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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
98/111

3-ED 【表】

屋上の床を吹き飛ばし、瓦礫を巻き上げ、天に向かうが如く宙に舞うヨウ・ユエン。

それを尻目に見ると、初老の男はその白い髭を撫でて笑った。


「まあ、見えた結果ではあったか。人の身では天災には勝てんのは当たり前の事。勝てるとしたら真の意味での天才か、それとも人に選ばれた者か、もしくは更に別の怪物くらい………こうして上げると意外と多いか?」


そう言いながら降ってくる石礫を涼しい顔で避けている。

動きに迷いはなく、完璧に躱している証明として、着ている渋色の服には一欠片の小石すら付いていなかった。

そしてその腰帯に差した剣の柄に手をかける。


「そら、機は熟したぞ? いい加減機嫌を直せバカ者」


そう言いながら剣を抜―――“カチン”


「まったく、たかが他の剣を気にしただけでいちいち面倒くさい」


剣を抜いたと思われる瞬間、それに重なるように、すぐさま鯉口が鳴る音がした。

それは剣を抜き斬りつけたとは考えられないほど短い時間。

そもそも“剣”は鞘の形状から想像しても、抜刀術をおこなえる“刀”とは似つかない形である。

しかし、その柄に手をかけ鯉口が鳴る僅かな時間に、男に降り注ごうと迫っていたはずの瓦礫が、突如空中から姿を消していた。

剣で掃ったと考えるのも想像しがたいが、男の前後の挙動から見ても、そうと考えるしか選択肢が無い。


「お前と出会ってもう70年? いや、そろそろ80年か? その偏屈な性格は私の代でどうにかしないと、次の担い手が苦労しそうだ」


“まあ、そう思い立ってから70年近く経ったのだけど………。”独り言にしては大きな声で男はスタスタ歩いていく。

やがて、屋上の端から端まで横断するように歩くと、そこから迷いなく飛び降りた。

空中で体勢を整える事も無く、もう一度柄に手をかけると、力を込―――“カチン”


「そら、北方商事解体っと」


地面ぶつかる直前でその勢いが急速に衰え、無傷で降り立った男はまた何事も無かったように歩き出した。

その足取りの軽さは、たった今約40mの高さから飛び降りたと想像できる者は居ないだろう。

それでも男は若干の速足で歩いていく。

そして路地に入ると、影に溶けるように消えていった。


崩れていく速度を上げた、北方商事のアジトを後に残して。



「おわあああぁぁぁぁぁ!!! 一気に崩れたああああぁぁぁぁ!!!」


牢屋を脱出し、不思議な声(?)に呼ばれた俺は、導かれるままに複雑な廊下を抜けると、なんと! 捕まっていた北方商事なる建物から脱出することが出来た。

ハッハッハ! 自分の強運が怖い!


