3-29 戦闘:カミル家
上で破壊音がする。(アキラ)
「よぉし! どうするクリス! 作戦!」
「えー僕が考えるんですか? 君なら適当に突っ込んで暴れればいいでしょう。僕は僕で動くので好きに―――」
「良し行ってくる!」
チュドオンッッッ!!
クリスが喋り終える前に、そんな爆発音とも発進音ともとれる音がしてレオンが消えた。
目の端で捕らえたのは、何の踏み込みも助走も無しに、それこそ膝を曲げた訳でも足首を伸ばした訳でも無い、コレが垂直飛び出ないなら他の垂直飛びも垂直飛びではないだろうという、まさしく垂直飛びで、ここから数mはあるはずの天井を突き破り上空に消えていったのだ。
「あー……まあいいや」
天を見上げ、空いたばかりの穴に向かってクリスは面倒臭そうに、というか疲れた声で呟いた。
レオンが異常さを彼はイヤになるほど良く知っている。
そして今度は地面に視線を下ろすと、先ほど彼らが叩きのめし倒れたままのチンピラを軽く蹴り飛ばした。
「おーい生きてます? レオンの方はともかく、僕の斬った方は手加減したから生きてますよね?」
「な、なんなんだ手前ら……、さっきの音は……」
「あ、生きてた。じゃあ答えてください。あなたたちが攫った人物はどこにいますか?」
「さ、攫った、何のことだ?」
「うん? さっきお仲間が言ってましたよ?」
◆
約2時間前
「ぎゃあああ! 僕の秘蔵のクッキーが!」
「美味かったぞ」
「何で勝手に食べるんですか!? 甘い物なんて僕の給料じゃほとんど食べられないんですよ!」
「でも湿気てたぞ」
「知ってますよ! つーか2年前に買ったヤツだぞ!」
アキラと別れた後、帰宅したカミルは朝から叫ぶことになった。
彼の好物は甘味全般である、しかし色々あって彼の給料は薄給である。
その金額は生活必需品を買いそろえると、手元に残るのはここで書くのが惨めになるほど少ない。
そもそも、この大陸では南方でしか生産されていないサトウキビ。都市として一番対極の場所に在るテティスでは砂糖等の甘味は非常に高価である。
寒冷地で育つ甘味の元であるテンサイに似た植物が無いわけでは無いのだが、それが有るのは別の世界。この世界で他世界からの輸入は突発的に起きる“割れ目”を使う事でしか交流が不可能な事と、その世界が元々植物の種を別世界に持ち出す事を禁止にしている事とで、こちらも非常に高価。
結局彼の手元に甘味(というか砂糖を使った食べ物)が来るのは月に2、3度である。
その2、3度の機会は現在レオンの腹に収まった。
「死ね!」
「お前、前戦った時より闘志があるな」
涙目になりながら叫ぶカミルに、レオンは若干引いているが、問題はそこでは無く。
「朝から騒々しいですよ。外まで聞こえてますよ」
「お、クリス。ちょうどよかった、こいつ何とかして」
「カミル、レオンは今度は何をやったんですか」
「クリス! 頼むこいつに天罰を!」
「無理です」
クリスはそのほかの男衆と違い、土木関係の仕事では無い。
募集条件を満たしており給料が土木よりも良い仕事を張り紙で発見したことでそちらを選択、今日は昼から面接を受ける事になっている。
張り紙によると、給料も待遇も良いが、その代わり頭が良くないと出来ない仕事、とのこと。
詳しくい仕事内容はまだ知らないが、アットホームで賑やかな仕事場とのこと。
地雷臭しかしないし、別にクリスは天才でも秀才でも無いが、この世界では義務教育と言う物が無いので頭を使う仕事の水準が低いのである。
給料が良いので一応受けておこうと思っているだけである。
本来ならこの世界ではほとんどないタイプの仕事だが、定員もそこそこ多く、何より社員寮がある点でクリスは受ける事にした。
現在は役場裏の広場でテントを張って雑魚寝。
別に彼はアウトドア派ではない。
流石にこれ以上のテント生活はイヤである。
「ところでレオン。君最近見なかったけどここで寝泊まりしてたの?」
「イヤ、ここは飯食いに来てるだけ。寝泊まりは向こうの森とか、こっちの道とか」
「僕は飯を食いに来いとは一度も言ってないんだけどなぁ!」
「それよりも、レオンは道で寝て体が痛くないのか?」
「ん? 道の上は堅いから寝やすいぞ」
