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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
97/111

3-43 『傲慢』VS『飛雷針』Ⅵ

聞きたいことがある。(???)

「その話をするには少し前説がいるな。

「古い時代の話をしよう。

「神と呼ばれる存在がまだこの世界に生きていた時代の話を。

「古くよりこの地には人がいた。

「コレは猿辺りから進化した類人猿とかクロマニョン人とか言われるヤツの事だ。

「そいつらは森で果物を食ったり、荒野で獲物を捕ったりして過ごしていたらしい。

「ここまではお前の知っている世界の歴史と同じなんじゃないか?

「だが、ここらで少しずつ世界が乖離するはずだ。

「神々の降臨だ。

「初めに10の神が現れた。

「そいつらは隕石にくっ付いたり、彗星から振り落とされたりしてこの世界にやって来た。

「名称を付けるなら放浪神かな?

「とにかくフラフラしてる奴等さ。

「こいつ等は別に害があったわけでも無い。

「火とか鉄とか教えて文明を若干加速させた、くらいかな。

「だから、もしかしたらお前の世界の歴史にも少しは残っているんじゃないか?

「そうだな、来訪神とか呼ばれてないか?

「問題は次に来た神だ。

「来たのは闘争神とか戦神とか言われる奴等。

「はた迷惑なことにケンカで決着が着かなかったから代理戦争を起こそうと降臨した。

「数は20。

「先に来た神々は偶然たどり着いただけだから、戦争なんて弱くてね。

「端っこに追いやられて歯噛みしてたよ。

「奴等のせいで増えてた人口が3割減ったらしい。

「しかし歴史はここまででも序の口。

「次に現れたのは、なんだと思う?

「ヒントは今までの神々とは真逆の存在。

「………そう、土着神だね。

「うん、精霊とか土地神とか言われる奴さ。

「奴等は人々の戦いの影響で偶然か、それとも星が意図して生んだのか.........。

「まあ…両方かも知れないけど………。

「何はともあれ、土着神共はその時星に居た外神を排除するために現れた。

「数は30。

「とんでもなく強かったらしくて、外神達を片端からボコして土地を取り返したそうだ。

「何でかはよく分からんが、その過程で人と交わったりしてね。

「うんそう。水星で細々と生き残っている奴はその生き残り、子孫の括りでいいかな?

「まあ、その星で生まれた奴らが一番その環境に適してるのは当たり前だけどね。

「だが次に来る神々は更に厄介だったのさ。

「神々の中でも特に面倒な暗黒神。

「あ、暗黒ってつくけど、悪さをするとかの邪悪って訳ではないよ

「数は40。

「宇宙どころか、更にその先……って言うけど、別に直で繋がってる訳じゃ無いぜ。

「暗黒の渦、外なる大宙、一番分かりやすいなら銀河系の外かな?

「こっちからは観測すらできない、ナニカさ。

「そして奴等はそのナニカから、時間軸、空間軸、丸々無視して飛んでくる化け物どもさ。

「まあ、住んでる次元が文字通り違うから仕方ないけどね。

「土着神も、戦神も、放浪神も、流石に引いた。

「だって普通、来るはず無い奴等だからね。

「問題は暗黒神どもも驚いていた事。

「奴等にとっても不慮の事故不測の事態だったらしい。

「更にエネルギーが足りないのかそれとも能力を失ったのかは知らないけど。

「奴等帰る方法が無いときたもんだ。

「星中を右往左往して、結局奴等もこの星に住み着いた。

「こうしてこの世界に合計100の神々が住み着いたのさ。

「………だが100も神々が住み着いた世界は必然的に狭くなる。

「体形の話じゃない。

「形態の話さ。

「人の思考リソース………ザックリ言って信仰をもって神々は存在する。

「コレは生き物として物理的に存在した、奴等も例外ではない。

「簡単に言うとどれだけ影響を与え、影響を与えられるかの関係かな。

「難しく言うなら精神生命体が他者の思考時に発生する上澄みを消費してうんぬん。

「ま、つまりはクマノミとイソギンチャクみたいなもんだ。

「だから何処の神々も信仰を必要とする。

「だが星には100もの神々を存在させるだけの人が十全にいない。

「あれ? このままじゃヤバイぞ? じゃあどうする?

