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二つ名転生  作者: 薪村 尚也
3章 北方小事
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3-15 動く北の裏組織

腹減ったな……そうだ、ダグラスと賭けをしよう。(マーク)

テティスの裏町の一角おかしな口調の男とその部下の会話。

相変わらずの威圧するような能面と、その能面を向けられながら飄々と話を続ける部下。


「それで? 任せてた件はどうなったヨ」

「あーそれがですね、それらしい奴には接触出来たんすけど確証が得られないって言うか、なんていうか」

「御託はいいヨ。そいつらはどんな奴らネ」

「ガキですよ。寒空の下で酔っ払いと楽しそうに話してましたね」

「ガキと酔っ払い…どういう状況ヨ」

「さあ? 焚き火に当たってたんで、路地裏で焚き火でもしてたら其処に人が集まったって感じでは?」

「良く紛れ込めたナ?」

「いやぁ実はそこで酒が入ってたからか愚痴大会が開催されてまして。そこで日頃溜まってる愚痴を吐き出してるうちに……」

「愚痴……誰のだヨ」

「さあ? 酒も入ってたんで覚えてませんね?」

「探し人はしっかり覚えていてカ?」

「仕事とプライベートは分けるタイプなんです」

「愚痴を吐いたことは覚えていても愚痴の内容は覚えていないのカ?」

「そうなんですよ、そこだけスッキリ忘れちゃってまして」

「それは不自然じゃないカ?」

「ホント不思議ですよね~」

「…………………」(ジットリ真顔)

「…………………」(ニッコリ笑顔)


ある意味対極に位置する二人はこうして鍔迫り合いを行うことも珍しくはない。

力の関係上部下が引くことが多いのだが今回は珍しく上司が引いた。

こんなところで体力を使うのが馬鹿らしくなったのかもしれない。


「……まあいいヨ、次の依頼来てるからお前の方でやレ、今回はココに誘き出して捕まえル」

「了解至極でございます……ところで依頼人は?」


そう言って上司が二枚の写真を裏にしてテーブルに置く。部下はその写真をテーブルの上を滑らせ裏を見ないようにしながらポケットに入れた。

こういう文明の利器はこの世界では非常に高価であり、本来ならここは折りたたまれた似顔絵なので、写真(コレ)が出てくると言う事は今回の依頼主が持参したのだろう。

これだけの道具を使えるというのはその依頼人の地位の高さを証明しているようなものであり、部下はそこを気になったのだ。

『それだけの力が有る者がどうしてわざわざ裏組織に依頼する?』と言う事に。

しかしその疑問は次の答えで簡単に氷解した。


「あのバカボンボンだヨ。まあ依頼者名と金出すのはその親父だガ、直々にご指名とのことダ」

「あぁなるほど。ははは、お坊っちゃまもアレですね~。裏の世界に首までどっぷりと来たもんだ。もう逃げられないのでは?」

「逃げてどうするヨ。奴らの権力は所詮この街限定、どこか別の場所に新しく根を張るなんて手間のかかる事するわけないだロ。特にあの自分の力でなにもしたことの無いバカボンボンはナ。」

「いいんすか? 依頼人の事そんなに酷評して」

「別に構わんヨ。家の力を自分の力だと勘違いするだけならともかク、裏社会の勢力が金払いの良さに一度だけ依頼に答えたらその勢力を自分の力だと勘違いする救えない男ネ……それにコレはどこかの誰かみたいな直接的な上司の愚痴でなク、“依頼者の子供”という間接的な相手の真実だヨ」