「イヤ、まず外で寝るという事に疑問を持ってください。家の中の方が暖かいだろ?」
「うちはだめだからな!」
「じゃあ今日はここで昼寝するか」
「やめろ!」
「レオン今は朝だよ」
「じゃあ朝寝でいいや」
「そういう事じゃない!」
カミルの悲鳴とも怒声ともとれる声が響くが、レオンには関係ない。
元々『傲慢』なんて二つ名を獲得するようなレオンの本質から考えれば、人の話を聞かないくらい序の口であろう。
もちろん訴えは通ることも無く、レオンは奥の部屋に消えていった。
「しね!」
「君、何か性格変わったね」
「クリス! 君も君でなんてこと言ったくれたの! 僕の家であいつが寝泊まりしだしたら僕はどこで暮らせばいいのさ!」
「それは本当にごめん」
「謝ってないであいつを連れ出してよ!」
「うーん、まずアイツが僕の言う事を聞くかな?」
クリスの中ではレオンは暴力の象徴である。
箱庭戦争でその在り方をさんざん見せつけ、勇気のある誰かが手を伸ばし、その全てへし折ってきた怪物。
実はクリスは彼に何度か立ち向かおうとした事があった。
しかしこちらの世界に転生してから成り行きとはいえそれなりに戦闘訓練を繰り返してきただけあったのか、自分とは比較にならないほどの戦力を感じ取ってしまい、勝率が微塵も感じられず。結局、放置という言葉で諦めた。
アキラの作戦では、勝率があるから乗っかっただけで、無いと判断したなら最初から作戦には反対していただろう。
……しかし、クリス自身は少しでも勝率があったとしてもレオンに挑むことは無かっただろう。理由が無ければ戦いたくない、平和主義が彼の本質である。
だから、クリスはアキラを尊敬しているのだ。
自分では出来なかった『レオン挑む』という事を行い、戦いこそ引き分けという形ではあるが、最後にはレオンに意見し動かす事が出来る立場に落ち着いた。
クリスにとってアキラは兄と同じくらい尊敬し、今も従っている。
「僕じゃ無理、アキラさんに頼んで。これから広場のテントに戻るみたいだし、そこに行けば?」
「え、もう帰るの? じゃあ何しに来たの?」
「昼まで時間があるし、面接までお茶でも飲ましてもらおうかと思ったけど、やめた」
「そんなこと言わずに! 僕をアイツと二人にしないで!」
「イヤ、こっちに対応して面接に遅れましたじゃ目も当てられないから。それに遅刻は論外だけど、早く着く分には文句は言われないでしょう」
「そこをなんとか!」
「無理、命がかかってるわけじゃ無いし」
生活のかかるクリスはカミルの嘆願をバッサリと切り捨てドアに向かう。
「うぅぅ……何で自分の家でこんな目に合わなきゃいけないんだ」
クリスからカミルに言える事は何も無い。
しかし彼の境遇を聞けば同情は出来る。
両親が死に、祖母の家に引き取られ、自分のせいで祖母は仕事を首になった。
だからと言って人の命で遊んでいいわけでは無いが、それでも彼が歪むのは仕方のない事だと思う。
そして彼が今、その歪みを克服し、過去と向き合おうとしているのは、やはりアキラのおかげなのだろう。
「死ね! 僕より幸福な奴はもれなくくたばれ!」
たった今新しい歪みが生まれつつあるが……。
“それじゃあ、うちが抱えている人間はかなりの数死ぬんじゃないか?”なんて正論を言わずに、クリスは笑顔で家から出て行った。
◆
「さて、どうしたものか……」
ドアを後ろ手に閉めながら、室外に出たクリスは疑問の言葉を口に出した。
ドアからでた瞬間、明らかに好意的ではない視線が複数飛んできた。
しかしそれは殺気のような攻撃的な物では無く、観察を主とする視線。
この家に来た時には感じなかった物だ。
「(こちらから動くか、否か…)」
クリスは思考を巡らせる。
平和な現代社会から転生したクリスは、戦闘行為そのものは別に好きでは無い。それでも彼の実力は平均よりは上であるだろう。
二つ名による身体能力ブーストと体力の向上、転生先である火星の帝国での剣術を含める戦闘訓練、転生前も入れるならスポーツとしてのボクシング。
転生後の世界であろうと、彼の身体能力、戦闘技術、対人戦闘、どこを切り取っても平均値より上である。
なら今ここで視線を飛ばしている人間よりも上か?
