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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
90/111

3-36 小休止

痛ってえええ!!(地下の3人)

「おお、生き残ったか。さてさて、気づいて避けたのか、気づかず耐えたのか。どちらにしろ、これからどうする“蝙蝠”君?」


屋上から見下ろす男は風を受け、ゆるく着たその服を弛ませる。

見下ろす地面には周りごと消し飛ばしたのか、裏口だった場所には直径2mほどの大穴が開いていた。

爆発に巻き込まれたのは先ほど北方商事のアジトを脱出しようとした男。

現在は大穴の横で力なく座っており動く気配はない……と思いきや、いきなり起き上がりそのまま走り出した。

陽の射さないスラムの路地を、影から影へ滑るように走り、そのまま奥に消え、見えなくなった。

屋上の男は追いかけなかった。


「おや、まだ走る元気があったか。残念だね。そのまま動かないでいてくれたら色々聞き出せたと言うのに。まあ、お師匠の息子さんとなると、こちらも簡単にこの場所を放って追いかける訳にはいかんしの」


余裕の現われか、そうに呟いた男は、そのまま逃げる男を目で追いかける事すら辞め、伸びをしながら屋上の縁から離れる。

しかし、彼の眼の端に地面に残された一本の白鞘の剣が映った。

気づき足を止めようとすると、それ止めるように“カチャリ”と彼の腰の剣が鳴く。


「……」


無言のまま男はその剣に背を向けた。

テティスの街に吹く北風が少し強くなり始めた。



「ぐあああ、顔面がああああ」

「腰があああああ」

「背中がああああ」


地下室に響く、苦痛の怨嗟。

梯子を上り扉を押し上げると、不意に顔面を、蹴り飛ばされたアキラ。

真下にいた事で、アキラを受け止め、腰を痛めたダグラス。

更にその下にいた事で、二人の下敷きになり、背中を打ったマーク。


三者三様の声を上げ、せっかく脱出できそうだった地下室に逆戻りして、地面に転がる脱走囚三人。


つい先ほど、レオンが暴れに暴れ、ついに崩壊した北方商事3階廊下。

局地的に地震を起こすほどの力を持ったその波紋は、当たり前だがアジト全体に大きく広がり、超強力な上方からの圧力でアキラたち囚人の檻を歪めた。

しかし、多少歪んだ程度で鉄格子を抜けれるほどアキラたちの体は細くない。

ならばなぜ、檻の外に出ることが出来たか?

