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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
99/111

3-ED 【裏】

「はあ!? ハクテンが負けただと!!?」

「はあ、どうやらそのようで」

「ど、どどど、どういうことだ!」


贅を尽くした大広間に悲鳴のような声が響く。

声を上げるのはテティスの街で最も力を持つ家、ルルオロ家の現当主パレド・ルルオロ。

不摂生によって肥えた顔に脂汗を滴らせ、思わず立ち上がって状況を伝えてきた者に説明を要求する。

それに対して執事服を着こんだ男は頭を下げたまま言葉を続けた。


「ハイ。ハクテンもといヨウ・ユエンは今日の正午ごろ北方商事アジトの一つで戦闘を行い敗北、行方は分かっていません。ですが、最後に高く打ち上げられた所を目撃した人間が多数。更にその高度が到底助かる高さでは無かった事から、飛んだ時点で生きていたとしてもそのまま落下死したとされます」

「ばっばかな……。あの怪物が………」

「パッパ~? どうしたの~? 何かあったの~?」


愕然として椅子に座り、頭を抱えるパレド。

それに対して状況が飲み込めていないのか息子のアミゴは、見たことも無い顔をした父親が面白いのか半笑いで尋ねる。

それに答えたのは報告を上げた執事服の男である。


「アミゴ様、ハクテンが敗北したと言う事は、あなたからパレド様経由で通った捕縛指令が実行されない事になります」

「ハァァァ~~~!?? それってあの俺に逆らったあのバカどもを殺せないって事じゃん! ハクテンつっかえねえ~!」


執事服の説明に素直な感想を答えるアミゴ。

彼は今日の朝、何者かに追い立てられ汚物まみれにされた。そして目を覚ますとゴミ捨て場に倒れていたのである。

目覚めたアミゴは多くの廃棄物で汚れた服にもう一度発狂し、仕事の事など忘れ走って帰り、一着で目が飛び出るような値段の服を捨て、すぐに風呂に飛び込んだ。

そして、何度も何度も体を洗ったが、匂いが取れないような気がして洗いなおしていたら、いつの間にか夕食時となっていたのだ。

流石に腹は減ったのでテーブルに着き、自分の前に座る父親に昨日頼んだように、裏社会の人間を使ってまた復讐を頼もうとしていた時であった。

ハクテン敗北の報告が飛び込んできたのは。

それによって今日捕まったと報告を受けるはずだったカミルとその連れの男に鬱憤を晴らす事すら出来ないと知った。


「パッパ~! 使えないのは切って新しい奴を雇おうよ~! 例えば王都から呼ぶとかさ~………パッパ?」


自分の思い通りにならない今日の運勢を呪いながら、それでも懲りずに別の人間を雇おうと提案するが、それに対する父からの答えは無かった。

それもそのはず、パレドの頭の中は現在“これからどうするべきか”という事でいっぱいなのだ。


「(ハクテンが敗北?! そんな事ありえない! と、思いたいが、現実に報告に上がってきている……。ならばどうするべきだ? どう動くべきだ? この場合ハクテンに命じてやらせた暗殺はどうなる? いや奴は証拠を一切残さない暗殺者だった。ならば問題は無いか? だがもし見つかりでもしたら? 私の立場は………?)」


