3-30 アジト内行動
ワハハハハハハハハハ!!!(レオン)
「客をこの部屋に入れたのは初めてだヨ」
「つまり、それだけこちらを重要視してくれてると考えてもいいですか?」
「好きに考えろヨ」
そう言って自分の目のまえに座る男に素っ気なく答える。
しかし先ほどの発言は真実であり、私はこの男を無下に扱うことが出来ない。
「さてヨウ殿……ああ、それともここではハクテン殿と呼んだ方が良いでしょうか?」
こちらの顔を窺うのは、眼の下に黒子がある金髪の美青年だ。
元の世界ならモデルとしてどこかのランウェイを歩いていそうな顔だ。
この容姿で、何を好き好んで裏側で生きてるか分からん。どこぞの金持ちの女でもたぶらかして紐にでもなれば楽だろうに。
……まあ、今考える事では無いな。
「どっちでもいいヨ。表裏はあるけどどっちの私の名前だ」
「では、北方商事の主の方で呼ばせていただきます。ハクテン殿、この度は我々の注文を受けていただき感謝します」
「別にいいヨ。うちは商人、求められて対価が払えるなら売ってやるのが仕事ダ。銃でも薬でもナ」
「素晴らしい! あなたこそまさしく死の商人だ!」
「褒めても値引きはせんヨ」
「いやぁもちろんですとも」
そう言ってニコニコと笑う顔を窺うと、男の目が笑っていない。正しくは男の目だけが笑っていない。
ああ、前言撤回だ、この男はこの世界に入るべくして入ったのだろう。もっと言えばどんな道を辿ってもこの世界との関わりを持つことになっただろうな。
そう思わせる酷く濁った鈍色の眼を私は見た。元の世界はともかく、この世界でここまでの酷いモノはあまり見かけない無い眼だ。
だがこちらも同じ眼を持つ者、それに一番の十八番である商売では負けん。
「というカ。褒めるならば、アレ等を集める努力を話してからにしてもらわんとナ」
「と言いますと?」
「今回の商売で何が一番面倒だったと思ウ?」
「……さあ、集める事ですか?」
私はニヤリと笑い、後ろの机の上から受け渡す商品のリストを取り上げ、男の目のまえにバサリと置いた。
男はリストを手に取り目を通す。
「まさしくその通りダ。まあもっと面倒だったのは集める事ではなく運び込むことだったガ」
「ああ……なるほど、この街は他の街から荷物を運びこめる門が一つしかないですからね……」
「それだけじゃなく今回の武器は密輸品が多い。火星、水星二つの国から輸入しタ、そのせいで武器の種類自体はバラバラになったガ、品質については保証すル」
「別に武器何て敵を殺せればいいですし、問題は無いです。あくまでこのリストに書いてある通りなら、ですが」
「そこは問題ないヨ。商人の信用に関わるからナ」
「そうですか」
にこりと笑う男の顔は、女が見れば間違いなく恋に落ちるような物だ。男の私から見てもそう言う感想が頭に浮かぶのだから間違いない。
ただ、顔だけではないようだ―――
ドオオオォォォォン!!
「「!!!」」
我がアジトで破壊音がした。
「(何の音だ?)」
男の裏工作かと思い視線を向けるがその顔には今までの張り付けた表情ではなく本当に驚いたと思われる表情をしていた。そして視線を一瞬遅れてこちらに向けてくる。
「どうやら考えた事は……」
「同じようで……」
お互い視線をぶつけながら、互いの間合いを測る。
男の手は空中に不自然に浮かび緩く動く、どうやら武器を探っているのか腰に向かっているのだろう。
それを見ているこちらも最大限の警戒を行う。狙いは武器を手に取る一瞬前。
……だがそれは杞憂に終わった。
“ドンドン!!”と手荒いノックと部屋の外からの部下の大声が響いた。
「報告いたします!!」
「どうした!!」
「正面入り口から侵入者です! 現在二階で暴れています!」
「分かったすぐに向かう! ………というわけだ、ここから動くなよ」
「ええ、それはもちろん。お互い取引が出来ないと困りますからね」
そう言った男の言葉を背中に受けながら、私はドアを雑に開ける。
助かったと考えるべきか…? 下手したら疑心暗鬼のまま、殺し合いになる所だったしな………。
◇
「何の音だぁあ!」
「侵入者だぁあ!」
「捕まえろぉお!」
「いや、殺せぇえ!」
廊下に野太い叫び声が響き渡る。
発する男たちは各々が武器を手に取り侵入者に向かい走り出している。
その形相は恐ろしく、元々強面に属する者たちであることを差し引いても、子供が見れば泣き叫ぶレベル。
アジトに侵入してくる愚か者に対して怒り狂った顔になっている以上しょうがない事だろう。
しかし残念ながら相手は子供ではない。
「ははは、なんだアイツら楽しそうだな」
向かってくる男たちを見てレオンは明らかに見当違いの感想を言いながら、その顔には笑顔を浮かべていた。
そして先ほど地面に空けた穴の前に立つとのんきに屈伸運動。だがその間に距離を詰めた男たちは手に持った武器を振り下ろされる。
―――ッ!