「(可能性は微妙だよなぁ……)」
転生前の平和な世界なら“何見てんだ”と視線を返しただろう。それは彼の行うボクシング経験を基としての事。そもそも戦闘が格闘技の延長である事が大前提。
喧嘩でナイフや銃など“人を殺せる道具”が使われる事はあっても、“人を殺せる人間”の存在自体が遠い世界での話。
だが、この世界では居るのだ、人間に躊躇なくナイフを振るう人間が。
それも結構な数。
この世界で戦争は、人の死は、決して遠い物では無い。
実際、王国も南方から侵略しようと攻め込んでくる蛮族を押さえるため、結構な数の兵士を割いている。そしてその兵士たちも毎年それなりの数死亡している。
それを差し引いても人を殺せる生物がこの世界は異常に多いのだ。
クマ、イノシシ、シカ、ワシ、etc……。
元々強いクマやイノシシはより強く、それほどでもないシカやワシなども人を殺せるほどに強くなっている。
そしてそいつらは森に少し入れば結構出てくる。
だが、そんな化け物たちに対して“殺されないためにこちらが先に殺す”という考えが出るくらいにはこの世界の人間は生物的に強かった。
平均的な身体能力では転生前の世界とかなり差が開いているだろう。少なくとも転生前(向こう)の男子が転生後の同年代の女子に負ける事は普通にあり得る事くらいの差がある。
ちなみに、歴史を紐解けばこの平均値の高さに明確な回答を得ることは出来るが、クリスはその答えを未だに知らない。
元来の生物としての強さか、それとも生まれ育った環境か、この世界の人間が強くなるのはある意味必然だったのだ。
そして問題はこの視線を送る人間はどちらかと言う事。
「(僕はそれなりだけど、あんまり大人数は苦手なんだよな……)」
今回の視線の主は、こちらが気づくレベル程度の能力しかない。それならば、一対一に持ち込めればそうそう不覚を取らないだろうが、数を生かされると流石に厳しいかもしれない。
別に、一対多の経験が無いわけでは無いが……。
「(良し。やーめた)」
そしてクリスは撤退を選択した。
両手を上げ、視線を感じるの方角に目を向けながら、そのまま歩いて行った。
「(相手が誰だろうと、レオンより強いのはあり得ないし。相手の目的が分からない以上僕がどうこう出来る問題じゃないしな)」
そうして、クリスは手を上げたまま歩いていくと、路地を一つ曲がったところで感じていた視線は途絶えた。
だからと言って、何もしないわけでは無い。
◆
ゴロゴロ…
ゴロゴロゴロ……
荷車を引く音だ。
一人、作業服で荷車を引く男が路地を歩いている。
藁をいっぱいに積んだ荷台は見た目以上に重いのか、朝方だというのに汗をダラダラと流している。
よく見る光景である。
しかし作業服に身を包む男は別に農業を生業としている訳では無い。
彼の職業は暗殺、たまに誘拐、ごくまれに蹂躙。
人を動けなくすることについては王都で活動する【BAT】にすら並べるだろう。
もっとも、向こうは更に手広くやっているそうだが……。
そして今回は殺しでは無く、対象を攫うだけでいい。
それ故に戦闘は必要ない。
殺すつもりが無いなら殺気を放つ必要もない。それは気づかれる可能性を下げるだろう。
毒を塗ったナイフで切りつければ良い。ほんのわずかな時間で決着がつくだろう。
もっとも、捕まった対象が向かうのはここで死んでいれば良かったというほどの地獄だろうが……。
朝方、少し日が昇りすぎている、人が行方不明になるには遅い時間だ。
だが、問題は無い。
