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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-37 『傲慢』VS『飛雷針』

あー、何か全身痛いし、動けないし、どうしよ………。(クリスチャン)

「ワハハハハ!!」


何処までも楽しそうな笑い声と共に、壁がまた一枚破壊された。

振るわれる力は、空気を切り裂き、うねりを上げる。

その一撃一撃が、人間を再起不能にして、簡単に死人に変える破壊力を内包する。

それは土と、漆喰と、木材と、その他細々したもので作られた壁を壊すのには十分すぎる力を持っていた。

攻撃は単純なパンチ、キック、頭突き、体当たり等の打撃全般。

それだけで、土くれが飛び、木枠が壊れ、直線状にある物が、何もかも破壊されていく。

破壊そのもの、まさしく災害、ある意味レオン・ハザードの真骨頂。


そんなレオンは現在。

一人に人間と戦ってた。



「怪物メ! アジトを壊すナ!」

「ワハハハハ! 逃げるなよ!」


全く噛み合わない二人の会話は、破壊音と共にアジトに木霊する。

戦いが始まって3分ほど、すでにアジトの一階部分は半壊していた。


例えば壁。

ヨウが三角飛びの要領で飛び上がると、それに追従するようにレオンが踏み込み、力加減を間違えたのか“ボコン”と穴が開く。

例えば床。

壁に足を突っ込んだままのレオンに蹴りを打ち込むヨウ、攻撃は直撃。レオンが地面に叩きつけられると、そこから蜘蛛の巣上にひび割れが広がった。レオンは無傷。

例えば天井。

床に寝た状態でレオンがヨウに全力で拳を振るう。その風切音より早い拳をヨウは両手で捕らえ、勢いに乗り飛び上がると、まるで上下が反転したかのように天井に立って見せると、そのまま天井に衝撃を流す。すると“ピシリ”と音とヒビが同時に走り、天井が崩壊、雪崩のごとく瓦礫が二人に降り注ぐ。


技術をもって攻撃を躱し、一撃必殺である雷撃で決着を狙うヨウ。

ただ真っすぐ行って殴るレオン。

対照的な二人の戦いに、戦場である北方商事アジトの方が付いていけなくなっている。

無論、周りにいる人間に気を使うなどヒマなど無く、巻き込まれた哀れなチンピラは、いともたやすく肉塊に変わった。

血と肉と石粉と木片が舞う戦場は、確実に建物と人、両方の被害を急速に広げていく。



糞ガ糞ガ糞ガ!!!

アジトが! 商品が! 俺のこの世界での年月が!

片っ端から無に帰っていく!

それなのに俺は、それを止めるどころか、ギリギリで命を拾うのに精いっぱいだと!

ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!


どうしていつも邪魔が入る!

いつもこれからって時だ!

「これから俺は飛躍するのだ!」って時だ!


前もそうだ、あの時も……俺が殺されたあの時もそうだった!

もう少しで、世界でも指折りの力と財を持つことが出来たのに!


俺が潰された過去の栄光に思いをはせると、非常に腹立たしい声が聞こえてきた。


「オイどうした! 笑えよ! 楽しいだろ!」


……目のまえで至極楽しそうに笑う男は、今回の大戦犯だ。

いきなりアジトに突撃してきたかと思うと、アジトの壁を壊して進むという非常識な移動手段、迎撃に向かった部下たちを瞬く間に殲滅、売り出すつもりだった商品の破壊、と今回の被害額の9割はこいつだろう。

いや、厳密には商品を破壊された訳では無く、コイツと一緒に落ちてきた廊下によって潰されたのだが、どうせ廊下もコイツが落としたに違いない。

コイツはそれくらいやる。絶対やる。


今回の取引が今までで一番大きかった以上、取り返しのつかない被害が出ているのは間違いない。

どうあがいても、北方商事は終わりだろう。

そして、それを起こしたコイツは、俺にとって存在自体が禁忌、心の底から消えて無くなってほしい奴筆頭だ。

しかし、それを差し引いてもいちいち神経を逆なですること言ってくる。


なんだ?

お前はなにが楽しいんだ?

俺の仕事をぶち壊して楽しいのか?


