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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-32 アジト内行動Ⅲ

早く“名剣”を!(???)

「オラァ!!」

「うわ!」


上段から振り下ろすように殴りかかったレオンの攻撃は空を切り“ボウッ”と音を立てる。

ハクテンの姿をした男はレオンの攻撃を脇の間を潜り抜けるようにして躱してみせた。

レオンの攻撃が大振りで分かりやすかったとはいえ光のほとんど射さない暗い部屋の中で躱して見せた男は、背中合わせの状況になりながらも素早く身を反転させすでにレオンに向きなおっており、手にはどこからか取り出したのか黒塗りのナイフ構える。

一連の行動はわずか数秒間に行われ、この男が幾度となくこの動作を行った事を思わせた。

しかし、敵が攻撃態勢に入ったというのに逆に攻撃を仕掛けたレオンは振り返らない。

男は飛び掛からない、すぐに振り返ると思っていたレオンが振り返らない事に疑問を覚えたからだ。


「(……攻撃手段を考えているのか?)」


前述した通り、この部屋は狭い。

両脇に棚が置かれ元々人二人分のしかない幅をさらに狭めている。

つまり極端に言えば攻撃の方向は三つしかない。

“上(振り下ろし)”か、“下(カチ上げ)”か、“直線(ストレート)”か。

酷く狭い隠し部屋での戦闘は二人の攻撃手段を減らして………。


「どおらあああ!!」

ガシャシャシャンッッッ!!

「うそぉぉ!」


けたたましい音と共にレオンの裏拳が男を襲う。

なんてことは無い、レオンにとってこの部屋に有る物がまるで重要ではない以上、この棚は壊しても構わない障害物である。

そしてもし人を分類するとき、“壊してもかまわない物でも壊さない様にする”者と、“壊しても構わないなら片っ端から壊す”者に分けるなら、レオンは後者なだけである。


見事に虚を突かれた(レオンにそんなつもりはない)男は躱す事が遅れ、その裏拳を叩きつけられることになった。



ズーン…ズズーン……


天井からの振動と音が止まない。

この牢屋自体がろくに整備もされていないせいか、振動がするとパラパラと埃なのか砂なのか分からないが、細かい粒が降ってくる。

なので下手に天井を見上げると。


「ぎゃあああ! 目に入った! 目に入った!」

「うるせぇぞマーク。地面を見つめろ。それで埃は入らない」

「それどころじゃない! 水……は無い! 〇ァッキュー!!」


まあ、こうなる。

牢屋の中をグルグル歩き回っていると思ったら、次の瞬間にはジタバタと地面を転がる、っと思ったら今度は連続でジャンプしだした。目の痛みを誤魔化すためマークは忙しなく動き続ける。

牢屋内には水道は無い。トイレですら汲み取り式なので当たり前といえば当たり前か。

他にもこの牢屋、俺が床で目を覚ました事から分かると思うが、普通ならありそうなベッドすらない。

まあ、ある意味この牢屋に入るのは死刑囚より死刑台一直線の人間だ、環境を整えようがそうで無かろうがどのみち死ぬしかないので整える気も起きないのかもしれない。

効率的といえば効率的ではある……のか?


「それで、さっき言ってた助かるかもしれんとはどういうことだ?」

「あ、気になる?」

「そりゃあね、藁にもすがりたい気分だし」


マークの泣声をとも怒声ともとれる声をバックに俺たちは話をする。


「俺が捕まった理由はさっき言ったよな?」

「あー、何かルルオロ家の馬鹿息子に喧嘩売ったんだって?」

「そう、それで変だと思ったんだよ」

「は? 何が?」

「端的に言えば早すぎる。俺が汚物(アミゴ)を虐めたのは、つい今朝の話なんだよ。それこそ捕まる30分前くらい」

「え、お前そんなことしてたのか?」

「そう、だからこう思ったんだよ。ダグラスの考えと俺の考えに何か行き違いがあるって」

「まあ、ウチのお抱え暗殺者でも30分で依頼受けて実行するのは無理だろうな」

「今の発言で答えが出たな。俺が捕まったのは今朝やった汚物(アミゴ)を汚物まみれにした件じゃないって」

「っぶ!」


そう言った瞬間、床に横になっていたダグラスが驚いた顔をして起き上がった。


「お前そんなことやったのか!」

「やりました。超スッキリしました」

「はー……怖いモノ無しだなー。この街でのあの家の影響凄いんだぞ」

「それはこうして捕まったから身に染みてる。で、話戻すんだけどここで疑問に思ったんだよ。『あれ? じゃあ俺が捕まった理由って何?』って。それで思い出したんだよ、汚物(アミゴ)と始めた合った時の事を……」

「なんかやったのか?」

「調味料投げて逃げた」

「……何だそれ?」

「俺も自分で言っててそう思った」


アレはこっちの時間では3日前くらいだったかな? 箱庭で見つけた植物から抽出した辛味成分をぶっかけて逃げた。

それだけ。

ピンポンダッシュ以上、ドロップキック以下くらいのイタズラだ。

俺とダグラスの行き違いの原因はこれだ。


「普通そんなことで殺されるとは思わんだろ………」

「まあ、確かに……。この世界向こうと違って命の価値薄いからな」


だよなー。レオンとか普通に殺してたし。

目の前で人が死ぬとか普通に平和な国で生きてた人ならトラウマになるだろ。

ん?