彼らは凄腕、切りつけ、締め上げ、袋に入れる。
幾度となく行った手順は相手が一般人なら一分もかかるまい。
閉まっているドアを開けるために一人
荷車で向かいの家からドアを隠す一人
そして荷車に積まれた藁に隠れる三人
数は五人、それで充分、というかそれだけしかいない。
北方商事の持つ裏の顔、それを支える精鋭たち。
彼らは戦闘では無く人を傷つける事に特化した者。
北方商会では彼らより、立場でも、実力でも、上に立つのはボスであるヨウのみという、裏社会でもトップクラスの危険人物たち。
「あー、腰痛った!」
ワザとらしくそう言って荷車を引く手を休めた男、それを合図に藁の中から飛び出す三人、まるで音を立てずに開かれるドア、すべてが揃った
後はいつも通り攫うだけ。
そのはずだった。
――シャン
――シュン
後ろで金属が鳴くがした。
振り向くと荷馬車を引く男とドアを開けた男が切られていた。
そして、どこから現れたのか手に剣を振るっている男が―――
「―――どーもっ!!」
思考が定まるよりも先に男は蹴りを放ってきた。
足を大きく上げて足の裏で蹴り飛ばす、技でも何でもない力任せな蹴り。
それでも不意を突かれた彼らを吹き飛ばす事は出来たようで、男たちは室内に転がり込む。
「え? へ? は?」
突然ドアから見知らぬ男が三人飛び込んでくる状況に対象が目を白黒させている。
どうやら囮やグルではないようだ。
ではあの男は……いやまずは体勢を整えて―――
「―――返すよ!」
「え? わ!」
そう言って放り投げられた物体は、どうやって投げたのか先ほど切られた仲間二人である。
体をひねり飛び越える様に躱すが、体勢が整う前だった仲間にぶつかり、また一人吹き飛ばされた。
「ッ! 貴様なに―――」
「―――フッッ!!」
空中に飛び出したまま問いただそうと口を開いた仲間は、地面に降りる前に切りつけられた。迷いの無い踏み込みから見ても、振るわれた剣速から見ても深手だろう。
それは切りつけられたと同時に噴き出している血が証明している。
そして男は振り向き際にこちらに迫ってくる。
速い。
そして―――
ギギィィン!!
耳障りな金属音。
力ずくで振るわれた剣と技量をもって振るわれたナイフ(きんぞく)がぶつかり、滑るようにすれ違った事で起きた音である。
「―――見えないほどじゃない」
暗殺者は言い切った。
◆
まいったな、今の奇襲で終わらせるつもりだったのに。
それに最後の一撃は大きく振りかぶった今日一威力のある剣だったんだけど、合わされて、躱された。
こいつだけやけに強いな。
「え? クリス? 人が飛んで? 何がどうなって?」
「カミル! 端っこでじっとしてなさい!」
「あ、ハイ!」
パニックになっているカミルを家の端っこに誘導する。
どうやら彼の精神の許容量を行き過ぎたようで、そのおかげか言う事を簡単に聞いてくれた。
手に持った得物から考えても明らかに友好目的ではないようだし。まあ、先に仕掛けたのはこっちからなんだけど……。
でも、家に突撃した瞬間まで待ったのは英断だと思う。
「で、君たちはなにかな? どうやらそのナイフ何か塗ってあるみたいだけど」
黙して動かず、ナイフを構えたままの相手に僕は問いただした。
さっきの手ごたえから考えても、やけに滑った感じがしたんだよね。
「目敏く…そして手ごわい……だが……」
「来ないなら行くよ!」
相手に判断をさせない。
考える時間を極力与えない。
実剣を使った切り合いは一撃一撃が致命傷に繋がる、必然的に長引く方が珍しい。
