3-16 “元”神様の改心と懇願
高ーい(ダニエル・ハート)
「も、元、神様……?」
「あ、その“も、元”ってアレに似てるね某RPGの裏技的なのアレ」
「いやいや! 話を逸らさないでくれよ!」
「そうだぞ!」
「説明しろ!」
「神様ってなんだ!」
口々に好き勝手に言う野郎ども。
よーし適当に答えるか。
こいつらが大人しかったら詳しい説明とか考えてたけど、大人しくないし、正論無双しても耳に入らなだろうし、単純に説明するのが面倒くさいし、と三重苦。
それっぽい事言えば納得するだろう。馬鹿だし。
「あーお前らな、ちょっと落ち着け」
「これが落ち着いてられると思うか……」
群衆の中からポツリと静かに語られたその言葉は紛れもない怒気を孕んでいた。
少なくとも怒気が向けられているのが俺でないと分かる程度には。
じゃあ誰に向けてるか、なんて考えるまでもないだろうけど。
「オイお前。神と言ったな、“元”神と。俺たちがこの半年間、神と言ったらあの箱庭に放り込んだ糞野郎の事を指すハズだ。……お前がそうか?」
「……はい……」
「そうか、なら消えろ、二度と姿を現すな」
声を荒げるでもなく、恐怖するのでもない、一聞すると感情が籠っていないとすら思えるほど、淡々と語られた言葉は、簡潔に簡単にカミルを断罪した。
立ち上がった奴に見覚えは無い。
当たり前だ、男だけでも500人はいるんだぞ。大型テントでも入りきらないからいくつもテントを繋げてどうにか押し込んだんだぞ。それでもまだ溢れたヤツがいるんだぞ。
しかし、そいつの怒りはヒシヒシと伝わってくる。
うーんマズいな、カミルが委縮しきってる。
どうにかしたいが、俺としてもこの案件についてはマジでどうしようもないのだ。
だって基本全面的にカミルが悪いからな。
とはいえ、論点のすり替えくらいならできるだろう、支持をしたのはカミルだが、直接殺しを行ったのは村人だからな。
そういう事ならカミルの罪は殺人を唆したこと……殺人教唆になる。
確か日本の法律だと殺人罪と同じ罪になるんだっけ?
凍夜が前にそんな事言ってたような……
◆
「明、殺人教唆は殺人罪と同じ罪に問われるからね。覚えておいて」
「凍夜、なぜいきなりそんな物騒な話をする?」
「昨日、ふと気になって調べたんだよ」
「ネットで?」
「六法全書で」
「お前の家、六法全書とか置いてあんの……」
「それで刑法第6――」
「あーいい、別にいい。長くなるだろ? なんでそう思い立ったかだけ聞かせて」
「将来やりそうだなって思って」
「誰が?」
「明が」
「ふざけんな!」
◆
ちなみにこの時凍夜は小学5年生だ。このころは凍夜の中で法律がブームだったのか、なにかと法律を持ち出してくる嫌な小学生だった。
それにしても思い出すと腹立つな……。
アイツの中の俺はどういう立ち位置だったのやら。
ホント失礼な奴だ!
俺だって望んでそんな危険なことするわけないだろ!
必要に迫られたら分からんけど!
まあ、今は置いておこう。ここは日本でもないし日本の憲法に縛られる必要はない。
人間的に超えちゃいけない線はあるだろうけど。
カミルは超えてたと思うけど。
しかし今回の作戦を行うにあたって、カミルは堂々とみんなの前に出ることを決めた。つまり自分の力で罪をどうにかする(罪を償うのか背負うのかは知らんけど)、そう宣言した。
俺も『本人が良いなら文句は言わないし手も出さない。その代わり迷惑はかけるなよ』とだけ言って送り出したが……今の時点で早速手を出したい。
正直カミルの能力は貴重だ。
サクラに聞くと、世界を作り出す的な能力は一応聞いた事はあるが、ここまでの大きさではないとのこと。もちろん時間軸に干渉するなど聞いたことが無い。
それだけでもヤバいのに、箱庭は全世界に通じる。
行きはガチャだが、帰りは場所を指定出来たところを考えると、少しやり方を変えれば世界中を移動する術が手に入ると言う事だ。
さらにこいつはその二つ名は祖母から受け継いだと言った。血縁で繋がっていく“継承名”と言われる能力だと。それは結婚相手を紹介してやれば子供にも二つ名を受け継がせることが出来ると言う事。
ぶっちゃけレオンよりも希少価値が高い。
実際にどっちか選ぶとすると悩むだろうけど、価値だけならカミルの方が圧倒的に上だ。
そう考えるとカミルを信じて好きにさせるのと、この状況に手を出して確実に確保するのは、なかなか悩ましいバランスじゃないか?
