3-28 二者二様
うーん、コレはどうしたものか……?(カミル)
あるスラムへの入口にて。
「臭ぇ!」
「確かに、酷い臭いだ」
其処はスラムらしいスラムと言えた。
鼻を突くアルコール、思わず顔をしかめる肉の腐臭、目に染みる煙草の煙。あらゆる悪臭がごちゃごちゃに混ざりあい、『形容しがたい』つまり“ただただ臭い”と言う感想しか出てこない。
そんな臭いが漂う場所に二人の男が足を踏み入れる。
一人は中肉中背だが、平均よりわずかに背が高いせいで、どこか“ひょろり”とした印象を抱かせる。しかしその眼は見た目に似合わず鋭く、どこか猛禽類を思わせる。実際服の下の鍛えられた体は、腰に差した刀を素早く振るうだろう。
一人は大柄に見える、が実はもう一人より背が少し低い。大柄に見せるのはその体つき。肩幅が広く、肉食獣の攻撃態勢の様に前のめり、ポケットに手を突っ込み、肩を大きく揺らして歩く姿。それが彼を見た目以上に大きく見せるのだ。
「しかしキッタナイ場所だな。ホントにここで合ってるのか?」
「それは問題ないでしょう? 罠なら食い破るだけでしょうし。それに罠なら僕らに一番近い彼の首が一番早く飛びますから」
「ひい!」
二人を先導するのは、このスラムで数か月前まで体に悪い方の薬を売っていた男。
思わぬビックネームに仕事を任されて、その前金の多さから仲間たちとやってみたは良いが、いともたやすく返り討ち。
結局「殺さないから黒幕に案内しろ」という男たちの言葉を信じて、仕事の依頼人の元に案内をさせられている。
つまり、まごう事なき小悪党である。ぶっちゃけ覚えなくてもよい。
「(ふざけんなよ! こいつ等が弱ってると聞いたから仕事を受けたのに! 頼む! これから行く先に俺の知らない罠や、俺が最初から嘘の場所を教えられてる、なんて事がありませんように!)」
後ろからの圧力で胃を痛める小悪党は、泣きそうな顔で情けない事を願っていた。
少し歩くと小悪党はある建物の前で二人の方を向き直る。
「つ、着きました」
「へえ、ここが。……ここが?」
「思ったより……あー、なんと言うか、……まあいいです。場所は重要じゃないし」
二人の感想を聞いて小悪党は納得する。納得の理由は自分も少し前に同じことを思ったからだ。だがここで『僕もそう思うですよ~』なんて事が言えるコミュ力が有ったならそもそも小悪党に身を落としてはいない。
とにかく今は必要最低限の事を行うだけだ。
それだけで解放されるはずだ。
「す、少しだけお待ちを、ここのドアは正しい手順でノックしなければ開かないのです」
「へえ、面倒だな」
「同感だね」
「で、ですが、間違えると問答無用で見張りの兵が出てきて大変な事になりますから、くれぐれも、くれぐれもノックの時は私を焦らせないでください。お願いします。本当にお願いします」
もう少しで泣きが入りそうなセリフを言って小悪党は彼らに背を向けると、拳を握りドアに近づける。
一手でも間違うと、間違いなく兵隊が出てくる。それは罠と取られても何の違和感もない。つまり自分の死である。
一手も間違う事ができないので『手順は確か……』と思考は人生最速で回す。
が。
「ああ、大丈夫だぞ。そんな面倒くさい事しなくても」
「え?」
「案内ご苦労さん!!」
小悪党は振り返ることが出来なかった。
正しくは、振り返ろうと首を回そうとしたが、間に合わなかった。
彼の顔が振り返るより先に、
拳が彼の横顔に振るわれ、
派手な音を立てながら、
小悪党の顔を間に挟み、
ドアはぶち抜かれた。
◇
カサカサッ!
チューチュー!
あんまり聞きたくない音が俺の意識を撫でる。
起きないとこいつ等寄ってくるのかな?
