3-22 “元”神様と…
遅れて申し訳ございません。
あと今回過去最長かもしれない。(牧村尚也)
少し離れた話を。
実はカミル・ゴードンのある事柄に対する考え方はどちらかというなら地球(転生前)の考え方に近い。
というのも他のこの世界の人間はどういう考え方をしているかというと……
「死んだ? ならしゃあない、借金はチャラにしてやろう」
「死んだ? へー、殺されたのか? ざまあないな」
「死んだ? 葬式くらいは出てやるか? あーでも香典が面倒だな……」
死者を何だと思っているのか……。
しかし、これがこの世界の一般的な考え方。
死生観と呼ばれる考え方でその世界の生死についての価値観と言ったところだろう。
この世界は地球と比べて命の軽い世界である。
親しいものの死ですら悲しむことの少ない世界である。
その根底にあるのは『死んだら終わり』というどこか割り切った感情。
だがそれも仕方ない事であり、つまりこの世界は不幸な事故が多すぎるのだ。
例えばアキラが出会った中ではイノシシが居た。
ハルマの仕留めた体長5mを超える巨大なイノシシ。
歴戦の猛者であるハルマだから仕留められたが、普通は出会ったら死ぬだろう。
他にはアキラの体感した“裂け目”と言われる現象。
頻度は多くは無いが、それでも近辺で起こり巻き込まれた時、回避する方法は皆無。
あの時、空間に引き込まれ壁に埋まった者が居た、地面に刺さった者が居た、空に投げ出されたものが居た。
アキラが生き残っているのは、あの時近くに偶然勇者という超戦力が居て、そして彼らは“裂け目”に巻き込まれなかった、という幾つもの偶然が重なった結果であり、普通ならアキラはまず間違いなく墜落死である。
他にもアキラが知らない所では
ハルマの仕留めたクマは20人近い人数を殺害している。
龍国の天竜の戦力は最低でも災害級だ。
水星でも変わらない平和な日々を過ごしていた人々がいきなり自殺している。
死
通常なら何処にでも付き添うソレの存在を忘れるほどに地球は安全だった。
だからこそ転生者は緩い。
こちらはその影がただ少しだけ濃いだけである。
しかしどんな世界でもそうだが気を付ければそう易々と死ぬことは無いだろう。まあ、死ぬときは普通に死ぬけど。
◆
「どういう意味だ……なぜそいつを使うと復讐になる」
「んー、それを話すには少しだけ場所が悪い。後で良いか?」
「それで納得すると思うか? ここで話さないならそいつを今ここで殺す」
そう言っている彼らの手にはどこから取り出したのか大型のナイフが握られていた。
厚いナイフは振り下ろせば指くらいならスパッと言ってしまいそうなサイズで、向けられると先端恐怖症でなくても潜在的な恐怖を煽る。
そのギラリとした輝きに僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「分かった分かった。だからその物騒な物をしまえ。……クリス、カミルを外に連れてけ。この話は後々の事を考えると聞かせない方が良い」
「また僕の知らない所で、話が進むのか……」
「不満でも?」
「いいえ、僕の命はあの時尽きてる。今ここで生きてるのは奇跡に近い、だから救ってくれた人には一任しますよ」
「んー? その割り切った感じがどうにも……見栄張るならもっとマシにやれ。すぐバレる虚栄なんかほとんど役に立たんぞ」
バレるの早、この人は本当に人を良く見てるなぁ。
そうだよ、出来れば死にたくないのが本音だよ、でも僕は許されちゃいけないんだ。
「あと、そこにいる妖怪“酔っ払い塊”も連れてけ」
「僕一人でですか?」
「別に一人一人丁寧に外に出せとは言わない。どうせ酔っぱらってるんだ、気付け代わりに強めに蹴り飛ばしてやれ」
「はーい」
そう言うとクリスチャンは四隅の塊に対して軽く助走をつけ、横蹴りを振り切った。
◆
「ううぅ……」
「痛てぇ……」
「何しやがる……」
「自分で動けなくなるまで飲む方が悪い」
不満をバッサリと切り飛ばしたクリスチャンは宴会場の扉にもたれるように立ち、外に叩きだした酔っ払いを感情の無い目で見ている。
人を殺しそうな目だ。
少なくとも彼らを気遣う感情は一欠けらも感じられない。
「えっと……大丈夫ですか……」
「おお……ありがとう。優しいな」
「優しくはないですよ」
見ていて流石に気の毒なので蹴り飛ばされた所為か、それとも飲みすぎた酒の所為かは分からないが、四つん這いになっている人に手を差し伸べるとそんな事を言われた。
即答で断る。
優しい人間が無差別誘拐なんてをするわけがない。
「そうか? 少なくともクリスよりは優しいだろ」
「彼には信頼がありますよ、だからあんな横暴が許されてる」
「いや、許されてるとは思わないんだが……」
「ブー!」
「ブーブー!」
「ブーブーブー!」
「うるさいなぁ」
飛び交うブーイングとそれを受けてもどこ吹く風のクリスチャン。
「まあ、信頼してるからああいう態度がとれると考えれば……」
「うーん、俺は普通にどうでもいいと思ってるだけだと思うが……」
「それでもみんな本気で怒ってるとは思えないですよ、ブーイングだけで暴動は起こってない」
「ポジティブシンキングなんだな、でも……」
彼が言葉を切った時、僕は初めて彼の顔を正面から見た。
「何で自分にはそのポジティブさを使わないんだ?」
「ベンジャミン・リンカーン……さん」
箱庭東村の元村長は疑問を持った目で僕を見ていた。
◆
「どうしてお前はそう悲観した考えしか出来ないんだ? お前のやったことはもちろん悪行だが、それでもこれから挽回すればいい」
数日前に作られたばかりの石畳に腰を下ろし、数日前に作られた石の壁を背もたれにした彼は僕にそう聞いた。
手には相変わらず酒を持っていたが。
彼に連れられるまま道の端に移動した僕は彼の言葉を返せないでいた。
「(なぜ? そんなの僕は許されないからに決まってる!)」
その言葉が出てこない。
きっと昨日までの僕なら言葉に出せただろう、しかしここ数時間の間で、デニム老、ガラ、レオン、と箱庭の中心人物に続け様に声を掛けられた。
彼らは一律でみんなに会えと言った。
僕は会って何をした?