うーん
うーーん
うーーーん
……
………
…………
しょうがないカミルに恨まれるかもしれんが手を出すか、そう思った瞬間だった。
カミルが語りだしたのは。
◆
「僕は子供の頃いじめられっ子でした。誰も友達がいませんでした。もし子供の頃に一緒に居た奴等が友達というなら友達などいらないと思ってきました。一人ぼっちで帰る帰り道で助けてくれない周りを恨みました。涙で濡らした布団に無視を決め込む周りを罵りました。泥土を投げつける周りを心の中で殺しました。
それでも僕はまだ幸せでした。
虐め程度、僕が耐えればいいと知っていましたから。
でも、僕が虐められていることを知っても何もできずに夜中に涙を流す祖母を見て世界そのものを呪いました。僕を虐めている人間はこの辺り一帯の権力者の子供で、僕がもし仕返しでもしようなら祖母に迷惑がかかることを知っていました。僕には何もできませんでした」
語りだしたのは身の上話。
俺たちは知っているが、こいつらは知らない話。
……どうする? この話の効果が分からない。
カミルがもし昨日の俺の真似……お涙ちょうだいで有耶無耶にしようとしてるなら甘いだろう。
少なくとも嘘ではない点では俺の話よりは勝っているが、それでも俺の話術がこいつより下だとは思えないのだ。
アレはそれ相応の技術が要るような……要らないような……。
ぶっちゃけ俺も行き当たりばったりだったからな。
しかし聞き手もそんな適当な話でも涙を流すような馬鹿ばかりだ、正直どっちも読めん。
カミルは話自体が上手いかどうか、野郎どもはどの程度の話で涙を流すかだな。
ここに両者の確執も加わってくると話はさらに面倒になる。
下手な方向に動くと、場合によってはカミルが殺される可能性もあるからな……。
介入の準備自体はしておいた方が良いよな……。
俺はクリスに視線を向け目配せをするとタイミング良くクリスもこちらを見ていたのでばっちり目が合った。軽く頷いたので伝わっただろう。
「……祖母が死んでから数年が経って、当たり前ですが僕は就職をしました。養ってくれる家族は居ませんし、お金が無ければ生きていけないですから。そしてどうにか新聞社に就職できました」
……聞いた話だと思ってスルーしていたら、俺たちも知らない話に入ってるな。
コイツ新聞社に就職してたのか。
ああ、そう言えばコネが有るとか言ってたような? だから紙が貴重な世界で新聞持ってたのか。
謎は解けた。
すっごいどうでもいいけど。
「新聞社に勤めて最初の仕事でここの、役場の取材を行うことになりました。そこで会ったのが僕を虐めていたアミゴ君でした。彼はコネ入社で役場に入っておきながら、実家の権力を笠にすぐに王様のような態度で働き周りに迷惑ばかり掛けていました。
だから告発したんです、今までの恨みも込めて、彼の行いを糾弾したんです。
人を探して、取材して、何度も文を書き直して。僕の記事は新聞というよりスクープに近かったと思います。それでも編集長は認めてくれて、記事は新聞に載ることになったんです。……ですが僕の記事は止められました。
どこまでもアイツのゲームだったんです。僕の取材はすべて知られていて、それでも黙認して、掲載しようとしたら寸での所で止める。人が必死になって足掻いた結果を笑う最悪のゲームだったんです」
カミルはその時の事を思い出しているのか、肩を震わせながら話を続ける。
その表情は顔を下げているので窺うことは出来ないが、きっと泣いているのだろう。
「それでも僕の事はどうでもいいんです。ただ許せない事が一つ、彼は僕の祖母をバカにしたんです。……違います、馬鹿にしていたんです。
祖母は確かに高齢でした。それでも働きすぎと思えるほど働いても一向に生活は良くなりませんでした。原因はアイツでした。
