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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-26 茶色の作戦前編

早い……。とにかく早い……。(カミル)

 石畳からさらに下、宙に浮かんだ都市から地面を見下ろしていたカミルはつい昨日の事を思い出していた。


「あー! あーー!! あぁーー!! 死にたい!」

「いきなり物騒」


 頭を抱えて地面を転がりまわる


「だって僕最近『殺してくれ………』って言ってたんだよ! 『罪滅ぼしになるなら誰かのために死にたい………』とか言ってたんだよ!」

「それがどうしたのさ? 普通にカッコイイじゃん?」

「カッコ良くないよーー! むしろカッコ悪いよーー!」


 ダニエルの無邪気な答えになんとも言えない嫌味を感じ悶え苦しむカミルは叫ぶ。

 一方ダニエルはなぜ(カミル)がここまで苦しんでいるのかが純粋に分からない。

 この二人のすれ違いの原因は年齢の差だろう。

 カミル・ゴードンは現在21歳。幼いころ両親を亡くし、保護者であり高齢である祖母の背中を見て子供ながらに大人になった。就職活動、祖母の他界、職場問題、色々あって拗らせ箱庭に引きこもる。そして青春を取り戻すようにここ半年逆向していたが今になって色々戻ってきた。

 当たり前だが14歳はとっくに過ぎている。

 ダニエル・ハートは現在8歳。身長約190㎝、約がつくのは最近さらに数ミリ伸びたから。彼は二つ名獲得に1年ほどおり、この世界の10:1のルールによって10歳ほど余分に歳を取っており、見た目は10代後半だが中身は未だ小学生。漫画の様な状況に憧れるし、カミルの言動も素直にカッコイイセリフとして受け止めている。

 当然ながら14歳まであと数年残している。


「いっそ殺せ………。むしろ殺せ………」

「何でそんなこと言うのかなー? せっかく生き残ったんだし」

「コレは別の意味……」

「それよりあのカッコイイセリフ言ってよ」

「あの? 嫌な予感しかしないですけど」

「『フフフッまあ頑張りなよ』ってやつ。俺アレ悪の組織の黒幕みたいで好き」

「ああああああああ!」


 昨日(さくじつ)までとは全く別の意味で死にたがるカミルに対し、ダニエルはキラキラとした視線と称賛を送る。その言葉が次々とカミルに突き刺さっている事も気づかずに………。