ニコニコと笑顔で暴れまわる男は、心の底から楽しそうに笑いかけてくる。

そしてこいつの次の言葉で俺の心は決まった。


「なんだよー。笑えよー。どうせ何もかもぶっ壊れてんだから笑った方が楽だぞ?」

「…………」


ああ、どうやら怒りも行き過ぎると裏返るようだ。

逆に冷静になってきた。

つまり、コイツは自分でほとんど壊したくせに、それを忘れて笑えといっているようだ。

……………絶対に殺す。


心は決まった、ならば実行に移すべきだ。

俺は壁を蹴り上がると、体から生やした針を壁に突きさし、それを起点にさらに飛び上がると、その上に立った。

高さは5mほどで、奴を見下ろすには十分な高さだ。

天井は戦いの余波ですでに抜け、二階と繋がっているので上にはまだまだ空間がある。そして、これからの戦いで壁も、床も、天井も、壊れて空間は広がるだろう。


「平面の戦いは飽きた。次は俺の流儀で行くぞ」

「そう来なくっちゃ!」


怪物は俺の得意な戦いをする宣言したのに、なおも笑った。

ならば、俺もお前に倣い笑うとしよう。

大きく空間を使った三次元の戦闘、それが俺の十八番だ。



足場とした針から飛び上がったヨウは、そのまま垂直にきりもみ回転。

体の輪郭がブレると同時に、その体から多くの針が飛び出した。


「うお!」


驚いたレオンが飛び下がると、先ほどまで立っていた場所に針が数十本は突き刺さった。

しかし、それで攻撃は終わらない。

下がったレオンに追撃するように針が上空で回転するヨウから飛んでくる。

幾本もの針がレオンに迫り、体の前面を襲う、そしてその全てがレオンに触れることなく地面に落ちた。

眼球に飛んできた針を瞬きすらせずに見続け、カラカラと音を立て地面を転がるのを目で追い、そして止まったのを見届ける、とレオンは視線を上げる。

戦場は一変していた。

あの体のどこに隠していたのか、周りの壁、天井にもおびただしい数の針が刺さっている。

部屋はすべての面から10㎝ほどの針が飛び出した状態へと姿を変えた。


「これが俺の最も得意とする戦場」

「おお~!」


回転を終えてフワリと地面に降り立つヨウ、その手には大量の針が握られている。対するレオンは一瞬で様変わりした戦場を見回し嬉しそうに声を上げた。

両者の距離はおよそ5m。


「お前の死に場所でもある」

「ん、それは無い!」


瞬きの時間で、その距離が潰れた。

先制したのは―――


屋内に雷が走った。

陽の射さない屋内を隅々まで照らす稲光に、突き立てられた針が影を伸ばす。


「ガ! ウ…グ……!」

「まずは一撃」


―――『飛雷針』



拳を振り上げた状態で動きを止め、レオンは苦悶の声を漏らす。

その拳は振り下ろせれば確実に当たるであろう距離。

まさしく一瞬(ひとまばたき)でこの距離まで肉薄したレオンのスピードは目を見張る者ではあるが、それでもヨウ・ユエンは先制して見せた。

両手を前に軽く突き出し、レオンの体に触れるか触れないかの距離で電撃を放ったようだ。

そして体が麻痺したのか、動きを止めた者に追撃が迫る。


「フ!」


短い呼気と共にヨウの体が沈む。

体が落ちる流れを横の回転に流用する。

レオンが先ほど行った動きをトレースするようにヨウは低い体勢で蹴りを放った。

狙いは足首、刃の如く鋭い蹴りが、草を刈り取るように足を払い、この日初めてレオンの体勢が崩れた。


「う……ヌ!」


蹴りが鋭すぎたのか、その体勢は真っすぐと直立のままレオンが真横に倒れる。

雷撃を受けショートしていた脳が、地面がせり上がる感覚を受けギリギリで再起動を行った。

とっさに開いた右腕を地面に突き立て転倒を回避する。

しかし、追撃が来る。


ヨウは蹴りを放ち、回った勢いを今度は縦回転に利用。

流れるように立ち上がり、大振りの拳をレオンに振り下ろす。

それを察知したのか、レオンは腕に力を込め、腕力だけでその未だ麻痺が抜けきらない体を高く飛び上がらせた。

しかし、追撃が来る。


休む間もなく、攻撃は続く。

今度はどこから取り出したのか針を放つヨウ。

腕に合わせて放たれる針は、威力も量も増しており、まるで弾幕の如く扇状に展開する。

飛び上がったままのレオンは、避けることも出来ず空中で弾幕に飲まれたが、今回は“傲慢の鎧”が仕事をしたのか無傷ですり抜ける。

しかし、追撃が来る。


弾幕を抜け、視界が開けるとそこに飛び上がったヨウが居た。


「ハァア!!」


怒気と共に拳は鋭く放たれ、レオンの体を次々と打ち抜く。

狙われたのは人体急所が多く集まり、なおかつ打撃が外れづらい正中線。

顔面、首、鳩尾、腹部、股間。

落ちてくるレオンを打ち上げるように攻撃は行われ。視界が開けた瞬間を狙われたレオンに全て命中した。

それでも―――


「ウ…ガ…! なにすん()!」

「!」


―――拳は振り下ろされた。

麻痺が抜けずそのセリフは舌足らずのままだが、その剛力に変わりは無く、足場の無い空中で振り下ろしただけの拳で、ヨウはハエの様に叩き落された。


ピシッ……。静かにその音は流れた。


地面を目前に体を回し威力を殺すヨウ。地面に刺さった針を器用に躱し、音もなく着地を成功させた。

そのまま墜落するレオン。地面に刺さった針を盛大にへし折り、“バキバキバキ!”と派手に音を立てながらも着地成功。


「うがああああ! (からら)が動かん!」

「本当になんなんだお前は……。普通なら即死する威力だぞ……」 


ガシガシと体を大きく動かすレオンは、改めて生涯初ともいえる敵を見る。


「(そこまで身長は高くない。ふんわりした服で体の(ライン)を隠すのは、その内の体つきを隠すため。筋肉は拳の速度から見ても相当鍛えてる。しかし、一番面倒なのはあのピカってするヤツだよな~。喰らったら、体が動きづらくなるのは面倒臭い。後、痛いし)」


ヨウ・ユエンは、先ほど拳の振り下ろしをくらった肩を触る。鋭い痛みが走った。


「(短いがヒビが入っている。電撃で体が麻痺しており、なおかつ足場も無い不安定な空中、そして体勢の整わない苦し紛れの一撃………で、ありながらこの威力。今まではうまく威力を逃がしていたが、再確認できた。まともにくらうのはマズい。電撃は多用出来ないが、常に痺れさせ万全を出させないのが勝利への第一歩か……)」


両者、敵の目測を終え、再び戦闘態勢をとる。


戦闘開始から5分が経ち、戦場は更に広がっていく。

そして、合図となるのは裏口を破壊した閃光。


外からの一撃でありながら、内部にまで届く光と爆発音で、二人は再びぶつかった。

ヨウの口調が変わった?

素が出てきただけですよ。元々心象では変な語尾付けてなかったでしょう?


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