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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-33 アジト内行動Ⅳ

アジトが一段と大きく揺れた。

隠し部屋の壁が異常なレベルで頑丈で、レオンの攻撃の余波とはいえ壁が壊れなかった事で、力がそのまま突き抜ける事は無く建物全体に響いたのだ。

むろん、その間を仲介した男も無事ではなく。


「がフッ!」


男は血を吹き出しそのままズルズルと壁を滑り、床に座り込んだ。

仕方の無い事である。

それほど今の一撃は重かったし、一般人ならば上半身が吹き飛び、体の3割前後肉片に変えてもおかしくは無かった。

そんな致死の攻撃を受けてなお、生存してる事が彼を“強者”である事の証明になる。

ただし、レオンよりは幾分か弱いが。


「(嘘でしょう……。上から降ってきた時点でなんとなく分かってましたが、これ程とは……。いや、そうですよね……。入口に絡繰りを使うほどこの部屋を大事にしているヨウが、壁は厚いけど天井が薄いとかありえないミスする訳がな…いし……ね……)」


座り込んだ床に“カラン”とナイフが落ちる音と共に男は沈黙した。

黒く塗りつぶされ艶を失ったナイフは寂しそうに床で動きを止めた。





戦いは決着した。

交通事故レベルの一撃が人を死に至らす事はなんの疑問も無いだろう。

普通なら戦いは決着するはずだった…………。


「オラァ!」

「うわぁ!」


レオンは座り込んだ男の顔面を躊躇なく蹴り抜けた。

そしてまた大きくアジトが揺れる。

二度目の衝撃は棚に乗せられた品を地面にいくつか落とすほど。


その一撃を間一髪で転がるように躱した男は肩で息をしながら問いかける。


「どうして気づいて―――」

「あ、生きてた」

「気づいてなかった!」


死を装った擬態。男は取った作戦は意味をなさず。

観念したのかゆるりと男は立ち上がる。


「糞、随分と用心深いですね。死体に蹴りを入れるなんて」

「ん? 形がまともなら生きてるだろう?」

「何ですかその酷くザックリした知識は、よくそんなので生きてきましたね……」


レオンの無茶苦茶な発言に呆れてツッコミを入れる男は床に落ちたナイフを拾うと再び構える。

その瞬間、レオンは感じ取った。


「お、良いなお前。なんか強そうになったぞ」

「それはどうも。(その余裕がある発言は褒められてる気はしないですけど)」

「なんか言ったか?」


それは先ほどまでと同じ型だが、随所に込められていた無駄な力が抜け、おそらく本来の形を作ったと見える。

野生児であるレオンには戦闘技術等は基本無縁ではあるが、その類稀なる五感で先ほどまでの型とのわずかな変化があることに気づいた。

何が変化したかは分からないが、何かが変化した事には気づいたのだ。

それが警戒するに値する事にも。


「よっしゃ来い!」

「イヤです」

「じゃあこっちから行くぞ!」


それに気づいてなお、嬉々として踏み込むのがレオンである。

両手を広げ腰を落とす、体が地面と平行になるほど前にめりに、体勢からして恐らくは狙いはタックルか。


「(見え見えだな。上に飛んで避け―――)え?」


男がそう思った一瞬のうちにレオンはその場から姿を消した。

気づいた時には攻撃は決まっていた。



「嘘だろコレ」


無意識に言葉が口から漏れた。

先ほど商品倉庫の新しいエリアに踏み込んだのは良いのだが、今までの要領で蹴りつけた木箱がなぜかびくともしない。

切りつけてみると“ガキン”と金属音がして剣が止まった。その時点で嫌な予感がしたが、中を覗いてみると非常に物騒な物が見えた。

それは白く光る鉄の刃。

剣である。僕の鑑識眼なんて高が知れているが、それでもそれなりの業物と見る。

この剣の奥には他にも光を反射する物体が、それはどう見ても同型の剣である。


「もしかしてここから先の木箱は全部武器入り?」


僕の頭に最悪の考えが浮かんだ。

先ほど入り込んだ時にざっと見た感じでだが、今まで駆けまわっていたエリアとここから先のエリアは同じくらいの木箱があるように見えた。

もし、今までいた場所が薬物のゾーンだとするなら、そしてここから奥にある木箱が全て武器なら、単純な計算でそれはとんでもない量になる。


重火器の発達していないこの世界でのメインウエポンは意外な事に剣である。

槍とか、弓とか、他にも武器はあるが、なぜか戦いでは主に剣が使われる事が多い。

貴族という特権階級が民を治める世界では、特別であるという貴族を民草と区別するため、見栄えをする剣が使われるようになった説を言っている学者がいるらしいが、真相は闇の中である。

その説だと特別でもない民草も剣を使ってるから意味が通らないだよなぁ。


今回発見した武器はまあまあ良質であり、ちゃんと整備すれば年単位で使えるだろうし、無理を重ねる戦いでも半年は持つくらいの頑丈さだと思われる。

これで本当にこの先の木箱すべてに同じレベルの武器が入っているなら、それこそ戦争でも起こせるくらいだ。


戦争


浮かんだ言葉が頭から離れないのは、僕がつい最近まで戦争(それ)を行っていたからなのか?

