迷ったらここを受診しろ
駒田:「田原さん、神様呼んで!」
田原:「杉尾先生ー!救急の駒田先生からコンサルです。お願いします。」
駒田:「あっ杉尾先生すみません。熱中症疑いで搬送された60代の男性なのですが、
なんか上手く言えないんですけど違和感があるんですよ。熱中症による意識障害
で良いのでしょうか?採血検査、頭部CT検査では何の異常もなくて。」
杉尾:「んー、ふむふむ。」
「意識障害ですか、、、んーこれはー、、、んー失語ですね。頭部MRIを撮りましょう」
駒田:「MRIですか!?麻痺もないですし、頭部CTは問題ありませんが。」
杉尾:「これは意識障害ではなく失語と呼ばれる症候です。脳梗塞は場所によっては麻痺
が出なくて不思議じゃないんですよ。頭部CTでは今は写らないかもしれません
が脳梗塞があると思いますよ。あとはウチで診させてもらいます」
駒田:「はぁ、宜しくお願いします」
田原:「杉尾先生!MRIで大きな脳梗塞ありましたね!」 「なんで解ったんですか!?」
杉尾:「んー、、、何で?
何でって、、、んー、、、そりゃ神経内科医だしね笑」
私の勤める病院には、どうしようも無いヤブ神様もいらっしゃれば、何でも診断出来てしまう本当に神様と崇めたくなるような医師までいらっしゃいます。私は神達をサポートする看護師の田原と言います。
彼らを神様と呼ぶのは決して優秀だからではありません。病院では各診療科が略称で呼ばれる事が多いです。消化器内科は消内、消化器外科は消外、、、など病院によって多少の違いはありますが、略称で呼ばれる事が多いのです。
私の勤める神経内科は脳や神経に関わる内科になります。脳に関する外科は脳血管外科の為、略称は脳外になります。神経内科は神内と呼ばれる事が多いのですが、病院で神と書けば、これは神経内科を指す略称です。
神経内科は精神科に間違われる事が多いですが、二つの科には大きな隔たりがあります。
鬱病など精神に関わる領域を診るのが精神科であり、脳や神経に関わる内科領域を診るのが神経内科です。脳梗塞やパーキンソン病、ギランバレー症候群なんかも神経内科が診療にあたります。基本的に神経内科医は精神を診療しません。
また、神経内科には原因が良くわからない症候がコンサルトで回ってきます。各専門診療科で原因が解らない症候に関して「もしや脳や神経から来てるんじゃないか?」と疑われ神経内科に回されるのです。その為、原因が解らない症候を診断するための最後の砦的な役割を果たしています。ちなみにどこの病院も神経内科には一風変わった医師が多いと言われます。私の勤める病院には個性溢れるヤブ神様と優秀な神様が混在しています。院内のスタッフは、時には見下し、時には尊敬しながら、神経内科医達を神様と呼んでいます。
愉快な神様達との日常をお伝えしていきたいと思います。
駒田:「田原さん。神様呼んで。」
田原:「今日の神様は、、、高木先生です。」
私の病院では、救急車は救急科がまずは診療に当たり、各専門家に紹介する形で診療をおこなっています。その為、曜日によって紹介される専門科の担当医師が変わります。
駒田:「なんだよ。今日はヤブ神様の方か。高木先生呼んで。」
田原:「高木先生。救急の駒田先生からコンサルトです。」
高木:「はぁ、、、今行きます、、、。」
約15分経過し
高木:「駒田先生すいません。お待たせしました。何の患者ですか?」
駒田:「頭痛、嘔吐で救急車呼んだ30代女性なんですが。診察上、明らかな神経脱落兆候
はなくて、採血や頭部CTも問題ないんですけど。頭痛、嘔気で帰れなくって。
片頭痛ですかね?」
高木:「はぁ、、、確かにCTは問題ないですね、、、帰してください。」
