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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
79/111

3-25 カミル・ゴードンの答え

死んでる……?(レオン)

生きてるよ!(ベンジャミン)


 カミルが逃げ出した方向に向かうと伸びているベンジャミンを発見した。

 その近くに砕けた石があるので距離的にこれにぶつかった可能性が高い、どうやら帰ってこなかった理由は複雑骨折とではなく気絶していたからのようだ。

 ……いや、あの距離を飛んで、落ちている石にぶつかって死んでない方が変なんだけど、そこは二つ名の身体能力強化に乾杯ってことで。

 身体能力強化とはその名の通り身体能力が強化される能力。元々持っている能力に応じてその倍率が上がる。

 この場合筋力とか瞬発力とかが上がり、タフネスも上がるので簡単に言えば一般人が一流のプロレスラーになると思えばいい。一流のプロレスラーが石で殴られて気絶するのかしないのかは知らん。

 今回は頭で石を砕くという結果に終わった。

 そのおかげかベンジャミンは血も出ていない。

 クリスが戦っていた5分間ほど放置したので、頭から出血してたら血が足りなくて死んでた可能性もある。

 でも全く動かないと言う事は脳震盪とか起こしている可能性もあるか……。一応医者にでも見せた方が良いのかな?……と思えば反応があった。


「ンゴォォ」


 正しくはいびきが聞こえた。

 コイツ寝てんのか。凄いな、戦闘の後で、というかこいつの場合は途中退場の後で、即寝れるのか。

 呆れたような感心したような、そんな事を思っているとクリスが近づいていく。

 蹴るのかな?と思ったが屈んでベンジャミンを揺さぶった。


「兄さん起きてください、朝ですよ」

「…う…ん……あと五分」

「分かりました、じゃあそのまま好きなだけ寝ていてください。では行きましょう」

「え、放置で良いの?」

「このまま風邪でも引けばいい薬になるでしょう」


 確かにベンジャミンは先ほどの戦闘で汗だらけなのでこのままだと冷えそうだ。

 ちなみに現在はギリギリ2月、気候的には北半球的であるこの地域では普通にしていても寒い時期だ。

 ホントに風邪ひきそうだな……。こいつ一応数日後に王都行きの馬車の護衛役頼んだんだけど……。

 それにしてもクリスのベンジャミンへの対応はホントに容赦がない。

 昔何かあったか?


「大したことは何もありませんよ。ただ、兄は誰かが間違っている言わないと分からない人間なんです」


 俺の問いにそう答えたクリスはどこか遠くを見ている気がした。

 何だろう、把握しておきたいけど踏み込めない感じだ。多分、何かあったのは間違いないんだろうけど……。


 ◆


 進む道は暗く手に持ったランタンモドキが数少ない明かりで地面に残された足跡だけが俺たちの道しるべだ。

 なんとも心もとないが仕方ない、ケガをしたヤツは大事をとって宴会場で休憩させている。(ベンジャミンは特例で道)

 今思えば酒がある宴会場に残してきたのが不安でしかない。ケガしてる時まで飲むほど馬鹿じゃない……よな……?

 信じてるぞ。というか本来なら別に信じなくてもいい事で信じさせないでほしい。


 しかし残念なことにカミルは街を出て森に入ったらしくそこで足跡が見えなくなった。

 それでも頭数が多いのが我らの魅力。現在夜の森を250人態勢で捜索に当たっている。テレビのニュースでしか聞かないような言葉だが本当の事なのでしかない。

 夜の森に入ると言う事で隊で分けたがそれでも10人ずつで25隊。

 動物除けもかねてガサガサと出来るだけ大きな音を立てながら捜索している。


 そんな訳で俺と来ているのは現在10名。俺が驚いたのは彼らが思った以上に士気が高い事だ。なんでだろう?


