3-27 茶色の作戦後編
「いやあびっくりしたな」
俺の今回の作戦の感想である。
まさかあそこまで聞き分けの無い馬鹿だとは思わなかった。
作戦ではすぐに裏道に向かってくれるかと思いきや、10分も押し通ろうとしやがった。家を出た時間がかなりギリギリだった事とで気づくべきだったが、アレ(アミゴ)に始業までに出社するって考えはないらしい。
カミルから聞いた話だとどれだけ遅刻してもクビになる可能性は皆無らしい。まあ、あんな格好して出社している時点で想像できなかった俺が悪い。俺の想像力不足だったな。
しかしその後向かってくれた裏路地では問題なく罠にはまってくれた。罠というより穴だけど。
カミルの箱庭への引き込みは目視できる距離程度なら人間一人くらいは問題無いとのこと。問題無いが滅茶苦茶疲れると本人談。
ちなみに俺たちを引き込んだみたいなランダムなら疲れないのに狙った人間なら疲れる理由を聞いてみたらカミルからの回答は特になかった。
「え、えっと……なんででしょうね?」
本人も分かってないらしい。
「だっておばあちゃんほとんど何も教えずに死んじゃったんだよ!」
「んなこと知るか、今はお前の能力だろう」
「酷い!」
「うるさい」
が、それを差し引いてもカミルが自分の周りの人間を引き込むことが出来なかったのは根がチキンだったからだろうな。
つまり自分の周りで事件を起こしたくない。ちょっと古いけど草食系男子め!
こういう奴に限ってネットではボロクソに言ってたりするんだよな。カミルは箱庭戦争とかでもっと酷かったけど。
話を戻す。次は爆撃の後、落とし穴に落とすんだが……。
ココで問題発生。
最初の爆撃は上手くいった。ぶっちゃけ最初の数発のう〇こが当たれば、それ以外は当たっても当たらなくてもいいのだが……アイツ逃げ込んだ路地から一向に出てこないですけど?!
この路地は3面を壁に囲まれている袋小路、煙突から遠い事もあって壁に寄られるとちょうど死角となりこちらからは双眼鏡を使っても見えないのだ。
今回の作戦で一番困ることは作戦が長時間になってしまう事。
相手は代々街を牛耳る一族の長男、しかも一人っ子のせいか酷い親バカと来て、あんまり長く逃げられると捜索隊が組まれかねない。
流石に街民総出で捜索されると、朝の交通止めのトラブルの後行方不明⇒ウチの男衆の一人が職場の作業着を着て顔を出している⇒その時間工事は行っていない⇒事情聴取
トントン拍子だと半日もあればバレる。それは流石にマズい。
という事で速攻で蹴りを付けたいのだが……。出てこないんだよなー!
まあ、どうやっても出てこないならこちらにも考えはある
「これからどうするの?」
「出てこないなら死角全てに爆撃だな」
5分ほど籠城された時点でダニエルが聞いてきたので、俺はこちらからは見えない場所全てに泥爆弾をぶつけるように指示。
つまりローラ―作戦。ちなみに現在ダニエルは煙突の一番上から泥爆弾で狙撃を行っている。泥は遠くまで飛ばす関係上ある程度まとまった粘度が必要なので作れた量はそこまで多くないのだ。つまり馬鹿みたいに打ち出しているからあまり時間が無いがこの時点で泥団子の量は半分を切っている。
ぶっちゃけ使いたくなかったが……仕方ないと割り切る。何処にいるか分からないアイツが悪い。
おかげであそこ一帯を茶色にしなくてはならなかったが、ちゃんと出てきてくれたのでこれ以上時間をかけずに済んで良かった。
その後は泥爆弾の残弾を気にしながら打ちまくるという矛盾を行いながら追い込み、目的地に着いてからは前述の通り。
落とし穴に落っことして決着である。
◆
落っこちた先には泥溜まり、というか泥しかない。
ここは元々地面の下であり水を大量に引くことでそれっぽく仕上げました。
飛ばした泥団子よりは適当に作ったので完成度はまあまあ、ほぼ見た目だけかな?
臭いの元は落とし穴の壁面に仕掛けたので落ちるときに全身を擦り付けてくれたはず。
上と下の高低差は高い所でも7mほど、落とし穴の深さは大体5mで設定、家の一階の天井くらいの高さなので落ちた時の衝撃は泥がほとんど吸収してくれた……はず。
「あああぎゃああぎゃぎゃあああああ!!」
穴から見下ろすと発狂して地面を転がりまくっている。
死んでない所を見るとどうやら上手くいったようだ。むしろ先ほどより元気。
「あああぎゃあああふyごあjばういっぅへあんじぇあss――――」
「あ、気絶した」
謎言語を吐きながらゴミ(アミゴ)は気絶した。
ご自慢の服に泥がついたことがお気に召さなかったようだ。
……ところで奴はホントに周りの茶色が全部ウ〇コだと思ったのだろうか?