「よろしい、ならば戦争だ。

「ハハハ、かくして星は戦火に覆われた。

「それも前に戦神共が起こした人を使った代理戦争とは違うぞ。

「正真正銘神々の戦いだ。

「これをこの世界の歴史ではザックリ1000年くらい前。

「名を【神代戦争時代】と呼ぶ。

「この戦いのさなかに破壊神とか創造神とかが関わってくるんだけど割愛。

「とりあえず、世界の歴史とか神々とかの前説は以上。

「次は君の知りたがった話だけ教えよう。

「特異点である、三人の神殺しについて。



壁が速度を持った質量物とぶつかり、突き抜けた。

質量物とはヨウの事である。

速度とはレオンの拳との衝突で発生した物である。

突き抜けて、突き抜けて、突き抜けた。

壁を三枚ほど抜けたその先は雑務室とであった。

雑務室と言いながら実態はチンピラや半グレモドキがたむろしていた場所だが、現在は二人の戦闘の影響か誰もいない。

戦いに駆り出されたか、死んだか、それとも、逃げたか。

いつもなら喧騒の木霊していた場所に、空白のように静寂があった。

それこそ崩れた壁が床にぶつかる音しか聞こえなかった。


「(ゼヒュ…ゼヒュ………)」

ヨウにとって、もはや口は空気を漏らす場所でしかない。

先ほど腹部に刺さった拳は致命的であった。

内臓は潰れた。もうどうしようもないほどに。

骨は砕けた。直接干渉したわけでも無いのに。

立ち上がる事すら遥かに遠く。

喉を逆流する血は酷くマズい。

肌を撫でるのは砂ぼこり。

目に映るのは、砕けた瓦礫と誰もいない部屋。


「(ココが死に場所か……? そうか………)」



「(()()()()()()()()()()())」


燃え上がる意思は時として人を極地に至らせる。

本来ならば死んでも何らおかしくない一撃を受け、それでも立ち上がったヨウの脳裏には古い記憶が反響していた。


「(これで……! これで………生きられる!)」 最初は親に裏切られ、

「(悪いなヨウ。サヨナラだ)」 次に友だと思っていた者に裏切られ、

「(ならば死ね)」 最後に世界にまで裏切られた。


裏切りに遭いながらも、生きて、生きて、そして死んだ男は。

結局、残った自分しか信じない。

正しくは、自分しか信じられない。

燃え上がる心象に名を付けるなら、それは孤独。

そして孤独は頂点と同じ属性を内包する。

つまりは周り全てが異質。

同等は隣に存在せず、ただはるか遠くにのみ存在する。


だからこそ切り込むことに何の躊躇もない。


「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


悲鳴とも慟哭ともとれる絶叫と共にヨウは自らの体を作り出した針で滅茶苦茶に突き刺す。

針が一つ突き刺さるごとに血が噴きだす。

しかし、それと同時に雷撃が走る。

自らの顔に行った行為と同じく、熱によって無理やり出血を止めているのだ。

彼の現状は自殺を考える事が何ら不思議ではないが、だからと言って自殺にしては痛々しすぎる。

気が狂ったとしか言いようのない行為だが、その目には確かに意思が灯っていた。


そして肉と血の焼ける匂いが充満する中その手が止まった。

すでにヨウの全身にはいたるところに針が突き刺さっており、なおかつその針は電撃を纏っていた。

“ハッ…ハッ…”と浅い呼吸を繰りかえし、覚悟を決めたように目を閉じる。

強く歯を噛み締めながら、それでもヨウは一歩踏み出した。



ヨウが二つ目の壁を抜けた先に一人の男が立っていた。

見下すように顎を前に突き、腕を組み、肩幅以上に足を開いた男が居た。

明らかに動くことに適さない体勢でありながら、その身に纏う気はまるで変わらない。むしろ先ほど以上に気が増しているかもしれない。

『傲慢』の名を冠する男は、ただその場に()()()()()()()()()()()()で立っていた。


「攻め込んでこないのは、俺の雷撃を恐れたか?」


ヨウが話しかける。

自身の今の状態を見ても、その変わらない表情に違和感を覚えたから。


「いや? お前のビリビリは別に怖くない、ただ………」

「ただ……?」

「やり残したことがあるからな」


そう言って『傲慢』は組んでいた腕を解いた。

手のひらは握らずに両手を広げ、ゆっくりと体の横に持ち上げる。