………だが脱出したことで問題が発生する。

この建物に残してきた奴等はどうするかである。

中にいる事が確定してる味方は三人。

まず俺が脱出するきっかけを作ったレオン。

別に存在を確認したわけでは無いが、ここまで派手に暴れるのはアイツくらいだろう。

逆に全然知らないヤツがたまたま来て暴れた可能性も無くは無いが、襲うにしてもこの組織がテティスで中々の地位を獲得しているのだから、白昼堂々襲撃するとは考えづらい。

コイツはまあいいや。置いて帰っても勝手に脱出するだろうし、ほっといても晩飯時には腹が減って戻ってくるだろう。

問題は次の二人。

牢屋内の賭けで俺に負けて部下になった………こうして考えるとずいぶんな理由である………ダグラスのおっさんとマーク11歳。

この二人、助けるのは良いが地下牢の部屋から出ているならともかく、地下にまだ潜ったままなら見つけるのは面倒である。

なぜなら―――


「さっきの複雑な道いちいち思い出さなきゃいけないのかなぁ?」


そうである。

脱出時は謎の声(?)にガイドをされたから良いのだが、その分俺は道は覚えていないのだ。

思い出すにしてもあの道は複雑なだけでなく、所々壊れ欠けていたり、荷物が散乱していたりした。

つまり、道が崩れて塞がったり、荷物の位置が変わっている可能性があり、一度通った道が俺の記憶と同じような形をしているとは限らないのだ。

ついでに俺がもう一度入ると迷って出られなくなる普通に可能性もある。

………別に「また入って敵と遭遇したら怖いな~」とかではないぞ。

まあ、両者頑張って自力で脱出してくれ。


そんな事を思って北方商事を見上げていたら、いきなり目の前で崩れた。

何を言ってるか分からねえだろうが、心配するな。俺もわけわからん。

元々廊下に穴が開いたり、外壁にヒビが入っていたりしたので、“うわぁやばそうだな~”くらいは考えていたが、まさか一瞬で崩れるとは思わなかった。


「(あーコレはアレかな? 『ダムを崩壊させるのは鼠の巣ほどの穴』みたいな? 違うか?)」


耳をとてつもない音量を内包した風が通り抜ける。

地面には立っていられないほどの地響きが走った。

上階が内側に崩れるように墜落し、大質量の物質に押し出された空気は、爆風のように砂ぼこりを巻き上げる。

その巨人の張り手のような勢いになすすべも無く飲み込まれた無力な俺は、叫びながらそんなバカな事を考え吹き飛ばされ、どこかの壁にぶつかり動きを止めた。

そして動きが止まったとしても、全身に刺さるように飛んでくる砂、砂、砂。

砂粒もここまでの速度があれば凶器だと身をもって実感した。


目も開けられないほどの爆風が吹き付ける事、数十秒。

風が通り抜けた後、そこには瓦礫の山と未だ空中を舞い踊る砂だけが残り、元々あったはずの建物の痕跡は、数本奇跡的に残った柱が名残惜しそうに立っているだけである。


「がー………ぺっぺっ! あー爆破解体ってこんなのかな?」


体に付いた砂を手で払い、口に入った砂利を吐き出し、俺は立ち上がる。

全身を二種類の痛みが襲う。

具体的には打撲系と刺激系。吹き飛ばされて壁にぶつかったり、砂が飛んできて刺さったりしたからだろう、所々から出血している。

それはともかく、あいつ等死んでないよな。

レオンは良いとしても、マークとダグラスは地下から脱出してそのまま圧死とかないよな?

だが俺の前に広がる更地に動く者は無い。

動く物はあるがそれは生物ではなく、時間差で崩れる柱などである。


「糞ッ!」


失った人材に思いをはせ、ヤケクソ気味に地面に積もった砂を蹴り上げる。

別に死んだかは確定ではないが、この状態ではレオンはともかく、マークとダグラスは絶望的だろう。いや下手したらレオンすらマズい状況かもしれない。


「(死)」


浮かんだ言葉が頭から離れない。

この世界では命が軽いとは分かっていたし、ブッチャーしかり目の前で人の死を見たが、さっきまで話してた、友好関係を築いたヤツの死がここまであっけないとは。


あの二人は少し話しただけで気の合う事が直感できた奴等である。

こっちの世界に来てからやっとまともな友人関係を築けると思えたのだ、俺は惜しい奴等を失ったのだろう。

………だが、俺が感傷に浸ろうと蹴り上げた足に何かが引っ掛かった。


「ん?」


それは、真っ白な鞘に収められた剣であった。

外見(鞘)から想像するに、日本刀のようなのけ反った形ではなく恐らく西洋剣のような左右対称の両刃剣。


「(なんだ? 建物から飛んできたのか?)」


そう思った瞬間


『キーン』


と、頭に響く音でも臭いでもない不思議な衝撃が俺を襲った。

この感覚は覚えがある、どころか………


「………まさか、俺を導いたのはお前なのか?」


今のセリフは、はたから見たら剣に話しかけるヤバイ奴だ、分かってる、ちゃんと客観視できてる。

が、それでも俺は確信していた。

この剣が俺を北方商事内から外まで導いた存在だと。


拾い上げるとサラサラと砂が滑り落ち、完全に持ち上げ眼前まで持ってくるが、不思議な事に鞘には一粒の砂もついていなかった。

剣はやはり……というか、見た目通りずっしりと重い。

多分金属バットより重いんじゃないんだろうか? 

