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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-39 『傲慢』VS『飛雷針』Ⅲ

球体状に広がり空間を覆いつくす雷電が、壁を壊して先へ先へと伸びていく。

目が眩むような雷光と、耳を覆いたくなるほどの雷鳴が、消え去った後、そこには広い空間があった。

先ほどまで形のあった壁は雷電を受け砕け、更に継続的に雷撃を受けほぼ粉砕、消滅に近い形で崩壊し、その被害は隣の部屋の更に先まで及んでいる。

被害は横だけではない。

天井も同じように粉砕され、わずかに残った埃のような石粉が、音も立てずに落ちていく。

部屋を区切るための鉄でできた大枠だけが何とか残り元の形を想像はできるものの、ここに区切られた部屋があったとは到底思えない大きな空間は、わずか数秒で作られたと考えれる者がどれだけいるのだろう。


“ガシャシャシャシャシャ!!”


けたたましい音と共に宙に浮かんでいた大量の針が地面に落ちてきた。

針は無理な電力を伝えた結果か、その形は残っているものの真っ赤になって熱を発して白い湯気が昇っている。

同時にヨウも音もなく地に降り、地面を蹴った。


「うがああ………目がチカチカする………」


雷撃をよけずにまともに喰らったレオンは、その強烈な閃光を浴びて目を瞬かせていた。


「ん? 耳が何か聞こえづらいな」


自分の言葉を聞き、違和感を持ったのか片耳をバシバシ叩くレオン、そんな彼にヨウが迫る。


「―――」

「ん? イテッッ!」


肩口に今まで感じたことの無い痛みが走りレオンが一瞬怯む、それは一般的に針痛と呼ばれる、読んで字のごとく針で刺されたような痛みの事を指すのだが、そんな事をレオンは知らない。

しかし流石にというか、その痛みに怯みながらも同時に痛みの残る肩に手を伸ばし、そこに触れた。


「ぎっ――!!」


肩に触れた瞬間、再び雷撃が走ったように鋭い痛みがレオンを襲う。

其処には痛みの通り、針が刺さっていた。


「ついに刺さったな」

「!!」


視界を奪われたままのレオンの耳元で声がした。


“バギャンッッッ!!!”


文字に表すならそんな感じだろうか? 