駒田:「いや、ちょっと帰れそうになくて、帰すにしても頭痛は抑えられないもんですかね?」
高木:「はぁ、、、典型的な片頭痛ですねー。ウチで診る必要ないです。適当にトリプタンを
使って返してください。失礼します。」
田原:「相変わらず態度悪いですねー。」
駒田:「ったく、片頭痛の診療なんかウチはやってないから依頼してんのによ。」
駒田:「田原さん。トリプタンって何が良いの?」
田原:「色々あるみたいですよ、、、イミグランとか、、、マクサルト、、、とか。」
駒田:「どれがよく使われんの?」
田原:「んー、どれも使われますけど。」
駒田:「よくわかんねぇな。」
田原:「杉尾先生に聞いてみましょうか?」
駒田:「田村さん。悪いね。」
田原:「杉尾先生、今大丈夫ですか?駒田先生がトリプタンの選択で困ってて、お時間
大丈夫でしたらちょっと来て頂けますか?。」
杉尾:「んー、、、んーと、、、行きますね。」
駒田:「杉尾先生すいません。高木先生に片頭痛の診断して貰ってトリプタン使えって
言われたんですけど。あまり片頭痛の治療に慣れてなくて。」
杉尾:「んー、、、んーそうですね。使うならイミグランの皮下注にしましょうか。」
杉尾:「んー、ただ、私も拝見してからにしますね。患者さんは片頭痛の診断をされていたんですか?」
駒田:「いえ、初発だそうです。普段そんなに頭が痛い事はないそうです。」
杉尾:「んー、、、そうですか。
んー、、、遠山(患者)さん。痛みは突然始まったんですか?」
遠山:「突然に激しい頭痛と吐き気が来て、父がくも膜下出血で亡くなって心配で。」
杉尾:「んー、、、そうですか。んー、、、MRIをとってみましょう。」
駒田:「MRIですか!?CTで何もありませんよ?脳出血にはCTのほうが有用ですよね?」
杉尾:「んー、、、んー、、、おっしゃる通り。ただ、アナムネ(問診)は典型的なくも膜下出血です」
「MRIで何もなかったら、腰椎穿刺もしましょう。トリプタンは使わずいきましょう。」
駒田:「おいおい。いくら杉尾先生でもそりゃないぜ。アナムネだけでくも膜下出血の診断
してたら、日本中がくも膜下出血だらけだぜ。」
杉尾:「んー、、、んー、、、そうですね。おっしゃる通り」
「後はウチで診ますね。」
駒田:「はぁ、、、後、任して良いんでしたら。
お願いします。」
、、、
田原:「駒田先生!杉尾先生から電話です。くも膜下出血、動脈瘤があるそうです!」
「脳外科を呼んで下さいとのことです!!!」
駒田:「マジで!?ほんとにマジ!?MRI画像を見てもどこにも出血無くね?
、、、、、、一応脳外科呼ぶか」
脳外科:「先生、後はウチで診ますんで。ありがとうございました。」
「よく解りましたね?出血。」
駒田:「えっ?これやっぱ出血あるの???
あぁ、、、俺は帰そうとしたんだけど神様がMRI行っちゃってさー。
アホだなぁって思ったんだけどね。俺がアホだったのかね。」
脳外科:「無理もないです。これ普通は帰しますよ。
杉尾先生でしたか。
それじゃぁ、緊急オペ入ります」
杉尾:「んー、、、んー、、、いやー危なかったぁ。
トリプタンは出血には禁忌だからねぇ。んー危なかったぁ。」
駒田:「おー!先生こっち来てこっち!お疲れ様です!
ちなみにゴメン。どの辺が出血なの?笑」
杉尾:「んー、んー、、、ここの皮質と皮質の間が薄っすら白くなってませんか?」
駒田:「あっ!ほんとだ!こんなん疑って見ないと解らないわー。」
「何でCTで映らないのがMRIで映るんだい?」
杉尾:「んー、、、んー時にはそうゆう事もありますよ、、、ということで。」
田原:「杉尾先生!なんでくも膜下出血があるって解ったんですか!!!」
杉尾:「んー、、、何で?
何でって、、、んー、、、そりゃ神経内科医だしね笑」