先ほどと同じような音がしてレオンの姿が消えた。
「え?」
「消えた?」
「どこに……?」
「ははは、おーいこっちだ」
「「「え?」」」
いきなり目の前から消えたレオンを探してキョロキョロと首を振る男たち。そんな彼らの上方から笑い声がした。
見上げると天井に張り付いて、にんまりと笑うレオンが。
「ははは、はははははは、……あっはっはっはっは!!!」
そして、心底楽しそうに笑いながらレオン・ハザードは廊下を跳ね飛んだ。
上、下、右、左
天上、床、右壁、左壁
縦横無尽、四方八方、八面六臂、自由自在
それは人間業では決してない。
床に触れた片手で全身を跳ね飛ばす。
天上に触れた爪先で方向を転換する。
壁に触れた腕で吸い付くように急停止する。
パルクールという技術がある。走り、登り、飛び跳ねる、障害物を躱し、飛び移り、受け身を取る。優れた身体能力と技術があって成立するアクロバティックなスポーツである。
しかしレオンの動きは技術ではない。
二つ名『傲慢』
能力名:傲慢の鎧
自らに触れる物を選ぶ能力。それは言葉で表すなら“斥力”に近い力。
触れる物を自ら選択し、触れたくない物には向かってくるエネルギーと同等以上の力ではじき返す能力。
それを利用し、常に自分自身に触れる物に対して発動すれば、片手で跳ねる事も、爪先で弾く事も可能。力を弱めれば勢いを殺す事だけでも使用出来るので急停止も思いのままである。
もちろん、鎧の名に違わず全身に纏えば物理的な攻撃は基本無効化できる。
更に乱反射してぶつかるだけでも、自分のぶつかる速度と倍の威力を生みだすので、閉所で使用するなら結果的に……。
「ぎゃあああ!!」
「腕が変な! 変なあああ!!」
「あれ? 何で俺の背中が見えれるぅぅ……???」
レオンが乱反射しながら通り過ぎた廊下は地獄絵図と化した。
ある者は正面からぶつかり交通事故の様に、ある者は躱そうとして腕を逆方向に曲げ、ある者は首から上を空中に飛ばされていた。
彼らの不幸は半端に強かった事だろう。
生命力が強い、肉体が強い、素晴らしい事ではあるが逆説的にそれは容易に死ねない事を意味する。特にレベルの違う戦力の前では。
「はははははははははははは!!! 最高だな! 向かってくるヤツがいるというのは!」
笑いながらレオンは廊下を飛び回る。
敵が一人なら殴って殺す。敵が複数なら周りを弾け回って殺す。敵がいないなら出てくるまで探す。
たった三つの工程を繰り返すだけで北方商事の戦力は次々と削られていった。
走っているだけで廊下はガタガタと崩れ、跳ねるために使用した壁は跳ねた後には穴が開くことも少なくない。
笑いながら破壊と痛みと死を振りまき、レオン・ハザードは北方商事を崩壊へと着実に進めて行った……。
◇
ドッガーン! ドッゴーン! ズドバッゴーーーン!
「おお、やってるなあ。……天井落ちないよね?」
パラパラと振ってくる埃を見て僕は不安を覚えた。
上階から聞こえる破壊音はドンドンと大きくなっていくようで、後だんだん近づいてくるようで怖い。
このアジトあんまり防音機能は優れて無いのか、時々“ギャー”とか“クルナー”とか聞こえてくるけど、レオンの仕事で上階が今どうなっているかが…………うん、気にならない。
最低でも地獄だと思うし、僕は地獄を見たいほど物好きじゃない。
門の前にいたチンピラから聞いた情報で、僕は一番近い商品倉庫にやってきた。
このアジトを歩いて思ったのはかなり広いと言う事だ。
倉庫は面積からして学校の体育館くらいは有りそうで、高さもかなりの物……多分2階までぶち抜いて作ってるのかな?
