ハカセの講義
「まずは、バッファーを作るところから始めよう」
「はい、ハカセ」
分からない単語があったから僕は挙手した。
これはハカセとの最初の決め事で分からないことがあれば、『はい、ハカセ』という言葉と共に挙手をすることを。
分からないまま進むと大事故に繋がる可能性があるからだ。
「はい、助手君」
「ばっふぁー、とは何ですか?」
「日本語では緩衝液と訳されるが、機能としては様々だ」
「へぇー」
「簡単に言えば、異なる二つのものが共存できる環境を整える仲介役だ」
「へぇー」
「では、始めよう」
小学校の理科の授業で使ったことのあるビーカーとメスシリンダーとガラス棒を用意した。
見たことのない白い金属の短い磁石みたいなものがあるが使用方法がまったく分からない。
そういうときは
「はい、ハカセ」
「何だね?助手君」
「この白い金属の棒は何に使うんですか?」
「それは、スターラーバー。日本語では攪拌子と言う」
どちらも聞いたことのない言葉だ。
覚えられるかな。
「使い方はビーカーに入れて使う」
「へぇー」
教えて貰った金属の棒を台に乗ったビーカーに入れようとした。
後頭部に何かが当たった。
「たわけ」
「あてっ」
「そのまま入れるヤツがあるか。そんなことをすればビーカーが割れて掃除が大変になるだろうが」
手近にあったきむわいぷの箱を投げつけてきたらしい。
パワハラだ。
「はい、ハカセ」
「何だね、助手君」
「どうして割れるのですか?」
「まずそのスターラーバーは金属だ」
「見たまんまですね」
重さも金属でなければ不思議物質になるところだった。
「そしてビーカーの乗っている台には磁石がある」
「へぇー」
「くわしい仕組みは省くが、金属と磁石はどうなる?助手君」
「ひっつきます」
これくらいは僕も分かる。
小学校のころ磁石と砂鉄で実験した覚えがある。
「では、次に金属とガラスはどちらが強い?」
「そりゃもちろん金属ですよ。小学生でも分かります」
「君に小学生レベルの知識が最低限あって良かったよ」
さりげなくディスられた。
いつかハカセを驚かせる研究をしてやる。
「これも小学生の知識があれば分かる。その持っているスターラーバーを手放すとどうなる?」
「ハカセ、馬鹿にしてます?落ちるに決まってますよ」
「では確認はこれくらいにして解説に移ろう」
「前置きが長いですね」
「重力により引っ張られる力と磁石により引っ張られる力が合わさった力でガラスにぶつかるとどうなる?」
「うん?どうなるんです?ハカセ」
物理は苦手というか選択していないから公式とかさっぱりだ。