完全には広げずに少しだけ曲げたその腕は、何処か野性的な威嚇を内包しているのだろう。先ほどまで纏っていた気が前方に向かい牙を剥く。

その先に立ったヨウの耳に空気が“ビリビリ”と鳴く音が聞こえた。


「(ああ………)」


ヨウは悟った。

ここは、この部屋全体が、前世で幾度となく踏み込んだ死地であると。

そもそも本来ソウルとは内部に貯めるものだ。

内部に貯めたソウルを消費する事で動くことが出来る、ならば逆説的にソウルが無ければなにも出来ない。

二つ名を使用する事も、動くことも、である。

それは電池で動くパソコンに似ているのかもしれない、エネルギーがあってこその、機能の使用、起動。

だが稀に、純粋にソウルを放つことが出来る者が居る。

ソウルを使用し攻撃を放つ二つ名は存在するが、それはソウルを別の力に変換しての能力である。

必ず制約や限界が決められて縛られている比較的安全な力だ(その制約や限界が使用者の意思で無視することが出来るとしても)。

ただし、人体を動かすために使用される力を外部に放つと言うのは、その時点で自殺行為である。

下手をすれば死に至る無謀、それを行えるものは必然的に――


「(――そのソウルが有り余っている者だけ……か……)」


目のまえで戦闘体勢に入ったと思われる男は、先ほどまでの戦闘で負ったはずの傷は目に見えて減っている。

刺し傷・裂傷等の傷がすぐさま完治するなど普通はあり得ないが、ソウルが潤沢な物はその分、純粋な身体能力が高い。

傷の完治はともかく血を止めることくらいなら出来ても不思議ではない。


「(いや、そもそもヤツは雷撃をまともに食らってすぐに動き出すようなヤツだったな。空気を揺らせるほどソウルが多いなら、あの尋常じゃない回復力も納得できる)」


半ば呆れたように思考を巡らせたが、首を二度振り、マイナス思考を今一度絶つ。

両手を前方で交差させ、生みだしたばかりの針を握り、ヨウは戦闘体勢を取った。

体に突き刺した針は、体表に纏うだけだった雷撃を自在に発射するための装置。

たった今手から生み出した針は、先ほど突き刺しそこなったヤツ専用に調整した針。

何より、ヨウには確信がある。

死地こそ、逆境こそ、彼の真骨頂。

幾度となく超えた死線こそが彼を今の地位まで押し上げた理由。

今世では今まで踏み込むことが無かった、懐かしき死と隣り合わせの世界。

そしてヨウは、今回もまた超えて行けると確信していた。


「行くぞ、覚悟は良いな!」

「来い、殺してやる」


嬉しそうに『傲慢(レオン)』が問うた。

冷めた声で『飛雷針(ヨウ)』が答えた。

これより起こるのは、北方商事最終戦、最後の10秒間である。



「ところで話を持ってくるって事は、神殺しは分かるよな。

「神代と言うぶっ飛んだ時代にて、神以外の存在が神を殺した。

「それが神殺しの起源。

「無論、数は多くは無いし、不条理を条理に、不可能を可能に、するだけの理由はある。

「いや、今は()()()か。

「ともかく神殺しを行ったのは3人………人? まあ人ではあったか。

「名前はともかく、存在だけは認知されてるだろう。

「災害の原点、竜種の起源、源流の開祖、この三人だ。

「こいつ等はどいつも面白いが一番はやはり災害(ハザード)だろうな。

「ハザード一族。

「銀の災害といわれ、一時期腕力だけで世界一栄えた一族だ。

「今は見る影もないけどね。

「そいつらの真祖………いや正しくは神祖かな?

「どっちにしろ、こいつはとんでもないぜ。

「何せ―――



〈10〉

まず、レオン倒れるように跳ねた。

前のめりにヨウに向かって跳ねた。

その速度は二人の間にあった距離が一瞬で消していくほどだろう。

しかし、それを読んでいたのか、レオンのスタートからわずかに遅れるようにヨウは後ろに飛んでいた。

結果二人の距離は縮まるが殴り合うほどの間合いにはならなかった。


〈9〉

ヨウは縮まる距離を嫌がるように両手に持った針を投擲する。

向かい合うような二人の位置関係上、飛ぶ針はレオンと衝突するまで一瞬すらかからなかった。

だがその投擲をレオンは更に低く跳ねる事で回避。

針はレオンの上部を通り抜けるが……。


〈8〉

「あが!」


狙いすましたように、雷撃がレオンを襲った。

二人の距離は未だ開いている以上、ヨウは至近距離でしか雷撃を放てないので直接喰らったわけでは無い。

ならばなぜか?

