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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-42 確信無き感覚

アキラさんはどこに行ったんですか!?(サクラ)

「あれ? 何してるんですかアキラさん」

「ん、おうクリスか。これは笛を作ってるんだ」


時間軸のズレた箱庭世界にだって朝が来れば夜も来る。

レオンとの鬼ごっこ、カミルとのバトルを経験し、一度離れた箱庭に舞い戻った俺たちは現在絶賛街づくりである。

とんでもない大事業だが、元々存在する街を基盤に通りを何本…イヤ何十本か再現するだけだ。

そう時間もかかるまい。多分……。


そんな中、陽がゆるりと落ちて夜が更けた中で、俺はわざわざ外に出て木材と格闘していた。

彫刻刀のような小さい刃物を片手に木材を切り崩していると、後ろからクリスに声をかけられた。

ちなみに他の野郎どもは宴会場で酒を飲んでいる

街づくりなんて大仕事を昼夜問わず行えるほど人間は強くないので、福利厚生という奴だ。

俺は酒自体そこまで飲まないから良く分からんが、あんなにガブガブ飲むほど酒は美味しいかね? ちょっと気になるような……ならないような………。

次の日の朝は基本ぐったりしてるとこを見てると、何事もほどほどが一番ということが良く分かるけど。


「笛? と言う事スポーツで使うみたいなホイッスルですか?」

「イヤ、どっちかって言うと楽器の笛に近いかな? コルク球とかも入れないからお前の考えてる“ピリピリピリッ”って音は鳴らないぜ?」


俺の作っている笛はリコーダーとかの木管楽器に近い。というかそれしか作れないんだけね。

それに「作る」と言っても大したことは出来ない。手彫りで細かく穴を空け、たまに空気の通りを確認する、だけ。

別に本職じゃないからそれなりに音さえ出れば問題ないし。


「というか手製で笛を作れる方が凄いと思うんですけど」

「子供の頃に学校で使うリコーダーを分解した事とかないか?」


今やっている部分は面倒でも難しい場面でもないので話す余裕があるし、ちょうど『一人は暇だなぁ…』と思ってたところなのでクリスとの話を続ける。

沈黙は苦にはならないけど、誰かと話せるなら話した方が楽しいし心に余裕が持てるしな。


「あります……って、あれって元々掃除のために三つくらいに分かれませんか?」

「いや俺は何で音が鳴ってるか知りたかったから、縦に真っ二つにした」

「えぇぇ………」


俺の質問にクリスは答えてくれたが、それは俺の思っていた分解とは違ったようだ。

刃物を扱っている以上手元から視線を動かせないが、なんだか信じられないものを見る目でこちらを見られている気がする。


「縦って、縦ですよね。吹く部分から息が出る場所までの直線ですよね」

「まあそうだな。大体左右対称だったし断面図が見たかったから、電動ノコを使ってスパッと」

「その後の授業をどうやって乗り切ったんですか……」

「瞬間接着剤って便利だよな」

「………」


沈黙は時に雄弁と聞くが、今がまさにその通りではないだろうか。

黙っているクリスから感じる視線は先ほど以上に強い。

何を考えているかなんとなく察せる程度には強い。


「まあ、そう言う子供の時の無茶のおかげでこうして手に職みたいなことが出来るんだから、人生って分かんないよな」

「良い話風にまとめようしないでください。はぁ……」


怒られたのか呆れられたのか。

その後、夏休みの自由研究に『笛の秘密』という題材で写真付きで使って担任にキレられた事を言ったらもっと呆れられそうだから黙っとこ。

いや、アメリカには夏休みの自由研究自体が無いんだっけ?


「で、何で今更笛なんて作ってるんですか?」

「工事に使うと便利かなーっと思ってな」

「ああ、なるほど!」


現在行われている工事はこの世界に科学が発達していない事を理由に基本全て手作業だ。

もちろん重作業なので体力の消費が激しい。

重機みたいなパワーバカのレオンとか、箱庭の支配者であるカミルとかが手伝えばもっと楽なのだろうが……。

あいにく前者は面倒事を嗅ぎつけたのか森に逃亡、飯時だけ帰ってくる。なんだ野良猫みたいだな。

後者は『死にたい』など口にしてテンションが著しく低く、いま変に命令したら更にナイーブを加速させそうで、そうなったら将来的にさらに面倒なので放置しかない。

役に立ちそうな場面で、どうにも使えねー奴ばっかりである。

そんな訳で少しでも体力の消費を減らそうと笛を自作してるわけだ。

これなら最低限の指示や、遠くへの注意などで、無駄に大声を出さなくて済む。声って実はかなり体力を使うからな。

俺個人の簡単な労働で全員の効率が上がるなら、俺はいくつでも小道具をそろえよう。


「たとえその結果が単純に宴会の時間が伸びるだけになってもな!」

「いやそれは……あーうん、あり得ない話じゃないから反論しづらいですね」


酒大好き宴会大好きな奴等の体力を保ってもそうなる可能性は十分ある。

本当にそうなったらどうしてやろうか?

