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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
95/111

3-41 『傲慢』VS『飛雷針』Ⅴ

では大きく息を吸って………!(アキラ)

レオンの周りに突き刺さった針が檻の様に雷を受ける。

雷はレオンの体を掠るほどの距離に落ち、当たり前だが雷は掠るだけでも痛手である。

“いぎゃあ!”“うぎゃあ!”と声を上げその場で転がると、別の雷に打たれる事になる。

それに反応して転がるとまた雷を受け…………といったループを三回ほど繰り返した所で、レオンは地面に伏せて動かなくなった。

手を突いて起き上がろうとするレオン

だが、無意識に言葉漏れた。


「マズい………」


その言葉と同時に力が抜けたのか、力が入らなかったのか、その手は地面の滑り、体はもう一度地面にぶつかった。

そして呟きが聞こえたかのかは定かでは無いが、上空の鉄骨からそれを見ていたヨウは、腕が見えなくなるほど纏った針の鱗から手のひらを引き出した。

むき出しになった手のひらから“ミリミリ”と微かな音が鳴ると同時に、その手のひらから太い針が顔を出す。

それは腕に静電気で纏った針とは違い、明らかに今生まれていた。

これこそがヨウの第1の二つ名『飛来針(ヒライシン)』の能力。



“新生針”…物質化したソウルを130度以上の鋭角で体から生み出す能力。ソウルさえあるなら無限に針を作り出せ、更に生み出す針を細かく設定できる。

ヨウは普段、節約のため内部を空洞にすることでソウル使用量を抑えて生み出すが、今回のように内部を限界まで詰めるならその硬度は鉄に何ら劣ることは無い。


避雷針(ヒライシン)』とは違い、ヨウが元々持っていた『飛針』から正式な進化をしたこの能力は、偶然にもヨウが雷を受ける直前で放った針でその経験値を見たし、『避雷針』獲得とほぼ同時に進化した。

『同時に同じ名前の能力を獲得する事で、世界にはその獲得を隠蔽する事が出来る』

とんでもない確率に頼る必要があるが、偶然であるとは言え“二つ名”というシステムを作り出した神々すら知らぬ、ヨウだけが知る裏技(バックドア)

使い道はほぼ無いが、それでもヨウ本人にとっては役立った。

何せ二つ名を一つしか持たないはずの相手が、もう一つ能力を持っているのだ。

二つ名を持った者同士の戦闘は、その能力の解明から始まると言ってもいい。

事実レオンの能力『傲慢』は、王国ではおとぎ話の様に倒すべき『悪』の手先としてその詳細を世界中に知られているので、もしレオンがその名を最初から宣言していたなら、ヨウがここまで苦戦することは無かっただろう(とは言え、多少の余裕が出来るだけで苦戦自体はする)。


針を放つ力。雷を放つ力。

本来両方を持つなら、必ず痕跡が出来るはずの世界からの宣言。

それが無い。

恐ろしいほどの初見殺し。

基本相手とは一度しか対面しない暗殺者にとって、逆に名前が売れてくればくるほど、どこまでも有利に立てる。

その力を手に入れた時期こそ遅くても、ヨウはその力を完璧に使いこなすだけの地盤があった。



生みだした特別製の針を逆手に持ち、ヨウは狙いを定める。

戦いの中でヨウは既にレオンの鎧の特性を見破り、攻略法も見つけていた。

ただし、その方法はどうあがいても最後には接近するしか無かった。

だから待った、レオンが動かなくなるのを。

それでなくてもヨウはレオンとの接近戦は避けたかった。


「(あの見た目以上の剛腕は、適当に振るわれるだけでも致命傷になりかねない)」


肩に入ったヒビの事を考えながらヨウは思う。

既にヨウは暗殺者に立ち戻っていた。

そして現れた、決定的で僅かな隙。


「(あの地に伏した状態は何秒持つ? そこから起き上がるまで何秒かかる?  掠った雷撃から回復するまで何秒必要だ?)」


考えがまとまる前に気配を隠し飛んでいた。

狙いは首の裏、の頚椎、の隙間。

人体でも特に神経が集まる針で必殺を狙える場所。


幾度となく狙い、幾度となく打ち抜いた場所。

どの角度で刺すのか、どう刺し込むのか、既に体が覚えている。

狙いは外さない。外しようがない。


二重、三重、目に見えない策はいつの間にか纏まり紡がれる。

勝利に向かって糸が伸びていくのが幻視()える。

そして針が振り下ろされ、ヨウが必殺を確信した時。


「………っうっしろぉぉぉぉっっっ!!!」


人外(レオン)が吠え、その場で反転し、その拳を振りぬいた。


“ビツン……”


糸が切れる幻聴が聞こえた。



レオンは吐き気を催す不快音に困り果てていた。

食べたものを戻すなんて真似、20年の生涯を通しても行った事は一度も記憶に無い。それ故に、胸に上がる酸っぱいような苦いようなその味に顔を大いにしかめている。


「マズい……」


今まで感じた味の中でもトップクラスに苦手な味に、レオンはそう感想を呟くと地面にばたりと倒れた。


「(疲れた………俺は何をやってんだ………)」


心身共に疲れた時、考え方はなぜか根本的なところに戻ってくる。

レオンが戦う理由。

思い出すまでも無くアキラの救出なのだが、クリスとの会話時のようにレオンは忘れている。

そもそも目の前の事だけを考えていれば生きていけた世界から、いきなり引き出されたばかりの彼が、心底楽しい戦いを夢中になるほど楽しんだ以上、理由も動機も忘却の彼方に飛んでいくわけで。

