1-6 源流と出発
あれ?今何時!?(ツバメクイート)
「おっ…お前は何てことしてんだ!?今お前は全世界の第二の人生を夢見る男子を敵に回したぞ!」
「そんなに怒るなよ。俺だってほしかったものもらっただけだぜ」
「知るか!料理がうまくなりたいならレシピ本通りにつくれ!せっかくの転生特典を意味のないことにつかってんじゃねー!!」
この野郎バカなのか?バカなんだな!?
夢の転生特典を料理がうまくなりたい程度のことで使いやがって!!
つーか何でこいつだけもらってんだよ?!
俺はもらった記憶はないぞ!?
かーみーさーまー!!!
「親父ぃー今何時?俺どんだけ寝て…うおっ!どうした立ち上がって?」
庭で強制的に寝かされていたツバメがようやく起きてきたようで庭へ続くドアからのっそりと出てきた。
泥だらけで汚い、出て来た時はゾンビかと思った。
「おうちょうどよかったツバメ、アキラ押さえろ」
「はぁ?」
「へ?」
なんで俺がツバメに抑えられなきゃいけな………って離せコラ、お前手に乾いたイノシシの血が付いたまんまで汚いんだよ。
「よーし行くぞ」
「ばっちこーい?」
「いやなにガッッ!!」
俺の二の腕を掴んだツバメの手を振り放そうと動いたところで俺の記憶は途絶える。
俺の最後の記憶はツバメの手がほとんど力を入れて無いようで、予想以上にがっつり俺を押さえてちょっと動いたくらいじゃ全く動かなかったことだ。
こうして俺の転生初日は終わった。
◇
「よっし、寝たな」
「なあこれどういう状況?」
「寝たなじゃないでしょう!寝かしたでしょう!何やってるのお父さん?!」
サクラがアキラを揺り起こそうとするがそんなことじゃ起きんよ
それよりサクラに怒られたことで死にたくなるがそんなこと言ってられないのが一家の大黒柱。
死んだ嫁さんに『サクラが結婚するまで死なん』と約束しちゃったから意地でも生きよう。
ツバメはどうでもいいけど………やっぱどうでもいいな。
「お父さんなんでアキラさんを気絶させたの?!」
「なあ親父俺の飯は?」
「向こうにあるから取ってこい…それより先に風呂に入る方が先決か」
「お兄ちゃん私がお父さんと話してるの!入ってこないで!でもお風呂には入って!」
「はい」
一言返事をして風呂場に駆け足で向かう息子。
見事な弱さだな。
そして俺とサクラ(あと気絶したアキラ)が残された
二人だけになった状況でサクラが口火を切る
「お父さんなんでアキラさんを気絶させたの」
さっきと全く同じセリフをサクラが言うが、さっきよりも大声でないぶん怖いな。
「なんかむかついて」
「どういう事よ!!」
早くも爆発!!
「いやな、俺だって色々考えてもらった二つ名でな。それを否定されるのはなんというか」
「そんなウソまだ付くの!私もう13歳なんだよ!いい加減バカみたいな嘘はやめてよ!転生前に神様が二つ名をくれるなんておとぎ話信じるわけないでしょ!」
娘よ俺は別に嘘は言ってないぞ、お前らが信じてないだけで。…これ言うともっと爆発しそうだな、やめとこ。
しかしサクラ、俺は別に考えなしにアキラを気絶させたわけじゃないぞ?
