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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-34 アジト内行動Ⅴ

あ、ごみ取れた(マーク)


ミリミリ、ビキビキと音を立てながら、廊下に空いた穴からヒビが広がった。

ヒビは石粉を噴出し、木材が徐々に顔を見せ、一瞬ごとに瓦礫が生まれ落ちていく。

そして限界は瞬く間に追いつき、支えは消え去り、自由落下が始まった。


自らの思い通りに事が運んだ男は笑いながら落ちていく。

状況の飲み込めないレオンは目を白黒させながら落ちていく。


……ところで3階の下は何階だろう?

2階? その通り、もちろん大正解。


だがこの場では少しだけ話が違う。

この廊下の下には巨大な倉庫がある。

レオンが飛び上がり屋上に昇る過程で天井に大穴を空けた倉庫がある。

クリスが探索と称して物を壊しまくっている、1・2階を抜いて作られた商品倉庫がある。


その無茶苦茶になった商品倉庫に今、廊下一個分の瓦礫が降り注ぐ。


「はあああああああ?!!???!??」


それを間近で見ていた北方商事の主は心の底から絶叫した。

現在、今回の件の被害額を考える彼の心労はマッハである。



その日テティス裏町は局地的な地震に襲われた。


北方商会の廊下丸々一本。

石材を軸に木材を組み作られた廊下の長さは15mほど。

重さはトン単位。

そんなものが3階部分およそ15mから墜落した。

もたらす破壊力は凄まじく、商品倉庫に衝撃波と爆風が吹き荒れる。

積み上げられた木箱の塔は軒並み倒れ、壊され、中身を露出する。

もちろん人的被害も出た。

モクモクと昇る石粉の間から見えた瓦礫の下、ドロリと流れる血は、墜落した廊下の下で、クリスに斬りつけられ放置されていた構成員(チンピラ)数名の成れの果てである。


「ブおう!! なんで落ちた!! 何が起こった!!」


自らに被った瓦礫を力ずくで吹き飛ばしレオンは叫んだ。

瓦礫は宙を舞い、そのまま無事だった木箱に突き刺さった。

二次被害発生。

木箱は押しつぶされ、内部に残した商品ごと粉々になった。


「アレ? ココ何処? アイツ何処に行った?」


レオンがキョロキョロと周りを見渡すと、そこは見通しの良い瓦礫の丘の上。

前回来たのはわずか10分前だが、景色は大きく様変わりしているので、同じ場所だとは気づかないのも無理はない。

レオンは先ほどまで戦っていた相手の姿を探すが、しかし周りは埃と木片と石粉が舞っている。

これでは高所から遠くは見渡すことは出来ても、近くは見えづらい。


「ならば鼻で! すうぅぅぅぅ―――、ブエクション!」


レオンは大きき吸い込み、石粉ごと吸い込み咳き込んだ。

どうやら鼻も利かないらしい。


「うーん? どういう状況だ? うーん?」


視界が変に悪く、鼻も利きづらい状況に、レオンは落ち着きがなく足をバタつかせる。

レオンが今まで生きた内で、ココまで五感が利かなかった事はアキラとの鬼ごっこだけであり、意外と心細くなっているのだ。


「まあいいや。おーい何処だー。えーと……ハクテーン」


まあ、恐れる物などほとんど無いレオンにとっては大したことでは無いのだが……。

瓦礫に山から軽く飛び降り、未だ止まぬ煙を掻き分けるようにして地面に降り立ったレオンは、人気の無い商品倉庫を歩く。

踏みしめる足取りに少しの不安も迷いも無い。



“傲慢の鎧”を常時展開するレオンには、ほとんどの物理攻撃が通用しない。

それは間違いない事である。

だが、二つ名に万能は無い。

いや、『万能』と言う二つ名は有るのだが、それは“(よろず)に近い能力”であり、満遍なくはあっても、“突き詰めた一”に突き破られる事は大いにあり得る。

真に万能の能力などではないのだ。

そして、まるでそれを証明するように、二つ名には“進化”と言う現象がある。

それは使いこなされた二つ名がより上位に上る現象。


“二文字”の二つ名は“三文字”へと至る。

格が、位が、存在が、上がる。それは一段や二段上などではなく……。



“ガラガラ……”と何かが崩れる音がした。

それを聞いたレオンが音の方向に視線を向ける。

