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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
92/111

3-38 『傲慢』VS『飛雷針』Ⅱ

人外と人間の接触に空気が鳴く。


仕掛けたのはレオン・ハザード。

優れた身体能力と桁外れのソウル回復をもって、一つの時代と一つの国を築いたハザード一族の末裔。

元々100mを3秒で走る身体能力に加え、『傲慢』の能力“傲慢の鎧”の反射力を使用。

そのスピードは初速ですら200㎞を超えるだろう。


受けて立つのはヨウ・ユエン。

『避雷針』の二つ名の副次効果で、体を流れる電気をほぼ完璧に把握。

反射という領域で、常に人間の出せる最高速を引き出すことに成功している。

それを可能にするのは、転生前の時点で達人と呼ばれるレベルまで磨き上げた拳法の下地があってこそ。


奇しくも超反射と超反射。

両者、伸ばした力も生きた境遇も違うが、その呼び名だけは相違なく。

激突までの一瞬にも満たない時間の中で、互いが自らの勝利を疑わず。


そして、ぶつかり―――



人間が運動に電気信号を使う以上、放たれた電撃を視認してから躱す事は不可能である。

もし、雷を躱す人間が居るとするならそれは更に先、電撃が来ると予想する、いわゆる第六感と呼ばれるものを起点に動かなくてはいけない。

しかし、それでも人間が自然発生した雷を受けると言う話はあまり聞かない。

何故か? 簡単な話、人間は雷が出るような悪天候に外に出ること自体が無いからだ。

あまりに簡単な答え。君子危うきに近寄らず。

ならば、なぜたまに雷に打たれる人間が存在するのだろうか?

何故か? 簡単な話、よほど切羽詰まった状況で悪天候を走らなくてはならないからかもしれない。だが、たまにいるのだ、そう言う日に限って外に飛び出して行くタイプのヤツが。


こんな話をする理由?

いや、単純にそう言うタイプだって話だ。

豪雨の日に、傘もささずに雨の中で歌う。

突風の日に、傘をさして飛ぼうとする。

台風の日に、荒波立つ海で泳ぐ。

無茶と、無謀と、無計画を、形にしたタイプ。


レオン・ハザードはそう言うタイプだ。



雷電が爆ぜた。

先ほどと同じく、速さ比べは当たり前だが雷速が勝利した。

しかし、違うのはここから。


「オオォォ!!」


レオン・ハザードは止まらなかった。

踏み込みも、振りかぶりも、挙動も、拳動も、その動きの一切が止まらず。


「―――!」


ヨウ・ユエンが何か言葉を発する前に、その拳は振り切られた。


“グシャリ”


何かが潰れるイヤな音と共に、ヨウ・ユエンの体が振り切られた拳の延長線上を舞う。

昇るようにして、くるくると飛んだヨウが壁にぶつかり、壁を壊してその先の部屋に。

すぐさま体勢を整え、レオンは追いかけるため、弾けるように地面を蹴った。

ぶつかるまでの一瞬に、空中で体の動きを簡単に確認する。


「(手……動く。足……動く。体……問題なし! 良ぉし!)」


問題無い事を素早く確認すると、レオンはニンマリと笑い、前を見た。

壁は目前に迫り、そしてぶつかった。

戦場が広がっていく。




一度穴が開いた壁は脆く、広がるようにもう一度穴が開く。


「フン!」


レオンのタックルによって壁が崩れさる。

同時に吹き飛ぶ破片が、室内を散弾銃の如く襲うが、それに合わせるように針の弾幕が降り注いだ。


「―――あ?」


二つの弾幕はぶつかり、一瞬の相殺。

そして物量差で針側が勝利を治めた。

全弾命中。

音もなく弾かれた針が、音を立てながら地面に転がった。

しかしレオン、弾いた針には目もくれず、針の飛んできた先を見てまた笑う。

其処には顔を片手で押さえながら、立っているヨウの姿があった。


「生きてたか!!」

「あいにく死にそうだ」

「なら良し!」


レオン的に賛美の言葉と共に、レオンはノーモーションでタックルを仕掛ける。

ヨウは今度は受けず、飛び上がるようにして横に避け、先ほどと同じ要領で針を刺し、壁面に立って見せた。

レオンの進んだ方向の壁が壊れ、レオン勢い余ってもう一つ隣の部屋へ。


“ドーン!”