とりあえず禁酒日でも作るか。


「そんな事を思ってるうちに完成!」

「え、本当にできたんですか!? わぁそれっぽい」

「何気に失礼なような? まあいいや試し吹きだ」


話ながらでも一歩一歩チマチマやってると完成はするんだなあ。

俺の手にはちょうどリコーダーの吹き口程度の大きさの笛が握られていた。

では早速吹いてみようと、笛を口につけて強めに吹いた。


「“    ”」

「あれ?」

「ん?」


しかし、そこから出たのは音ではなく、息だけだった。


「“     ”“    ”“    ”んん??」

「音…出ませんね……」


続けて三度ほど吹くがそれでも出てくるのは早い息だけ。

クリスは明らかにがっかりした声で呟いたが、仕方ないだろう。


「まあ超久々に、具体的には5年ぶりくらいに作ったんだからこういう事もあるさ。クリス、悪いが勘を取り戻すまで完成はまだ先だな」

「そうですか……残念といえば残念ですね。笛の完成した瞬間とか見たかったんですけど」

「まあ心配すんな。最終的には確実に音が鳴るようにはするし、工事が終わるまでまだ時間があるから、それまでには完成させるさ」

「うーん。あ、じゃあ兄さんたちにはまだ言わない方が良いですかね?」

「好奇心旺盛な子供みたいな奴等ばっかりだし、変に言ったら付きまとわれそうだから、そうした方が良いかもな」

「分かりました。ところで何か食べ物でも持ってきましょうか?」

「いや先に食ったから良いよ。お気遣いサンキュー」

「そうですか。じゃあ僕は宴会場に言ってるので、何かあったらそっちに来てください。では」


そう言ってクリスはこの場から賑やかな方へ去っていった。

クリスの凄い所は、客観的に物事を見て適切なフォローを提案してくれるところだ。

フォローを“する”のではなく“提案する”。

一歩置かなければいけないので速さは無いが、それでも情報の齟齬があったら取り返しのつかない事になる事だってあるので、この行為は俺的にベリーグッドだ。

気持ち的にはがっかりしただろうに、すぐに切り替えてくるところは、尊敬させたい奴らが山ほどいる。


さて、クリスの期待に応えるためにいい笛でも作るかな!

まずは、この笛の何が悪かったかを考えようか!



「オイ、さっきからうるさいぞ」

「おわぁっ!! いきなりなんだ!!」


俺の後ろから覗き込むようにして話しかけきたのは、件の野良猫レオンである。


「びっくりさせんなよ! 心臓に悪いだろうが!」

「今もうるせえな」


何の前触れも無く話しかけてくる方が悪いだろ! ホントに猫みたいに気配消しやがって。ショック死したらどうすんだ! そう簡単に死なないけど!


「いきなりなんだよ、飯はここにはないぞ、あっち行け」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

「今現在はただのタダ飯食いじゃねーか」


ジト目でこちらを見てくるレオンに、間髪入れずにツッコミを入れる。

実際、朝飯食っては逃げて、昼飯食っては姿を隠し、そして晩飯食ったらそのまま寝て朝一番に森に帰っていくので、タダ飯食いのタグは正しい。

毎日決まった時間に来て人より多く飯食べてるくせに、労働もせず逃げる事を考えたら、野良猫より質が悪い。

害獣認定されないだけマシだと思え。

あと、男のジト目は萌えポイントでも何でもないから二度とするな!


「まあ、今は飯はいいや。それよりさっきから何の音だよ。“ピー”だか“キャー”だかなんだか良く分からん音出しやがって」

「何の話だ。なんだその“ピー”とか“キャー”って、どこの効果音だ。深夜枠のテレビでも今時そんな音入れねえよ」

「テレビってなんだよ」

「………野生児よ、別に説明してもいいがお前に理解できるか? 現代の義務教育を受けた先進国人ですら仕組みを完璧に理解しているのは一握りだと言うのに」

「じゃあいいや、それよりさっきの音辞めろよ」


なんだよ、あっさり引くなよ。

専門用語使いまくって話してる俺でも訳分かんなくなるまで説明してやろうと思ったのに。

てか、さっきからなんだ、その変な音って。


「全く聞き覚えのない音なんざ知るか。俺は笛の改良に忙しいんだよ。後で俺のパン分けてやるからあっち行け」

「ホントにお前は俺を何だと思ってるんだ」

「じゃあパンは要らんな」

「それはもらうけどよ」


そう言いながら渋々と言った顔でレオンは後ろを向いた、宴会場の方角である。

つまり今日も今日とてタダ飯を食おうと言う事だ。

『働かざる者食うべからず』的な諺はこっちには無いのか?

