3-31 アジト内行動Ⅱ
音が近づいてくる(クリスチャン)
ーードゴオーン!!
「お、飛び出た」
僕が木箱のせいで迷路のようになっている商品倉庫で、あっちをガサガサこっちをガサガサしていて分かった事がある。
ココはそこまで重要な場所じゃないな。明らかに面積に対して配置されている構成員が少ない。
まあレオンが上階で暴れまくっているので、そっちに人員が裂かれていると言う事も考えられるけど。
今まで切り伏せたチンピラは10人にも満たない。
二階まである高い壁がぶち抜かれ案の定というか……なんというか、レオンが降った来た。
「お? おああああ!! 地面が無い!!!」
大声でバカみたいな言葉を言いながら壁の材木と一緒に振ってきたレオンは、天井近くまで積まれた高い木箱の塔をいくつもなぎ倒し、そして木箱を粉砕しながら墜落。
木くずとその中身が舞い上がった。
中身はモノがモノだけにあんまり吸わない方が良いよね。
「大丈夫ですか」
「ブェックション!! ん? ここはどこだ!」
「一階の商品倉庫ですよレオン」
「おお、クリス!」
服の袖で口元を隠し舞い上がった空気を吸わないようにしながら僕はレオンに近づいた。舞い上がった草の臭いが凄い。
「ちょうどよかった、君にやってもらいた事が有ったんです」
「お? なんだ?」
「3階と屋上を調べてもらいませんか? そこが怪しいらしいので。別に僕がやってもいいけど、どちらも壁を壊して移動できる君の方が早いでしょう?」
「いいけどなんで?」
「……君はここに来た理由を覚えてるんですか?」
「え……あーうん、覚えてる、覚えてる?」
「アキラさんが捕まったので取り返しに来たんですよ」
「あー! そうだ! あ、いや違う、今そう言おうとした! 覚えてた!」
「あっそう」
忘れてたな。
「じ、じゃあ行ってくるわ! ちゃんと覚えてたからな! さらば!」
「あ、その前に一つ忠告を。このアジトには強い敵が居るそうなので注意を」
「何!」
目を輝かせるな。
強い敵なんかとは戦わずにいられたら最高なんだから。
「どうな奴! どんな奴!」
「何でアキラさんの時よりやる気何ですか」
「もちろんアキラは引っ張り出す! で、どんな奴!?」
“引っ張り出すは間違っているのでは?”という考えを口に出しても無駄だと思うし、思うだけにするとして、先ほど切り伏せたチンピラから聞き出した特徴を思い出す。
「あー、一番分かりやすい特徴はハゲです」
「ハゲ?」
「ハイ、頭がツルツルです。名前はハクテンだとか」
「良し分かった! 言ってくる!」
ーードオオォォン
そう言うと、また発射音とも爆発音ともとれる音でレオンが真上に飛んで行った。
再び巻き上がる木屑と草。
本当にどうやって飛んでいるんだか。
あ、そう言えばハクテンは喋る時の語尾が特徴的って情報言うの忘れてたな。ていうか実際どういう感じなんだろうね? 特徴的な語尾って。
「今の爆発はなんダ? 私の組織で何が起こっていル?」
「ああ、こんな感じか…………え?」
「こんな感じとはなんダ?」
後ろから聞こえてきた声に思わず納得して言葉を返してしまった。
いつの間に後ろに。
全く気配がなかったんですけど。
「お前ハ?」
「新入りです」
「嘘だナ、この組織に存在する人間の顔どころか背格好まで全員覚えていル。お前は見たことが無いゾ」
振り向かないで言った嘘は、全く機能せず。
うわぁ最悪だ。
最悪のタイミングでエンカウントした。
よりによってレオンがたった今出て行った瞬間にエンカウントするとは。
「お前が侵入者カ。良くもやってくれたネ」
「あー、僕の今日の運勢どうなってんだか」
命がけの戦闘が日に二度。それも今度は敵方のボスだって。
残念ながら面接前に終わらせるのは無理そうだな。
あー仕方ない、逆に考えよう。ココで勝てば昼前に終わる! つまり面接に間に合う!
