初対面3
「という感じでしたね」
「相変わらずね千百合は」
「せっかく男子が入るというから猥談ができると楽しみにしてたのに」
肩を落とす千百合をよそに進は別の人物の話へ。
「じゃあ今度は次は高宮先輩ですね」
「あらー、今度は私なのね。でも、千百合みたいな衝撃的なやりとりしてないから面白みがかけちゃうわね」
困り顔の静流だったが、進には静流の発言に同意する要素が見当たらなかった。
「人間的に一番ヤベー人が何言ってるんですか。出会って最初になんて言ったか覚えてますか?」
「最近物忘れがひどくてー」
と、まともに取り合おうとしない。
仕方なく進は静流との出会いを話し始めた。
千百合との出会った次の日。
今日も丁寧に仁美との条件を守って、部室に顔を出す。
(誰もいないでくれ誰もいないでくれ誰もいないでくれ誰もいないでくれ)
部室の前で立ち止まり、祈りながら扉を開けた。
(……いちゃったかー)
千百合ではない女の先輩の姿を目の前に落胆していると、進に気がついた柔らかそうな甘栗色のロングの女子生徒。
最初は目を見開くも、何かを察して微笑みかける。
そしてゆっくりと進に近づく。
「女子の制服姿五百円、体操服千円、スクール水着千五百円(いずれも盗撮)よ」
(あ、この人クズだ)
直感に従い、進は開けた扉を閉めようとしたが、女子生徒の手が滑り込み、妨害する。
「少し過激なものが欲しいのね。私の写真で良ければローアングルもOKよ」
「いや興味ないんで」
「な、なら、無料でここの部長の写真あげるから! 少しお話を」
「いやですよ。あんなクソ雑魚メンタルの部長の写真なんて」
「うっ……ん? 見たところ今年の新入生みたいだけど、楓のこと知ってるの?」
「えぇ、まぁ」
「もしかして、楓が言ってた新入部員の男の子ってあなたのこと?」
「……はい」
人生の汚点といえるあの出会いを後悔しながら答える。
「あなたの名前は?」
「坂本進です」
すると女子生徒は後ろを向いて、何か手帳のようなものを取り出すと、ペラペラとめくっていく。
「坂本……進君。無愛想だけど、顔は整ってるから中々の評判があるのね」
ぶつぶつと呟き始めるかと思えば、今度はにっこりと笑って振り向く。
「私は高宮静流。あなたの一つ上の先輩よ。よろしくね」
「はぁ、よろしくお願いします」
「じゃあ、早速心の壁を取り除くために写真を撮りましょうか。上の服を脱いでネクタイを緩めてくれる?」
「取り除くどころか新しく心の壁が一枚作られました」
「別にやましいことはないのよ? ただ進君の素敵なお顔をみんなに見てもらうためにね。ただ、写真とかの機材代としてちょーっと、お金をもらうだけで」
(写真一枚で最低五百円って、高すぎでしょ)
そう思いながら再び扉を閉めようとするが、また静流の手で止められる。
「ね、一枚だけ! 一枚取らせてくれれば1万ぐらい稼げる気がするのよ!」
「いやですよ。誰が好き好んで撮られる人がいるんですか」
「やっぱりダメか。楓なら十円のお菓子見せれば済むのに」
(部長がちょろくて、頭の中ピンク色の先輩や写真を売りつける先輩がいるこの部は大丈夫なのだろうか)
「進君! 今日も来てくれたのか!」
キンキンする声が進の耳に響き、嫌そうな顔で背後を振り向く。
そこには無邪気な顔の楓が立っていた。
「毎日来てくれるなんて。やっぱり私に会いに来たんだね」
「そんなわけないじゃないですか」
「照れなくてもいい。私には分かって━━」
「あ、もう顔出したんで僕帰りますね」
「おねがーい! 帰らないでー! 調子に乗ってすいませんでしたー! 進君が来てくれて嬉しかったんですー! だから止まってー! 止まっ━━お願いしますから一瞬だけ振り向くか立ち止まってください」
先回りして進の前に立った楓は廊下であるにもかかわらず、土下座で待ち構える。
「部長ってプライドないんですか?」