それとも箱庭以前に居た帝国の空気に今更ながら感化されてるのか?

どっちでも良いが土星は基本平和のハズ。

南方では蛮族とやらと小競り合いが起こっているらしいが、ここまでの数の武器が居るか?

そもそも位置的に真逆の北方であるテティスの街に武器を集める理由は?

ダメだ、考えるな、今は戦闘中―――


「見つけたゾ」


失敗した。足を止めるのが長すぎた。

わずか10歩程度の場所にハクテン。

そしてココは木箱の道の中腹、走って数歩の距離に盾にできる曲がり角は無い。

針が飛んでくる。

そう思った瞬間だった……と思う。

断言できないのは前後の記憶が曖昧だからだ。

だから具体的には分からない。

ただ、後で聞いた話で推測するには、僕の体に(いかずち)が走ったらしい。



世界が一気にブレた。

全速力で走った時と同じように、走る電車の外の景色を見たように、ジェットコースターの一番高い所から一気に急降下したように。

色々感想を垂れたがすべて現実逃避でしかない、きっと、僅か一瞬のうちに部屋の奥に背中に当たるだろう。

当たるというか、ぶつかるだけど。

そして、私はそこで十中八九死ぬ。

少しは抵抗するつもりだが十中八九は89%だ。一般的なロシアンルーレットより低い一割に命を懸ける馬鹿はいないだろう。

腰は力ずくではあるが腰の横に首を押し当てるタイプでガッチリとホールドされて、抜け出す隙間は微塵も無い。

この速度なら交通事故だ。イヤ、列車事故かもしれない。

ああ、向こうの側の壁が更に遠くなって……………。







ドオオオオオォォォォン!!!


凄まじい破壊音がした。

周りが明るい。

天国かな? イヤ、見覚えがある廊下だ。つい数十分前に通った廊下だ。つまり生きているようだ。

手足は? 動……くかな? うん、どうやら幽体離脱の線は消えたな。

右腕、さっきの裏拳に挟んだ時にヒビでも入っていたのか? 動かない、折れたな。

左腕、多少痛む、というか凄く痛いが動きはする。要注意。

両足、意外なことに共に問題ない。

腹回り、タックルを貰った箇所、痛い、多分内臓とか幾つかやってるんだろうな……。


……総じて五体満足ではないが、幸運だ。

私はどうやらまた生き残ったらしい。


「うおぉぉ……顔痛い……」


私の隣で間抜けな声がした。

そちらを見ると、そこには顔面を押さえてうずくまる金髪と銀髪の混じった不思議な髪色の男。

間抜けな姿だが、一応私の敵だ。


周りには恐らく犠牲となった壁の破片?

バラバラになった建築材。うわ、コレ多分鉄筋コンクリートってやつだ。久々に見た。

こちらの世界では初めてかもしれない。

こちらの世界は建物にあまりお金をかけないからな。


痛む左腕を無理やり支えにして、立ち上がる。

首を振ると、明らかに壊れたばかりの壁の奥に先ほどまで居た部屋が見えた。

状況的に、私たちはこの壁を突き破ったとみて間違いないだろう。

なぜ? と考える暇はないな。

少なくとも敵は健在だ。

壊れないようにハクテンが用心して作った壁を突き破ってなお健在だ。

発言的に余裕もあるだろう。

だが、こちらの壁を突き破ったならアレはどうなった?

“名剣”はどうなった?