良し! やるか! 僕は覚悟を決めて振り返った。
ヒュン
頬を銀色(?)の何かが掠めていった。
掠った場所から血が流れる。
目のまえには手を上げた男が一人、正しくは最初は体の横にあった手を僕には見えない速度で上げた男が一人。
えーと……。
「思ったより若いネ。とりあえずドコの組織でナニが目的カ、答えてもらおうカ」
「うん、無理だコレ」
『激怒』クリスチャン・リンカーンVS『飛雷針』ヨウ(ハクテン)
戦闘開始
◇
ーードゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴーン!!!
「ん、眩し……あれ? ココ何処だ? 外か?」
四度天井を抜けたことでレオンは図らずも屋上に出た(そもそもレオンは屋上が何か理解してないので、本当に図らずもである)。
スラム内、屋内、と長い時間、日の当たらない場所に居たことで暗闇に目が慣れていたレオンは目を少し細める。
このアジトはテティスでもひと際高い建造物、屋上まで上がれば周りに日を遮る建物は無い。
開けた視界とまだ肌寒い風にレオンは鼻息を荒くする。
『傲慢』の戦闘で最も恐ろしいのは狭い屋内ではあるが、レオンの最も得意とするのは生まれ育った屋外である。
高い位置から見下ろすとこの街の建物がひと際小さく見え、北風に乗って遠い土の香りが漂ってくる。
もしここで戦えたら……レオンは夢想する。
デコボコとした建物の屋上は走り回れれば素晴らしい爽快感を、逆にスラムで見たような狭い路地を飛び回れるならそれはそれでスリリングな体験になる。
アジト内で散々殺戮を行っておいてなんだが、レオンは別に殺しが好きではではない、戦いが好きなのだ。
それは出来立てのかさぶたを剥ぐことが好きな子供がいるように、ビルの淵で命綱を付けずに逆立ちをする青年がいるように。
―――痛みを楽しむ、スリルを楽しむ―――
すなわちただの趣味である。
趣味だからこそ誰にでも戦いを挑む。趣味だからこそ戦いの最中に心から笑うことが出来る。趣味だからこそその過程で人が死のうとも何とも思わない。
そしてレオン・ハザードは『傲慢』にもそれが正しいと思っている。
だからこそ相手が泣こうと、苦しもうと、死のうとも、自分自身の生き方を世界の基準として相手に押し付けている。
『傲慢』にもそれが正しいと相手に押し付けている。
レオン・ハザードは狂っていた。
「む? 誰だ!」
だからレオンは驚いた。
戦いを趣味として楽し自分が、戦いたく無いと感じる相手がいる事に驚いた。
屋上と5階を繋ぐ階段を囲う屋上からポコリと突き出した小屋のような場所、その屋根に“誰か”が立っていた。
渋い色の和服のような服を緩く着ているその“誰か”は、後ろを向いているせいで顔が見えない。
が、その後ろ姿だけでも理解できる力は、レオンに無意識ではあるが、初めて一歩下がると言う行為を行わせた。
「ハザード一族特有エネルギーの質、金と銀の斑髪……。なるほどレオン・ハザードか」
「なんだお前! 俺を知ってるのか! というかそっち向いてて何で俺の髪の色を!」
「まあそう焦るな、質問は一つずつだ。……そうだな、まずは答えやすい奴からいこう。ああそうだ私は君を知っているよ。といっても私が一方的に知っているだけだが」
「次に君の髪の色がなぜ分かったかだが……これを使った」
「あ? う、眩し!」
そう言って懐から取り出したのは手鏡。キラキラと反射した太陽光はレオンの顔に直撃し目を眩ませた。
「ははは悪いね。お詫びといっては何だが、君のいる場所から右に20歩行ってごらん?」
「み、右? ……こっちか」
「ははは残念そちらは左だ」
「糞!」
いきなり逆方向に向かって歩くレオンを“誰か”は楽しそうに窘めた。
「……18、19、20! 行ったぞ! なんなんだこれ!」
「その真下に君の探しに来た人がいる」
「は?」