宴会をした。
そこに居た彼らからは僕に対する敵意は感じなかった。
だから言葉が出ないのだ。
僕の言おうとしている事は僕個人の感情を主体としているわけでは無い。
許す、許されるは自分語りを除いて一人では存在しない。
必ず、許す被害者側と、許される加害者側が存在する。
僕は後者で、彼らは前者で、そして彼らからは不思議なくらい敵意を感じない。
分かるだろうか、この時点で僕の言葉は宙に浮くのだ。
もちろん敵意が無いからと言って許されたなんて都合のいい考えはしていない、それでも僕の言葉は現在フワフワと宙に浮いている。
僕がどれだけこの言葉を言おうとも、彼らから『じゃあ、お前許すわ』と言われたら何も言えなくなってしまうのだ。
僕は罰せられたいに、それなのに彼らは僕を囲んで楽しそうに宴会をしたのだ。
じゃあ自分で自分を許さなければいいのだけど、それでも僕は……。
「……僕はポジティブじゃない」
「そうか? さっきの発言はだいぶポジティブだったと思うぜ」
ギリギリ口から漏れ出した言葉をベンジャミンは拾った。
「アレは他人事だからですよ」
「じゃあ自分の事には優しくないって? じゃあそれならストイックだな」
会話は続く。
会話というより一問一答に近いけど。
「違う! 僕は許されない事をしたんだ!」
「でももういいだろ? お前の事はもう皆……ではないけど、許してるつもりだぜ?」
「それがおかしいんだ!」
宙に浮かんだ言葉を叫んで、それでも予想通りの答えが返ってきて。
僕がいきなり叫び驚いたのか周りの視線が僕らに集まった。
だが、その視線にはまたも敵意が無い。
どうして……。
「どうして僕を許すんですか!」
罪は、許されるないよりも、許される方がよっぽど辛い。
特に自分自身が悔いている罪に、なんの罰も無しなんて耐えられない。
真綿で首を絞めるようにじわじわと、なんてものじゃない。
ずっと溺れている様なものだ。
肺に水が入って、でも死ななくて、ずっと苦しい、そんな気分。
僕は思った、殺されるのはかまわないと、でも虐められるのは勘弁だと。
苦しいままなんて、虐めに該当するじゃないか!
特に精神的な所が一番いやらしい。肉体を目標としていないなら死ぬことも出来やしない。
「イヤだイヤだイヤだ! 罰してくれ! 裁いてくれ! 苦しいままなんて嫌だ!」
僕はそう言って髪を掻きむしった。
◆
「どう? 多少留飲は下がったか?」
「ヤツは何をしている……」
「苦しんでる」
カミルを外に出して、5分後、カミルは叫びだした。
壁に空いた窓から覗き込むと、髪を掻き、頭を壁にぶつけ、壁を殴っている。
手や頭を血まみれにしながら行う行為に、ベンジャミン達が飛び掛かり押さえつけようとするがそれでも暴れて止まらない。
力ずくで振り切りまた壁に向かう、壁に何度も体を叩きこみ、半狂乱になりながら自分を罰していた。
「違う! 何が起こっていると言った!」
「お前らの納得するように復讐してやったのさ」
「分からん!」
「じゃあ簡単な説明を」
今時ナイフでブッ刺す復讐なんて流行らない。
そう言ったことは本心だ。
人間は痛みに慣れる生き物だ。
痛みが続くと体が痛みを感じなくなったりするし、本当にヤバいと意識を自分で切ったりするから特に殴ったりする拷問ってのはあんまり効率がよろしくないのだ。
精神が殻にこもってしまうからな。
あと俺はグロとかスプラッタが苦手でね。夢見が悪くなるからあんまり見たくないんだよ。未だにブッチャーが壁のシミになった場面を見たりするからね。
だから今回精神的に追い詰めるのは決定事項だった。
しかし問題は全員をどうやって納得させるか。
ベンジャミン達は別にいい、GOサイン出せば右から左だから。
厄介だったのは転生者たち(まあ、ベンジャミンも転生者だけど)、あいつ等は無駄に知識があるから『自分たちで復讐を行う!』とか言いだしたら納得させる自身が無かった。実際復讐を止める理由も無かったからな。
しかしカミルはウチの貴重な戦力だ、潰されてはかなわんので作戦を練った。
その作戦は先手必勝。
先に無茶苦茶悲惨な罰を行いそれも見せつけ、アイツらの想像を超え、無理やり納得させるというもの。
まず宴会の延長線上で会議を行い、酒の勢いと多数決でカミルを許した。ココは不満のある転生者のあぶり出しでもあったのだが……思ったよりも少なかった。5人ってどうよ? ポジティブで前向きなのは良い事だと思うけど、もうちょっと過去とか振り返ってもいいと思うよ?
