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初対面4

「そんなこともあったわねー」

「まさか初対面で写真を売りつけられるとは思ってませんでしたよ」

「その時はごめんなさい。お詫びに二割引で売ってあげるから」

「だから買わないです」

「我が友もパケモンをやっているのか!?」

「え? あぁ、まぁ」

「我もやってるぞ! あのゲームはいい! 図鑑埋めが楽しいからな! ……まぁ、我では未来永劫図鑑が完成することはないと分かってはいるんだがな」

(進化……通信交換……ボッ━━)


 あるワードが脳裏をよぎるが、美夜佳の虚な目を見た進はそっと頭の中からけした。


「次は星川さんのエピソードね」

「そうだ! 次は我だった!」


 自分の番が回ってきたことで虚な目が輝きを取り戻す。


「さぁ我が友よ! 我との運命的なあの日をとくと語るのだ!」

「美夜佳ちゃんの言動の割に、進君は嫌そうな顔をしてるけど」

「何故だ我が友!?」

「いや、部長と引けを取らないくらいに面倒くさかったからさ」

「そんなことない!」


 否定する美夜佳に仕方なしといった様子の進。


「じゃあその時のこと話させてもらう。どちらにしろ離さなきゃ帰れないし」



 撮影会の次の日。

 またしても部室の前にいる進は部室の扉に手をかけていた。


「誰もいるな誰もいるな誰もいるな誰もいるな」


 死んだ目でぶつぶつと呟きながら扉を開ける。

 残念なことに部室にはソファーにも座らず、扉に背を向けている少女一人。


「クックックッ、よくぞ来た。貴様を待っていた」


 手を大きく広げながらセミロングの黒髪を揺らして振り向く。

 大きな瞳と白い肌が特徴的な少女は、十字架やコウモリのキーホルダーをぶら下げ、ところどころに同じシリーズらしきバッジを制服につけている。

 そんな少女は自信に満ちた顔で進を出迎えた。


「フフッ、我が同胞よ! この時をどれだけ待ち望んでいたか! さぁ、祝おうではないか!(翻訳:わーい! 同級生だ! ずーっと待ってたんだよ! 早く中に入って!)」


 言い終えたと同時に扉が二人の間を遮った。


「よし誰もいなかったから帰ろう!」


 清々しい顔つきの進は全て見なかったことにして足早に逃走する。


「ま、まっで〜!」


 しかし閉じた扉が勢いよく開かれると先ほどの少女が飛び出し、進の背中を追いかけた。


「なんで帰るのー! 部員でしょー!  待っで━━あっ」


 半泣きの少女は何もないところでつまずき、無防備な背中に向かって飛び込んだ。


「ふぐっ!?」


 受け身を取れなかった進はそのまま床とキスをかますと、意識が遠のいていった。


「いたたっ……はっ! 大丈夫!?」


 意識を失った進から返事があるわけもなく、動揺する少女。


「どうしようどうしよう。とりあえず……ふぬぬっ!


 進の左足を掴み、そのまま引きずって部室に入ると、扉を閉めた。


「……はっ! ここは」


 すぐに意識を取り戻し、辺りを見回した進はすぐに部室であることに気づくと肩を落とす。


「大丈夫?」


 自分のこと心配そうに見つめる少女を目の前にため息まじりで返事をする。


「うん。平気」


 部室に入ってしまったため、目の前の少女を無視するわけにもいかず、とりあえず話しかけることに。


「君は? この部室にいるってことは部員だと思うんだけど」

「よくぞ聞いた!」


 無事であることで安心したのか、口調が最初に戻る。


「我の名は星川美夜佳! 我が同胞よ! 歓迎する! さぁ、名を名乗れ!」

「(うわぁ、部長並みに面倒臭そうだな)えーっと、坂本進です」

「坂本進……か。良い名だ。こうして同胞に会えたのもこれも何かの縁。特別に我の……と、ととっ、友にしてやらんことも……」

「え、嫌だけど」


 つい本音を口にすると、美夜佳は目を丸くした。


「え?……フ、フフッ、もしや我が友になることを恐れているのか? 心配するな。とって食うわけではない。ただ、昼休みに、い、一緒にご飯食べたり、一緒帰って、よよ、寄り道したり、休みの日に遊ぶだけで」

「うん……嫌だけど」


 今度一拍置いてからしっかりと断った。


「何故だ!」

「事故とはいえ、部室に拉致した人物に友情を感じるほど僕はドM(変態)じゃないよ」

「では、普通に出会えていれば、我の友に━━」

「ならなかったね」

「結局ならないのではないか!」

「そりゃそうだよ。出会って数分の人と友人になれるわけないでしょ」


 おもむろに鞄を拾い上げる。


「じゃ、僕は帰るから」

「帰るな! 坂本進! いや、我が友!」


 帰ろうとする進を背中から抱きつき、帰るのを妨害する。


「ちょっ、何してんの? しかも我が友って」

「我が友は我が友だ! 今日から貴様は我が友だ!」

「一度会ったら友達感覚、僕無理だから。だから離して」

「いーやー!」


 子供のように嫌がる姿が部長の楓の姿と重なった。


(やっぱり部長並みに面倒臭い)