元々アキラが寝たら話そうと思ってたことを前倒しにするだけだ。
「サクラ、ツバメが風呂から上がったら全部話すから、今はこらえて。」
娘にそれだけ言うと俺はだらしなく寝ているアキラを担ぎ上げツバメの部屋に向かう
後ろでサクラが何か言ったが無視することにした。
………いま“お父さん大っ嫌い”って聞こえた、死にたい。
◇
「朝か……」
チュンチュンチチッチチッと鳴く鳥の声を目覚まし代わりに俺は覚醒する。
俺が寝ていた部屋はそこまで大きくない、言ってしまえば畳4畳くらいしかない小さな部屋だ。隣に布団が引いてあるが、押し込んだのか明らかに部屋のサイズに会っていなく部屋の端っこまでぎゅうぎゅうになっていた。隣の布団の主はすでにいない。
どうして俺はこんなぎゅうぎゅうの部屋で文句を言わなかったのか思い出そうとすると、どういうわけか機能の記憶があいまいだ。
まず転生した、サクラとツバメに会った、死んだハズのハルマに会った、イノシシの解体をした、ハルマの料理を食べた、……ここら辺から記憶がないな……。
なんだろう、ハルマの料理が不味すぎてきおくがとんだのかな?
バカのことを思いながら部屋を出ると外から“ゴウゥッ!”とすごい音がした、この方向は確か庭だったはずだ。
庭にいたのはハルマだった。
気温的にまだ肌寒い朝であるが汗だくになりつつ、ブツブツとつぶやきながら一心不乱型稽古を行っているようだ。
そんなハルマは軽く“トンッ”と跳ねるとぐるりと空中で横に回転、同時に蹴りを空に放っており“ゴウゥッ!”と、また大きな音がして空気が動いた。さっきの音はこいつか!
驚きながら話しかける。
「おいハルマ」
「よう、起きたかアキラ」
「おう、おはよ。何やってんだ?」
「“源流”ていう今俺が主に使ってる武術の型稽古だな。スゲーだろ?」
「ああ。なんだ今の空気がゴワァって動くやつ、技か?」
「“空動”って技だな、庭が荒れるから本気じゃできんが、やったら庭の芝生全部引っぺがすことはできるぞ。」
何それすごい、異世界は武術すら超次元だ。そしてそれができるこいつも超次元だ。
ちなみに庭の大きさは5mのイノシシの解体が余裕で出来る大きさだ、強い強いとは思っていたがここにきて一気にインフレした。こいつやっぱりバケモンだな。
「サクラたちは?」
「サクラは朝飯作ってる、ツバメは少し前に畑の様子身に行かせたからそろそろ帰ってくるだろ」
そういうとハルマは掛けてあったタオルで汗だくになった体を拭く、ツバメは細マッチョだったがハルマの方はゴリマッチョといったところかな?
とにかくゴツイどんだけ鍛えればこの領域まで鍛えられるのだろう?
「たっだいまー!」
陽気な声が外から響く、バカ(ツバメ)のお帰りだ。
庭へと続く道からツバメが顔を出す
「親父ただいまー、あれ?アキラ目が覚めたのか?どんだけゆすっても起きないから死んでくれたのかと思ったぞ」
「おい待て、死んでくれたとはなんだ?まるでお前が俺の死を望んでるみたいじゃないか?」
「事実望んでる!」
「よし上等だ!これからお前に小さな呪いをかけてやろう、延々と続く地味に嫌なことに恐怖するがいい!」
「微妙な呪いだな?」
「気をつけろよ、こいつの呪いは基本的にこいつ自信が行う嫌がらせだ。ホントに地味な物ばかりで切れようとしても切れられない所ばかりついてくるからな。」
フフフ、元被害者が語るだな、一度ハルマにかけたときのこいつのぐったりした顔は忘れられん。あれは何が発端だったかな?確か漫画のキャラクターでどっちがすごいかとかだったと思う。
「お父さん、ご飯出来ましたよー、あっアキラさん目が覚めたんですね!心配してましたよ」
「おうサクラおはよう、ところで朝ごはんって何?」
「アキラさんとお父さんの故郷の郷土料理、和食にしてみました!ご飯も炊きましたよ!」
「わーい!」
「……サクラ、なんで俺だけ呼んでくれないの?」
「お兄ちゃん帰ってたの?」
「……」
動かないツバメ
早速こいつが座る席にチクッとする物仕込もうとしたけどやめてやろう。
とは言え和食か………地味に長く食べてないな、家は朝はパン派だったし。
部屋に入る炊き立てのご飯のにおいがした、テーブルというよりちゃぶ台に近い机の上にはご飯、たぶんカボチャの煮物、キュウリの酢の物、そしてなぜか色が白と青の焼き魚
「あの……サクラ、魚の色がおかしいんですが?」
「自信作です!」
はあ、自信作ですか。
俺が戸惑っているとそこにハルマが囁いてきた
「(サクラは普通に料理はできるんだよ、創作料理がへんな方向行っちゃうだけで)」
業の深いハルマの血統か!