だがしかし、ここにきて、気持ちい悪い不快音、痒い程度のチマチマした雷撃、苦酸っぱい謎の汁、と立て続けに楽しくない事が起こり。

それは、テスト前の中学生が「何で勉強してるんだっけ?」と考える程度の心境だったけど。

レオンは今、ようやく立ち戻っていた。


無意識に、それともただ疲れただけか、元々効かない目を閉じて、地面に顔を押し付けレオンは暗闇に潜る。

それは記憶を取り戻すため………ではなく、ただこの世に興味を失ったから。


ハザード一族は全体を通してわがままな一族だ。

それは子供と言い換えてもいいかもしれない。

ただ癇癪のままに暴れても身内以外に止める者が居ない、そもそも一族内では強き者が正しいので力強く暴れる事が推奨されるほどだ。

だから、彼らは投げ出す。

つまらなくなったり興味が失せたり等、ただ辛いだけで生命すら投げ出す。

もしも、その領域に立つことが努力の末に手に入れた者なら再度立ち上がってみせるだろう。

だが、ハザード一族がそれを最初から持ち合わせている以上、その強さに価値を感じないのだ。

生を感じるために戦いに身を投じるハザードは多かった、しかしそれは辛さや苦さと紙一重、「辛い」「もうやめたい」と感じ結果死んでいった若いハザードは意外と多い。

そして当事者が死んでいる以上、それが後世に伝わることは無い。

『血が他と混じるだけでその力の大半を失う』という稀有な血統の所為だけでは無く、戦いの苦痛を知って諦める者が死んで、敗北を知らない者が生き残るため、その精神性が矯正される事が無かった。

そんな事が1000年ほど続いた結果、ハザード一族は現在全滅寸前にまで追い込まれるほどその数を減らしている。

ハザード一族は肉体的には非常に強い一族だが、しかし彼らはそれ故に、生物的には非常に弱い血族なのだ。


だからレオンは再び起き上がる気はなかった。

アキラとの鬼ごっこの時は、自分よりも明らかに格下の相手にコケにされ続けた事に対する怒りで乗り切ったが、現在は自分にダメージを通す事が出来る……言い換えれば対等な者が相手である。

敗北を受け入れる理由があった。

目を閉じて眠るつもりだった。

目覚めない眠りでもかまわなかった。


「(しかし、眠る前にこの音を聞くのは嫌だな………)」


相変わらず、その音は部屋中に響いていた。


“ギギギギギギっギギギギギ”“ギギギギギギギギギギギッギギギギギ”

“ギッギギギギギギギ”“ギギギギギイイギギギ”“ ”“ギギギギギギギギギ”

“ギイギイギギギギギイッギイギ”“ギギイイギイギ”

“イ”“ギギギギギギ”“イギギギギギ”“ギギギギギギ”“ギギギイギギギィギギギ”


怨嗟のように、呪いのように、虫の羽音のように、蝙蝠の超音波のように、その音は部屋を覆いつくしていた。

それ以外聞こえないほどに音が充満していた。

だから。


「(?)」


その不快音に聞きなれた(?) 音が混じっている気がした。

それが気になり耳に意識を集中させる。


“ギギギギギギっギギ……ギギギ”“ギギギギギギギギ”“ギギギッギギギギギ”“ギッギギギギギギギ”“ギギギギギイイギギギ”“ギギギ!!”ギリギ!ギィ“ギギギギリリィィィ”

“ギギ!ギギギギギリリ!リ”“ギギ!ギギリリギ…ギギギ!”

“ギギ”リリ“リギギギギギ!”“     ”“ギ”“ギギ!ギギギギ!”

“ギギギギギギギギギ”“ギイギイギギギギギイッギイギ”

“ギギイイギイギ”“イ”“ギギギギギギ”“イギギギギギ”“ギギギギギギ”“ギギギイギギィギ”


「(また聞こえた。今度は長い)」


低音の中に混じるひと際高い空白のような音。

本来なら聞こえないであろうそれをレオンは音だと認識する。

それもそのはず。

レオンはつい最近その音を知ったのだ。

音は足側から聞こえてくる。


“             ”


更に長い音が流れる。

一度意識を割くと既にその音しか聞こえない。


“         ”“         ”“         ”


立て続けに三度

そして音が不意に遮られ小さくなった。


「………っうっしろぉぉぉぉっっっ!!!」


その瞬間レオンは飛び起きた。

気配は感じなくても、世界が普段より多めに回ろうと、音が遮られたならそこに遮る物があることは変わらなかった。


“ミシリ”“バキリ”と音がして振り上げた拳がヨウの体を捕らえる。

血を噛み締めた歯の間から吐き、くるくると枯葉のように飛んで壁にぶつかるヨウ。

しかし、そちらには目もくれずレオンは聞こえない音が聞こえた方向を見て―――


「ああ、そうだ。そう言えば俺はアキラを助けに来たんだ」


―――ようやく思い出した目的を呟いた。


不快音は反響こそ残すが、すでに止んでいた。



一方その頃、その音の主は。


「“         ”“         ”“         ”」



「………んー何でレオンは来ないんだ? 聞こえてないのかこの音? イヤ普通は聞こえないから、聞こえないのが正常なんだけども」


音を鳴らした笛を口から離し、呟いた。 

次回決着。

ちなみにヨウの能力獲得のシーン、括弧を二重にしてたのは今回の明かした理由のため。

タイトルも微妙に変えてた等、こういう仕込みは結構入れてたりします。


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