3-20 “元”神様と問いかけⅡ
腹減ったー!今日の晩飯なんだろー!(ベンジャミン)
カツンカツン……
一歩一歩降りていく階段の隣には大きく開いた穴。
壁から生えるように作られた階段から見下ろした地面の遠さに少しだけ身震いした。
それでも、そこから足を踏み外すのに迷いは無い。
しかし僕はまだ誰にも罰せられていない。
ああ、誰か僕を救ってくれ。
ああ、誰か僕を罰してくれ。
「苦しそうだな」
僕が石の塔を降りると出口にガラさんが待っていた。
この人は昔から分からない。
僕を見る目がどうにも掴めない。
僕を恐れているようにも、馬鹿にしているようにも見えたから。
だからこの人を戦争を仕掛ける側に選んだんだと思う。
見極めたい、なんて今思えば傲慢にも程がある。
たった20年しか生きていない人間に、その間ほとんど人とのつながりを持たなかった人間に、そんな事出来る訳ないのに。
ただ、分からない人柄と違ってそのセリフは強く刺さった。
まさしく、僕は苦しいのだ。
「分かる、と言っていいのか分からないが、お前と俺はある意味共犯者だから近い事は感じているはずだ」
そう壁に背を付けながら彼は言った。
共犯者
本当にそうだろうか?
確かに僕はアキラさんのいう所の、殺人教唆氾。
それに対して彼は、殺人実行犯。
近いと言えば近いかもしれない、それでも罪はどちらが重いかなんて考えるまでもない。
手を汚していない方だ
人を操ったつもりで、人を殺す度胸もない癖に、人を死に追いやった。
間違いない、屑は僕の方だ。
「お前はこう思ってるはずだ、『僕は許されていない。許される訳がない』と、だから殺されたいなんて考えるんだろう。もっと言うなら『あの輪に入って良い訳がない』か? デニム爺さんが言ってとおり自罰的だな」
「あなたは違うんですか?」
「近い事は考えた。というより一週間前まで戦争をやっていた相手と同じ机を囲おうと考えるアイツがおかしい。お前もそう思うだろう? というかお前“は”そう思うだろう」
「?」
何処か含みのある言葉を僕に言う彼の姿は疲れているように見えた。
「先達からのアドバイスだ。ぐだぐだ悩むよりも行動した方が良いぞ。俺も同じような状況に陥ったが……」
「陥ったが?」
「考えるのが馬鹿らしくなった」
「ハイ?」
「これ以上は自分で見た方が早い」
そう言ったガラさんは振り向くことなく工事現場に歩き出した。
西日が一層強く輝いて、陽が山の裏に落ちようとしていた。
ココから工事現場まで5分もかからないだろう。だが、僕は彼の後を追う気にはならなかった。
だから彼とは反対方向に逃げ出した。
◆
「何やってんだ? お前?」
「ひっ!」
僕が逃げ込んだ場所には先客がいた。
レオン・ハザードだ。
彼は何をするでもなく、ただソコにいた。
足をブラブラと振りながら、口に果実を頬張って、こちらを見ていた。
彼は苦手だ。
ガラさんとは真逆の意味で何を考えているか分からない。
それは僕を見る目が酷く純粋に思えたからだ。
ガラさんの感情を隠した目とは違い、純度を帯びた瞳は何を移しているかまるで読めない。
獣と同じだ。行動はある程度予測がついても、その心を読むことが出来る者はいない。
そんな彼を味方に引き込んだアキラさんは凄いと思う。
僕と同じくらい無力なはずなのに……いや、そう思うのは失礼か。
僕は本当に無力だが、彼は人脈があったからレオンを引き込めたんだろう。
「行かないのか? 向こう」
「行きません。僕があの中に混ざる資格は無い」
「そうか? ならなんで――」
「――僕は彼らの仲間を殺しました。殺すきっかけを作りました。だから行きません」
「? よく分からんが俺も殺したぞ?」
「それはっ………」
反論しようとして言葉が詰まった。
そうだ、彼は
レオン・ハザードは僕の力の強制は受けていない。
あの時、戦争に唯一関係が無かった。
それでも嬉々として参戦したのはどうかと思うけど……。
彼は唯一自分の意思で戦争に参加した人間だ。