じゃあ覚醒。
「は!」
目覚めるとそこは知らない天井。
何度目だろうね? こんな展開。
そろそろ見たいぜ見慣れた天蓋
なんて目覚めの印を踏みながら、俺は起き上がる。
見回すと石造りの壁。天井は知らないのだからこの壁ももちろん知らない。
知らないが……首を回していくと知ってる物が見つかった。
別に見覚えがあるという意味ではない。知識として知ってるだけだ。
そこに在ったのは鉄の棒。
見事な等間隔で縦に並んでいる。
うーんまさか生涯で内側から見る事になるとは思わなかったな。
鉄格子。
◇
どうやら大変な事になったようだ。少なく俺は罪に問われる事はしていない。
いや、朝リンチというか弱い者いじめしたけど、でもしてない!
アレはアレだ、正当防衛だ。サクラを守るために延ばされそうになった手を掴んでそのまま腕ひしぎに持って行っただけだ。
まあ、少しやりすぎたかもだし、過剰防衛とられても仕方ないっちゃ仕方ないけど。でも。
「裁判も無しにこんな牢屋にぶち込むとは不当逮捕だ! 権力の乱用だ! 名誉棄損で訴えてやる! この場合は名誉棄損で正しいかは知らんけど!」
「うるせぇな、全部あってるけど、うるせぇな」
「む、いきなり“五・七・五”を読むとは何奴」
俺は声のした方向に向きなおる!
なんとそこには!
「汚いおっさんが居た!」
「汚くて悪かったな」
おっさんが居たのは俺の鉄格子の向こう側、でも別に牢屋か出てる訳じゃ無い。
このおっさんも別の牢屋に入っているのだ。
位置は俺の斜め左、牢屋はどういうわけか互い違いに作られているようで、目の前に二つの檻が半分ずつ見えている。
おっさんは壁に寄りかかるようにしていたからこちら側から見えたわけだ。
ところで一つ疑問がある。
「おっさん、俺らってどっかで会ったことある? 妙に見覚えがあるんだけど?」
「お前さんは数日前の事も覚えてないのか? まあ、メンツが多かったもんな。あの飲み会モドキ」
「飲み会?」
俺の質問に呆れたようにおっさんは答えた。
うーん? 飲み会なんかやったっけ?
イヤ飲み会自体は何回もやってるけど、部外者を招いた事はあったかな?
……
…………
………………あ。
「そう言えばやったな張り込みの時、路上で飲み会! 一ヶ月以上前の話だから忘れてた!」
「いや一昨日の話なんですけど」
「ああ、こっちの話気にするな!」
箱庭の中と外は時間の流れる速度が違うから普通に忘れてるんだよな。
「ああ! そう言うおっさんはやたら話の上手かった、ハゲ上司を持つおっさん!」
「やめろ! その話をここでするな!」
「うわぁ、そんな話したのかよダグラス」
いきなりキレられた。理不尽。
「そしていきなり話入ってきたお前は誰だよ。ガキんちょ」
「誰がガキんちょだよ、もう11歳だぞ」
「十分ガキんちょだよ、まだ11歳だろ」
「ムムム……」
「こいつはマーク。元スリで今は死刑囚」
「何で言うんだよ!」
「そうか、それは随分物騒だな」
俺が返したらガキんちょは押し黙り、そのタイミングを待っていたかのようにおっさんが名前を暴露した。
先ほどのガキんちょ=マークの暴露からするとこの話の上手いおっさんの名前はダグラスらしい。
マークはキレているが文句を言うだけで、本気でキレているのではないようだ。
うーんどうにも凸凹コンビ臭いぞ!