俺? 俺は頭脳労働専門だから。今も頑張って良い事悪い事色々考えてるから。

そう誰かへの言い訳………じゃない、飯を食べる理由を今一度明確にしながら、とりあえず空気の流れを見るために笛をもう一度吹く。


「“    ” うむ相変わらず聞こ―――」

「―――がぁあ、うっせえ!」


え?


「“    ”」

「だぁあ! それ、その音だ! 気持ち悪いんだよその音!」

「“    ”」

「話聞けよ! 気持ち悪いって言ってんだろ! つーかやっぱお前が原因じゃねーか!」

「え? 聞こえて、る?」

「なんだ変な事言いやがって! 聞こえないみたいに言うなよ!」

「待て! 待てまてマテ!! お前この笛、そもそも音に聞こえるのか?」

「コレが気持ち悪い音以外に何に聞こえるんだよ!」

「そもそも聞こえないんですけど」

「はぁ?」



レオンの話を詳しく聞いてようやく筋が通った。

俺はどうやら“犬笛”みたいなものを作ったらしい。


犬笛とは一般的には犬の調教に使われる笛の事を言う。

音の強弱や音を指で遮ったりすることで犬に芸を覚えさせる道具の事だ。

なぜ声ではなく犬笛を使うのか? 詳しい理由は色々あると思うが、犬が人間より耳が良い事を利用した道具と言える。


人間の耳には聞き取れる音と聞き取れない音がある。

音の周波数、つまりその音の波の振動数に由来するものであり、コレが高すぎるor低すぎると人間には聞き取れない。

正しくは耳には入るが、その音を音として認識できない、と言った方が正しい。

分かりやすい例を挙げるならモスキート音だろう。アレは年齢と共に失われていく高周波の音を聞き取る機能を逆手に取ったアイデアで、深夜にたむろする若者を撃退する事に使われたり、耳年齢のチェックに使われたりする。

この音を突き詰めていくとコウモリやイルカの超音波になる。動物には聞こえて、人間には聞こえない音。


今回の笛もそのケースだろう。

つまり、動物(レオン)には聞こえて、人間(オレ)には聞こえない音。

やはりレオンは人間ではなく動物に近いようだ。


「何か失礼なこと考えてないか?」

「気のせいだろ」


そして俺は、そんな人体の不思議を体現する逸品(ふえ)を、偶然作り出してしまったようだ。

これは、偶然でも凄くないか?


「ハッハッハ! 自分の才能が怖い!」

「何で笑ってるかは知らんがそれ役に立つのか?」


そう言われて俺はハタと止まる。

確かに使いどころが限られるどころか、現状レオンにしか聞こえない音だ。

森の獣辺りに吹けば嫌がらせ位にはなるかもしれんが、本来考えていた人間の合図には使えない。

そもそも偶然できたものだから再生産の当てもない。

えーっと………。


「糞! そんなの俺が知るか! だがこの音が聞こえるときは俺がお前を呼んでるってことだ! 頑張って飛んで来いよ!」

「メンドクセ」

「じゃあ、メシの時間になったら呼ぶとかには使えないかな?」

「しょうがねぇなぁ!」


分かりやすい奴だ、もしくは現金な奴だ。

飯時に笛で呼ぶとか、何か『パブロウの犬』みたいだ。

どっちにしろ誰にもバレず、切り札を呼ぶ道具が出来たのだから、運が良かったと考えよう。


こうして俺はポケットにその笛――名前を犬笛から取って『レオン笛』――を入れた。



「でも来ねーじゃん!」


せっかくのレオン笛初……では無いが、マジ窮地の出勤は不発に終わった。

それどころか“ドゴーン!”だか“バゴーン!”みたいな何かヤバイ音が遠くから聞こえてくるんですけど。

アジト自体も“ミシ…ミシ……”“ビシビ…シ……”って言ってるし大丈夫かな?

安全を考えてもう一回地下に戻ろうかな?


そう考えたところで、


『キーン』


「え?」


聞こえたのでもない、感じたのでもない、不思議な感覚が俺を襲った。


「呼ばれた……のか?」


それは何とも不思議な感覚だったが、俺の中には妙に確信めいた何かがあった。


「うーん………。行く場所の当ても無いし行ってみるか!」


そう言って俺は感覚を頼りに歩き出した。

え? 声に出した理由? 何でだろうな?

さっき『天眼』で見た時、()()()()()()()()()に聞かせるためかな? 

いや、聞こえる訳ないって分かってるんだけど。

宣言をしとかなきゃいけない気がしたんだよな。

不思議だね。

また伸びた、けど今回はもう半分ほど終わってるから。

これから死ぬほど忙しくなるけど、でももう半分しか残ってないから(……EXの方が……………)。

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