「うーん……カミル君は良い子だからかな」

「そうそれ」

「そうそう」

「それそれ」


 帰ってきた答えは何とも言えない物だった。

 良い子か、別に悪い言葉ではないんだけど、20歳超える奴にはあんまり使う言葉ではない気がする。

 それにしても“お人よしここに極まる”って感じだな、自分を殺そうとした相手を良い人とは……。そこがこいつらの良い所ではあるんだが……何かオレオレ詐欺とかに騙されそうだ。

 あと人の発言にタダ乗りするのはやめなさい。


「おーーーいカミルーー! どこだー!」

「出てきなさーい! お菓子あるぞーー!(無い)」

「おーーい! いい加減疲れたから出てきてくれー!」

「今日も土木工事をしたんだーー!」

「明日も土木作業があるんだーー!」

「正直ねむーい!!」

「お前等、その掛け声気が抜けるからやめてくれ」


 愚痴吐く場所じゃねーぞ全く。

 というかこれで出てきたらカミルは馬鹿すぎないか?


「ところで俺たちはどこに向かっているんだ?」

「そう言えば……」

「アキラ帰れるよな?」

「お前たちのそのヒヨコの刷り込みみたいに簡単に相手に付いて行くのは、良い点だけど悪い点だよな」


 バカバカしい事を言いながらそれでも俺に付いてくる。

 動かしやすいのは利点だが、馬鹿正直すぎるのもどうだか。

 今回はこいつ等の事をよく再発見できるな。それ自体は喜ばしい事なんだけど。


「心配すんな、向かう場所はとっくに決めてある」

「どこ?」

「湖」


 俺たちの隊が向かっているのは湖、ここら辺で一番でかいので『天眼』を使えばすぐに見つかる。

 あの調味料(凶器)を洗い流すには水が必要だろうと考えた結果である。まあ、洗い流してもヒリヒリするけど。

 そして今、『天眼』で湖を見てみると近くで誰かが動くのが分かる、さすがに夜なので誰かまでは分からないけどしきりに湖に顔を近づけているとこを見ると多分カミルだろう。


 ◆


「お、いたいた。おーいカミル帰るぞ」

「ブク、ブクブク、ブク…………」


 謎の人物に近づいてみるとそれはやはりカミルで、顔を洗っているのか冷やしているか、小学生がプールや風呂で行うように湖面に顔面を付けて息を吐いていた。

 どうやら耳まで水につけている所為で聞こえてない? のか? こちらに声に対する反応は無い。


「俺を無視とはいい度胸だ。お前の周りの水にさっきの調味料を垂らすとしよう」

「やめて!!」


 ザバンと勢いよく音を立てて湖面から顔を出すカミル。聞こえてるじゃねーか。


「良し、帰るぞ。帰って宴会の続きだ。俺参加してないし。」

「そんな理由で僕を連れ戻しに来たんですか……」

「うん」

「じゃあ僕抜きでどうぞ」

「ヤダよ、お前有用だもん。意地でも連れて帰るぞ」


 俺の偽りなき本心を伝えると、カミルの表情が呆れたような泣いたような表情になった、頬がピクピク動いている。


「僕は――「どうでもいいから帰るぞ」話くらいさせてよ!」


 なんで俺がお前の話を聞かなきゃいけないんだよ。どうせ話しても前と大して変わらないんだろ? 僕は助けられる価値は無いとか、死んで詫びたいとか、ネガティブな話だろ?じゃあもういいよ。聞いてるこっちがネガティブになるわ。というか普通に飽きたわ。