同じタイプの武器ならばまた違うが、相手がこちらよりも、取り回しに優れ、軽く、体力の消耗が少ない、まさにナイフなど使うなら、短期決戦が望ましい。
それでも、相手の手が素早く動いた。
“キィィン!”とまた金属の擦れる音がした。二度目のすれ違い。この音苦手なんだよね。
「見えるぞ…先ほどより遅い……。その剣…慣れていないな……」
「カンが良いね! 最近新調したばかりさ!」
前のは御下がりで古かったからね。少し高かったけど、兄さんと折半して買ったのさ。
似たタイプを買ったつもりだけど、やっぱり僕には少し重いかな。
それはそうと、速いな。
素早く細かい動きはこちらに的を絞らせず、一撃必殺ではなく手数で攻めてくる。
どうやら相手の消耗を待つタイプ。
明らかに体に悪い物が塗ってあるナイフ、そんな得物に対して、こちらも無理に動いてでも喰らわないようにしなくてはならない。
そして無理に動く以上、体力の消耗が激しい。
マズいね、相手のペースだ。
それから数分の打ち合い。
久しぶりの命がけの戦闘による緊張と、相手の戦闘スタイルで僕は息が絶え絶えになっていた。
「どんどん遅くなる…最初の攻勢はまぐれか……」
「あーそうですよ! うまく作戦がハマっただけだよ!」
相手の煽りにワザとのる。ムカつく程度の怒りなら二つ名の能力を使って体力回復が出来る。
本気で『激怒』を使えば、切り伏せるのは分けないけど、その後が怖いんだよな……。あれ敵味方関係ないし……。それに相手の攻撃も受けるだろうし……。
そこで、ふと気づいた。
相手の視線がおかしい。
僕ではなく僕より後ろを見ている?
視線の先には投げ飛ばした敵が……。
「あ!」
「ちっ…だが遅い……」
そうだ! 僕が切ったのは外にいたヤツと喋ってきたヤツ! 一人巻き込んで吹き飛ばしただけで切ってない!
ならそいつが狙うのは?
「え?」
僕が反転し視線を向けると、ちょうど動かない二人を押しのけて、その一人がカミルに向かっている所だった。
手に持っているのは同じようなナイフ、光り方が鈍い所を見ると塗っている物も同じなんだろう。
「糞!」
「どこへ行く……」
カミルの元へと向かおうとした瞬間、いつの間にか近づいていた相手に遮られた。先ほどと違い、こちらの隙を狙うのではなく遮ってきた。
何が目的だよ!
「邪魔だぁぁああ!」
「……!」
なりふり構っていられない僕は二つ名を発動させる。
それはスイッチの“ON”“OFF”ではなく、ガスのダイヤルを回す感覚に似ていて、ある地点を超えると“ボンッ!”と火がつくのだ。
『激怒』
それが僕の二つ名。怒りに身を任せる愚かな力だ。
二文字でありながらその戦力は更に上位の能力に匹敵する珍しい二つ名だが、力を制御できない暴走機関。
出来たとしてもほんの数秒間、そしてその数秒でどうにかできるほどこいつ等は弱くない。
キレた沸点と同時に体中に力が満ちていくが、その代わり意識が消えていく。
「(あぁ…カミル……どうにか生き残ってくれよ……)」
「何だ…このエネルギーの上昇は……」
僕に相対した男がそう呟いたのが聞こえた。
はは、ざまぁ見ろ。お前の負けだ……でもこの勝負は僕の負けでもあるん―――
「オイさっきからうるせぇぞ! 眼が覚めちまっただろうが!」
「あ」
◆
一瞬の静寂、わずかな時間だがその場にいた人間の全員の動きが止まった。
そして沈黙を一番に破り動いたのはクリスだった。
「レオン! 殴れ!」
「分かった!」
ボンッ!!