アイツは僕の祖母の勤め先に圧力をかけていたんです。簡単に言うなら祖母の賃金はどうあってもケチをつけて他の人達の平均値になっていました。それでも祖母は“働かせてもらえるだけでもありがたい”と必死に働いて……。
僕はバカです。そうだったならさっさとアイツを殴って祖母と一緒に街から飛び出せばよかった。それを気づかずにいた僕は大バカ者です」
話を一旦切るとカミルはその場で土下座をした。
やはり涙を流しその顔は真っ赤になっていた。
「お願いです! 僕の事はどうでもいい! これが終わったら殺されてもいい! だけど! だけど! 祖母の仇を取らせてください!」
ぐしゃぐしゃになった顔を地面にこすりつけ、カミルは叫ぶように言った。
そしてそれから少しだけ誰も動かなかった。
カミルの選択は嘘を付くのではなく正直に話して力を貸してもらう事だった。
正直都合のいい話だ、虫のいい話だ、自分の事しか考えていないと言われても仕方がないだろう。それでもこうして人の前に立って動かそうとしているのは以前のカミルとは違うのだ、後ろでこそこそと動くことしかしなかった数日前の“神様”時代とは違うのだ。
だからこそどうなる、こいつ等の恨みは強い、仲間を殺されているのは間違いなくカミルの所為だ。
感動話VS恨み節ってとこかな?
そして、動かなかった時間が動き出すように誰かが息をする音がした。
男衆は肩が震え、その波は大きくなりカミルに襲い掛かった。
「「「「「感動したっっっ!!」」」」」
あ、多分大丈夫そう。
◆
「それでトントン拍子でここまで来ましたね」
「デカーい」
「やっぱり馬鹿だろアイツら」
見上げるのは巨大な石造りの塔。
後ろには石畳の道に、その両脇に作られたこれまた石の家。
ここ数日の急ピッチで作られたとは思えない仕上がりである。
今はまだ完全ではないが、全て野郎どもの成果である。
レオンの時も三日とかなり早かったけど、アイツらホント指向性持たせると何でもできる気がするな。
数も増えたし街でも作ってみんなで暮らしたらいいんじゃないか?
でも土地が無いんだよな~。
何処かに平和で平らで広い土地があればいいんだけどな~。
そんな土地有ったとしてもとっくの昔に開拓されてる可能性が高いけど~。
「さて、ダニエル、カミル準備はイイか?」
「もちろん! でもコレまで再現する必要があったのかな?」
「コレには二つの効果がある。一つは言わずもがな攻撃に必要だから。もう一つはこの場所を見失わないようにだ」
「アキラさんの話は時々良く分からん」
「こら! ちゃんといつも分からないって言いなさい!」
「なんだと!」
関係ない話をしながら石造りの塔を上っていくが、内側に会談を付けたとはいえやっぱり怖いな。
しかし大きさまで完全再現するとは……ホントにどうやって作ったのか。全部見ていたけど恐ろしいスピードでちょっと信じられなかったよ。
ただ、突貫工事だとちょっと怖いんだよな……。
倒壊とかしないよね?
そんなこんなで最上部に到着、風はびゅうびゅう吹いて怖いくらいだ。
今下を見るともっと怖くなりそうだ。
高所恐怖症ではないが流石に30~40mに柵も無いのは怖すぎる。
「カミル、作戦の時はもう少し風を弱くしといてな、出来れば無風が好ましい」
「ハイ、でも無風って出来るのかな? やったことが無いから分からないんですよね」
「お願いします! ホント勘弁して!」
行きは楽しそうにしていたダニエルは足をがたがたと震わせている。
気持ちは分かる。俺だって半分空元気だし。
見下ろす石造りの街はすでに五分の一が完成している。
このままのペースなら問題ないだろう。
でも俺そこまで完璧に作れって言ったけ?
俺の疑問をよそに街並みは少しずつ完成に近づいていくのであった。
余りに野郎どもが馬鹿すぎるのでテコ入れをする予定。
次回は日曜日更新予定。
次回こそ月曜日も更新を……。