『キーン』


光った……のではない。

音がした……のでもない。

全く不思議な感覚だったが、ただ呼ばれた事だけが分かった。

未だうずくまったままの男を無視して、呼ばれた方向にあった壁の破片を蹴り上げる。

すると、そこには重なるように2本の剣があった。

私を呼んだのは黒い鞘の方だろう。

先の情報的にもこちらの方が私と波長が合う。


「よいしょ。痛つつ……」


苦笑しながら痛む左手で剣を2本とも腰に差す。

腰回りがゴチャゴチャするが、仕方ないと割り切ろう。


「オーイ。武器の補充は終わったか?」


後ろから声が掛けられた。


「待っていてくれるとは、律義ですね」

「別にぶん殴っても良かったんだが……。聞きたいことがあってな」

「ほう? 聞きましょう」

「その剣はなんだ? 多分黒い方だと思うけど、その剣生意気にも俺を呼んだな」


私は眼を軽く見開く。

今のが分かったという事では驚かないが、黒い剣だとこの男は直感したなら、この男は私と同類だ。


「なるほど。先ほどの音とも光ともつかない“ソレ”をあなたも感じたと?」

「その感じじゃお前もか。おおそうだ。感じた事ない感覚だからなんとも言えなかったが、呼ばれた事だけが不思議と分かった」

「ええ、多分私が感じたのも同じ感覚でしょう。……ですがお答えできません。これは私の仕事の最優先事項。ペラペラ喋るわけにはいかないのです」

「じゃあ、戦うか!」

「それも勘弁!」


私はそう言うと力の限り走り角を曲がる、と同時に言葉を放った。


「源流四十一『加速』 源流四十二『開眼』 源流三十三『方解』」


矢継ぎ早に放つ言葉を聞き、自らの体が切り替わっていく事を感じる。

自己強化型の源流の技、四十番台と三十番台を掛ける。

走りながら出なければもう少し上位の物も使えるが今の私ではこの程度。

下手に重ねると、集中が解けて技がかからない可能性もある。最悪掛けた技が全て解ける。

そんな愚考は出来ない。


「待てコラアアアア!!」


後ろで恐ろしい声がした。それと同時になぜか爆発音も。

それに呼応するように目の前にこの組織の構成員(チンピラに毛の生えた程度の物)が顔を出す。

“面倒だ”と思ったが。その構成員のセリフを聞いて考えを変える。


「え? ボス?」

「なんで?」

「下に向かったはずでは?」


ボス? 

ああ、そうだ今の私の顔はハクテンだ。

よし、使おう。


「お前等! アレを止めろ! どうにかしたら幹部にしてやる!」

「え?」

「よっしゃ!良く分からんが分かりました!」

「オイ、お前らも手伝え!」


矛盾した発言と共に十数人の構成員が廊下に出てくる。

揃いも揃って少しだけ上等なチンピラにしか見えない。

この組織大丈夫か? 上が優秀だと組織は回るんだな……。


もう一つ角を曲がると後ろでこんな音がした。


「おう待てや侵にゅ『グチャ!』」

「な! テメェなにし『バチャ!』」

「お、おい! ま、『グチェ!』」


そんな音が十数回。多分構成員の数だけそんな音が流れた。

黙祷はしない。

自分たちのボスが逃げてる時点で何か察しろ。


カチャカチャと腰回りの音がうるさい。

……おや? 音が鳴っているのは黒い鞘の剣だけだ。

まるでこちらの気を引こうとするように、その剣だけが音を立てている。

……危険を感じたので無視する。


名剣とは一種の付喪神だ。

魂を刻まれ二つ名を手に入れた剣であり、本来の在り方は二種類。

一人の二つ名持ちが長く同じ武器を使う事で影響受け形成される方法。

『鍛冶師』等に類似する二つ名持ちが心血を注いで作り出す方法。


前者はより付喪神的であるし、後者は二つ名を刻むという事で納得がいく。

が、今回のコレはマズい。


魂を持つ名剣には多かれ少なかれ意思が存在する。

名剣の使い手が稀にその声を聴く事があるそうで、剣が勝手に動いて使い手を守る例も存在する。

そうで無くても名剣は同じタイプの二つ名を持つ人間を呼ぶくらいなら出来る。

しかし、ココまで露骨な動きをするとは聞いた事が無い。

当たり前だが、ついさっき見つけたばかりの私はこの剣の使い手ではない。

何か自律行動できる二つ名を刻まれているなら考えられない事も無いが、この黒鞘の剣はそう言う二つ名では無いはずだ。

この剣はヤバイ。明らかに私に抜かせようとしている。

刻まれている二つ名も相当だが、全く使うつもりない状態ですらここまで動くのだ。

もし抜き放った場合どうなるか……考えたくもないな。




しかし私が考えこんでいるうちに、目的地に到着した。

わざわざグルグルと遠回りをして着いた場所、そこは廊下のまっすぐ伸びた廊下の奥に大きく穴が開いている場所である。


「オラアアア! 見つけたぞゴラアアア!」


バゴン、ズドン、という音と共に男が廊下を飛び跳ねてきた。

なるほど爆発音はそう言う事か、合点がいった。

()()()()()()()、今になってようやく余裕が出て来た。

後はタイミングだ。


「来い」


男に向きなおり、足を止め、私は静かにそう言った。


「オラアアアア!!」


飛び上がったまま振り下ろされるテレフォンパンチ。

先ほどからの戦いで分かっている。アレをまともに受ければ私は死ぬ。

だがそれでいい。

死ぬくらいの威力でなくてはならないし、特に振り下ろされる辺りが最高だ。


一瞬にも満たない間の後、邂逅、そして廊下が崩壊した。

書き足すかも?

書き足した(10/16 11:50)

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