ブースト!! ~長ければ良いってモンじゃない~
前短編の続きでの短編(ややこしいw
「 ── え~……以上で新入生に向けた挨拶は終わりとする!!」
この惨状はいったいどういうことなのだろうか。
壇上に上がった校長の挨拶なのであったがあまりにも長すぎた。
最早、永遠に続くのではなかろうかと思えたが、割りと在校生、並びに新入生は生き残ったと俺は思う。
尋常ならざる能力を保持した者達。
すなわち異能力に特化した学生達。
付き添いの教師ですら数名、膝を折り意識を失いかけているというのに、だが俺は負けじと背筋をキリッと伸ばし立っていた。
これがもし、炎天下のだだっ広い蜃気楼が漂う校庭であれば当然のことであろう。
しかし、ここはひんやりともせず、汗も掻かないように完璧たる空調設備が充実しているのだ。
大きな窓の外からは麗らかな春の日差しと共に、朗らかな小鳥の囀りが俺の心に癒しを与えてくれている。
いや、これは俺の異能力 ── もとい、超能力によるものだった。
決してこれは妄想などではない。
類い稀れなるチカラなのだ。
銃弾を何発浴びようが僅かたりとも傷付かない窓ガラス。
見た目は薄く、飾り程度に施された鍵ですら、それは最先端の科学力を以て作られたモノだ。
永遠に続けられようとした校長の挨拶に息に詰まった様子の体育教師が壁に寄り添い、その窓ガラスへと救いの手を差し伸べる。
しかし、ただ捻るだけで解錠できる筈の鍵はスカッと空を切るだけだった。
ん??
まさかと思い、すかさず俺は超能力を発動させる。
……なんということだろうか……
鍵、そのものが幻影だったのである。
いや、こんな単語にルビを振っている場合ではない。
に、しても……見事なモノだ。
見た目はリアルにして確実にそこにあると思わせる事実。
いったい、どれほどの実力者 ── いや、能力者によるモノなのか。
一瞬でも俺を騙しとおせるとは……なるほど、この高校の真の恐ろしさを垣間見た気もする。
「さて……諸君!? 君たちは我が学園へとやってきたワケだが……」
おいおい、まだ続くのか。
ついさっき「終わるとする」って仰れましたよね。
既に隣の屈強極まりない体格の、まるで学生には見えず、遠めから窺っただけでもどこぞの戦士にしか見えない彼でも口許に手を当てて吐き気を堪えているようなのだが。
だが果たして手と言って良いものなのだろうか。
どう見てもそれは金槌よろしくハンマーといえるモノだった。
……疑問はつきない。
どうやって服の袖を通した?
ふだん、どうやって食事をしている?
箸は持てるのか?
ドアは開けれるのか?
ペンは持てるのか?
勉強は……まぁ、そこは置いておこう。
とはいえ、思い付くだけでも何千万と突っ込まざるを得ない。
況してや彼の髪型といえば怒髪天に昇る如く尖った金色。
直接触れたワケではないが、既に目が痛い。
なんということだろう。
最強ともいえる俺が畏怖するなどとは……。
狼狽えかけていた俺に対して奴は事も無げに片手を振りかざした。
「よう、相棒!! 校長、話長ぇなぁ!!」
……俺はお前の相棒になった覚えはない。
それに声が一際デカイ。
見ろ。周りが一斉にこっちに注目してるじゃあないか。
確かに俺は最強ともいえる ── 超能力の持ち主だが、だからと言って目立ちたいワケじゃあない。
寧ろ、平々凡々に気楽に過して行きたいだけなのだ。
そこに自由さえあればそれで良い。
ええい、厄介なヤツめ。
俺に絡むな。
致し方無い。
俺は誰にも気付かれないようにして超能力を発動させた。
……口がぱくぱく開いている。
多分、何かバカな事を思い付いたままに喋っているのだろう。
いくら声を荒げようがドタバタしようがお前は音を出すことなど出来ない。
そう、ヤツの音を遮断したのだ。
端からみれば真に滑稽な有り様だろうて。
精一杯、全身を使ってアピールしている彼を放っておいて、俺は早く校長のスピーチが終わることを期待していた。
「 ── で、あるからして ── 」
……終わる気配がいっこうに無い。
今や真摯に受け止めているのは僅か十数名にも満たないように思える。
そろそろ、自分も辛くなってきた。
なので実力行使に出ようと思う。
「黙れ!」
ちょっと魔法っぽくしてみた。
よし。これで何も発せられないだろ……う……?
「して! この学園の創始者たるギガ・ライオット氏は……」
馬鹿な……。
完璧に、これほどはないまでに超能力をかけた筈なのだ。
なのに校長はその獅子を彷彿させるフッカフカの鬣をこれでもかと逆立たせていたのである。
尽きることなく交わされる挨拶の最中、一瞬チラッと目があったような気がした。
その瞬間、俺はまるで蛇に睨まれた蛙のように身を強ばらせてしまう。
高鳴る鼓動。
いや、動悸か。
または恐怖心か。
とにもかくにも身動きひとつすることが出来なかったのだった。
「おう! 相棒? どうしたぁ?」
と、同時に超能力も効力を失ってしまい、金槌男は器用にその手で頭をポリポリと掻いていたようだ。
頑丈なヤツめ……。
俺は超能力だけなら誰にも負けないと自負しているが、まさか校長の一睨だけで看破されようなどとは。
「はやく終わんねぇかな~」
暢気に鼻くそをほじりながら、もう突っ込むことさえ諦めかけたその時 ── 脳みそを揺さぶらんばかりの絶叫が鳴り響いたのだった。
後程、思い返してみれば……あれは始業のチャイムなのだったのだろう。
誰ひとりとして立っていない講堂。
いったいどのようにして教室まで辿り着いたのかは、定かではない。
あくまでもテストみたいな?
纏まり次第、長編として改稿するかもです。
(;^_^A