そこには、木屑と瓦礫が積み重なった場所に、人が飲まれていた。

髪に粉を被り、両腕をダラリと伸ばして、気絶しているようだ。


レオンはそちらに足を向ける。

向かう場所が無かった事が、一番の理由だったのかもしれない。

だが、レオンはその気絶している誰かに見覚えがあった。

足の踏み場もないほど散乱した瓦礫を、直線距離を行くためにわざわざ踏みつぶし、その気絶した誰かに迫る。

そして、あと数歩の所で気づいた。


「ん? クリス……?」


その短い言葉を言い終わると同時、狙っていたかのようにレオンの右側で瓦礫が崩れた。

反射的にそちらを見ると、そこには誰もいない。

それを確認したレオンが、視線を戻そうとした時に変化は起こった。

左側から顔面に向かって蹴りが飛んできたのだ。


「うお!!」


“ドンッ”と空気を揺らす音がして、その蹴りはレオンの直前で止まった。


「…ッ!」

「ん? お前は、ハクテン?」


顔面に放った蹴りが対象に当たることなく、いきなり止まり驚くハクテンに、レオンはなんてことない口調で問いただした。

蹴りが来ると分かった時点でレオンはわざとその動きを止めた。

受けて、敵の姿を確認するためである。

だがしかし、それは結果的には悪手だった。


「おう、また会えたな!」

「また? 何の事ダ?」

「え? だってさっき……」

「どうでもいイ!!」


レオンの話を聞かず、ハクテンは空中で止まったままの足を起点に、曲芸じみた動きで宙を舞う。

レオンの顔の高さで、横向きに回転しながら、上方からの蹴りを見舞った。

“蹴りが止まるなら、止まらないように、重力に伴って上から落とす”、それは合理主義というよりはヤケクソじみた理論だ。

事実、レオンの“傲慢の鎧”に前後左右上下の死角は無い。

またも空中で止まる蹴りを見てハクテンは、それが二つ名の能力によるものだと確信する。


「(ならば、死角を探す!)」

「ん?」


ハクテンは頭の上で止まった蹴りをずらし、レオンの肩に足を掛けると、そのまま足を引き込むように曲げ、両足で首を包んだ。が……。


「お? それで、これからどうすんだ?」

「グッ……! これでもか!」


その足は首を絞めることは無かった。

ハクテンは万力の如く力を込めているのに、触れる事は叶わず、彼にはレオンの体温すら感じることが出来ない。


「わはは、終わりか? じゃあこっちから行くぞ!」


その言葉と共に、レオンは体を沈ませる。

首にかかった足は、何の障害も無い様に“スルリ”と抜けた。

そのまま沈む勢いを横回転に変換し、拳を大きく振るう。

防御など考えないテレフォンパンチだが、相手は空中で足を組んでいるのだ。

問題も無くヒットした。


“ドオーーン!”


「ん?」


激しい音と共に瓦礫が宙に舞う。

それに合わせてレオンは疑問の声を上げた。

先ほどの攻撃は正しくは、ヒットはした、である。

攻撃後に拳に違和感を持つレオン。

見るとそこには針が刺さっていた。


「ん? なんだこれ?」


手を広げると針は刺さっておらず、指の間に挟まっていただけだはあったのだが、いきなり現れた針を、恐る恐るチョンチョンと(つつ)くレオン。

そこに(いかずち)が走った。


「アガアァァアアァァァ!!!!」



鎧はついに貫かれ、戦いは佳境に転がりだした。


北方商事一回戦

『激怒』クリスチャン・リンカーンVS『飛雷針』ヨウ・ユエン(ハクテン)

戦闘時間15:51

勝者 『飛雷針』ヨウ・ユエン


北方商事二回戦

『傲慢』レオン・ハザードVS『??』ハクテン(?)

戦闘時間7:20

勝者 戦闘中断ため勝者なし



北方商事最終戦

『傲慢』レオン・ハザードVS『飛雷針』ヨウ・ユエン(ハクテン)

戦闘開始



「ホントに良くもこんなにタイミング良く、檻が壊れたもんだね」

「全くだ。で? ここから出てどうすんだよ“ボス”」

「さて、どうしようかね? どうやら、誰か暴れてるよだから、それに乗じて逃げても良いし……。まあ、それを考えるのがお前の仕事だろう、ダグラス」


歪んだ檻を抜けだした男たちは、誰ともなく歩き出した。

その先は戦場だと知らずに。 

ようやくまともなバトルだよ!

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