それはとても簡単な事。

鉄格子の根元、レンガの枠組み自体が崩壊したのだ。

元々、大してメンテナンスも行われていない檻である。

そもそも、存在を知る者自体が少ない檻である。

つまりは、一度の点検も行われなかった檻である。

崩壊はある意味必然である。


上方から響いた、凄まじい破壊音と、それとほとんど同時に目の前で崩壊した檻。

世界の終わりとも思える衝撃、ぶっちゃけアキラは死ぬほど怖かった。

しかし、それと同時に勝ち誇った笑みを浮かべて見せた。


「わははは!! どうだ、出れたぞ! 賭けは俺の勝ちな!」

「オイ! これアリなのか! 流石に早すぎじゃねーか!」 

「え? 何? 未来でも見れたりするの?」

「いやいや、二人とも認めなさい。一番低い確率にベットしたのは俺だ。そしてしなかったのはお前等だ。分かるな? この賭けは俺の勝ち!」

「ちくしょー」

「クソが!」

「ハハハ、テンプレセリフどうもありがとうございます!! まあ……どっちでも良いから、さっさと出たら?」


アキラの言葉に促され、崩壊した檻から足を踏み出す二人。

拘束時間は違うが、やはり開放されたならこれをするのが普通なのだろう。


「「「うーーー……!」」」


三人は全く同じタイミングで、揃って大きく伸びをした。

そしてそれに全員が気づき、少しだけ噴き出した。


「ははは、まあ賭けは負けでもいいや。どうせ、ここを出たら行く場所ないし」

「ハーイ、じゃあこれからよろしくお願いしまーす。新“ボス”」

「うわ、糞ダセェ。ボスはやめろボスは」

「おうよろしくなボス!」

「やめろって! この年でそれを誇れるほど心は強くない!」


耳を真っ赤にしながら、二人を睨むアキラ。

なぜアキラはボスと呼ばれるのか、それはもう少しだけ時間をさかのぼる。



「そういやさ、お前らは何でココに捕まってんの?」

「「え?」」


上層からの絶えることが無い破壊音をBGMに、アキラは二人が捕まっている理由を問いただした。


「なんで?」

「別に大したことじゃないぞ? 明らかな機密資料を見てしまっただけ」

「どっちかって言うと、見ているのを見た? って感じかな」

「なんだそれ?」


状況が掴めないアキラは、続けて説明を求める。


「あー色々面倒な話は省略な。つまり俺たちは存在しないはずの資料を見てしまったんだよ」

「俺は良く分かってないんだけどね? なんかダグラスと一緒に見ちゃったせいで捕まったんだよ」

「そりゃあ不幸だな。ダグラス、ごめんなさいしなさい」

「ごめんなさい……いや、なんだこれ? 何で俺が謝ってんの」

「だってダグラスがあの時社長室に戻らなきゃ、ココでこうして死刑台一歩手前の状況に陥らなかったじゃん」

「それ、俺の責任か!? あれは、絶対ボスの所為だろ。不用意に資料取り出して悦に浸ってたんだから」

「どういう状況だそれ? つーか、それって殺されるほどの事なのか?」

「そうだそうだー。俺は遠目で見ただけだし、見ても全く分からなかったのに牢屋に入れられたんだけど」


アキラの問いにマークが乗っかり、ダグラスが少し言い淀む


「あー……どうだろうな。ボスにとっては禁忌……というかこの組織の運営上あり得ない代物だったからな」

「結局何だったのアレ?」

「遠目から見た憶測だが……多分過去の暗殺依頼の控えだろ」

「えー……。北方商事(ウチ)って、控えは捨てて、過去に縛られず、禍根は残さず、クリーンな仕事が標語(モットー)じゃ無いの?」

「暗殺してる時点でクリーンでもないじゃん」

「それもそうだね」


マークは納得した。

晴々とした表情で倒れるように壁にもたれかかった。

まだ彼が捕まった結論らしい結論は出ていないのだが……アキラの言葉が妙にはまりが良かったのか勝手に納得した。

目のまえしか見えない少年である。


「で、その極秘資料を見ただけでココに入れられた、と?」

「まあ、平たく言えば」

「じゃあ、何でマークは捕まったの? 言ったら悪いけど、馬鹿そうじゃん」

「さあ? 俺と一緒に見たからじゃね?」

「なんでお前と一緒に見ると牢屋に送られるんだよ」

「俺が賢いから」

「真面目にどうぞ」

「真面目だよ! これでも結構良い大学は出てんだからな!」


そう言ってダグラスが上げたのは、将来にも勉強にも関心が無かったアキラでも、名前くらいは知っている大学だった。


「絶対嘘だ……」

「お前、会うのが二回目の人間良くもこうズバズバと切り込めるな!」


勝手に納得したマークを放置して二人は会話を重ねる。

会話は大したものではないが、それでも弾んだ。

単純に、誰とでも仲良くなれる、友達の友達は友達を体現していたアキラは、話を広げるのが上手かった事もあったのだろう。

おかげで二人は急速に打ち解けた。


「バーカバーカ! 経歴詐称!」

「うるせえ! 人を虐めて牢屋に入れられたくせに!」

「何だと! でも、間違ってないからあんまり広めないでね!」 


……こんなレベルの会話ではあるが、仲は良くなった。


「あーほあーほ! ところでダグラス、経歴詐称って何?」

「うるせえ! 分からんならなんで乗ってきたんだマーク!」


ついでにマークとも仲良くなった。

恐らく三人とも感性が近かったのだろう。

主成分が、「カエルとカタツムリ」辺りなのだろう。


こうして、牢屋の中で始まったご近所付き合いは成功であった。



“ケラケラ”“ゲラゲラ”と笑い、暗かった牢屋に多少の明かりが戻ってきた頃。


ドオオオオオォォォォン!!!


