第6話 見えない壁にぶち当たった
まだ、転移しません。
まあまあそう焦らず。
次から多分転移するので...
少々、お待ちくださいませ。
俺は、真っ直ぐに進んでいる。
迷っているわけじゃない。
ちゃんと、道は見えている。
いや、正確には違うか。
ちょうど前方に見えている強烈な光。
太陽くらいに、眩しい光に向かって進んでいる。
この空間には不可視の落とし穴とか、曲がりくねった道の先に待っている小さな光とかないから、案外楽に進んでいる。
──その割に、まだ光は結構遠いんだけどね...。
あ、あと小さな光の前に幾つものってつけるの忘れた。
ま、いっか。
どうせ誰もわかんねえし。
にしても、どれくらい歩いたのだろうか。
振り向いても、もうさっきまでいた扉は見えていない。
なのにも関わらず、前方からの光は一向に大きさを変えていない。
ふむ。
これはどういうことだーーー!!
うがーーーーーーー!!!!
あー、ダメだ。
歩く以外にすることなくて死にそう。
だから、俺の足は歩くのをやめ無いんだけどね。
でも不思議なことに疲れはない。
いくらでも歩いて行ける。
もしかして、あの光......無限の距離があるとか言わないよね?
それだったら、俺間違いなくあれ壊しに行くよ?
──って、歩いても疲れないなら、走ればよくね?
俺は、1時間ほど歩いたところでやっとこのことに気づいた。
...今までの時間なんだったんだよ。
ま、それはそうとして、だ。
歩いても疲れないんだから、絶対に走っても疲れないはず。
その検証も含めて、俺は真っ直ぐ全力疾走する。
ちなみに俺は体育会系じゃない。
だから、普通に走るの遅いです。
てへ。
って思ってたのに、あれ?
なんか俺、速くね?
いや、別に周り真っ白(正確には光)だから景色の移り変わりで判断は出来ないんだけど、体感する風の心地が、いつもより強い風を俺に当ててくる。うーむ。
ちなみに、光の大きさは相も変わらず大きくからな───ズドン。
「痛ってぇ......」
なんだ?
なんだろうか?
あれ?
俺は向こう側に行かなきゃ行けないのに......くぅ......
もしや、これはあれか?
いや、そんなわけあるまいて。
ゲームでもない限り、それはありえない。
そう考えて、俺は前に手を出す。
景色は変わらないが、俺はなにかに触れてそこから先に動かなくなる。
.........。
押し込んでみるも、無意味。
それは動こうとせず、なおもそこにある(多分)。
「これが世にいう...『見えない壁』ってやつか」
俺は、早速その名の通り壁にぶち当たってしまったようだった。
ほうほう、これが......
何も考えることのなかった俺にせっかくの思考に値する話題が落ちてきた。
これはまさに僥倖、ってやつだろう。
ありがたいことこの上ない。
その上で、この状況をどう打破するか、なのだが......
とりあえず、引いてみようか。
何を?と言われると俺もわからないが、押してだめなら引いてみろ、という言葉に従おうと思う。
別にまだ押してないよね?
とか言わないでくれ。
さっきちゃんと押し込んだだろうが。
押したところが悪かった?
んなもん知らねーよ。
俺はこれを引く。 ただそれだけだ。
ちょうど格好が着いたところで、俺は壁を引いてみようと試みる。
そこで、俺は致命的ミスにたどり着いてしまった。
「掴むところがないと、引こうにも引けなくない?」
俺は絶句した。
そもそもここに来てから二言くらいしか喋ってないけど、絶句した。
脳内で色々考えてるけど、絶句した。
兎に角、絶句したのだ。
だが、それと同時に俺は思い出す。
「押してだめなら引いてみろ」、その先の言葉を。
それは何か───
「押してだめなら引いてみろ。それでもダメなら押し通せ」
これだ。
いや、別に今俺が考えたわけじゃないよ?
ほんとに、ほんっとにこれあるんだからね?
俺に非は無いよ?
さ、さて。
ってことで、行きますぜおりゃぁぁさぁぁぁぁぁっ!!!
ギィィ...
ん?
んんん???
いま、音しましたね。
明らかに、扉の音でしたね。
なるほどこれは転移門か。
俺は全てを察したよ。
つまり、この扉を開ければその先に異世界、シンポウコク...だっけ?
が、広がっているのだ。
ワクワクしていない?
まさか。
ワクワクしかないに決まってるだろう?
神と魔術の国だぞ?
行くしかあるまいて。
だが、生憎扉は不可視なので、手探りで半開きの扉を抜けていく。
だが、眩すぎる光につつまれた俺は───、瞼を閉じてしまった。
よって、記念すべき転移の瞬間、その刹那を見逃してしまったのだった。