“ドーン!”


「避けるなよ!」

「無茶を言うな」


開けた穴から戻らず、わざわざ別の穴を空けて部屋に戻ってきたレオン。

戻ってくると同時に今度は飛んだ。そこまで開けていない場所で飛んだり跳ねたりするのは『傲慢』の得意技だ。

しかし次の瞬間、ヨウは狙ったように空間に(いかずち)を舞わせる。

既に地面に触れていないレオンは、衝撃に備え空中で身構える………だが?


「あれ?」


来るはずの衝撃を感じず、反射的に閉じた目を開く。

開くと、目前には近づいていくヨウ。


「(不発?)」


レオンがその言葉より発するよりも早く答えが出た。

あと腕一本ほどの距離に近づいていたヨウとの間を何かかが遮った。


「?…!!」


非常に動体視力の優れるレオンはそれが何かを瞬時に気づいたが、気づいたところでどうにもならない。


“ビシィシィィ!!”


そんな音と共に、レオンに天井が落ちてきた。

戦場が広がっていく。



「天井を落とす方法はどうやら成功か………」


そう呟きヨウは、顔面を片手で抑えたまま、更に壁を駆けあがった。

針を出し、針を刺し、針を登る。

一見するとロッククライミングの様だが、片手を除いた三本の手足で行うのは非常に難しい事だが、ヨウは軽々とやってのける。

しかし一般的な身体能力の水準が高いこの世界では、これくらい出来てようやく人を暴力で従わせるレベルの地位につけるのだ。


3階の天井に手が届く距離まで壁を登りきると、ヨウは瓦礫に埋め尽くされた下方を見る。

レオンが壁を突き破って戻ってくるまでの僅かな時間、ヨウは先ほどの攻防で見せた様に天井に向かって針の弾幕を撃ち込んだ。

ヨウの『避雷針』の能力は電撃を放つ事は出来ても、少しでもその距離が延びると方向がほとんど指定できなくなるのだ。



そもそも『避雷針』の能力は、その名が示すように、使用者から放たれる雷が針に向かって直進する能力“雷の行先”のみ。

遠距離から対象に針を突き刺し、そこに雷を撃ち込む。

先に針を仕掛けて置き、対象が自分と針の間に入った所で雷を撃つ。

威力、速度、どちらを取っても申し分ないが、必ず一手以上の手間を必要とする能力なのだ。

救いなのは直進する針を指定できることだろうか。

レオンと行った射程距離が関係ないほどの接近戦ならば、ただの放電で無理やり仕留める事は可能だが、それは本来の戦い方ではなく、トップクラスの武術家というヨウだからできる裏技のようなもの。

実際『避雷針』の二つ名を獲得した人間で同じような戦い方が出来た前例は無い。



「ウガアアアア!!」


雄たけびと共にレオンが瓦礫を吹き飛ばした。

飛び上がった瓦礫はヨウの目線近くまで飛び、飛びだす瓦礫は四方の壁に穴を空け、崩壊させた。

ブルンブルンと水を払う獣の様に体を震わせ、埃を払うレオン。

そして一通り動くと視線を上げ、その先のヨウに固定し、


「びっくりしたな~! 今のはお前がやったのか?」

「普通に話しかけてくるなお前……ぐぅ!」


ヘラリと笑い、素直な感想を述べた。

いきなり弛緩した空気に若干こけるヨウだが、その顔がいきなり苦痛に染まる。


「どした? おーいどうした?」


不安そうに軽口を叩くレオンにヨウは答えない。

その心配は明らかに自分本位な物だと分かっていたから。


「(どうせ、戦えなくなったら困るとか考えてるんだろ)」


押さえる顔の片側から血の筋が、頬を伝い涙の様に流れ出ている。

手のひらの下から、ビキビシと砕けた骨が軋む音がした。


「(痛みが引かない。当たり前か、普通なら麻酔を打って緊急手術という大ケガだ。手術後も顔面に金属を入れて固定するテレビでしか見たことの無いタイプの。それに今、こうして押さえていないと顔面が崩壊して更に症状は酷く………)」