側撃雷という現象である。

雷が直接落ちた場所の周囲で起きる放電現象の一つであり、主に高い樹木などから再放電されることで起こる。

今回はヨウが空中の針に向かって雷撃を飛ばすことで、その針の真下に居たレオンにも間接的に電撃を当てる事が出来たのである。

とは言え、それは分かれた雷撃。

レオンの不意を突いたとはいえ弱まった雷撃では完全に止める事は出来ない。

結果、レオンがわずかにたたらを踏み、二人の距離が広がる。


〈7〉

ヨウは飛び下がり腕を振るう。

するとその腕から針が飛び、床に次々と突き刺さる。

稼いだ距離を利用し仕掛けた簡単なトラップである。

踏めばそこに向かって雷撃を飛ばすだけだが、地味な嫌がらせだ。


〈6〉

レオンがリスタートを切る。

トラップなどお構いなしに踏み込み、突き立った針を蹴り飛ばすようにへし折った。

ヨウは雷撃を放ち先ほど同様に側撃雷が飛ぶが、今度はレオンの動きも止まらない。


「(やはり不意を突いて一撃を入れるしかないか……)」


ヨウの思考は正しく、“傲慢の鎧”には知覚できる攻撃なら弾く効果があるので、目の前でフェイントも無く放ったところで雷撃は当たらないだろう。

先ほどトラップを仕掛けた事と思考に少しだけ時間を取った事、そしてレオンが止まらなかった事で二人の距離が先ほどと同じだけ詰まった。


〈5〉

ここでアクシデントが起こる。

“ドンッ”

そんな音がしてヨウの体が前に押し返された。


「(壁か!)」


そう、穴が一か所開いているからと言ってもここは部屋であるなら、いや部屋である以上当然壁が存在する。

一方向に下がれば下がるほど壁にぶつかるのは当然である。

しかし、ヨウに選択肢は少ない。

既に目のまえには野球の投球ホームの如く拳を振り上げ、弓なりに体を大きく反らしたレオンが迫っていた。

追い詰められるより早く選択しなくてはならない。

右か、それとも左か。


「イヤ」


その思考を否定するように呟き、ヨウは上に向かって飛んだ。


〈4〉

弧を描くように振り降ろされた拳が宙を切った。

握りこまれた拳は床を砕き、その勢いに引かれレオンの体勢は深く沈みこんでいる。


「(勝機はここだ!)」


ヨウの考えは即座に実行に移される。

そのために突き刺した針だ。

脳の指令は電気信号、それを通すのは神経である。

ならば脊椎に突き刺した針がそれを拾い、雷電は針の先から全身の針を中継し体に纏う。

体の体内でなく体外を通す事で、電撃を纏うまでのごく僅かのタイムラグを限界まで縮める。

ヨウが全身に針を突き刺した理由はそれであった。

しかしこれは本来なら刹那の時間以下の時を縮めるために行うほどの荒行である。

全く持って正気の沙汰ではない。だが、その刹那が最も重要だとヨウは確信していた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


戦いの中でヨウが導き出した答えである。

幾度となく撃ち込んだ雷撃は数度その鎧を突破した。

だが、特に効果が顕著だったのは初撃だろう。

というのも、何度か突破した中でも、最も回復が遅かったのは初撃だったのである。

初撃とはつまり、こちらが何をするかをレオンが理解していなかった時。

そのため、コンマの時間レオンは反応が遅れた。

回復が遅れたのはそれだけダメージが多かったから。

ヨウはそう解釈した。

故にその“コンマ”に切り込む“刹那”が必要だったのだ。

勝たねば死ぬ場面において肉体の負傷など度外視してもまるで惜しくないのだ。


そして今。

刹那の時を経てヨウは雷電を今一度体に纏う。

それと同時に危機を察したかレオンが顔を上げた。

だがもう遅い。

重力に従い下る者、それをただ見上げるだけの者。

不意を突いた者、不意を突かれた者。

両者の構図が出来上がり、それは決着へイコールで繋がる式となる。

雷が目視では人間が避けられない以上、この攻撃は決まる。

ほとばしる雷電は先ほど壁を崩壊させ部屋を大きく広げた物と同レベルかそれ以上の一撃。

そんなヨウの本日最高の一撃が眼前に迫った時、レオンはニンマリと笑った。


〈3〉

ヨウは不可思議な現象を見た。

世界の流れがスポーツの映像判定などで使われるスローモーションのように明らかに遅延していた。

それはスポーツなどで言われる一種のゾーンと呼ばれる現象、達人たちがたどり着くとされる超感覚状態で、電撃を扱うヨウの能力が脊椎に刺した針を媒介に脳内に何らかの異常が起きたのかもしれない。

だが残念ながら、このスローモーションはヨウの見た不可思議なものではない。


目前に迫る雷電。

それを見て不敵に口角を上げる敵。

おかしいのはこちらだ。

雷が迫る中で笑う頭がおかしい?