このように頭を抱え自己保身の事ばかり考え、頭の足りない息子の声に言葉を返す余裕がない。

だから、気づけなかったのだろう。

目のまえの男の顔に見覚えが無い事に。



最初に気づいたのは意外な事にアミゴだった。


「ん~? お前見た事ない顔だけど新入り~?」

「おや? お気づきなりました?」

「何で新入りなんて~……。あ~! そうだそうだ~! 今日の朝御者をクビにしたっけ~? あれ~? でも何で執事服~? オイなんで~?」


そう言ってアミゴは首を回し、部屋の壁に整列していた使用人たちに疑問をぶつける。

だが………


「旦那様が雇われたそうです」

「え? 私はお坊ちゃまが雇われたと聞きましたが………?」

「え? 私は執事長が新しく雇ったと聞きましたよ?」


整列した使用人たちから次々と返ってくる答えは一貫性が無い。

最後まで聞き終えても、その答えには同じものは一つも無く。

パレドの前に立つ執事服の男、その素性を知る者は少なくともこの部屋には居なかった事が証明された。

アミゴは不気味に思い視線を戻すと、男はいつの間にか顔を上げている、だがその顔は背中にかかるほど長い煌びやかな金髪に隠されており顔を窺うことが出来ない。

そして首を振るい金髪が回り、顔があらわになる。


「わぁ、凄いイケメン………」


女性使用人から思わず漏れた声が示す通り、下の顔はものすごいイケメンだった。

だが、そんな記憶に残りそうな特徴を持ちながら、その顔には覚えは無い。


「だれ、おまえ~?」


警戒と共に吐かれた言葉に男は答える。


「そうですね。しいて言うなら暗殺者でしょうか?」

「「え?」」


そう言った男は答えを待たずに、テーブルに置かれていたピカピカに磨かれた銀のナイフを掴み一閃。

“ピツンッ”と言う音がして、パレドの首から鮮血が弾けた。

噴水の如く勢いよく上がった鮮血は、音も無く壁に降りかかりそこに消えない染みを残した。


「パッパァァァァ!!!」


その光景を見て、絶叫するアミゴ。


「へ? へ………?」


状況が飲み込めず首に手をやり、戻った真っ赤な手のひらを見て崩れる落ちるパレド。


「「「「いやああああああ!!!」」」」


恐怖で悲鳴を上げる使用人たち。


部屋は一瞬で狂騒に飲まれた。

その狂騒の中心に立つ暗殺者を名乗った男は、テーブルに上がるとそこで大きく手を叩いた。


“パァァァァァンッッッッ!!!”と強い音が部屋中に響く、その行動によって一瞬だけ狂騒が消え去った。


「ハハハやっぱりこういう状況だと効くね拍手(コレ)。さて、静かになった所で、君達にも疑問があるだろうし、とりあえず質問に答えてあげようか?」



「パッパ! パッパ! パッパァァァァ!!」

「うるさい、静かにしなよ」


そう言うと手に持ったままだったナイフをテーブルに乗り出したアミゴに投擲。

“ドン!”と言う音と共にアミゴの手はテーブルに釘付けになった。


「ぎゃあああああ!!!!」

「おお、さっきも思ったけどイイ切れ味だ。よく手入れされているんだね。だが、うるさい事は変わらないか」


そう言うと今度は大きく踏み出し、痛みでのけ反ったアミゴの喉を蹴りつけた。


「グぐふっ!」


アミゴはせき込み、手と喉の痛みで半泣きになりながら男を見上げる。


「よしよし静かな事は良い事だ。さて質問はあるかい? 三つまでなら答えるよ?」


男はその整った顔を嗜虐にあふれるように歪めて見下ろす。


既に両者の間に決定的な差が生まれていた。

殺す者と殺される者と言う差が。


「な、なんでえ? なんでえぇぇぇ?」

「なんで? つまり理由かい? そういう依頼があったからだよ。君のお父さんと君を殺してくれって依頼がね」

「なんで!? なんで!? なんで!?」

「あ、もしかして依頼者側の理由か? 何か君たちが邪魔だからって言ってたよ? 君のお父さんハクテンと組んで色々やってたそうだね?」

「なんなんだよおおおおお!」

「アハハハハ! ソレは分かんねーや! じゃあ勝手に解釈するよ!」


そう言うと男は、テーブル中央に戻ると声高に名乗り上げる。


「我が名はヒース・ベアトリクス! 王国最大最強の裏組織“悪の蝙蝠(バッドバット)”の諜報組トップにして、頭領たる三蝙蝠が一人!」


言い放ったのち、手を大きく振るい大げさに礼を行う。

次の瞬間、その姿はブレたかと思うと、アミゴの後ろに立っていた。


「光栄に思ってくれたまえ。君は最高位の暗殺者の手によって死ぬのだから」


その言葉はアミゴに届いたのだろうか?