会議の結果をカミルに伝える役はデニム爺さんにお願いした、こういう諭す系はあの人が一番適切だろうと思っての采配だが、爺の説明が足りなかったのかそれともワザとかは知らないがカミルが泣くだけで話は一向に進まなかった。
デニム爺さんが失敗した時点で実は今日はあきらめていたのだが、帰ってくるとなぜかカミルが宴会に連れてこられていた。
それを俺が知ったのは飲み会の終盤、男衆がほぼ酔いつぶれた場面だったので急いで会場に滑り込んだ。
作戦は実行するにあたって、カミルにアルコールが入った今日は都合がよく本音が引き出せると思ったので急いだのだ。
そして実行、俺は宴会場でのらりくらりと時間稼ぎをしているだけでよかった。
といっても爆発はいつするか分からないので賭けの要素が強かったのだが想像以上に病んでいたらしく、善意の塊に接触させたらすぐに爆発した。やったね!
今回の作戦は、特にカミルのような人間らしい人間、つまり持ち上げられると持ち上がり落ちるとどこまでも落ちる、分かりやすい人間には非常に有効な策だったのだろう。
精神的に追い詰めて殻の中で爆発させ、殻ごと吹き飛ばす。当たり前だが殻を無くせばもう閉じこもることなんてできない。
一度トラウマ(潰れる事)を経験した精神はその事を忘れない。だからそれを和らげるカウンセラーなんて職業が成立するのだ。
結局人間は精神が一番弱いのである。
そう説明してやるとあいつ等引きやがった。
お前らがしようとした肉体をボコボコにするのと何が違うんだ!
「俺らだってそこまではしない」
「拷問でもないのに恐ろしい事だな」
「そもそも、いつまでも死ねないなら殺してやるのが情けだろう?」
「殺すことが情けになるのかよ。俺たちも一回死んで、今だに生きてるのに」
そう言うと奴等の顔が歪んだ。
痛いところを突かれたのだろう。
死んで終わりならいいが、もし死んでも終わりじゃ無かったら? その時アイツはどう動く? 何もかも忘れて幸せに!……なんて認めないからお前らはこうして俺の前に立ってるんだろう?
実体験として知っているお前らは、転生の可能性を消せないはずだ。
この世界に来て俺は思ったのだが、死んだ後も引きずる感情というのはほとんど無い。
それこそ両親の事を自然に思い出したのは初日だけだった。
知識としては覚えているのだが、日に日にそれに対する感情は薄れていく。
これは俺が薄情とかではなく、転生者全員に共通する事で。
精神の構造の問題なのか、それとも別の存在……それこそ神の意思でも働いているのかは不明だが、強い思い以外は早急に摩耗して、最後まで変わらず残る思いはほぼ無い。
しかし強い思いとは良い面だけではなく、悪い面……それこそトラウマも残るらしい。
なら俺の得意分野だ。
お前等よりうまくやってやる。
そういう意味でトラウマは俺が植えて付けてやった。それで満足しなさい。
できないか? そんなわけないよな、現在外で行われている事は精神衛生上あんまりいい絵ではないから見たら一生残るぞ。
多分俺は今日夢に見るぞ。
「俺たちの負けだ……」
そう言って奴等はがっくりと肩を落とし、地面に座り込んだ。
ふむ? 何か知らんが勝ったようだ。
まあ、あきらめてくれるなら何でもいい。……しかし親友の約束を簡単にあきらめるんだな。俺はたぶん遂げるためにどんなこともすると思うけど。
俺が引きずっている思いはそれだからな。
長いよ!
本来なら1話2話で収める話がまさかレオン編より長くなるとは思わなかったよ!
しかもこの後3章まだ終わりじゃないんだよ!
改めて長いよ!