野球歴3年前後(ほかのスポーツと重複)の俺がそう思うのだから多分あってるだろう。まあ、金属バットなんて練習でも使った事ないけど。


「俺、剣は剣道3年弱(ほかのスポーツと重複)しかしたことないけど、メイン武器に拾った剣でいいのだろうか? ………まあ、当たるか分からんパチンコよりマシか? あ、つーかそんな事してる場合じゃねえ!」


ブツブツと独り言を話すのも実は悪くない。一度別の事を考えたおかげで頭が晴れた。

とりあえず生き残りを探そう。


「(えーと………まずはレオンだな)」


そう思って俺は笛を取り出し、吹き鳴らした。



「何ですって! 街の役人に喧嘩を売った!」

「いや、それはサクラちゃんを守るためで……」

「何馬鹿な事を言ってるんですか!(パァン!!)」

「いぎゃああああ!!」


冬の澄んだ空に、美少女の平手打ちの音が響いた。


アキラが攫われて3時間。

レオン達が北方商事に特攻して約1時間。

陽が頂点に達しようとする前、サクラはアキラの姿が朝から見当たらない事に気づいてしまった。

既に嫌な予感がしていたサクラは、手近な男連中に聞き取りを行おうとすると、全員が避けるように離れていく。

この事でアキラが何か裏でやっていると、父親(ハルマ)の話を暗記するほど聞いたサクラは、確信した。

走って近づくと逃げていく男連中、確信をさらに深め数分間の追いかけっこの後、袋小路に追い詰めたサクラは、先ほどまで走り回っていた疲れも見せずに笑顔で詰め寄った。

『何か知っているなら話せ』と。

その笑顔の迫力と、単純に女性慣れしていない事で、男連中は明朝行われた集団リンチについて、あっさりとゲロった。

作戦の詳細、使用した方法、ターゲット、なぜそう言う事態に陥ったか。

その全てを余すことなくゲロった。

それに対してサクラは返答と共にビンタを行った。

それが先ほどの場面である。


「ぎゃああ!! いてえええ! 無茶苦茶いてえええ!」


過剰なほど大声を上げて悶えるように転がる男。

ただの平手打ちと侮るなかれ、完璧なスイングから放たれる平手打ちは、人体に対し凶悪な痛打となる。

そして、稀代の天才であるハルマの愛娘、サクラの一撃はまさしくそれであり。

子供の頃にハルマは護身術の一つとして教えたつもりの技だったが、サクラが自己流で鍛え上げた一撃である。

サクラの現在の戦闘力は微妙だが、その武に関する才能は受け継がれているようで、平手打ちは仕置きとしては絶大な効果を持つ一撃であった。

現に痛みに地を転がる一人を見て、追い詰められた男連中の顔は恐怖にひきつっている。

平手を行い赤くなった手を軽く振りながら、視線を男連中に戻すサクラ。

彼らはその視線から逃げるように袋小路の隅に集まり背を背けている。


「で、アキラさんはどこに行ったんですか?」

「………」


背を向けたまま答えない男達、その団子の内でも最も外郭にいた一人が、肩を掴み振り向かされる。

振り向いた男の目のまえには花の咲くような笑顔で笑う美少女が、先ほどと同じ問いを問いかけてくる。


「アキラさんはどこに行ったんですか?」

「分かりません! ごめんなさい!」

「では探してきてくれますか?」

「イエスマム!」

「あらあら、冗談が言えるなんて元気がいいんですね?」

「ごめんなさい! いや、すみませんでしたぁぁ!!」


そう言って走り去る男。

サクラの口調は丁寧で、表情も笑顔のままだが、そこには有無を言わせぬ迫力があったのだ。

そして他の男衆はまだ隅に埃のように詰まったままだが、それほど時間がかからず街にアキラ捜索に駆り出される事になるだろう。



街に散った男たちの後姿を見送りながら、サクラは先ほど聞いた話を頭の中で整理する。

サクラ自身の感想としては、アキラ達が行った作戦は『余計なおせっかい』である。