レオンがその音を声だと認識するまでの刹那、そんな音と痛みがレオンを打ち抜いた。

雷だ。


「があああああ!!!!」


その場からノーモーションで飛び上がり、空中で悶えるように暴れるレオン。

視界は未だ悪く、聴覚も思ったよりも治りが遅い。

五感が発達したレオンは……というか、生き物ならいきなり五感を奪われるとまともに動けなくなるが……逆説的にそれだけ五感に頼っていると言う事。

アキラの時と同じ様に、レオンは再び窮地に立った。

アキラの時と違うのは、レオン生涯初の命懸けの戦いと言う事だ。



ヨウ・ユエンは思い出した。


「(砕けた顔の骨は針で無理やり矯正した)」


自らが暗殺者であることを思い出した。


「(雷で焼くことで無理やり流れる血を止めた)」


醜く歪んだ顔を代償に彼は思い出した。

自らが非力な存在だった事を思いだした。



そもそも馬鹿正直に真正面から対応していたのがおかしいのだ。

音も無く殺し、香も無く殺し、影も無く殺す。

優れた暗殺者ほどその姿を晒さない。

依頼は風の噂か子供たちの都市伝説によって紡がれるのが最も理想的。

そう言う世界で生きてきたはずなのに、強大な二つ名を得た事によって、いつの間にか失っていた自らの生き方。

レオン・ハザードという、普通なら到底敵うはずのない存在が、彼を戦場(アウェイ)から仕事場(ホーム)に引き戻した。

対価として一度の戦闘で発動できる雷撃をほとんど消費してしまったが、戦闘が始まって初の目に見えるほどの明確な手傷。

短期的には等価では無いが、長期的には間違いなくプラスだろう。

『勝てなくても、殺せればいい』

その事を思い出せたのだから。


……

………

……………


音の無い音という矛盾が迫る。

石で出来た地面を滑るように彼は歩く。

音は出来るだけ立てずに、体の動きは限界まで小さく、服のこすれる音すら消してしまうのが理想。

人を殺すのに大きな力は必要ない。

刃渡り、刃幅、共に限界まで広げ、すでにナイフの様になった針を正確に振るう、それだけでいい。

狙いは首……ではなく、その首を守るために反射的に伸びる腕。

切るのは血管の集中する手首……である必要は無く、切りつけた刃が少しでも血管に届けばよい。

血は生命の運び手だ。

少しずつでも削っていけば最後に残るのは動きの鈍ったガラクタのみ。

そうなれば殺すのは容易だ。


「(問題はエネルギーの上限がどれほどか、か)」


ヨウがそう考えるのは当たり前の事であった。

先ほどの一撃で初めての血の見える傷、そして流れるように浴びせた雷撃、鎧をまともに抜いた攻撃を喰らってなおレオンは元気に動き回っている。

ただ痛みで暴れまわっているだけなのだが、これは普通ではない。

そもそも普通なら喰らった時点で動けなくなるはずの攻撃、特に後者の雷撃は即死級のはずだ。

行動不能に陥るはずの攻撃を喰らってなお動き続けるレオン。これは、レオンの生命力=ソウル量の多さを表している。

ソウルと言われる、この世界で観測された未知数のエネルギーは、生物に宿る場合運動量及び体力に直結する。

二つ名を使い強い人間は、行動によるソウルの消費と、能力によるソウルの消費をうまく調節している。

例えばベンジャミンの『先頭』の能力は、状況に応じての段階的な身体能力の向上。

行動には通常の行動と変わらないソウルを使用するが、その状態に持ち上げるまでにソウルを使用する。

なので、無理に能力を引き上げる続けると、行動できる時間が短くなる。

ヨウの雷撃はより分かりやすい。

使えば使うほどソウルを使用するため、上限はヨウの全力運動に支障が出ないライン、と言った様にうまく折り合いを付けている。

ソウルが体力に直結している以上、漫画とかでよくある『力を使いすぎて死ぬ』という事は普通にあり得るのだ。


「(その上限、見極める必要があるが……あまり能力を使いすぎてはこちらがヤバイとなると………アレで行くか)」


痛みで無作為に飛び回るレオンを視線で追いながらヨウは地面に手をかざし小声で言霊を紡いだ。


「針鱗雷竜」


その言葉を鍵とし、地面に周りに散らばったままの大量の針が動き出す。

浮かび上がるほどでは無いが、かざされた手に向かうように、針はその切っ先を上げた。

同時に“バリッ…パリッ…”とヨウの手に雷電が薄くまとわりつき、青、黄また青と色を変えていく。

そして、その腕が地面滑るように薙いだ。

雷電が切っ先を撫でると針は腕に吸い付くように持ち上がる。

グルリとその場で一回転するだけで肌を隠すほどの量が腕に張り付き、更に一回転するとその装甲は一枚分だけ上乗せされる。

グルグルグルリ。

地面から離れず、幾度となくその場で回転する。

そして動きを止めた時、その腕にはおびただしい量の針が纏われていた。


「では行くか」


それは僅か1分ほどの出来事であった。



(いだ)ぁぁああぁあああ!!」


ドン! ドン! ドドン!


鉄骨をリズムよく蹴り、未だ空中を跳ねまわるレオン。

元々、エネルギーを対消滅させ衝突前に勢いを0にする“傲慢の鎧”を常時発動し、生まれながらではないものの、その20年の生涯のほとんどをこの鎧と過ごしてきたレオンは痛みに対する耐性がまるで無い。

それどころか、彼は肉体を鍛えたという事すらない。

野生の中で生きてきた、レオンにとっては日常全てが試練だったという意味なのか?

否である。

レオンはまさしく苦痛らしき苦痛を感じたことが無いのだ。

それは、彼の血統が関係する。


ハザード一族は、まさしく完全なる生物である。

おおよそ肉体は鍛えずとも成長と共に強靭になり、体格はどれほど非効率な生き方をしようと大きくなる。

体脂肪率はボディビルダーの様に一桁を記録し、筋肉の密度は常人の個体差はあるが1.5~3倍。

その優れた肉体のおかげで太ると言う事はほぼ無く、なおかつソウルの再生速度は人間と比べて1000倍。

これは普通の人間が生きていくのに、全く問題ないソウルの再生速度と比較しての話であり、単純に息切れする距離と速度が常人の1000倍だと考えればよい。

肉体のスペックは格が違い、乗せているエンジンは桁が違う。

力のみで時代を国を奪い取った、最強一族の冠は伊達ではないのだ。

しかし、それ故というかハザード一族は一旦防戦に回ると弱い。

この世界の凶暴化した生物にすらほとんど負ける事が無い彼らは、苦戦というものをほぼ経験しないで一生を終えるのだ。

故に、ほとんどのハザード一族は強敵にぶつかった時、敗北する事が多い(そこから生き残った者は更に強くなるが……)。

レオンはハザード一族の中でも極端にしたものだと思えばいい。

外からのダメージ、内からのダメージ、どちらも未経験。故に苦戦。

何時だって思いもよらない切り口で攻めてくる弱者に、強者は挑まれ、そして敗北する。

レオン・ハザードに弱者の一撃(ジャイアントキリング)が迫っていた。



ようやく痛みが治まったのか、剥きだしの鉄骨の上で両手足をブラリと垂らし細かく息をするレオン。

目はまだ少し霞むが、耳はほぼ復帰した。

そしてその治ったばかりの耳が小さな音を拾った。


「波打て」


同時に“ギリギリギリギリッッッ!”と何かが擦れる耳障りな音と共に何かがグネグネと迫ってくる。

未だ見えづらい目には鈍い銀の光が映っていた。


「チッ!」


舌打ちと共にレオンは力ずくで鉄骨をから飛び空間に躍り出る。

だが……。


“ギリギリギリギリッッッ!”


飛び上がった先にも同じ音が聞こえる。

否、コレは。


「耳がまたおかしくなったか? 音が……」


その言葉の続きは言えなかった。

音に気を取られ隙に、レオンを針が襲ったからだ。


「――ッ!!」


空中で身をよじると針はどこかへと飛んでいく。

飛んでいった針は何処かに刺さったのだろうか? 

分からない。

空間が分からない。


「これは空間中から音が聞こえる……?」

「騒げ騒げ騒げ針鱗雷竜。そして喰らいつくせ!」


ヨウの腕に鱗の様に纏われた針が、大きく騒ぎ始めた。

変なところで切れたのは申し訳ない。

明日までに、前半と後ろに加筆する予定。

……ところで3章は年内に終わるのかな? 心配になってきました。

(※12/08 23:55加筆完了。アブねー。もうちょっとでオーバーするとこだった)

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