似てないとは思っていたが一番出てはいけないところで!
「おまえその顔はなんか俺に失礼なこと思ってるだろ」
「正解!よくわかったね?」
「正解!じゃなくてだな……もういいや、飯食べよ」
あきらめたな?
その後食べた朝ごはんは焼き魚も含めて非常に美味だったことを補足しておく。
しかし奇怪な色の焼き魚が何でおいしかったのだろう?サクラに聞いても「秘密です」と答えてくれなかった。
◇
「さぁー!張り切っていこう!」
「ツバメが元気だ」
「さっきサクラにご飯ついでもらったからだろ」
ちっちゃなことで元気になるやつだ、俺もハルマもついでもらったの見えてなかったのかな?
俺たちは街に繰り出すのに歩きではなく馬車を使うとのことでハルマ家の裏に設置された馬小屋にやってきた。中には大型の馬が1頭、名前は『春菊』だそうだ。名前はハルマが適当に決めたらしい。始めてみる俺を見ても暴れないし何ならじゃれてくるような人懐っこい奴だ。
そんな春菊に馬車を取り付け、荷物を運びこんでいると外からハルマを呼ぶ大声がした。
そちらに向かうとハルマよりも少しだけ年のいった男性がぜぇぜぇ言いながら立っていた。
「おーーい!ハルマさんはおらんか?」
「そんなでかい声で話さんでも聞こえるよ!どうした門番のおっちゃん、なんかあったか?」
「おぉハルマさん!よかったもう出ちまったのかと思った。実は近くの村で大きなクマが出たらしくてな、すでに若い衆が何人かやれてるらしい。今急ぎで救援にきてくれって連絡が」
「うえぇマジかよ俺今から街に行くんだけど、そっちでどうにかなんない?」
「それがかなりの強いらしくてな、さっきも言ったが若い衆……かなり腕の立つ連中がむかって返り討ちに会ったらしくてな、救援を頼みに来た奴は国に頼んだんじゃ村が全滅するって騒いでんだ。」
「むぅ、しかたない、ツバメ、サクラ、アキラお前らは街に行っとけ、俺はこっちの件を片付ける」
泣きそうな顔でこちらを見るおっさんにハルマが折れる。
どうやら今日はハルマと別行動になるらしい。
「任せろオヤジ!」
「お父さんホントに大丈夫なの?」
「心配するな、これまで何度もやってきたことだ」
「いやそっちじゃなくて、お兄ちゃんはお金の計算できないんだよ?」
「サクラーーー!」
サクラの容赦ない発言にツバメが泣く。
こいつバカだとは思ってたがそんなにバカなのか!
「普通ならやめるが……アキラ!金勘定頼めるか?」
「任せろとは言わんぞ。やったことないことだ」
昨日も言った気がするが俺はバイトの経験もない
「サクラの真似してればいい、それにそのクマが言うほど強いんだったら俺も急がなけりゃいかん、頼まれてくれ親友」
………この野郎そういう言い方で頼まれたらやるしかないじゃないですか。
よっしゃ久しぶりに本気で働くとしますか、その代わりに昼飯は街のいい店で飲み食いしてやろう。
ハルマに了承したことを伝えると俺たちの進む方向とは逆の方向にさっさと駆けていってしまった。
俺たちは馬車に荷物を載せると村の外に出発した。目指すは大都市ディオネ!!
◇
「痛ってぇ!」
ちなみにツバメは元気になったようなのでさっき仕込めなかったとがったものを仕込むと見事にはまってくれた。
サクラの隠し味は愛情?
1章は毎日更新します。