「で、ここ何処? 俺は何やってんの?」
「お前はさっきここにぶち込まれたんだよ。殺されるためにな」
一番気になる事柄に帰ってきた答えは、一番納得のいかないものでした。
「えぇ……。なんぞそれ?」
「さあな。でも一応予想はつく」
「なんぞ?」
「あー……」
俺の問いかけに答えづらそうに言葉を切るダグラス。
目は明らかに宙を泳いでいる。
そして数秒考えた後、隣のマークに話しかけた。
「あー、おいマーク、これって言ってもいいのか? 一応社外秘?」
「別に良いんじゃない? こうして捕まってるんだし、もう義理立てする必要ないでしょ」
「んじゃあ話すかな」
「軽いな、オイ」
「俺から聞いたって話すなよ」
そう言ってダグラスは話を切り出した。
「まず『ここがどこか』だが、コレは簡単な話だ。北方商事の地下監禁場だよ」
「何だそれ」
「知らんのか監禁場」
「そっちは大丈夫。俺が聞きたいのは北方商事なる会社の話だ」
「北方商事を知らんのか? ここら辺…つまりテティス近郊で貿易関係の仕事を行う最大手だぞ?」
「知らん。最近来たばかりなんだ。最近来たばかりだからもちろん地元企業に関りもない」
「あー、移民なんだっけ? じゃあしょうがないな。では北方商事の説明をざっくりと」
「北方商事はテティスを守る男、ハクテンが創立した会社だ」
「STOP まずテティスを守るとは?」
「怪物から守るのさ。ココより北上したら怪物が出る最北端で街が回ってるのは、一重にあの人の戦闘力のおかげだ」
「ハクテン……。OK続けてどうぞ」
「そのハクテンが怪物退治の報酬代わりに店を出す権利を欲しがった。で作られたのがこの会社。主な仕事は貿易関係」
「でも、一番の仕事は暗殺関係~!」
「ほう……?」
マークの言った言葉に俺は少しだけ疑問を覚えた。
なんで?
「マーク、面倒だから話に入ってくんな。……だがマークの言った通り貿易業は表側だ、裏では暗殺業、武器密輸、薬物売買、最近はしてないが人身売買もやってたらしい」
「つまりフロントの貿易企業良い人ぶって、裏では悪い事やってがっぽりか……」
「マフィアでありがちな話だよね~」
「総括するとな、でも関係はもっと面倒だ」
「というと?」
「実はな、地元の人間は気づいてるのさ。むしろハクテンはそこまで積極的に隠してない」
「ん? どういう事?」
俺はダグラスの言った事は理解できなかった。
そう言う事(裏稼業)をなぜ誰も止めないのか?
というかハクテン、そう言うのは隠すだろ普通。
俺の疑問は顔に出てたんだろう、ダグラスはニヤリと笑って話を続けた。
というか考えれば簡単な話だったよ。
「地元がズブズブなんだよ。特にここら辺の元締めのルルオロ家とはひどい関係だ。お互いが利用し合ってる。ルルオロ家は貿易の口利きから不自然な失踪の隠蔽。ハクテンは邪魔者の暗殺」
「なるほど。ルルオロ家か。なるほど。ルルオロ家か。なるほど」
「何で言葉を重ねる? まあ、それが無くてもこの街はハクテンが必要だけどな」
「怪物退治が出来る人材がいないんだ~」
「だから話に入ってくるなって。だがまあそういう事だ。怪物が攻め込んでくるなら街はヤバイからな。ああ、ちなみにハクテンが来る前に怪物を退けてた人間は失踪したらしいぜ……って聞いてる?」
悪いと思うがダグラスの話は後半聞いてない。
前半だけで十分だ。
理解した。
ルルオロ家だ。
俺をこんな特に整備されても居なさそうな監獄にぶち込んだのは。
「だから地下監禁場(こうゆう場所)にいるのか」
「ん? どうした何か悟ったような顔して」
「何か変な物でも食べたんじゃない?」
「食べてねーよ。でも、俺がここに入れられた理由は理解できた」