「作戦を立てた自分でも信じられん。見渡す限りの排泄物集められる訳がなだろうに」
「ええ……この作戦って自信なかったのか」
「ハッハッハ、作戦はおろか、俺は俺自身の事すら信じられんよ」
下の地面に男衆を引き連れ降りた俺は泥だらけの地面を歩く。
彼らには気絶したカス(アミゴ)を持ち運んでもらうために同行してもらった。
意識の無い人間ほど持ち上げるのが面倒な物はないよな。
「信じられんと言えばこの浮いてる地面も信じられんよな」
俺が見上げるとそこには浮かび上がる地面の裏側。
所々から糸のような根っこが垂れ下がっている。というか下の地面まで繋がっている物まである。
元の世界でもアスファルトを割り花を咲かせるタンポポを代表に植物の持つ力は素晴らしかったが、この世界の植物はむしろ異常である。
この地面は浮かんで2週間も経っていない、流石に下の地面まで根を下ろすのが早すぎませんか?
ちなみに偽テティスが浮かんだ経緯はこうである。
◆
「もう…限界……」
「死ぬ……」
「この工期で作るとか言ったヤツ死ね……」
カミルが現場に出入りするようになって三日目。
現場で使用する石を補充するための部隊とは別に外から帰ってくる部隊がいた。
土を運んでいる部隊である。彼らが音を上げたところにカミルが通りかかったらしい。
「どうしました?」
「土を持ち運ぶのがだるい!」
「土?」
「泥用に混ざりものの少ない土がいるんだよ」
「だけど街の近くの地面は元原っぱだから植物が生えてて、なおかつ根っこが強くて、シャベルが入りづらくて、土を持ち上げるのが辛い」
「それに使うための土は混ざりものが少ない方が良いから、切れた根っこを取り除かなきゃいけないのも面倒くさい」
「へーじゃあ綺麗な土が有る所から持ち出しましょう。ん……お―――りゃ!!」
「「「へ?」」」
◆
「……と言う事がありまして街が浮きました」
「へー」
思い切り事後報告だが、このまま降ろすと逆に街が崩壊するとのことでこのまま街を作ることになったらしい。
建設中の偽都市の方から「ゴゴゴゴゴゴ」とか聞こえてきて、建物でも倒壊したかと思って急いで駆け付けたら土地そのものが浮いてましたってオチ。
面白くも無いな。
容疑者曰く、「混ざりものの少ない土がいるなら植物の根の届いていない所から取ればいいと思った」などと供述しており、良かれと思っての犯行だと思われる。
なんにせよコイツ(カミル)がこの世界ではほぼ万能であることが良く分かる一件ではあった。そんなカミルに勝ったレオンとはいったい……。
ちなみに俺は土地は浮かんでも崩れなかった建築物の方に俺は感動しました。
ホントこいつ等の建築技術はどうなっているのだろう? 地面が浮かぶなんて地震にあったような揺れだったんだぜ?
正確にはこの地面は下の大地と繋がっている部分があり、その場所で支えているのだ。
つまり浮いているのではなく、地面の下に空洞があるだけ、鍾乳洞の広いバージョンだと考えれば分かりやすいかもしれない。
街全域に広がっているからサイズはかなりデカいが。
「すみません! すみません! すみませんっ!!」
「まあ、良いってことよ!」
「自然災害みたいなもんだし!」
「土は取れるようになったし!」
カミルは平謝りを繰り返していたが、近くから土を取れるようになったし、もちろん石も取れる様になったのだから現場は万々歳。その代わり上下の移動が激しくなったが、笑ってカミルを許していた。
「あ、そもそもここに水流せば一面泥に出来るんじゃねーの?」
「え」
「よし面白そうだしそうするか!」
「え、待って」
「計画変更――!」
「待ってーー!」
俺の中で今回の計画が出来上がた瞬間である。
建設計画は変更され街に落とし穴をいくつか作ることになった。
ちなみにある意味今回の騒動の火付け役である土運びに音を上げた奴等は仕事が無くなったので、石運びにジョブチェンジしました。「たいして変わらない!」とか言ってたような気がしましたが知りません。
◆
で、現在。
気絶したバカ(アミゴ)は回収したのち、箱庭から出てゴミ捨て場に捨てました。
転がりまわったせいで全身泥だらけで、何なら体中から便の匂いがしているので、汚物として捨てました。
そろそろ罵倒のネタも尽きてきてたし、ちょうどいいからこれからは汚物と呼ぶことにしよう。
え、箱庭から出る方法?