それにここに来るまでの道中も同じくらいあった事を考えればこのアジトはだいぶ広い。
町一番の貿易組織と言えば聞こえはいいが、テティスは街の規模としても大したものじゃないし。何よりスラムの奥の土地という事で土地の価格は安いだろうが、この規模は大きすぎる気がする。
外から見たサイズは窓の数から察して多分5階建て、奥行きが体育館の倍くらいだとして、横幅も見たところかなりある。
縦×横×奥行で考える立方メートルはいくつになるんだろう? 間違いなく僕がテティスで見た中では一番大きな建物だ。
「表の顔、裏の顔があるとしても出来すぎだな」
商品倉庫というだけあって木箱に入れられた荷物がところせまく並び、そして天井まで積み上がっている。が、どう見ても過剰に詰め込まれているといった印象。
テティスには目立った特産品も無いはず(サクラさんは農業と林業って言ってたけど見たことない)なので輸出は最低限だろう、でもここまで積み上がってる事を考えたら、輸入品だよな。
でも市場じゃあるまいし、食料にしては多すぎる気も……。
「あ、あんだてめぇは?」
「新入りです」
「ん? そんな話は聞いてないが……。まあいいや、じゃあ荷下ろし手伝え」
「嘘です、侵入者です」
「え?―――」
―――ズバンッ
荷物の陰から現れた男に平然と嘘を吐いて背中を見せた隙に切る。
自分でも外道だと思うけど、まあ殺してないからいいや、と割り切る。
そして先ほどの攻撃で切っ先が木箱の一部を切り裂いたようで、中身がポロポロとこぼれた。
「なるほど、ありがちだね………」
中身は乾燥された植物。
「うーん、僕が箱庭でそれなりに植物と触れあってた意味はあったかもしれない」
言葉に出したのは少しでも心を落ち着かせるため。
それは見た目というか、臭いが似ていたんだ。
アキラさんの指示で戦争に使用した煙の出る植物に。
つまりは……毒のある植物だ。
「もしかしてこれ全部?」
詰み上がった木箱がなんだか大きな化け物に見えてきたよ。
◇
ドッタン! バッタン!
ゴトゴト…ガタガタ!
ズズン!!
グラグラッ……
どうやら侵入者君が下の階で暴れまわっているとの事。
……ふむ、それにしても随分景気の良い破壊音だ。どういう武器を使っているか気になるね。
音的には解体現場に近いからハンマーとかこん棒とかの打撃系の武器かな? 源流使いの可能性もあるし、二つ名で圧縮した空気でも吹き飛ばせば似たことは出来る。
まあどちらにせよ、こちら側に良い風が吹いてるのは間違いないようだ。
「この部屋からは動かないけど、物色するなとは言われてないからね~」
そう言いながら壁に飾られた絵を押しのけ軽く叩くと響く音がしない。
おや? おかしいね?
案内された時にアジト内を観察した限り、隠し場所はここしかないと思ったんだけど?
……いや、逆か。ココしかないから正攻法では壊せないようにしているって所か。
だとすると、隠しスイッチないしそれに準ずる絡繰りがあってもいいような……。
よくよく観察すると画鋲でも刺したように壁にいくつか小さな穴が開いてる。
絵が飾られている以上、そこまで不思議な事ではないけれど、配置が微妙に怪しい。この部屋の主の二つ名から考えて………これかな?
だとしても、穴は複数。
考え付く可能性は
①正解の穴は一つだけで、他はすべてダミーのタイプ
②すべての穴を使用し、正しい順番で使用することで作動するタイプ
③すべての穴に同時に使用するタイプ
ざっと考え付くだけでもこれだけある以上は、手が出せないな……。
ヤツが書置きを残すタイプには見えないし、書置きの紙が有ったとしてもそれ自体がダミーの可能性が高い。
うーん仕方ないな、あんまり使いたくないんだけど使うか“二つ名”
30話達成。
次回はバトル的展開?