 俺はそう言ってはいない、しかしそういう感情を込めてカミルを見た。

 そしたらカミル、何と動きが止まりました! 凄い! “目は口程にモノを言う”ってホントなんだ!……まあどうでもいいか。

 新たな発見もそこそこに俺は振り返りそのまま歩き出す。


「どうしたお前等、帰るぞ」

「えっ! 良いのか」

「別に見つかったし、後は勝手についてくるだろ。あれだけ迷惑をかけたんだ、行くぞカミル」


 村人たちは顔を俺とカミルを交互に見て迷った挙句、俺に着いてきた。

 一方カミルはその場から動かなかった。


「どうした? 何か言いたいことがあるのか?」


 俺は足を止め、振り返らずに言った。

 どうやら今度は違うみたいだ、背中越しに感じた。


「僕は、…………」

「なんだよ、止めるな、さっさと言え聞いてやる」

「僕は!――」

「ああそうだ、前と同じ答えなら殴る」

「うぇ!」

「あたりまえだ馬鹿! アレだけ暴れて何の心境も変わらないならホントぶっ飛ばすぞ!」


 俺は容赦しない、殴ると言ったら殴る。

 というかあれだけ暴れて何の心境の変化も無いならもう放置する。

 あれだけ有用性を示しておいて、前と同じなど許さない。

 殴った後は機械の様に粛々と仕事をさせるだけにする。

 カミル(こいつ)が人間として弱いのか、弱くないのか、少し早まったがココで判断するとしよう。もっとも人間の強さ弱さを俺が判断していいかなんて分からないが。

 それでも、俺に意見を言えるくらいの意思で何か言おうとしてるなら、それがコイツの中で決まった答えなんだろう。それは俺のぼかした答えと一致するかどうか。


 そしてカミルは俺の強気な発言を聞いても口を動かした。


 ◇


「僕は罪人です。この手で直接人を殺したことは無いけど、人を死ぬ状況に追い込みました。何度も何度も何度も、それで僕は死ぬべきだと思いました。できれば僕のせいで死んだ人の敵を討たれて死ぬべきだと」


「僕は死のうと思いました。何度か、皆さんの見ていない所で自殺しようも思ったんです。それでも死ぬのが怖くて……死ねませんでした」


「今日、僕はこの世界の人から何度も話を貰いました。ある人は僕に見えてないと言いました。ある人は僕を共犯者だと言いました。ある人は僕を優しいと言いました。僕をみんなが許すと言ったんです。」


「僕は暴れました。たまったフラストレーションを開放するように。うまくいかない現状を力ずくでどうにかするように。だって僕は死のうとしてるんです! 彼らのために! それでも僕は死ねなかった……よりによって死のうとする理由である彼らに救われた。贖罪をするつもりだったのに生きていいと言われた。……だから僕は逃げ出しました」


「訳が分からなくなって、街の中で、森の中で、水の中で、泣いて泣いて泣いて、それで僕はやっとここに着いたと思ったらアキラさんたちに見つかってそれで……さっきの言葉で“見えていない”の意味が分かった気がしました」


 ◇


「それで?」


 一旦言葉を切ったカミルに合いの手を入れるように言葉を挟んだ。

 カミルはその心にため込んだ答えを一気に話した、それこそ聞くのが億劫になるくらい長く。

 言葉は“自分語り”というより何処か他人行儀だったのは、先ほど暴れた時とは違い彼は彼自身がようやく見えたのだろう。

 彼は――



「僕は、ただ単純に迷惑をかけたんです。けど謝ってなかったんです。そんな簡単な事だったんです」



 そう、それだけ。こいつは謝るという行為を抜かして償いだけを考えた。

 だから話が通じないのだ。

 そりゃあ無理だろ。

 だって一方的な償いなんて、玄関先のしつこいセールストークと何が違う? 押し付けるというのは善意だろうが悪意だろうが人に理解されにくい物なのだから。



「だから僕はみんなに謝ろうと思います。文字通りみんなに。あの場に居た村人全員に。“殺されてもいい“なんて言葉じゃなくて“ごめんなさい”という言葉で。それが良いですよね」

「勝手にどうぞ。俺に聞くことじゃない」


 そう言う彼の顔は今までの雰囲気は鳴りを潜め、どこか憑き物が取れたように晴々としていた。

 その頬から流れる水滴はきっと湖の水なんだろう。とめどなく流れているのは髪の毛に溜まってたとかなんだろう。


「いや、あの調味料のせいで目が未だに痛いだけです」

「きっと湖の水なんだろう!」

「ハイ」


 ◇


 最後に森を歩きながら、アキラさんに聞いてみた。

 この質問はきっと意味の無い事だろうけど、彼の言葉を聞いてみたかったのだ。


「アキラさん」

「ん? 調味料の件は悪かったと思わんでもない、謝罪する事もやぶさかではない」

「それはもういいですよ……」

「じゃあなんだよ」

「あの――僕は許されたんですよね?」

「知らねえよ。面倒な問題を人にゆだねるな、迷惑だろ」

「ですよね」


 予想した答えとほぼ同じ答えに僕は思わず笑った。

久々の更新です!

前回日曜日更新と書いたから嘘は言ってないよね!

……

………はい、申し訳ございません。リアルが危なかったのでサボりました。重ねて申し訳ありません。

次回は引っ張った作戦と3章の戦闘面の始まりの予定。



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