ヨウはそこまで考えて、思考を止めた。

状況を客観視するのは間違っていないが、これ以上は逆にネガティブになる。精神が運動能力にもたらす影響は大きい。特に格上との戦闘中は心技体の心で勝利しなければ、勝ちは大きく遠ざかる。


それでも状況を冷静に分析していく。


「(あの防御。俺の雷を通すだけはあって、やはり無敵ではない。特に今回は非常に分かりやすい。問題は突破する要素がスピードと質量どちらかというだが点……。まあ、これはどちらものという可能性は有るか……)」


ヨウは思考する。

敵であるレオンの能力が非常に危険な物だと考えて、そしてその能力は決して無敵では無いと考えて、その弱点を探る。


「(速度。雷ならば攻撃は通った。しかし、本来なら即死級の一撃でありながら、敵は麻痺するのみ。その麻痺もわずかな期間で回復)」

「おーい? 何か血出てるけど大丈夫か?」  

「(質量。飛び上がる瞬間に天井1枚を落とす事で、叩き落すことは出来た。が、ダメージが通った気配はない。そもそも天井を落とすなんて手段何度も使えるものでない)」

「おーい? 聞いてる? 聞こえてますかー?」

「(となると、攻撃の主体するのは雷だが……。先ほどの攻防で、完璧に入った雷撃の後も問題なく動いている事を考えると不意を突く必要が……)」

「オォォォイ! 生きてるかー!?」

「さっきからうるさいぞ貴様!!」

「おお! 生きてた!」


冷静に勤めようとする者に対して、何も考えていない者が騒ぎ立て、思考を乱す。

騒がれた方は、これ以上無いほど腹が立つだろう。


「糞! 痛みがぶり返してきた!」

「なあ、もう殴りに行っていいか?」

「少し待て! 糞! 俺は何て馬鹿な事を言ってるんだ!」

「オーケー……で良いんだっけ?」


敵に対して待ったと言う。

そんな戦闘など演舞の練習以外に見たことが無い。実戦ではバカバカしくて言える訳も無い。そもそも普通は待たないだろう。

その生涯で武術に関り、命を賭けた戦いに身を投じてきたヨウにとっては、先ほど口走った言葉は自らを恥ずかしめる物でしかない。


「(痛みで頭が爆発しそうだ! 顔がボロボロに崩れて神経が千切れてしまえばどんなに楽か! 糞ッ! 糞ッ! 糞ッ! もういい!)」


ヨウは顔を押さえていた手を離し、その手の平から短い針を無数に生やした。

針の形は枝分かれこそしていないが複雑で縦横斜めと伸びている。


「ん? 何か生えた?」

「があああああ!!!!」


そして、腕を大きく伸ばすと、雄たけびと共にそれを顔面に突き刺した。


「はぁ?!」

「ああああああああ!!!!」


自らを傷つけるヨウの奇行に、レオンが唖然としていると、ヨウは絶叫のまま、電撃を放った。

“バリバリバリバリッッッッ!!”肉と血の焦げる音と匂いが、敏感なレオンの五感を叩く。

そして一連の奇行が終わり、ヨウは手を離すと。


「殺す」


ただそれだけを語り、宙に向かって飛びだし、全身から針を放ち、空間を雷撃で埋め尽くした。

戦場が広がっていく。

書き直したら時間過ぎてた。すみません。

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