彼と僕とには何の関係も無い。
共犯者も、実行役も、何も無い。
それでも殺しを行った彼はどうしてあの輪に入れるんだ。
それが僕の言葉を詰まらせた。
「なんだ?」
「いや、何でも無いです」
「そうか。ところでホントに行かないのか?」
「行きません。そう言う君は何で行かないんですか?」
「んー。……今日は料理の気分じゃない、とか?」
そう言って彼は持っていた果実をまた一つ頬張った。
「どういうことですか?」
「理由は特に無いんだよ。ただココに居たい。それじゃダメなのか?」
「だめって事は無いと思いますけど……」
「じゃあいいじゃん」
『居たいから居る』そう言われると何も言えない。
一時の感情で生きている彼は基本何も考えていないのではないだろう。
もっともそんな生き方が出来るのは強い人だけだろうけど。
それは心と体がどちらも強い人。
彼はまさしくそうだろう、10倍状態の僕を圧倒するほどの身体能力はもちろん、『傲慢』の二つ名まで獲得するほどの心のブレなさ。
『傲慢』の二つ名の獲得条件は確か、何かしらの『悪』との接点と心の底から他を見下していなければいけないはずだ。
見下す事柄は“強さ”かどうかは限定しないはずだけど、とにかく『傲慢』は獲得難易度が桁違いに高い。
王国800年の歴史で何度も王国に危機をもたらしている“大罪系”の二つ名は入手方法から能力まで徹底的に研究されている。
それでも押しとどめる事が出来ないので危険度はいつまでも変わらないが。
そして獲得条件がはっきりしている“大罪系”はどれも獲得しようとするなら何処か人を辞める勢いじゃないと手に入らないはずだが『傲慢』は特に難しい。
人間は心のどこかで不安に思ってしまうことがあるのだから。
普通に考えて『これで正しいのだろうか』とか『もしかしたらもっといい方法が』とかネガティブな考えが浮かばない方がおかしい。
『傲慢』の獲得者はどこかそれが無い。
欠けていると言ってもいいけど、“自分が負ける”とか“劣っている”とかの考えが無い。
そしてそれが無いレオンは、やはり人外の戦力を持つ化け物になっている。
もっとも、彼の場合は環境のせいもあったと思うけど。
彼の周りには人間が居なかったから、自分が一番だと思ってしまったのかもしれない。
推測でしかないけど。
「おーいどうした? いきなり黙って」
「へ? ああ! すみません少しボーとしてて!」
「? まあいいや。ほれ」
「わっ!」
そう言って彼は果実を一つ放り投げて寄越した。
宙を舞う果実に慌てて手を伸ばす。
キャッチ!
地面に落とすことは無かった。
でも何で?
「やる。元気だせ」
疑問に答えた簡潔なその言葉は想像以上に僕に染み込んだ。
人に優しくされるのは慣れていないにしても、もう少し耐性が欲しいな。
こんな言葉で涙が出そうだ。
「何で……」
「何となく。それじゃダメか? じゃあ行くわ」
「え? あ! 待って!」
「何だ?」
「どうして、どうやって、彼らに受け入れられたんですか。君は彼らの仲間を殺したはずだ。でも、どうやって」
つい引き留めてしまった。
話し相手が居なくなるのが嫌だったのかもしれない、でもこの質問もしたかったのも事実だ。
「? 簡単だ、近くに行って……あー、なんて言うんだ? まあいいや」
「良くはないんだけど……」
「そうか? でもほら、呼ばれてるぜ。」
「え」
その言葉と共に後ろから声がした。
「カミール! 何処だー!」
「返事しろー!」
この声は誰の声だろう。
アキラさんたち幹部と言われる人の声じゃないはずだ。
「じゃあな。あんまりアイツらに心配かけるなよ」
戸惑っている僕を置いてレオンは去っていった。
どうして、誰もかれも、彼らに近づけと言うんだ……。
彼らに何があるんだ……。
まさかの再分割。作者も予想外の展開ですが次で完結です。
シリアスっぽく見えたら成功ですね。
次回は月曜日更新予定。
小話:レオンはカミルを探してる声に最初から気づいてました。