空気が爆発する音がしてレオンの姿はその場から消えた。
一瞬で移動したレオンは拳を振るう。
それはまるで銃弾の様に速く、爆弾の様に破壊的なその一撃は―――
「って僕じゃない馬鹿!」
「あ? でも殴れって?」
「どう考えても敵の事でしょうが!」
―――クリスを襲った。
紙一重で飛んでくる拳を躱したクリスは(当たり前だが)レオンにキレる。
「ん? だれだおまえら?」
「敵だよ! 早くどうにかしろ!」
「……とっととやれ……殺さずに捕まえろ!」
「了解」
クリスとレオンを無視して暗殺者たちは行動を再開する。
争いの場に身を置き続けた彼らの目ですら、レオンの動きをわずかでも捕らえることが出来なかった。
その戦力に危機感を抱きカミルを人質として利用する事にしたようだ。
が、少し遅すぎた。
「おらぁぁぁあ!!!」
「ひ……」
見えないほど早いなら、人間の動体視力よりも早い動きと言う事になる。
もちろんそんな者と戦える訳もなく。
暗殺者たちはレオンの拳をもろに食らい。あっけなく戦いは終わった。
◆
「―――というわけで、暗殺者たちから話を聞き(レオンに殴られた二人は話せなくなったけど)僕らはここにいる訳です」
「ど、どういうわけだよ!」
「その話によると、どうやらウチの大将とカミルを捕まえる依頼を受けたとの事。そしてアキラさんは見事に行方不明です。さあアキラさんの居場所を教えてもらいましょうか?」
「そいつらがホントにホントの事を言ったと思ってるのか! ソレは嘘だ! うちじゃ暗殺何てやってねえ!」
「だとしても、もう殴り込みをかけた訳だし。最悪この会社がつぶれても、この世から悪人が減るって事で。さあ教えて貰いましょうか? なんならそれっぽい場所でもいいですよ?」
「い、いかれてる……。こんな事してただじゃすまないぞ! この会社のボスが、この街を守る男が黙ってない! お前等二人とも殺さ…むぐっ!」
「どうでもいいセリフ喋らせるために手加減したんじゃないだよ。とっとと言え」
喋り続けるチンピラの頬を掴み、手に持った剣をチラつかせ脅しをかけるクリス。
そして、チンピラの目はすでに恐怖に染まっている、もう数分も経たないうちに考えられる場所を吐くだろう。
(五分後)
「なるほど、考えられる場所は。1階奥の商品倉庫、3階中央の社長室、そして屋上か……」
「それ以外は人が隠れられる場所なんて俺は知らねぇよ!」
「本当だろうな?」
「ホントだって! 剣チラつかされて嘘付けるほど肝は座ってねえ!」
「全く自慢にならな……。あ、そう言えば何で社長室は候補に入ってんの?」
「……社長室は巧妙に隠されてるけど周りに空間があるんだよ……。…周りの部屋から行けるような扉は無いし、行けるとしたら社長室からだけなんだよ」
「へー、それって有名な話なの?」
「いや? 多分知ってるのは俺だけだ。これでも大工の家で生まれたからな! 図面くらいは引けるし、建物の修繕くらいなら楽勝だ!」
「何でそんな事出来るのにチンピラ何てやってんの?」
「借金でだよ……」
「へー、じゃあ喜びなよ。今日この会社潰れるから踏み倒せるぜ」
「ははは、それは無理だ」
「何でさ?」
「社長は無敵だ。ココは一応王国中央に含まれるから名前こそ上がっていないが、あの人は北部最強の人間だ。それこそ西方のハルマ、東方のレッドアイ、南方のガッドに匹敵する戦力、誰も勝てない!」
「あっそ」
「……なんで恐れないんだよ!」
「恐れる理由がないから。実はさっき飛んで行ったヤツはね……世界最強なんだ」
「は?」
呆然とするチンピラを残してクリスは笑いながらアジト内に突入した。
何故か、量がいつもの倍になった。
なんで分割しなかったんだろう?
後、次回は30話達成!予言的中!そしてまだまだ続くぜ!なんなら終わりが見えないぜ!