上層でひと際大きな音がした。

その音で牢屋に現実が帰ってくる。


「で、どうやって出ようか?」

「どうすっかなー?」

「はーい、鍵開けとかできる人~」


誰も手を上げない。


「まあ、出来るんならとっくに出てるし」

「全く持ってその通り。アキラは?」 

「俺が出来るなら、そもそも聞いてない」


“何も言わず勝手に開ける”とアキラは付け加える。


『うーん』


誰ともなくいった言葉は、全員が共有している思いを表している。

つまり、牢屋(ココ)から出れるかどうか。

三人にとっては最優先事項である。


「そもそも、上に援軍(?)が来てるんだし、どっしり構えてればいいだろ」


ダグラスは一度も会ったことの無い援軍に賭けた。

単純にズボラなだけである。


「それでも、こうして足掻かないと落ち着かないんだよね。何か方法は無いかな~~?」


マークは自分自身で逃げ出す方法を見つけるため牢屋の中を歩き回る。

ただ落ち着きがないだけとも言える。


ならばアキラは……?


「ふむ、祈るか」

「何に?」

「あー、先祖の霊とか? 神とか? 仏とか?」

「多宗教だな。浮気すると神様はそっぽ向くぞ」

「だからどうした? その程度でそっぽ向くなら、その程度の存在だろ。そんな底の浅い奴はこっちからお断りです」

「ヒュー! ごおきー」

「多分それは豪気だな」


おそらく最も確率の低いであろう、天災に祈った。

多分、ただの享楽である。


そして三者三様、意見が分かれた。

つまり、小学生的思考で考える彼らの次の一手は。


「暇だな、何か賭けるか?」

「賭けようか?」

「じゃあ何を賭ける?」


なぜか賭博であった。



アキラ・トコバは賭け事が嫌いではない。

レオンとの鬼ごっこの時には自らの命すら賭ける事の出来るほどである。

小学生の時から、享楽を語って、一人でチンチロリンのやり方を覚えて、そのコミュニケーション能力を生かし、クラス内に流通させた。


賭ける物は、

全く価値の無い牛乳瓶の蓋から始まり。

学校の給食の残りの優先権。

給食の苦手な食べ物を流す権利。

グラウンドの優先使用権利。

etc……。


最終的には他クラス、他学年、に至るまで手を伸ばし、成長期前の善悪の境目が曖昧な子供相手に爆発的なヒットを飛ばし、教師とPTAが介入してくるまで、学校全体を裏から支配したほどである。


この時アキラは小学校に来て、Ⅰ年と半年。

PTAと学校の要注意生徒(ブラックリスト)に載った最速記録を塗り替えた。

普通に笑い話ではないが、アキラの中では笑い話で留まっている。

これ以上の面倒を幾度か起こしたからである。



ダグラスは普通に賭け事が好きである。

元々大学では経済学を専攻し、数学的な観点や、心理学的な視点からも経済を見つめてきた。

卒業後は会社勤めを行ったが、肌に合わないと思っていたところで、交通事故で両親が死亡。

大学に入る辺りから疎遠であったが、大好きだった両親からそれなりの遺産が転がり込んできた。

1年ほど悲しんだが、泣いてても仕方ないと入った遺産を使い、株トレードを開始。

1年目にその遺産を2倍に増やして、それなりの遺産は、かなりの資産となった。

2年目にはその資産を更に3倍にして、かなりの資産は、莫大な資金となった。

3年目に、その資金を5倍に増やした事で、彼の一生は安泰となった。


そしてダグラスは会社を辞めた。

死ぬまで、だらけて生きるつもりだった。

もし大好きな酒の買い出しに出た帰りに、交通事故に遭わなければ、今も家で一人で、楽しく、寂しく、なまけているはずだった。



マークは賭け事くらいでしか遊んだことが無い。


アメリカの南部


本人も興味が無かった事で名前も知りもしないその町は、小規模のギャングが幾つかと、違法移民と、薬物中毒者と、ストリートチルドレンで、総人口の5割を構成された町である(ここで言う総人口とは住民票にも乗っていない、町に住んでいる人間も含める)。