実際、汚物(アミゴ)が近寄ったとしても、サクラは笑って受け流すだけであり、しつこいようなら先ほどのビンタで応対するだけの事である。

サクラは美少女である以上、その手のナンパに対する免疫は付いており、父や兄と言った警備員が居なくても、自力で対応する事は余裕なのである。

だが、重要なのはそこではない。

彼女にとって真に重要なのは、アキラが自分のために動いてくれたと言う事である。

事実、先ほどから笑顔絶やさずに対応しているのは、ただ単に笑顔をこらえきれていないだけで、彼女だって怒った時はちゃんと怒った顔をする。


「うふふ……うふふふ………」


彼女は笑いをこらえながら、アキラを探して街を駆ける。

探しに走らせた男達を信用していない………訳ではないが、彼女は自分自身の手でアキラを見つける方が早いと考えたのだ。

実はサクラ、テティスの街に来て数日だが、大通りはおろかそこから派生する百近い裏道の大部分を記憶していた。

特に意識して記憶しようとしたわけではないが、昔から物覚えは良い方であっただけだが、今はその才能すら運命ではないかと、彼女の少女脳は錯覚している。


「(アキラさん、アキラさん、アキラさーん)」


まるでスキップするようにリズムよく跳ね走る彼女の頭の中は、今はアキラの事でいっぱいだ。

ここで一番にアキラを見つけてしまったら、彼女はどうなってしまうのだろうか?

しかし、


「あ、サクラちゃーん! 待ってーー!」

「え?」


いきなり声をかけられ、彼女の足が止まる。

声の方に視線を向けると、そこには箱庭から一緒に帰還した少女の一人が手招きしていた。

その顔には焦りともとれる表情が浮かんでいた。

尋常ならざるその雰囲気にサクラはアキラ捜索を一旦打ち切り彼女の方に駆け寄る。


「どうしたの、そんな顔して?」

「え? 顔変だった?」

「うん、遠くから見たら」

「うそー! ………ってそんな事話してる場合じゃないの! アキラさんは?」

「え? 何でアキラさんが出てくるの?」 


一瞬、彼女の少女脳は目の前の少女もアキラに恋慕しているのではという可能性を提示する。

状況から速攻で『無い』と断定するが、それはそれでなぜアキラが話に出て来たか分からない。


「(アキラさんが女子に呼ばれる理由とは? 箱庭組では先頭を切って作戦を考えてたみたいだし、こっちに帰ってもどうにか皆を引っ張ってるし、きっとそっち方面だよね。………違うよね………? 恋の相談とかじゃないよね? ううんきっと違う。アキラさんがかっこいい事はまだ気づかれてないはず、それと性格がイケメンな事も、それと何でも器用に出来る事も………)」

「サクラちゃん? 話聞いてる?」

「あ! ごめん考え事してた」


脱線しかけた思考を引き戻されたサクラは、頭を振って話を聞くことに集中する。

その話は予想外の事だった。


「あの降ってきた真っ白な女の子が目を覚ましてアキラさんの事を呼んでるの! なんでも結婚とか旦那さんがどうとか!」

「はい?」



「“    ”“    ”“    ” うむ、相変わらず聞こえん」


風通りの良くなった元アジト・現更地に、聞こえないはずの笛の音が染み渡っていく。

吹きながら耳を澄ませたが、やはり何も聞こえないので、“染み渡っていく”の辺りは想像でしかないが。

コレが聞こえると言う事は、やっぱりレオンも天才なんだなぁ………。


「うーん癪だな。言動が馬鹿だからより癪だ」


俺はしみじみと、至った思考に頭を悩ませる。

馬鹿と天才は紙一重という言葉があるが、それにしたってレオンは馬鹿すぎる。

箱庭で閉じこもっていたため、外を知らないだけかもしれないが。

そもそもあの異常可聴域は野性とかで後天的に獲得できる類ではないのか?