「今のセリフ的にダグラスは転生者?」

「そーそー。引きこもりしてました」

「うわ……」


俺の頭に親のすねをかじるヒキニートが思い浮かんだ。

この世界では転生者はやたらと速く年を取る、ダグラスがどれくらいこの世界にいるかは分からないが……現在の見た目はおっさんなので、引っ張られて酷い。


「……親御さん泣かせるなよ……」

「……何を想像してるかなんとなくわかるが、俺の親はとっくに死んでるよ」

「……お前、親の遺産で……」

「俺は! 引きこもりではあっても! ニートではない!」

「そんなの存在しねーよ!」


家に引きこもって出来る仕事なんて無い!

そう俺が確信をもって言い切ると、とんでもない答えが飛び出した。


「するわ! 俺は株トレードで生きてたの!」

「は? ギャンブルじゃねーか! どっちにしろ親御さんは泣くわ!」

「ギャンブルじゃありませんー! 株取引はちゃんと考えれば損をしない仕事なんですー! 出来もしない奴が僻んでそう言う偏見を押し付けたんですー!」


なぜだろう? 子供の喧嘩みたいになった。

ダグラスの言い分は分からんでもないが、そう言うことが出来る人間は友達に居たが、そう言うのは極一部の優秀な人しか出来ないはずだはずだ。

そして俺には目のまえで俺と子供の喧嘩みたいな事してる奴が優秀に見えない。そう思うと口が勝手に動いた。


「ありえねー」

「何だと!」


その言葉でダグラスの堪忍袋の緒でも切ったのか、ダグラスはキレた。

結果、水掛け論になりそれから5分くらい時間を無駄にする事となる。


「もういいや。メンドクサイ。で、話を戻すぞ!」

「ああ! お好きにどうぞ!」


互いに喧嘩腰で叫びながら話を元のルートに戻した。


「で、調味料ぶっかけ事件の方で考えたら共犯ではないけど、一緒に居たヤツが居たんだよ。ダグラスが言ってた狙われる二人って考えてみれば、俺とその時一緒に居た奴だろう?」

「まあそうだな。ルルオロのバカ息子にそれ以上に考える脳みそは無いはずだし」

「で、そいつの家に入り浸ってるんだよ。うちの最高戦力が!」

「? それがさっきから鳴ってる―――」


―――ドーン!


ダグラスが天井を指すと、ちょうどよく破壊音が起きた。

お互い肩を“ビクッ”とさせる。


「この音だと? 何でそんな事分かるんだよ?」

「ん? ビックリするくらい簡単だぜ」


俺はダグラスの質問は予想内だったのでニコニコしながら答える。


「アレに丁寧に敵を倒すということが出来んよ。暴力の塊みたいなものだし」

「良くそんな暴力装置を味方に引き込んだな……」

「別に? 人間なんて結局使いどころ間違えなければ良いだけだし」


まあ、ぶっちゃけレオン以外にこんな派手な音立てて襲撃するとは思えないだけなんだけどね。

ココの主は相当強い人らしいし不意打ちで襲撃するならもうちょっと静かにするだろう。

音的にかなり派手にぶっ壊してるみたいだし。

うーん室内でこれだけ派手だと昔のドタバタは思い出すな。

凍夜の家でやった花火……。凍夜特製の音が馬鹿みたいにデカい花火……。むかつく教育BBAを発狂させた室内花火……。

今思えば、あのBBAすら懐か……別に懐かしくはないな。顔見たくないからこっちに来るなよBBA。



「とりあえず、レオンが勝てばここから解放されるだろ」

「……それはどうだろうな?」

「なんだよ? レオン滅茶苦茶強いぜ! 証拠じゃないが、これだけ派手にやってるんだし大丈夫だろ?」

「いやぁ、お前さんの言うレオンとかいう奴がどれだけ強いか知らないんだけど……ボスの力を知ってる俺からしたら、無理だと思ってしまうんだよ」


何処か含みのある言い方をするダグラス。


「アキラ……だったよな……。お前さんは人間が雷を躱せると思うか?」



――ズズーン!


もう幾つ木箱を蹴り飛ばしただろう? 

10個目から先は面倒だから数えてないんだよね。逃げてる途中だから、あんまり考えすぎるのが得策だとは思えないし。

舞い上がった煙はすでに倉庫中に広まっているのではないだろうか?

そう思って振り返った矢先、僕の目の前を針が通過した。


「ッ!!」


眼で追うと銀色の針はその先の木箱に深々と突き刺さった。

これだよ。

少しでも足を止めると針が恐ろしい速さで飛んでくる。いや、止めなくても飛んでくるんだけど。

発射された方向を見ると薄い煙のベールの向こうにハクテンの姿が見えた。

先ほどから飛んでくる針は徐々に大きくなっており、最初はペンくらいの大きさだったのに、今ではBBQ用の串くらいの大きさになっていた。

長さも太さも大きくなっており、軌道もダーツの様に真っすぐではなく円盤の様に横回転をしながら飛んでくる時もあるので、攻撃を躱すのは地味に難しくなっていく。

そして、不気味なことにこの5分間、なぜか彼は喋らなくなった。


「(何か考えでもあるのかな?)」


走りながらも新しい木箱の塔を蹴とばす事は忘れない。

蹴とばすと今度は“ヒュンヒュン”と音を立て針が飛んできた。

この音の時は横回転だ。

これは音で察知しやすいけど躱すのに大きな動作が必要なのが面倒なんだよな。特に木箱の間は狭いから。


そう考えていると目新しい場所に出た。

木箱の塔は一つも倒れておらず、どうやらいままで走り回った所ではないようだ。

見渡す限りの木箱は、先ほどまでは化け物のに見えていたけど、今は僕に自信をくれる。


「これだけあればレオンが来るまで持たせられそうだな」


僕はそう言って新たなエリアに踏み込んだ。

前回書いたのにあんまりバトルしてねーや。

それとアキラの友達の定義はシンプルです。『友達の友達は友達』

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