういうことじゃない。次」

「鎖骨とうなじ、どちらがエロいかについて議論が白熱したよね」

「有意義な時間でしたが違います。次」

「昨日撮った進君の写真が高く売れたことかしら」

「とうとう白状しましたね。ですが違います。次」

「静流から買った進君の写真で私のお小遣いがピンチ」

「知らないですし、いりませんそんな情報」

「ふぁ~、うるさいぞ。一体何をやってるんだ?」


 布団から顔を出した仁美は進の目視すると、不思議そうな顔を浮かべる。


「なんだ、今日はすぐに帰るんじゃなかったのか? 週に一度は無条件で帰れる約束だろ」


 しばし無言の時間が流れると部員達はハッとし、顔を見合わせた。


「ということです。なので僕は帰りますから」

「いやいや、それはおかしいじゃないか」

「我が友素直じゃないなー」


 やれやれといった様子で、ため息を漏らしながら嬉しそうにしている楓と美夜佳。

 顔には出さないものの、そんな二人の姿にイラッときている進は聞き返す。


「素直じゃないってどういうこと? 僕は心から帰りたいんだけど」

「嘘をつかなくてもいい。すぐに帰りたいのならわざわざ部室に寄る必要はない」

「つまり我が友は帰ると言いながらも、本当は我達にかまってほしいのだろ?」

「「このツンデレさんめ!」」


 仲良く人差し指で額を小突いた刹那、イラつきメーターが貯まった進は二人の人差し指を的確に捕らえ、そのまま二人に向くように折り曲げ始めた。


「痛い痛い痛い痛い!」

「我が友! 我の指にそこまでの可動領域はないぞ!」


 美夜佳の訴えむなしく二人の限界に挑戦する進。

 ようやくスッキリしたところで二人の手を離す。


「これに懲りたらすぐに調子に乗るのをやめるように。それで本題に戻りますが、昨日のことを最後まで思い出してください」


 進の言葉で千百合と静流の二人はすぐに昨日のことを鮮明に思い出す。

 しかし、最も思い出すべき二人は未だに思い出せていないようで、思い出した組は苦笑いを浮かべながら答え合わせを始めた。


「たしか進君が週一で帰る許可を先生が言い渡した瞬間よね」

「うん。二人が歳を考えずにドン引きするぐらい泣き喚きながら床を転がっていたね」

「いやいやでしたけど、最終的に一瞬でも顔を出すことで手を打った、はずなんですけどね」


 鋭い目つきで二人を睨むが、下手な口笛を吹きながら明後日の方角に二人は顔を背ける。


「でもまぁ、これで約束通り済ませたんで、僕はもう帰ります」

「待て進君! 少し話し合おうじゃないか」

「すこしぐらいいいだろ我が友!」


 二人の抵抗むなしく進は扉に手を伸ばす。

 それに加えて他の三人からの追い打ちをかけられる。


「二人共、こればっかりは無理よ」

「今回は坂本君の言い分が正しいし」

「顧問として、約束は守らないとな。これ以上部に縛り付けるわけにもいかない。だから今日は諦めろ」


 この言葉で二人は悔しそうに唸る。

 ようやく帰宅できることに心から喜ぶ進。

 だがその横で、楓は悪戯な笑みをこぼした。


「わかった、今回は年上の身として進君の自由にしてあげよう。仕方ない」


 何故か上から目線で偉そうにする楓に、衝動的に右手が上がりそうになるが、すぐに帰れるのだからと右手に込めた力をゆっくりと抜く。


「では、ありがたく帰らせて━━」

「おっと、忘れていた。今日は活動する内容がない! これは困った。でも無理してやる必要はないからな」

(毎回ネタ切れというか、そもそもネタがない部活内容なのに、今更なんでそんなことを━━)


 進の思考がある最悪な結論を弾き出すのにかかった時間はわずか0.5秒。

 さらに反射的に体は動き、扉を開け用とするまでにかかった時間はさらに縮んで0.1秒。

 まさに電光石火にふさわしい反応速度。

 誰もが進の逃走を確信してもおかしくはなかった。

 しかし、扉の開閉は何者かの手によって阻まれる。

 それは楓の言葉の意図を誰よりも先に読み取った美夜佳であった。

 同じ反応速度であれば、必然的に早く気がついた方が勝つ。

 今回は美夜佳に軍配が上がる結果となった。


「その手を離せ星川!」

「嫌だ!」


 美夜佳との攻防しているうちに楓はある宣言を言い放つ。


「ならば今日は部活は休みとしよう。そしてみんなで帰りに何か食べに行こう! というわけで、一緒に帰ろうか進君」

「僕、帰りたいんですけど」

「だから帰ってもいいぞ? 私達も一緒に帰って何か買い食いをしようじゃないか」

「わぁお、坂本君が今までで一番嫌そうな顔してる」

「そりゃなりますよ。定時で帰えれたのにその後飲み会に強制参加させられたと同じですからね」

「おいやめろ坂本。その例え話は社会人の私に深く刺さる」


 進が不満を漏らすが、それでも楓の意思は変わらない。


「たまには一緒に帰るのもいいじゃないか。私達は同じ部の仲間であり、友達だからな…… 進君、なんだその悲しそうな目は。静流はなぜ口元を押さえてるんだ? 千百合、こっちを見ろ。美夜佳、なぜ首を傾げてるんだ?」


 結局まだ寝る仁美が最後の戸締りをするとのことで、この日進達は楓の言う通りに帰ることにし、昇降口に集まる。


「楽しみだなー! どこ寄ろうか」

「我誰かと買い食いするどころか、こうして一緒に帰るのは小学校以来!」

「奇遇だな! 私もだ!」


 ボッチ二人組の後ろに三人は悲しそうな目でついていく。


「ふふっ、何を食べようか。有名なコーヒーショップがいいか。一度注文してみたかったんだ」


 と、言いながら校門を出て右に曲がった楓。

 そして左へ曲がるその他。


「待て」


 すぐさま戻って全員を引き止める。


「どうしたんです部長」

「私、帰り道、あっち」

「そうなんですか。それじゃあここで。部長との寄り道楽しかったです」

「寄り道する余裕すらなかったよ! だからバイバイしないで! おかしいよ! なんで出てすぐお別れなの!?」

「それはその土地に家を建てた親に言ってください」

「私も友達と寄り道したい! 買い食いしたい!」


 またしても駄々をこね始める上級生に蔑む視線を送る進。


「部長、分かります。我も夢でしたから。だから、部長もこっちに行きましょう」

「……いいの? 帰り道反対方向なのに、一緒に寄り道していいの?」

「もちろんです」


 二人の友情が芽生える感動的なシーンを目の当たりにした進、千百合、静流の三名は同じ感情を抱いた。


(((寄り道って、なんだっけ?)))

読んでくださりありがとうございます

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