……出来るのかな?


「“    ”“   ”“   ” おーい、レオーン、出てこーい」


そんなどうでもいい事を考えながら笛を吹き吹き更地を歩く。

聞こえてるならレオンは出てくるはずだ。『うるせー!』って。


「うるせぇぇぇえ!」

「そう、こんな風に………。あ、レオン“   ”」

「うるせーって! 嫌いなんだよそのキーキー音!」


近くの瓦礫を両手で吹き飛ばし出てくるレオン。

惰性で吹いた笛にちゃんと反応ので、変なところで律義な奴だ。


「おう、何とか生きてたみたいだな。お疲れ」

「おい、一応俺はお前を助けに来たんだが?」

「だから感謝の言葉を言っただろ。“お疲れ”って」

「一言かよ!」

「ん? あとの感謝の気持ちは現物支給で……と、思ってたが感謝の言葉を重ねた方がいいか?」

「現物ってなんだ?」

「パンとか肉とか」

「じゃあそっちのほうでいいや」


こういう会話をするとお互いドライな関係だと思います。

まあレオンを一番に見つけたのは後に人間を見つけやすくするためだ。

さっさと見つけて帰ろう。


「じゃあレオンあと二人見つけてくれ」

「お前は何もしないのかよ」

「お前の鼻が役に立つのさ~♪」

「何それ」

「青鼻のトナカイだったかな? まあ、良いんだよ歌は。お前ならその超五感で見つけられるだろ」

「別にいいけど、後で肉」

「ハイハイ(……餌付けみたいだな)」

「餌付けってなんだ?」

「何だろうな~」


聞こえるかどうか分からないレベルの小声に反応するとは、相変わらず耳が良い奴だ。

今からその耳を利用すると考えれば頼もしいけどな。

ところで、俺の前を進むレオンが振り返って問うてきた。


「で? 二人ってクリスと誰だよ?」

「え? クリス来てんの? じゃあ三人だな」

「知らなかったのかよ!」

「分かるわけないだろ。俺は地下に居たんだぞ」

「地下?」

「そ、地下。だからワンチャンあるかなと思ってな」

「わんちゃん?」


そう言って俺はレオンに地面を踏みしめ、すぐに地面の音を聞くように指示を出した。

すると―――


「―――お、確かになんかあるな」

「どこだ!」

「向こう」


地面を鳴らすほど踏みしめれば、レオンの耳ならエコーロケーション的な方法で空間が見つからないかと思ったが、どうやら成功したようだ。

そうしてレオンが指さした方角に向かうと、当然ながら地表には更地しかない。

そこで高く積もった瓦礫をレオンがどかすと、見覚えのある床が見えた。


「なんか聞こえるな」

「へー、なんて言ってんの」


床は石材で出来ているため厚く、俺には何も聞こえないが、レオンには二人の声が聞こえるらしい。


「“殺してやる”とか、“ぶっ殺してやる”とか」

「それ一緒じゃねーの? というか物騒だ! レオン早く引っぺがせ!」


瓦礫の重圧で変形し開かなくなっていた床板を、レオンが力ずくで引っぺがす。

すると、俺にも声が聞こえるようになった。

その声は………


「だから先に出とけば良かったんだ!」

「ドアが変形して出れなくなるなんて予想できるかアホ! あのタイミングは出ない方が良かったんだよ!」

「知るかちくしょう! 殺してやる! お前を殺してでも生き残ってやる!」

「上等だクソガキ! 大人の怖さ教えてやる! 返り討ちだコラァ!」


醜い争いに俺はそっと床板を閉じた。

そっと閉じたのに“ギギギ”と音が鳴った。


「え? 助けないのか?」

「あー……うん。ちょっと迷っただけ、タスケルタスケル」

「どうでもいいけど、後で見つけた分の肉はちゃんともらうぞ」

「おう、それは任せろ。お前は臭いか何かでクリス探しといて」

「おー」


そう言って先ほどとは別方向に去っていくレオン。

多分クリスを探しに行ったんだろうが、この粉塵巻き上がる中で探せるのか?