 辟易していると、開けようとしていた扉がひとりでに動く。


「騒がしいけど、何か━━」


 楓が開けた扉の先で、後輩二人がじゃれついている姿に言葉を失った。


「あ、部長」

「……よくわからないけど、とりあえず進君にだきついていいのか?」

「もしやったら下着姿を平気で人前に晒す露出狂って事実を学校中に流しますよ」

「好きで晒したわけじゃない! あと昨日はよくも帰ってくれたな! 昨日の分も含めて今日はみっちりと活動するからな!」

「そんなことは置いておいて、この人どうにかしてください」

「そんなこととはなんだ!」

「帰らないでくれー! 我が友ー! 一緒に遊んでくれー!」


 収拾がつかず、時間だけが無駄に消費されていく。

 これ以上こんなことで時間が浪費されていくことが耐えられない進は苦渋の選択をすることに。


「……わかりました。今日はちゃんと参加しますから」

「「本当か!?」」


 下唇を噛みながら首を縦に振ると、二人は笑顔の花を咲かせた。


「じゃあ今日の活動を始めるとしよう。誰か意見はあるか?」

「ならば我から提案しましょう」


 カッコいい(と思っている)ポージングで壁にもたれながら、ふっと笑った。


「こうして今ここに三人いる。ならば、我らがするべきことは一つしかありません!」

「まさか……」


 何か心当たりのある楓は反応を示す。

 一方、目の前で小芝居じみたものを見せられている進はつまらなさそうにその芝居を見届ける。


「そのまさかです。今からこの三人で……」


 沙耶未は鞄から黒光りした四角いケースを取り出して構えた。


「ババ抜きをする」

(なんでこの二人ババ抜きごときでテンション上がってるんだろうか)

「なら早速始めないとな! ではここは、入部が一番最後だった人。つまり一番下っ端の進君に準備をしてもらおう!」


 調子に乗り始めた楓にイラッときた進だが、大人しく従い、ババ抜きの準備を始める。

 トランプの束からカードを一枚抜き取り、シャッフルして二人と自分に配った。

 この後ゲームが始まるのだが、結論から言うと進が一抜けすることになる。

 カードを引くたびに楓の表情がコロコロ変わるため、ハズレを引くことなくスムーズにペアが揃っていったからだ。

 だが、美夜佳も負けてはおらず、楓にカードを引かれるたびに心情が顔に出ていた。


「部長。とうとうここまで来てしまったようですよ」

「ふふっ、結局はいつものように一騎打ちとなる運命だったんだ」

(二人しかいないなら一騎打ち以外ありえないけどね)


 少年バトル漫画並みの展開でババ抜きを繰り広げる二人をボーッと見ながら、時折時間を気にするそぶりをみせる進。


「二人共、白熱するのはいいですが、後数十分で部活はお終いですからね」

「待ってろ我が友。すぐに終わらせて次のゲームを始めるから」

「安心して進君。数秒でケリをつける」


 と、言ったのが三十分前のこと。


「そろそろ帰りますからね」

「ま、待つんだ進君! おかしいよ。なんで終わらないの!」

「全然終わらないよー!」


 未だに二人は上がらないでいた。

 さらに十分経過するが、最後のペアが揃わない。


「なんでぇー! なんでぇー!」

「揃わないよー!」


 半泣きになる二人をよそに進は部室を後にした。



「てな感じでしたよ」

「なんともまぁ、大変だったね」


 小百合が同情する一方で、疑問を抱いた静流は首を傾げた。


「でもババ抜きってそんなに長く続くものなの? それに二人共表情に出やすいみたいだし、表情をどちらかが読んでれば終わってたわよね?」

「あー、二人共やってましたよ。お互いの表情を読んで」

「ならなんでそんなにも続いたの?」

「二人共ババ抜きしてるつもりでしたけど、やってたのジジ抜きですもん」


 俺の言葉で全てを察した小百合と静流は苦笑いを浮かべる。


「あー、ジョーカーがペアであがれるのに、ババ抜きと勘違いしてるから、ジョーカー避けてて一生あがれないんだね」

「酷いぞ我が友! ジジ抜きだと気がついたの校門が閉まるギリギリだったぞ!」

「ジョーカーが一枚だけ残ってるのにゲームが進行してる時点で気がつけよ」


 これで部員達との出会いを全て話し、大きく深呼吸をすると、仁美に目を向けた。


「約束通り話したんで、今日は帰っていいんですよね」

「ああ、いいぞ。私も今日はすぐに帰るつもりだったしな」

「そうなんですか? じゃあ、私も」

「私も本読み終えちゃったし、新しい(官能)小説を買わないと」

「あ、なら我も帰るー」

「なら今日休みでよかったじゃないですか」


 ぞろぞろと退出していく進達。

 しかし皆が部室を出る瞬間、何か引っ掛かりを覚えるが、思い出せないのだから特段機にすることでないと割り切って一名のことを忘れて帰ってしまったのだった。

 部室は誰一人として残っていないことなどつゆしらずの部長である楓は張り切って扉を開けた。



「みんなおまたせ。臭いが酷くてとれるのに時間かかっちゃった。さぁ! フリーダブの活動を━━」


 ものけのからとなった部室を目の前にした楓は、目を点にして立ちつくす。


「……みんなー、どこー?」


 それから楓は一人寂しく、みんなが来るのを体操座りで待っていたそうだ。

読んでくださりありがとうございます

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