マークはその内、ストリートチルドレンに属していた。

両親の顔は知らない。

少なくとも一番昔の記憶は、ごみの様に路地で血まみれになっていた事。それから、甘いお菓子を食べた事。くらいである。

頼る物も無く、道で物乞いをしていたが、これではいけないと一念発起、周りでいつの間にか出来ていた少年窃盗団に所属した。

この少年窃盗団は、一つのギャングが下部組織として作った物であり、年に50人以上の子供が死ぬ、非常に危ない組織だ。

しかし、この組織は思ったより、内部状況は悪くなかった。

悪質な環境で、上を歩く人間の足を引っ張るためなら、ヒトは結託する。

つまり窃盗団であることがこの組織を組織にしていた。


仕事内容は、スリ、万引き、放火、人さらい、酷い時は敵対ギャングへの鉄砲玉もあった。

報酬は歩合制。仕事をすればするほど金がもらえる。そう言う方法じゃないと理解しない者が多い。

そして、彼らは流れる血のせいか環境のせいかは不明だが、そのせっかく稼いだ金を使って賭け事の真似をしたのだ。

というか、それくらいしか遊びが無かったとも言える。

元々、遊び半分で人を襲う子供には、何も賭けない勝負はつまらなかったのだろう。

こうして、ポーカーからスロットまで、一通り賭け事を経験したマークは、団員が共同で使っている寝室に突っ込んできたトラックに撥ねられて死んだ。

恐らく敵対組織の攻撃、もしくは少年窃盗団の金庫でも狙ってきたヤバイ大人かもしれない。

マークは眠っていたので知らないが。

何より、彼は自分自身の死因については特に興味はない。

『死んだ事など過ぎた事。今を生きる事の方がよほど重要である』という非常にポジティブな考え方をしていた。

まあ、生きる手段としてまた裏組織に入ったのはポジティブとって良いかは知らないが……。



そんな訳で奇跡的に趣味があった三人は賭けをすることになった。


「で、勝ち負けはどうやって決めるの?」

「条件付けて、それで脱出できたかで良いんじゃないか?」

「出れなかったらどうすんのさ?」

「死ぬんだろ」

「そういやそうか」


流れるように賭けの形が決まった。


「それより、景品はどうするかな?」

「ここ出たらメシを奢るとかでいいんじゃね?」

「それでもいいけど……。割に合わなくないか? 掛けの倍率……確率的に」

「それもそうか。俺が今のところ一番確率が高いかな?」

「俺は二番目くらい? まあ、天災系よりは高いか」

「じゃあ、俺が一番倍率高い、って事でいいか」


流れるように賭けの設定がなされた。


「じゃあ、どういう賭けにする?」

「うーん、俺は倍率低いしさっき言ったメシ奢るでいいや」

「良いだろう、食べれるその辺の物を存分に使った貧乏飯を食わせてやる」

「良かろう、俺の教科書通りの教科書料理を奢ってやろう」

「わー、どっちも何とも言えねー」


「じゃあ、俺は寝るとこ欲しいかな。そろそろ背中が痛い」

「爺くさ」

「何だと」

「それよりマーク。ベッドだけで良いんだな。屋根は要らんのだな」

「屋根のある場所での宿泊を希望します!」



「そう言うアキラは何が良いんだよ?」

「倍率的に結構無茶が言えるよ?」

「じゃあ、お前等俺の部下な」

「「なんだそりゃ」」

「色々手数が欲しかったんだよ。ちょうどいいしお前ら俺が勝ったら俺の部下な」


三人が三人とも欲望は話した所で賭けは設定された。


「俺は“アキラの仲間が助けに来る”に賭ける」

「俺は“自分で何とか出る”に賭け」

「俺は“天災”に一票」


「改めて聞くと最後だけ違和感が凄いな」

「明らかに異質って言うか」

「俺も自分でそう思う―――」



ズドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ここで今までの比較にならない音がした。

それはもう音というより、爆発だった。



僅か10分程度でアキラに部下が二人出来た。

呆れる様に笑うしかない二人に、アキラは笑いかける。


「じゃあ出るか」

「多分あの梯子だよな」

「上、塞がってない?」

「開ければいいさ。さっさと出て昼飯食うぞ!」


そして、扉を開けたところでアキラが蹴られた。

その余波で全員が負傷した。


「今日は良い事ないな……。捕まるし、蹴られるし」

「さっきの賭けで、運使い果たしたとか?」

「あり得るな。あんなタイミングで地震が起きるか普通?」

「だからと言って、俺のせいではないだろ」

「それもそうだ」

「ええい! 今度こそ出るぞ!」

「背中が痛いから後で良い? ボス」

「俺も腰痛いから後で追いかけるわ。ボス」

「忠誠心の無い部下だな! オイ!」


それでもアキラは起き上がる。

それがここから先の戦争に大きく関わると誰が予想できただろうか……。

字数増やしたのに話が進んでない。

なぜだ!

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