前述した通り、今回の依頼者はバカボンボンの父親である。

上司の発言の最後にギクリとしながら部下は答える。


「ははは、誰でしょうね、直接の上司のそんなこと言うのは?」

「さてナ? 案外近いかもしれんヨ? まあ、話を戻してモ、今の親父はともかくアレが家を継いだら繋がりをさっさと切って清々したいネ」

「その心は?」

「貴様にはあのバカボンボンが家を回せるほどの器に見えるのかヨ?」

「ははは! そりゃそうだ! 没落までのカウントダウン! 面白い!」

「笑うのは勝手だけド、それを見れるかどうかは貴様の貢献度によるネ。簡単に言うならさっさと仕事しロ」

「ウイウイ了解至極でございやす、ところで写真はどれだけに見せてもいいんです?」

「貴様ともう一人といったところかネ」

「うわぁ面倒臭。つーかこのルールやめません? 依頼人のプライベートに踏み込まないなんて言っても情報が回らなきゃ意味が無いでしょう?」


この組織では一つ独特なルールがあった。

それは依頼人と対象を結びつけないようにその顔を知るを最低限に抑える事。

対象はこの街のどこかに誘導されると後ろから袋を被せられ、そのまま顔を見られる事なく殺される。

似顔絵は依頼達成後に回収され燃やされる、今回用意され部下のポケットに入っている写真も同様だろう。

この徹底したルールによって、組織は裏社会では珍しく後々脅されることが無い信頼ある組織としての地位を築き上げたのだった。


「だから最低限の人数には情報は回してル。第一情報が隅々まで回って洩れだしたらだれが責任を取ル? 私は嫌だヨ」

「むぅ」

「おっさんが上げる声じゃないナ。さっさと行ケ。私はこのあと大商いが有ル」

「あーい了解でーす」


部下は渋々とドアに向かって歩き始めた。

上司はそのだらしない後ろ姿を見送った。



「ダグラス! どうなった?」

「おう、別にどうともなってねーよ」


部下がドアを開け廊下に出るとそこには一人の少年がいた。

くすんだ金髪の少しのニキビ、似た目から小学校の上級生ほどの年齢だと思われる。


「良し!」

「なんだよ? 変な事を言う奴だな」

「いや、ダグラスに何も無かったうまい物を奢るって賭けをしてて」

「はぁ? 誰と?」

「ダグラスと、一方的に」

「オイ!」

「ちなみに、俺は何も無かった方に賭けてるから、ダグラスは何かあった方に賭けてる事になる」

「それだとお前が一方的に勝たないか? 俺に何も無かったら俺はお前に奢らなきゃいけないし、お前は俺に何かあったら俺の墓前に供えることになるし」

「だから一方的なんだよ」

「ふざけろクソガキ」

「ヒャッハー!!」


騒がしく廊下を歩く二人の息は、年の差がありながらも、ぴったりとコントの様に合っている。

そして廊下の突き当りを一つ曲がるとダグラスと言われた男はポケットから先ほどの写真を取り出した。


「誰これ?」

「今度の被害者」

「へー珍しくない? 黒髪って」

「イヤ、俺もまだ見てないから……ん? 黒髪?」

「うん、そう、ぎょう」

「面白くねーよ。いやそれより黒髪っていたな? 見せろ」


そこでダグラスが見たものは。


「うわぁ。最悪の展開だろこれ」

「何が?」

「ダブルブッキングだ。ボスの依頼と被った。多分ボスはまだ知らない」

「え、どうすんのソレ」

「どうするかね? このまま仕事をしても……うーんいったんボスの部屋に戻るかな?」

「いってらっしゃい」


その言葉と共に逃げ出す少年。

それをダグラスは予知したように捕まえる。


「お前も来るんだよ! 見ただろ写真!」

「イヤだぁぁ! ボスとなんて話したくない!」

「俺も同意だよ! でも来い!」


首根っこ掴まれた少年とくたびれたおっさんは互いにイヤイヤながら廊下を戻り始めた。



上司以外部屋に居なくなった時。

上司が机の一角にどこからか取り出した針を突き立てると“ガチャリ”と何かが開いた音がした。

机の下をのぞくとそこには隠し引き戸。そこには数冊のファイル。ファイルには何十枚の似顔絵が入っており、似顔絵の一枚一枚には隅に二つ名前と日付が書かれていた。

彼はつぶやいた。


「悪いなダグラス、君ほどの頭は本当に使いづらイ。君ならばこれ以上近づくと気付いてしまウ、組織の中核に触るのは私だけでいいのサ」


似顔絵に書かれた名前は今まで依頼によって消された被害者とそれを依頼した依頼者の名前。

几帳面に依頼を受けた日付けと依頼を実行した日付も書かれている。

この一枚が流失すれば困ったことになる者は多い事だろう。

それが数冊のファイルにぎっしりと。

ここ数年間の彼の成果である。


組織が徹底した情報制限によって信頼されたのは素晴らしい事であるのだが、それは部下の言った通り動きづらくなる側面がある。

情報を知っている者が少ないという事は、能動的に動ける者が少なくなる事に直結するからだ。

動ける者が少ないなら組織の動きは非常にゆっくりした物となるか、動き自体が非常に小さくなるだろう。

今までうまくいっているのは組織がテティスの街から出ようとしないからであり、土地勘があるからこそうまくいっているルールと言えるだろう。

もしこの先、組織を巨大化させようと思うならいつか反語にしなければならないルールであり、その時は今までの揺り返しで大きく地位を落とす可能性もある。

それでもそのルールを実行したのは彼の、組織のボスの性質から。


彼は誰も信用してない。

部下達も依頼人も、そして自らの組織さえも。

自らの力だけで立ち、自らの力だけで上り詰めた、彼ならではの思想。

だからこそ彼だけがこのファイルの存在を知っている。

いつかの保険のために。

彼だけが助かるための保険のために。


『飛雷針』のヨウ

北方と中央の壁役を引き受ける民兵であり、

ここ数年で大きく勢力を伸ばした組織のボスであり、

王国中に指名手配された大悪人である。

少し脱線。

前回の話に加筆しているのでそちらもどうぞ。

べ、別に前回からの展開が思いつかなかったとかじゃないんだからね!

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