「君が探しているのはアキラ・トコバだろう? その真下だ。そうだなここが屋上だから、6つ床を打ち砕きなさい」
「何でそんなこと知ってんだよ……」
「なぜって、アキラ・トコバが運び込まれるところを見たからね」
「そうかじゃあいいや! バイバイ! サンキュー! また今度!」
そう言うとレオンは床を思い切り踏み砕き5階へ落ちていった。
人間がゴキブリから逃げるように。本能で逃げ出した。
「あ、まだ質問に全部の答えていないんだけど……。まあいいか、“誰か”なんていずれ分かるだろう。それこそ“また今度”だ」
◇
「うわあ! 怖い怖い!」
「待テ! 逃げるナ!」
ハクテンはそう言って針を飛ばしてくるが、無理だって、だってそっち飛び道具じゃん。
それどころか最初の間合い、後ろに立たれた時点で振り返って踏み込もうとした時、すでに頬を針が掠った。
あの間合いって剣の間合いだよ? 振り返った事を除いても、目に見えない速度で手が動くって事は、それだけで脅威であるのは間違いない。
だってその速度で剣振るわれたらこっちは反応出来ないって事だからね。
だから全力で逃げ一択。
後はこっちを思いっきり舐めてもらえれば良し。
アキラさんから学んだ生き残れば勝ちという事に合わせて、バカの振りでも何でもやろう。
そして、ちょうどいい事にこの商品倉庫は木箱を詰め込みすぎて迷路と化している。
相手の武器が針である以上軌道は直線。
なら曲がり角の多い商品倉庫は攻撃を躱す壁としては最高だ。
それと―――
「怖い怖い! から…喰らえ!」
そう言って曲がり角に思い切りけりを入れる。
そうすると木箱で出来た曲がり角はグラリと揺れ、そのまま音を立ててて倒れた。
三度モワモワと煙が上がる。
「糞ガ! またウチの商品を!!」
ハクテンが切れているようだが知った事ではない。
どうせろくでもない商品だ。
倒れこむ木箱はハクテンの道を塞ぎ、舞い上がる煙に紛れることが出来、さらに商品をダメにできる。
一石三鳥ってやつですね。
良い事しかないし当分はこの作戦で行こう。
ところでレオンはドコで何を?
◇
「暗い部屋だ」
一人、男が部屋に立っていた。
この男が入ってきたとみられるドアからは光が射し込み、昼前だというのに一切光の射さないこの部屋の暗さを際立たせていた。
「明かりを入れるランプすらないのは万が一にもここに有る物の焼失を防ぐためかな?」
男は独り言を呟きながら、部屋を探索する。
部屋の幅は人の肩幅3人分ほど、そして両脇に棚が置かれさらに狭くなっている。
棚には絵画、金で出来た杯、封のされた酒、珍しいモノでは人間のような生物の骨などが並べられているが男は一瞥するだけで視線を逸らす。
「しかし隠し部屋への入り方がここまで手が込んでいたのは始めてだったな。まさか考えていたプランの全てを使う方法だとは………用意周到にも程がある」
“おかげで頭が痛い”と苦笑する男の目線がある一点で止まった。いや、正しくは二点。
それは鞘に収まった剣が二本。
一つは黒く、一つは白い。
「いやぁ本当に有るとは。ともあれ、これでようやく御遣いも折り返しだ。見つかってよかったよ。“名剣”―――」
―――ズドーン!!
男がその言葉を言い終わるか否や、天井が崩壊し、誰かが落ちてきた。
「グへェ! なんだココ埃っぽいな、ん?」
「えっと、君は………侵入者君かな?」
「あー! 禿げてる! って事はお前がハクテン!」
「そ、その通り! 私の名はハクテン! この町一番の実力者にして、テティスの街を怪物から守る者! 君がやっている事は本来許される事でないが今日は気分が良いから見逃して――」
「――勝負だ!」
「ええええええええええ!!!」
そう言うとレオンは問答無用でハクテンの姿をした男に殴りかかった。
『傲慢』レオン・ハザードVS『??』ハクテン(?)
戦闘開始
次回バトル的展開!