 子供の純粋さは時に凶器になるという一例である。


 ダニエルがカミルを死体蹴りしている中、彼らの座る地面の下から声がした。

 見下ろすとそこには作業着(ただの汚れてもよい服)を着たアキラ他数名。

 後ろにいる数名は何か泥だらけの物を抱えていた。


「おーいカミルそろそろ良いぞー! 降ろせー!」

「……」


 答えないカミル。正しくは答える気力が無いカミル。


「どうしたカミルー! ダニエルなんかあったかー?」

「何か地面に転がって『殺せー!』とか言ってるよー!」

「へーー。『どうでもいいからさっさと降ろせ』って言っとけ。『じゃなきゃさらに抉るぞ』って付けてー!」

「ハーイ」


 下からの声に元気よく返事をしたダニエルは隣でグッタリと死にかけているカミルに視線を戻す。


「だって。聞こえた? 何を抉るか知らないけど何か抉るって」

「……はい、『分かりましたからもうやめて』って言っといてください……」

「いや自分で言ってよ? そこまで離れてないでしょう?」


 事実距離は二人の距離は縦にではあるが7mも無い。

 下から見上げるアキラたちはすでにその場から離れだしているが。


 カミルは地面に転がったまま億劫そうに手を上げ、そのまま振り下ろし地面をバシン!と叩いた。

 するとどうだろう、石畳は円形に切り取られ下の大地に向かってゆっくりと下降しだしたではないか。


 ここは箱庭。

 カミルの二つ名『縮小世界』の管理する世界。

 場所は箱庭時間で半年もの間、幾度となく戦争が行われた大草原。

 そこに築かれた街『ニセテティス』はベンジャミンを筆頭とする野郎どもの50日間の集大成。


 アキラはカミルに指示しエレベーターの様に下降してくる石畳を見上げると満足したように「フンッ」と鼻を鳴らした。


「アキラコレ汚いんだけど~」

「おう、だから触りたくないんだよ」

「ふざけんな!」

「大きい声を出すな」


 後ろの男衆の文句に対して冷静すぎる態度で答えたアキラ。

 見上げたそのままの勢いで首を逸らし後ろを見ると、男衆数人によって持ち上げられた泥だらけのナニカにニヤリと笑いかけた。


「面白いくらい計画通り。馬鹿は思考が読みやすくて楽だな。さあ、ごみを捨てに行くぞ」


 ◆


「既に街の基礎がほとんどが出来ている……」

「文明開化ってやつだな」

「多分違います」


 俺の言葉にカミルが突っ込む。

 言うようになったじゃないか……。まあ、度胸がついたならそれはそれで良いけど。

 俺たち朝早くから街を回っている。

 正確にはまだ街では無いが。


 カミルの遠回りの自殺騒動から夜が明けて、労働者たちは動き始めていた。

 彼らの朝は早い。

 昨日宴会しようが、森を捜索しようが、朝は早いのだ。

 もちろん疲れなんて取れていないが彼らには時間が無いのである。


 今回の俺の作戦。

 道を作り、街を作り、落とし穴を作り。そこに(アミゴ)を落とす。

 言うだけなら簡単だが、今回は相手が面倒くさいので速攻で片を付けるつもり、出来れば明日の朝が最高である。

 が、これだけの作業を12時間でやるのは流石に無理がある。

 無理無理。

 土木限定ではあるがそれゆえ土木作業に対してはとんでもない力を発揮するペドロを使っても絶対に無理。時間は圧倒的に足りない。


 しかしこの問題は箱庭で行えば簡単に突き崩せるのだ。


 箱庭はカミルのさじ加減によって本来の時間軸からズラすことが可能だ。

 事実、ベンジャミン達が戦争を行っている半年は5年、俺の箱庭での2週間はこちらの時間軸では2年近く経っていた。

 更にカミルの言葉からその逆も可能だと判明している。

 これを利用しない手は無い。


 つまり時間を短くするのではなく長くする。

 某ドラゴンのボールを集める漫画で出てくる、『SとTの部屋』の様に一日を一年に延ばすとこまでは行かないようだが、前後のふり幅は最大で100倍とのこと。

 一日を100倍まで伸ばすことが出来るなら、12時間は『×100』で1200時間=50日に伸びるはず。

 いやあ、カミルを生かしといて良かった良かった。ホント良い拾い物したもんだ。


 そんな訳で伸ばした時間で労働者諸君は死ぬほど働いてる。



「おーい、どんな感じ?」

「おーう。じゅんちょー」


 俺が見下ろした穴から答えが返ってきた。俺が見下ろしたのはカス(アミゴ)を落とす予定の落とし穴。


 現在掘られている落とし穴はしっかりと茶色の物体で満たされている。

 まあ、この茶色の正体はただの泥なんだが。この“ただの泥”というのがミソ。


 今回の作戦のテーマは『勘違いから始まり、勘違いで終わる』だ。


 上手くいけば非人間(アミゴ)はコレがトンでもない物に見えるはずだ。


「そんなに上手くいくんですかね?」

「人間は動転すると簡単に思い込む」


 俺は自信たっぷりにカミルに説明する。

 半分見栄だけど。


「ルーティンって知ってる? アレは思い込むことで良い方にもっていこうとする物だが、人間の思い込みの一つの進化だよ。逆に今回は思い込みを悪い方に仕向ける」


 単純に良い事が続けば、それこそ朝の占いが一位だったとかで、今日は運の良い日だと錯覚するのが人間である。

 悪いことが続けば、その逆を想像してしまうのはある意味当然。

 今回は意図的にそれを起こすだけ。

 そのための部隊が多少大掛かりになったが、些細な問題だ。


「多少でも些細でも無いです」

「うるさいな」


 作戦立案者が些細だと言えば些細なの!

 今回の負のスパイラルを作るに当たって、舞台設定は出来るだけ『いつもの日常』にそろえる必要がある。

 何か一点でも大きく違うとそこから正気に戻られてしまうだろうからな。

 必要経費だ、必要経費!

 誰かを完璧に騙そうとするなら街並みを出来るだけ再現するくらいやって当然! でかいマジックのタネは思ったより単純なのが常だろう? 俺はマジックあんまり知らないけど。


「それでも上手くいきますか?」

「自信着いたと思ったら変なところで弱気だな」

「内弁慶なんですよ!」

「威張って言う事じゃないな」


 俺の計画は

 ①馬車の車輪を壊す

 ②道を通行止め

 ③ご案内

 ④アレで狙い撃ち

 ⑤落とし穴のへ誘い込み


 と、極めて簡単な物。

 少なくとも文字に起こせば30文字ちょっとだ。


 ①は何で生きてるの?(アミゴ)の家に忍び込み車輪…出来れば車軸ごとぶち壊す。フハハハハハこの時点で負のスパイラルは始まっているのだ。

 ②は就職した奴等の作業着を使う。現場の服を着て道をふさぎ裏道に誘導する。カミル曰くキモイ(アミゴ)は損得計算程度ならできる馬鹿らしいので、こちらの誘導に引っかかてくれるだろう。

 ③裏道に入った時点でこちら側のニセテティス(仮)である。飛ばし方はカミルに任せる。どうやら数人なら俺たちが通ったほど大きな裂け目は作らなくても言いそうなので、暗い道から迷い込んでもらおう。

 ④爆撃。狙い撃つのは『射線』のダニエル。狙う場所はわざわざ作ったテティスのシンボル煙突である。大きさも完全再現なのでもれなく射線も通る。あんまり遠いと見えないのでは? という疑問にお答えするのが、胡散臭い店で買ってきたばかりの双眼鏡だ。店は胡散臭くても性能は間違いないようでちゃんと使えた。

 ⑤落とし穴に落とす所。つまり一番笑う所。カミルが直々に奴の前に表れて二重の意味で叩き落す。労働者みんなで見れたらいいな~。無理だろうな~。仕事あるだろうし。


 今回はざっくりこんな感じである。

 正直レオンの時や西村攻略戦とは違いかなり雑。別の案も考えてないので、何かあってもこの作戦通りに押しとおすしかない。ついでに俺は昨日の再確認で現場判断は信用していないし。


「この作戦……結構穴がありますよね?」

「みんなー! カミルが作業中断して良いってー!」

「わあああ!! 嘘ですごめんなさい!! 文句のつけようもない作戦だと思います!! だから僕に責任が来るような発言はやめて!!」


 まあ、俺だって不安はあるし。「そんなに上手くいくのかな?」なんて普通に思うけど。声に出さない方が気持ち的にも良い事もあるよな。

次回は今日中に投稿できたらいいな……。

分割しちゃったし……。

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