ここまでされるとさすがの進も帰るのは気が引ける。
仕方なく部室に戻ることにするのであった。
「あ、戻ってきたのね」
(戻ってきたら部室が本格的な撮影現場になってる)
ほんの数分の間に変わり果てた部室に引いていると、楓が進の背後からひょっこりと顔を覗かせ、一変した部室を確認した。
「なんだこれ!?」
「ほら楓。何ボサッとしてるの?」
「えっ? え、 ……えっ?」
説明なしに白い幕の前に立たされた楓は困惑や表情を浮かべ、一方の静流はウキウキしながら一眼レフを構える。
「静流。これは一体……」
「何って、フリーダブの活動よ?」
「え、活動?」
「そうよ。今日は撮影会でもしようかと思って、いろいろ服を用意したんだから」
「そんな急に言われても」
「いいじゃない。それとも他に活動内容があるの?」
何も言えず苦悶の表情を浮かべる楓。
「それに可愛い服着れば、彼もきっとメロメロよ」
「なんだって!? それを早く言え!」
協力的になった楓は静流が用意した衣装を物色し始める。
一方、話が筒抜けだったにもかかわらず、進はここから自宅に帰るまでの時間を算出。
部活を自然に終わらせる、あるいは抜ける方法を数パターン考えていた。
「よし、これを着よう! あ、でもそうなるとここで着替えることになるな」
ニヤニヤしながらチラチラとこちらを見てくるのに気がつく。
「そうですね。なら僕は廊下で待っていますね」
「ちょっと待つんだ」
急に引き止められ、首を傾げる進。
「なんですか? 着替えるなら僕は外で待った方がいいですよね?」
「たしかにそうだけど、見たこともない笑顔をするものだから嫌な予感がするんだ」
「まさか僕が部長の目が届かないことをいいことに、そのままバックれて、自宅でパケモンの6V厳選すると思ってるんですか!?」
「語るに落ちてるぞ」
「すばしっこさだけは逆V厳選するに決まってるじゃないですか!」
「どうでもいいよそんなこと! とにかく君もここにいるんだ!」
「えー」
「心底嫌そうな顔をするな!」
カーテンを使って、簡易更衣室を形成し、そこで着替えが始まる。
(まったく。進君はすぐに帰りたがるんだから)
シャツの二つ目のボタンに手をかけたところで、ピタリと動きを止めた。
(ま、待って。い、今私と進君を遮ってるのはカーテン一枚だけ。もしかしたら、私が着替えてるシルエットは向こうに)
状況を把握した楓。
にもかかわらず、ボタンを外していく。
全てのボタンが外れると、パサリと床に落ちる。
そして、スカートのホックを外したことで下着の姿になった。
(わ、私なんてことしてるんだろう。好きな人とはいえカーテン一枚隔てて着替えるなんて)
ちらりとカーテンの先にいる進を見つめる。
(進君も男の子なんだ。興味がないわけない。だから、劣情を抱いても仕方ないこと)
心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、そっとカーテンの隙間から覗く。
「この辺になんか飾らないんですか?」
「結構スペースあるから何か飾りたいけど」
「なら僕の大切なそこら辺で拾った触り心地のいい丸石でも置いておきますね」
「ちょっとぐらいこっちを気にしろー!!」
あまりに無関心だったので思わずカーテンを開けて声を荒げる。
着替えを終えてなかった楓は二人に下着姿を披露することになり、声を上げたことで二人の視線を集めてしまっていた。
みるみると顔を真っ赤にさせる楓。
そして、部室に甲高い悲鳴が上がった。
「きゃああぁぁぁぁ! へんたああぁぁぁぁい!」
悲鳴を上げた進は勢いよく扉を開け、部室から逃げ出した。
少しの間静けさが広がる部室で、楓はふと我に返った
「なんでそっちが悲鳴を上げるのよおおぉぉぉぉ!!」
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