父親と同じように、首から鮮血を噴き出す彼に…………。



「さてと………」

「「「「ひぃ!」」」」


仕事を終えたヒースは、部屋の隅に固まった使用人たちに顔を向ける。

その顔はつい先ほど人間を殺したとは思えないほど華やかに笑いかけていた。


「心配しなくてもいい。戦闘組の荒くれ者どもと違って、仕事以外の殺しはしないのが私のポリシー。君たちは逃がしてあげるよ」

「へ?」

「ちょうどいい道具(おもちゃ)も手に入ったしね」


そう言って彼がポケットから取り出したのはアミゴの使っていた高級染料。

外からの色合いを見るに恐らく赤色。

それを頭にぶつけると煌びやかな金髪は見る見るうちに色を変えていく。


「何見てるの? ほら行った行った。早くしないと殺しちゃぞ☆」


急かすように使用人に向かって手を振るうヒース。最後のセリフには裏ピースを決めた。

そう言われて我先にと逃げ出す使用人たち。

彼らには雇用主に対して命を賭けるほどの恩義など無いようだ。


使用人たちが出て行った事を尻目に、ヒースはテーブルに置かれた燭台をカーテンに向かって蹴り飛ばした。

蝋燭の火はカーテンに燃え移り、見る見るうちに広がっていく。

その様子を見て満足そうに頷いた。


「彼らは出て行った後に屯所にでも駆け込む、そして金髪ロングの超イケメンが街の大物パレド・ルルオロとその息子を殺したと証言してくれるだろう。そしてその男は今は赤髪になっているとも言ってくれる。ハハハハハ! 計画通りだ!」


燃えていく部屋の中、一人笑いあげるヒース。

その美しい顔は笑い声と共に徐々に歪んでいく。

そして彼が手で顔全体を撫でると、その美しい顔を魔法の様に消え去り、そこには特徴らしい特徴の無い平凡な顔が現れた。

同時に髪に指を通すと染料で赤く染まった髪は消え去り、短い茶髪が現れる。

同じように喉を滑らせると、その高かった笑い声は瞬く間に特徴の無い声に変った。

メイクではない、カツラではない、変声術ではない、そんなものでは考えられないほどの変化が彼に起きていた。

骨格は変わり、髪の長さは変わり、そして最後には声すらも変わってる。

同一点は既に浮かんでいる嗜虐に満ちた笑みだけであり、そしてその笑みも消え去ると、そこには既に別人の無表情な男が立っていた。


笑みを消したヒースは歩き出した。

堂々と廊下の真ん中を歩き、そこに掲げられた照明代わりのかがり火を倒し、廊下を炎に包んでいく。

ヒースが屋敷を一周すると、既に取り返しのつかないほどに炎は浸食していた。


「ふむ、これなら倒壊まであと十分も無いでしょうね。やれやれ面倒な遠出だったが、帰りは馬車に乗らずに済むのが救いだ。残った仕事は………」


そう言って指を折るヒース。

彼が今回の出張で受けた仕事は4つ。


1、北方商事から武器の回収。これはレオンの突撃で失敗に終わった。

2、北方商事に秘密裏に運び込まれた“名剣”の盗み出し。二本の内一本は落としたが本命は回収したので良し。

3、ルルオロ家の殲滅。これだけは他の3つと違い別口である。


そして最後に…………。


「うーん? なんだかんだで4番目が一番疲れましたかね? ですが調査結果は×(バツ)。アレは使えないし殲滅を依頼しましょうか。どうやら最適な人材がちょうど近くに来てるそうですし。はーくたびれた」


そう言って肩を叩きながらも彼は歩みを止めない。

燃え上がる屋敷を後にして、庭に出るとポツリポツリと雨が降り出していた。


「んー? これくらいなら大丈夫かな」


手の平に雨粒を受け、その勢いで屋敷が倒壊する邪魔になるほどでは無いと判断するヒース。

そんな彼の目の前に男女二人組が現れ、そして彼に向かって手を上げた。


「お疲れ様ですね。ヒース殿」

「おっつかっれさん!!」

「どうも協力者殿。わざわざご足労痛み入りますが、少しだけ待ってもらっても?」

「もちろんいいですよ。大量の武器の移動がない分余裕がありますから」

「それは畳重。では失礼して手紙を出させてもらいますね」

「手紙?」

「ええ、宛先は王国最強の武術家……ハルマ・クイートです」

アキラ側ではない話なので、裏面なのです。

次回は書き終わってるので明日。

番外編は前後編で長いの1本、中位の2本、短いの1本の予定。

明日のは中位のです。

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