しかし、人間と言うのは醜い生き物だな。

音にも気づかずに目先の喧嘩とは、まったくもって度し難い。

でも見つけた分には助けた方が得だよな。仕方ない………。

俺は床板をもう一度開いた、今度はより音が響くように。



「んー? んー? んんー?」


唸りながら首をひねるレオン。

アキラと別れたレオンはクリスを探すために匂いを探っていた。

だが、いまだ巻き上がる粉塵は消えていない。

時間と共に薄くなるだろうが、それでは逆にクリスの生死にかかわってくる。

レオンが最後に見た時、クリスは倒され瓦礫の上に転がっていた。

それだけならまだしも、その後アジトは崩壊。

アジトが崩壊したの理由の半分はレオンが暴れまわったことが原因だが………。

あのままの状況だとクリスには大量の瓦礫が降り注いだだろう。


「死んだかな?」


縁起でもない事を口走るレオンだが、咎める者は誰もいない。

そして、状況的にもそれはあり得ない可能性では無かった。


周りを見渡す限りの瓦礫、瓦礫、瓦礫。

アキラは気づいていなかったようだが、そこかしこに肉や骨、血が飛び散っている。レオンは直感的に人間の物だろうと思った。

被害者の多くは建物に押しつぶされた者だが、レオンが手にかけた者も混じっているはずだ。

意外かもしれないが、レオンにとって死体はそこまで見慣れた物では無い。

箱庭ではレオンに向かってく挑んでくる動物など皆無であり、人を殺したことすら半年前の戦争が初めてである。

喰らうために殺す事はあったが、それは生きるために必要な“獲物”として見ているため、“死体”として放置する事は無かった。

だから、この地獄のような光景もレオンにとっては見慣れない新鮮な景色だったのだ。


「やっぱりいいな。新しいモノは………っと!」


鼻歌交じりで歩いていたレオンは、ある瓦礫の前で立ち止まる。

その瓦礫は折り重なるようにして形成されており、その下からは空気の流れが見えた。

匂いはそこから流れている。

レオンはそこに足を刺し込むと、蹴り上げるように振り切る。

瓦礫は重さも無いように吹き飛び、遠くの地点に着地、轟音と砂ぼこりを上げた。


「おーい、生きてるか?」

「………助けるつもりならもっと丁寧にお願いしますよ……………」

「ん、すまん」


レオンの話しかける先にはクリスが倒れていた。

どうやら所々から血は流しているが、意識はしっかりとしているようだ。

レオンの差し伸べた手に対し弱々しいが握り返している。

引き抜くよう持ち上げると、ズルズルとあまり抵抗なく抜けた。


「簡単だな。これなら自力で出れたんじゃないか?」

「無茶言わないでください………。何でか体が動きづらいし、そもそも君みたいに超人じゃないんだから………。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、脱出は無理ですよ………」

「ふーん、まあいいや。アキラは見つけたしさっさと帰るぞ。腹減った」

「そうですか……アキラさんは無事ですか」

「今日の昼飯はなにかな?」

「聞いてないし………。ッッッ! すみませんレオン、肩を貸してください」

「ん? 肩は取れんぞ?」

「そうじゃなくて寄りかからせてくれ……って事です」


呆れながらもクリスは負傷した体をレオンに預け、力なく歩く。が、しかし、レオン気遣うなどの高度な対人スキルがあるわけも無く。

少しは歩く努力したが、最後には諦めたようで引きずられ。

結果、クリスは力なく運ばれているようだ。


そして少し歩くと、砂ぼこりの向こうにアキラが手を振っているのが見えた。

長くなったので結果分けた。

次回、【裏】面は明日更新予定。

………予定なので期待はしないで……。

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