「お? ルルオロ家と何かあったか?」
「うん……。何かあったって言うか。何もかもあったって言うか。…汚物虐めたっていうか」
「ははは! そりゃ神をも恐れぬ行為だな! イヤこの場合は『御上をも』か? どっちにしろ思い切ったな!」
「そうだね~。少なくともテティスに住んでる人間じゃそんな事は出来ないしね」
「うーん権力って怖いな。改めて思い知った。仕事が早すぎる」
「ははは。でも後の祭りだな。もう遅い。あんたは死ぬだろうし」
「だからここに放り込まれてるんだしね」
「そう! そこなんだよ!」
聞きたいことを聞かれた俺は声を張り上げる。
いきなりで驚いたのかビクッと動く二人。
「何で俺は捕らえられたんだ? そもそも殺すことが目的なら毒を盛るなり、事故に見せるなり方法はあったはずだ。それだけじゃない、そもそも全く俺に気取らせないレベルならさっき殺せばいいだけだろ?」
「それは確かに……うーん?」
俺の言葉に同じく頭を抱えるマーク。
だがダグラスは違うようだ。
「あー…それは簡単だ」
「どういう事?」
「そもそもうちが受けた依頼が殺しじゃないんだろう。つまり“殺し”じゃなくて“拘束”が目的」
「その理由は?」
「しらんよ。どうせバカボンボンが『二人とも自分の手で殺したい!』とか言ったんだろ。ココは監禁場兼拷問場だからな」
「うえぇ! そうなの!?」
血生臭い話にマークが反応した。
「そうだよ。だから俺は早々に自殺するつもりだったんだけど、そこの兄ちゃんが来ちゃったからタイミング逃した」
「勘弁してよ、御近所が死体とか俺の故郷でも無かったぞ」
「タイム」
「あ?」
「どったの?」
サラっと流されたが、今ダグラスが重要なこと言ったぞ。
「おいダグラス」
「呼び捨てかよ……」
「今、なんて言った?」
「『早々に自殺の……』のくだりか? 別に自殺の方法なら教えてもいいぜ? でも俺より先に死ぬなよ、死ぬ前に死体なんて見ると気分悪いから」
「うわ、サイテーな発言だ」
「違うそれじゃない! もっと前! 今h―――」
ドゴオオオオオォォォ!!!
俺が最も重要な事確認しようとした瞬間、上部で凄い音がした。
まるで何かをぶち壊したような……。
「な、何の音だ?!?」
「地震!?? 火事??!」
「オイ! 俺達助かるかもしれんぞ!」
俺は鉄格子に顔を押し付け笑顔で音に驚く二人にそう言った。
◇
上層
吹き飛ばされたドアと、一緒に飛び込んできた人間をわざわざ踏みつけながら、彼らはアジトに踏み込んだ。
「あ、あんだ! テメェら!」
「こ、ここがどこか分かってんのか?!」
「ま、間違えましたじゃすまねーぞ!」
バラバラになったドアを見て多少ビビりながらも、テンプレのようなセリフを吐きながら見張りを内部で行っていたがチンピラ詰め寄る。
「うるさい、臭い、汚い、不快指数限界突破ですね」
「何でもいいや! さあやるぞクリス! Dailyだ!」
「レオン、それじゃ『毎日』って意味です。伸ばさずに、ちゃんと最後は切りましょう」
「どうでもいいや! さあ行くぞ!」
「もういいや、諦めよ……。僕じゃ押さ続けるのは無理だし。それじゃあ―――」
次の瞬間、チンピラはドアと同じように吹き飛ばされた。
彼らには何が起きたか認識すら出来なかっただろう、彼らの動体視力を超える速度の攻撃をくらったのだから。
「ウチの大将を返してもらいましょうか!」
「ハッハッハーー!!」
笑うレオン・ハザード
怒るクリスチャン・リンカーン
二者二様ではあるが、二人は北方商事が保有する裏拠点に乗り込んだ。
次回バトル的展開突入!
二学期始まったし、更新速度戻すよ!