イヤだな~。大人数で箱庭に入る方法は限定されるけど、箱にはから向こうに出るのは楽勝ですよ?
カミルに空間に裂け目作ってもらってそこから出ればいい。
これはカミルの力が箱庭限定で強い事で発生する現象、というよりアイツ元の世界では弱すぎるんだよね。俺以下らしいし。
つまりは『行きは良い良い帰りは怖い』の逆版? メダカを捕まえるペットボトル製罠の逆版? どっちもちょっと違うか?
まあ、“入りがたく出やすい”みたいな物だと考えればいい。
箱庭から出たら現実時間は10分程度しか経っていなかった。カミルがいつの間にか調節していたらしい。やるね。
じゃああんまり急がなくて良かったな。
「良くはないです!」
「これから仕事なんです!」
「朝は一分一秒を争うんです!」
「そもそも、結局休みほとんど無かったし!」
「超ブラックじゃねーか!」
「良かったな、ブラックが終わって」
「「「「「良くねーよ!」」」」」
言葉を完璧に合わせるほどフラストレーションが溜まっていたらしい。
「でもいいじゃん。汚物の馬鹿な姿見て笑ったし」
そう言うと、彼らは何とも言えない顔をした。
「いや……やった作業と達成報酬が釣り合わないって言うか……」
「そもそも、俺達こいつになんの恨みも無いし……」
「何で俺達こいつを虐めたんだっけ?」
「忘れたか? コイツウチのサクラにチョッカイ出そうとしたんだぞ?」
「「「「「ああ!」」」」」
忘れてたのか。いや、ここはそれだけ作業に没頭してたと考えよう。
「じゃあこんなもんじゃ生ぬるいだろ」
「指でも折っとこうぜ」
「口に泥でも突っ込むか」
思い出すと同時にバイオレンスなこと言いだすなぁ。
「あの……僕の復讐は……」
「そういやそれもあったな」
「あ、アキラさんも忘れてたんですね……」
「まあいいや。お前ら起きないレベルで小突く程度にしとけよー」
「まあいいやって……」
俺が声をかけなきゃ、思い切り蹴り飛ばしそうな勢いだったので自制させておく。カミルは何か言ってたが知らん。
結局、隅の方でブツブツつぶやきながらナイーブになるのが彼の日課になったのだった。
◇
一通り小突いて気が済んだのか、俺とカミルは土木作業に向かった連中を見送った。
彼らからすればおおよそ一月だが、こちらの世界では一日もかかっていないのだ。つまりは初出勤。初日に遅刻はカッコ悪いぞ!
「じゃあ俺、朝市とやらに行ってくるから」
「僕は家に帰って寝ます」
「おう、じゃあアリバイ作り頑張れよな」
「はい。ところで最近レオンが僕の家の食糧を勝手に持っていくんですがどうしたら……」
「食料隠したら?」
「レオンは鼻が馬鹿みたいに良いので隠しても見つかるんです。まあ鼻にかかわらず五感全部優れてるんですが……」
「じゃあもうあきらめろ」
「ええ! そんなこと言わずにどうにかしてくださいよ! あいつうちの非常食のビスケットまで食べてるんですよ!」
最近見ないと思ったらレオンはこちら側で遊んでいたらしい。
野生生物だから俺たちが来た方向の平野で生きてるのかと思ったがどうやら元気な様だ。
「じゃあ俺じゃなくてクリスとかに泣きつけよ。俺の戦闘力、一般ピーポーだぞ」
「うう…そうします……」
そう言って俺とカミルは別れた。
「ふんふんふふーん」
俺が向かおうとしている朝市とは、そのまま朝限定で行われる市場の事である。
テティスでは別に農産業は発達していないが、それでも朝は王国から食べ物を扱う馬車が何台もやってくるらしい。
本来なら業者が仕入れる所だが、別に一般人が介入してもいいらしい。
その代わり個人で買える量は決まっているらしいく、それは会社単位でも同じらしい。つまりたくさん買える会社と大して変えない会社があるとの事。
詳しい基準は知らない。まあ、何か制限を付けないと個人が食料独占とかしそうだしな。
それでもこの街で数少ない新鮮な食べ物を手にする機会である。
「楽しみだな~」
別に食道楽では無いがそれでも新鮮な物はうまいのは当たり前である。
自然と緩む頬と緊張。
石畳の道をスキップでもしようかという気分で歩いている。
ここで俺の記憶は途切れた。
次回バトル的展開?