確かに普通ではないが核はそこではない。

つまりは――


人間の筋肉が電気信号で動く以上、雷電が迫る瞬間を見て、笑うという表情の明らかな変化が追いつくはずがないのだ。


「〈異常〉〈異様〉〈異形〉」


ゾーンに入ったヨウはそれに気づいてしまったから、脳裏をそのような言葉の羅列が駆けた。


「〈偶然?〉」


最後に残った理性がわずかな奇跡を提示する。

こちらもあり得ないが、だが雷を目視して、そしてそれを理解して笑うと言う事よりは、あり得る。

そう決めつけ、ヨウの脳内で何の意味のない決定判決がなされようとした。

だが次の瞬間、レオンの手のひらが雷との激突よりも早く奥の壁に触れ、その体が弾き飛ばし雷撃の範囲外に逃げてみせた。


〈2〉

それは雷からの逃避という本来あり得るはずの無い偉業。

僅か一秒間の伝説をヨウ・ユエンは、まざまざと見せつけられた。

既に床板をえぐる雷も、それによって響く轟音も、ヨウには感じられない。


「(なんだ? なんだ? なんなんだお前は?!)」


疑問符で埋め尽くされる脳内は、周りの情報を遮断し目のまえの、金銀混じる髪をした男の存在に釘付けになっていたからだ。

あり得ない現象と目の前の現実がぶつかりループ、脳は一時的に機能停止に追い込まれていた。

だがフリーズしようが時間は残酷に過ぎ去る。

地面に平行に跳び下がったレオンが床を滑るように四つ足で着地する。

前進と後退、せめぎ合う二つの力の間で生まれる一瞬の間。

そしてさらに一瞬の後、弾かれたように飛び出した。


〈1〉

いまだ止まぬ雷撃の中に突っ込み、直進するレオン。

その拳は握られ、体の下を床スレスレに滑空する。

それに対して地面に降り立ったまま、動かないヨウ。

脳はともかく、体が追い付いていない。


不意を突いた者、不意を突かれた者。

重力に抗い昇る者、それを呆然と見下ろす者。

僅か1秒前に行われた事を再現する二人。

体勢は同じ、しかして内面は真逆。

そして結果もまた違う。


レオンの拳は巻き上がる竜巻の如く昇り、ヨウのガラ空きの腹部にめり込んだ。

だがその程度では止まらない。

拳を撃ち込むとほぼ同時、レオンのその足裏が地面を捕らえた。

強く強く踏み込まれたその一歩は、動きの流れを容易に変える。

横から斜め、斜めから上へ。

勢いは過不足なく拳に乗せられ、えぐるように天に向かう。

雷電を宙に残したまま、レオンは更に壁を垂直方向に蹴った。

昇る、昇る、昇る

二人分の体重を持ち上げてなお、勢いは上へ上へと向かって止まることは無い。

そのまま天井を打ち砕き、更に砕き、砕き、砕き………。


そんな中ヨウは何処か他人行儀に世界を俯瞰していた。

視界にちらちらと写る物は、燃え上がるような金色と吹き荒れるような銀色。

その脳裏によぎるのは一つの伝説。


「(……ハザード…………)」


しかしその最後の意識すら刈り取るようにレオンが拳を振り切った時、ヨウの体は拳から離れ最後の天井を撃ち抜いた。


〈0〉

噴火の如く天井が吹き飛び。

瓦礫が踊り石粉は噴煙の如く。

空を舞うは北からの進行を止める最後の砦。

その意識はついに無く。

ここに戦いの勝者が確定した。


北方商事最終戦

『傲慢』レオン・ハザードVS『飛雷針』ヨウ・ユエン

戦闘時間16:22

勝者 『傲慢』レオン・ハザード



「―――神が神を殺すためだけに生みだした生き物だからね」


そう言って、■■■■は始めて言葉を切った。


これは何時かの極天で交わされた会話の記憶。

前半は本当に少しだけですが変えた事と、投稿から時間が経ちすぎた事で、元々上げていた方は一旦消してアップし直しました。

今日中どころか一週間も遅れてすみませんでした。

次回はエンディング。長いので二つに切るかが悩みどころ。


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